大きな案件が片付いたので更新を再開できるといいな。
とりあえずは鬼ごっこの続きからですね。
それはそうと、ビルドもかなりいいですね。なにか一作品くらいビルドで書きたいなと思い始めたこの頃です。
では、短めですがどうぞ。
装着されていたゲキトツスマッシャーが射出され、その一撃は十六夜が駆けていく先にあるビルへと迫り、容赦なく支柱を破壊していく。
「っと!? ハハッ、いいじゃねえかお医者さんぉ! やっぱり派手にいかないと面白くないよな!」
降ってくる瓦礫を余裕の笑みを浮かべながら回避していく十六夜だが、次の瞬間、焦ったような表情を見せながらしゃがみ込んだ。
直後、十六夜の頭があった場所をゲキトツスマッシャーが通り過ぎていく。
「危ねえだろ!」
「悪い、久々で感覚狂ってたみたいだ!」
文句を言う十六夜と、謝る永夢。だが、まるで当たっていたとしてもだいじょうぶだっただろうと思わせる程に彼らの声に怒気はない。
永夢も既にわかっているのだ。十六夜の人からは逸脱した異常なまでの頑丈さ。強力な力。それらは自分たちにも届くレベルであることを。
「まだまだいくぞ!」
放ったままのゲキトツスマッシャーを操作し、近くにあるビルを次々に破壊していく永夢。その行動は、十六夜が逃走を図る先を読み、的確に進路を絶っていく。
「チッ、ゲームメイクではお医者さんの方が上か……なら、やるしかないってわけだな」
一度、ゲキトツスマッシャーを止められないかとやや威力を抑えた拳を真正面から放ったが勢いが弱まっただけに留まり、いまも飛び続けているのだから仕方がない。まさか自分たちの一方的な言い分で始めたゲームで仲間の武器を壊すわけにもいかず、十六夜の選択肢は絞られていく。
「レーザー!」
「おうよ!」
そんな最中、永夢の呼びかけに応え、これまで一切動きを見せなかった貴利矢が永夢から離れ、十六夜へと走り出す。
「ハッ、どうしたんだレーザー。あんた単体で俺を捕まえる気か?」
「さあなっと!」
繰り出される拳をかわし、十六夜を囲むように走る貴利矢は、とぼけながらも止まらない。
「足止め……にしては緩いな。なにを狙ってんだ?」
「おらおらおらおら! さらに飛ばすぜぇ?」
好き放題と言った感じで回っている合間に、十六夜の前方に永夢が到達する。
彼は足を止めると、十六夜と向き合うようにして前を向いた。
「流石だな、天才ゲーマー」
「まあな。さて、ひとつ確認したいんだけど、このゲームは俺が十六夜を捕まえるか、十六夜が逃げ切るかってことでいいんだよな?」
「だな。いまのところ、終わりは見えないけど」
「なら、制限時間を設けないか? それまでに捕まえるか逃げ切るか。この方が単純でいい」
永夢の提案に、十六夜が首を傾げる。
「いいのか? 言っちゃなんだが、お医者さんたちが不利になるだけだぜ?」
「そうでもないさ。薄々わかっていると思うが、ここは俺が用意したゲームエリア――ゲーム盤だ。時間的不利がそこまであるとは思えない」
「そうかよ。ならいいぜ、乗った。お医者さんのルールでいこう。時間はどうする?」
「10分。この時間内でおまえを捕まえる」
短い。あまりに短い時間だ。けれど永夢は言い切った。おまえに負けることはないと。勝つのは自分だと。
そこまで言われて、はいそうですかと引き下がる十六夜でもなく。獰猛な笑みを浮かべ、かかってこいと言わんばかりに瞳を輝かせる。
「俺にそこまで言った奴は久しぶりだぜ、お医者さん。あとで泣くなよ!」
「言ってろ! 勝つのは俺たちだ! レーザー!!」
十六夜は後退し、永夢の隣には貴利矢が戻ってくる。すかさず彼に乗ると、再び下がっていった十六夜を追い出す。
「ったく、滅茶苦茶だぜまったく。で、勝機はあるんだろうな、永夢?」
「もちろん。勝つためには切る必要があるけど」
「やっとか。早い方がいいだろ、それでいいんだって」
永夢の一言で理解できたのか、貴利矢はそれ以上は聞かずに己を走らせる。金髪の少年の背中は遠くないが、このまま追いかけても捕まることはないだろう。
もう一手。
勝つためには、もう一手打つ必要がある。
「よっしゃ永夢! 俺のドライバーにあれを挿せ!」
「おう! 行くぜレーザー!」
『GIRI GIRI CHAMBARA!!』
貴利矢の持つガシャットをひとつ取り出し、彼のドライバーにセットする。
『ガシャット』
そのままドライバーを開き、即座に貴利矢から離れて十六夜の足止めに向かう永夢。
「勝負だ、十六夜!」
「くそっ、こんなルールじゃなければ相当楽しめそうなんだけどなぁっと!? そうか、別に捕まらなきゃ平気だったな!!」
なにか閃いたかと思えば、近くにあった瓦礫を掴み永夢に投げ出す。
「うおっ!?」
有り得ない速度で飛来する瓦礫は、永夢のすぐ近くを通り過ぎ、背後の建物を無残に破壊させていった。
「へ? ……ええええええっっ!?」
まずい、非常にまずい。
瓦礫を投げただけで出るはずのない威力を目の当たりにして、この状態でも当たればタダじゃすまないと確信する。
