ビルドを見ていて、あと一歩ヒーローにはなり得なかった葛城が戦兎に未来を託した後に箱庭に召喚されて十六夜たちと共に〜みたいな話もアリかなと。なんなら戦兎も召喚してしまいたい欲に駆られたのでこちらの続きを書き始めましたと報告をば。
ビルドもいいよね。
目の前に佇む永夢と、変身したままのレーザー。
そんな彼らと対面している十六夜の肩を掴んで笑顔を浮かべている長身の男性が一人。
「この勝負」
「俺たちの勝ちってわけだな、十六夜」
永夢とその男性が共に勝ち誇って言ってくるわけだが、当の捕まった十六夜本人は珍しく理解が追いついてない。
「いや、待て待て。そもそもおまえ誰だよ? なんで俺たちの勝負に割り込んどいてお医者さんの勝ちにされなきゃいけないんだ?」
「ん? 俺たちはルールを犯してないぜ。ルールに則り、その中で勝ちを拾ったんだからな」
「……つまりどういうことだ?」
「俺はおまえ、おまえは俺ってことさ。なあ、永夢」
明確な答えこそ出さないものの、ヒントは与える。パラドなりの楽しみ方かと納得した永夢は「そうだね」とだけ答え、変身を解いた貴利矢と笑みを交わしながら十六夜の前まで歩いてくる。
「とりあえず、俺の負けってわけか?」
「納得できてないみたいだね」
「当たり前だろ。わけわからねえまま負けたとか認められるか」
永夢はひとつ頷き、理解を示す。
「まあ、そうだよなぁ。自分だったら絶対に愚痴るし、ルール違反だろ! くらいは言うに決まってるしな」
貴利矢もわかる、わかると呟きながら肯定する。
ルール的には問題ないのだが、永夢の場合は人間としての常識が通じない部分があるので理解されるはずもなく。しかし、こうした人外魔境の地では普通に成り立ってしまう。
「まずは彼の紹介から、かな?」
「ああ。しっかり説明頼むぜ、お医者さん」
「そこは俺にさせろよ、十六夜」
十六夜が永夢に頼むが、パラドが横から割って入り、正面に立つ。
「こうして会うのは初めてだな。でも、俺はおまえのことを永夢の中からずっと見ていたんだぜ? 俺たちにはまだ及ばないけど、将来が楽しみなゲーマーのおまえをな」
「ハッ、思ったよりハッキリと言ってくれるじゃねえか。どこの誰かもわからない奴がよ」
「そう怒るなって。これでも俺は”ノーネーム”にそれなり以上に貢献してるんだからな」
「なに?」
パラドは言うより早いか、ひとつのガシャットを掲げる。
「そいつは!」
「ああ。すぐに見せてやるよ、俺の力をな」
これまでに何度か見た、青を基調としたガシャット。2種類のゲームを内蔵した大型のガシャット――ガシャットギアデュアルに取り付けられたダイヤルを回す。
『PERFECT PUZZLE!』
『What's the next stage?』
「変身」
静かな動作でガシャットの起動スイッチを押すと、彼の前に出現したゲートが通過していく。
『デュアルアップ!』
『Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!』
やはりゲーマドライバーを使用することなく変身したパラドは、青い仮面ライダーへと姿を変える。
「お医者さんとレーザーと同じかよ! しかも、お医者さんと同じ姿になれるときたか!」
「はあ……十六夜、おまえは頭がいいし強いけど、たまにちょっとバカだよな」
「んだと!?」
普段ならありえない指摘にしかめっ面になる十六夜だが、パラドは楽しそうに笑う。
「俺なんだよ」
「は? なにがだよ」
「だから、俺なんだって。仮面ライダーパラドクスは、俺が永夢に力を貸すことで、俺が変身してたんだよ」
十六夜が永夢と貴利矢に目で訴えかけるが、二人は頷くことで肯定する。
二人からの無言の返答にマジかよ……とつぶやきながら眉間のシワを濃くするが、諦めたようにパラドクスに変身したパラドへと視線を戻した。
「あんたが本物なのはわかった。けど、わからないことがもうひとつある」
「なんだ?」