焦る永夢とは反対に、攻略の糸口を見つけた十六夜は楽しげだ。
そんな攻防を繰り広げる傍、2本目のガシャットを差し込まれたレーザーに変化が起こる。
「三速」
貴利矢の掛け声と共にチャンバラゲーマーが召喚され、貴利矢――仮面ライダーレーザーと合体していく。
『レベルアップ』
『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!』
『アガッチャ! ギリ・ギリ・ギリ・ギリ! チャンバラ!』
チャンバラゲーマーは彼の腕となり、脚となり。バイク形態から、チャンバラゲーマーを介して人型へとレベルアップを遂げる。
「ようやく人型になれたぜ! さて、捕まってもらおうか!」
永夢と瓦礫合戦をする十六夜は、響き渡る轟音故に気づかない。自分の背後に、人型となった、自分を捕まえることのできる存在が迫っていることに。
「ハハハッ、どうしたどうした! お医者さんの力はこんなもんじゃねえだろ! もっと楽しませてくれよ!!」
もう一発。
永夢はゲキトツスマッシャーでかろうじて進行方向をズラしながら応戦しているものの、なにぶん一発一発が重いせいか体力がみるみる削られていく。
有利を悟ったか、一瞬。瞬間的に意識を緩めたことを、十六夜は後悔した。
上から影が差し、自分を覆う。
「ゲームは終りだ、十六夜くん」
声が聞こえた。
最近知った、胡散臭くもどこか信頼の置ける声。視界の端に、こちらに伸びる手が映る。
「――ッ!!?」
咄嗟の判断だったのだろう。
前方に体を倒しこみ、地面を蹴り抜き。
半ば吹き飛ばされるように距離を取った十六夜は、自分がいた場所に佇む影を睨む。
「あんたは……」
予想以上の力で地面を蹴ったせいか、土煙がひどく正確な姿はわからない。けれどよくわかる。短い時間であろうと、人の声を覚えるには十分な時間を共にいた。
ロクな着地もできなかったので転がったせいでついた土埃を払いながら、十六夜が立ち上がる。
「まさかだぜ。お医者さんの姿を見ていたから可能性としてはあるかと思っていたけど、本当に人型になるとはな、レーザー」
「こっからは自分も鬼だぜ。精々気をつけるんだなぁ」
捕まえられなかったことなど気にした様子も見せず、土煙が晴れる前に行方を晦ます貴利矢。
「判断早いな……」
もう少し引き止められるかと思ったが、あっさりと行ってしまう。
悪手だな、と溢す十六夜は、それでも笑みを消すことはない。苦戦上等。むしろいい、とさえ思っていそうな瞳は、先ほど垣間見せた油断や緩みはなくなっていた。
貴利矢が人型になり、自分を捕まえることができるようになった。
つまり鬼は二人。
動くものがあれば即座に反応せんと構えていると、煙が揺らいだのが映った。しかし、揺らいだのは上空。
「上か!」
「思ったよりたかーい!」
情けない声と共に落ちてくるのが一人。
黄色と黒のカラーリングの仮面ライダー。間違いなくレーザーだと判断した十六夜は、なぜ上から? と疑問を浮かべながら軽々と避ける。
「いまだ!」
『MIGHTY BROTHERS XX』
避けた先には、待ち構える永夢。慣れた手つきで新たなガシャットを装填して十六夜との距離を詰める。
『ダブルガシャット!』『ダブルアップ!』
『俺がお前で! お前が俺で! マイティ! マイティ! ブラザーズXX!』
青緑とオレンジを基調とした二人のエグゼイドがレベルアップと同時に左右から手を伸ばすが、
「そりゃ、数で来るよな!」
ひとつしゃがんでふたつの手を回避すると、スライディングで包囲網を抜け、二人のエグゼイド、貴利矢と向かい合う。
「これでもダメか」
「やんちゃすぎんぜ、ったくよぉ」
並び立った仮面ライダーたちは、油断なく十六夜を見る。
対する十六夜も、なにか細工されていないかと目を凝らす。
「膠着状態に持ち込めばこっちの有利……と言いたいところだが、まだなんかあるよな?」
「さあ、どうかな」
挑発する十六夜と、首を傾げてみせる永夢。
互いに譲らない状況で、しかし。
『ガッシューン』
「は?」
「あぁ?」
貴利矢と十六夜が間抜けな声を上げるのに構わず、永夢はゲーマドライバーに挿れていたガシャットを引き抜いた。
「おいおいおいおいおい、どうしちまったんだよお医者さん! あんたならまだ戦いようはあっただろ!? 諦めたわけじゃないはずだ!」
「そうだぜ永夢! 自分一人じゃ十六夜くんの相手は厳しいってのに!」
貴利矢の本気で困った声から、永夢の行動が二人の作戦ではないと結論づけた十六夜は真意を探ろうとするが、
「ごめんね、十六夜くん」
永夢が一瞬、笑みを浮かべたような気がした。永夢だけではない。彼の隣にいる貴利矢も、変身が解けていないから定かではないが、薄っすらと微笑んだような……。
「この勝負――」
永夢が言葉の続きを発せず、十六夜の背後に目をやる。様子がおかしいと振り返ろうとしたときには既に遅く、十六夜の肩を誰かが掴んだ。
「――俺たちの勝ちってわけだな、十六夜」
永夢とよく似た笑顔を浮かべる男性が、問題児筆頭である十六夜を捕まえた瞬間だった。