「お医者さんに力を貸していたってのはともかく、あんたいったい、どこから出てきた? さっきまではもちろん、これまで一度足りとも俺たちとの面識はないはずだ。それどころか、召喚されたときも俺とお嬢様、春日部にお医者さんの四人以外はいなかった。答えてもらうぜ。あんたは誰で、どこから来たのかをな」
聞かれたところで、答える内容なんて決まっている。パラドはずっと、彼らを見てきたのだから。
ひとまず変身を解除し、辺りに散らばる瓦礫のひとつに座り込むパラド。
「俺はおまえで、おまえは俺だ」
「さっきも言ってたやつだな」
「そう。つまり、俺は永夢の側面って奴さ。だから俺は、ずっとおまえたちの側にいたぜ? ガルドとのギフトゲームのときも、ペルセウスとのときも。この世界に呼ばれたときから、”ノーネーム”の本拠にいたときだってな。俺は最初から、永夢を通してすべてを見てきた。なぜなら、俺が天才ゲーマーMだからな」
天才ゲーマーM。
これが彼らの暮らす地球であれば、大した意味も持たない言葉でしかないだろう。けれど、こと箱庭においては強い意味を持つ言葉であり、十六夜がそれを忘れているはずもなかった。
「おいおいおい、したらなにか? あんたはお医者さんの力の一端だとでも?」
「ああ、その解釈で問題ないぜ。俺は永夢の力であり、あいつだからな」
人間ではないのか。
そう聞かれたのをわかったうえで、パラドは笑う。自分にしかできないことがあるから。自分だからこそ、助けられる、握れる手があるから。
「にしてもだ。中々いいお披露目だったんじゃねえの?」
紹介は終わったと判断し、会話に入ってくる貴利矢。
「おう、レーザー。相変わらずいい演技だったな」
「まあな。いやーまさか十六夜くんを騙せるとは思ってなかったぜ。まだまだ若いな」
十六夜の頭を軽く叩きながら笑う貴利矢の行動から、先ほどのゲームの最後に見せた彼の驚く顔が作り物だったと理解したのか、十六夜は面白くなさそうに顔を背けた。
「ハハッ、思ったより子供で安心したけどな」
聞こえるか聞こえないかの声量で安心したように呟いた貴利矢の言葉に、永夢も頷く。
「そうですね。僕も安心しました」
「おいおいおい……敗者として勝者の言葉は認めるけどよ、その言い方はどうよ?」
至極真っ当。
永夢と貴利矢からの返答に黙る十六夜。
「まあいいじゃないか。ともかく、勝負は俺たちの勝ちだ。おまえたち問題児との勝負全体で見てもな」
パラドの完全勝利宣言と共に、飛鳥を抱えたレティシアが上空から舞い降り、ビルの上を駆けてくる黒ウサギの姿も遠くに映った。
「チッ、全敗か。仕方ねえな」
「ごめんなさい、十六夜くん。私の判断ミスだわ」
「いや、いいさ。どのみち俺も判断ミスはしたわけだし、なにより今回はお医者さんたちが上手だった」
納得している。明らかに戦略性で負けたのだから。
全力を出していなかったなんて幼稚で情けない言い分はしないし、全力でやったとしても果たしてどうだったか。ひとまず、今回の勝負では敗者に甘んじたのは、意外にも十六夜だったのだ。
「そう。貴方がいいなら私も認めるわ。それで――そこの貴方は誰かしら?」
飛鳥もひとつ頷くと、永夢の隣で待機しているパラドへと話しかける。
彼女が知る限り、箱庭に来てから一度として見たことのない青年が仲間と一緒にいるのだから、当然気になる。
傍に控えるレティシアも静かに聞く姿勢を取る。
「お、なんだ俺に興味があるのか?」
「興味というより、警戒なんだがな」
レティシアは口ではそう言っているが、永夢と共にいる時点である程度警戒は緩めていた。
そうして黒ウサギも到着するのを見計らって、永夢が一歩前に出る。
「えっと、みんな集まったところで紹介します。パラド」
「ああ。やっとのお披露目だな。まあ、十六夜に勝ってのネタばらしだから気分がいいぜ」
永夢の横まで進んできたパラドが、自分を見る十六夜、飛鳥、黒ウサギ、最後にレティシアを見据える。
彼はひとつ頷いてから、口を開く。
「耀と十六夜には話したが、はじめまして。永夢のギフトとして記録されている天才ゲーマーMだ」
名乗ると同時。黒ウサギはハッと何かを思い出したように口を両手で塞いだのを、永夢はもちろん、十六夜が見逃すはずもなかった。