今年もなんとか更新していけるよう頑張ります。暇な時間のささやかな楽しみになればと。
では、新年一発目の更新です。どうぞ!
資金はないものの、ジンを伴って白夜叉の元へとやってきていた十六夜たち問題児三人は、白夜叉からの依頼を内容も聞かずに受諾し、彼女の力を利用し祭典の開催地である北側へと到着していた。
遠目からでもわかるほどに色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊に瞳を輝かせる飛鳥。
昼間にも関わらず街全体が黄昏時を思わせる色味を放っているのは、街の装飾のせいだけではない。境界壁の影に重なる場所を朱色の暖かな光で照らす巨大なペンダントランプが数多に点在しているためだ。
キャンドルスタンドが二足歩行で街中を闊歩している様を見て、十六夜も喜びの声を上げた。
問題児たちは各々の楽しみを発見したらしく、いまにもそちらへと走り出してしまいそうなほどにはわくわくしていたりする。
途中から白夜叉も混ざり話していたのだが、胸の高まりが鎮まらない飛鳥は、美麗な街並みを指差し熱っぽく訴える。
「もう降りましょう! あのガラスの歩廊に行ってみたいわ! いいでしょう白夜叉?」
「ああ、構わんよ。話は夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」
着物の袖から取り出したゲームのチラシ。十六夜が耀も連れてきて、三人でチラシを覗き込むと、
「見ィつけた――のですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ズドォン! と、ドップラー効果の効いた絶叫と共に、爆撃のような着地。
その衝撃に全員が跳ね上がり、後ろを振り返る。
大声の主は、問題児を追ってきた彼らの同士・黒ウサギ。
「ふ、ふふ、フフフフ……! ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方……!」
淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振りまく姿は愛嬌ある普段のそれとは似ても似つかない。
瞬時に危険と判断した十六夜は、他の問題児にも逃げるように促そうとしつつも、機動力のない飛鳥を連れて行こうとする。
「逃げるぞッ!」
真っ先に動いた十六夜は飛鳥と共に右へ、一拍遅れて耀は左へと逃亡を図った矢先。
「逃がすか!」
バイクとなったレーザーに乗ったエグゼイドが颯爽と駆けつけ、彼らの行く手を回るようにして阻む。
突然の出来事に数瞬動きが止まったとき、エグゼイドがキメワザスロットホルダーにガシャットを挿入することなくボタンを押す。
『ステージセレクト!』
直後、電子音が響くと同時にエグゼイドたちの立つ世界は一変した。
「ここは……?」
「さあな。大方、お医者さんの仕業だろうぜ」
耀の疑問に応える十六夜も辺りを見渡しながら、どこか納得のいかない顔を見せる。
(まさかお医者さんたちのベルトにこんな力があったとはな。確認できる範囲内からだと遠くに立ち並ぶビル群からして現実世界の街並みを再現したってところか?)
だが、十六夜にはどうしても落ち着けない理由があった。
「おい、気をつけろよお嬢様たち」
「なによ十六夜くん。いま景色を見るのに忙しいのだけれど?」
あちらこちらへと視線を流す飛鳥に、そういえばこの時代の景色は初めてかと思い返す十六夜。確かに、彼女にとってはこの空間が楽しみなものに違いない。
「くそっ、うまい具合に戦力を削ってくれたな」
口から出てくる言葉は悔しそうだが、その実、十六夜の顔には超楽しいと書かれている。が、その余裕もそう保てるものではなく。
建物の一角に、緋色の一閃が映る。
「チッ、俺たち以外誰一人姿を見せないと思ったら、やっぱりそういう魂胆か。春日部、二方向に分かれて逃げるぞ!」
「え、ちょっと!?」
隣にいた飛鳥を抱きかかえ、この場から離脱せんと駆け出す十六夜。
耀もなにかを察知したのか、旋風を巻き上げて上空へと避難しようとするが、数手遅かった。
「簡単に逃がすことはできないな」
「わ、わわ……!?」
上空からは先手を打ったレティシアが耀へと迫っており、急遽飛ぶ方向を転換しようとしたときには、背後に黒ウサギが控えていた。
「――うそ」
「残念、本当です。耀さん、捕まえたのですよ! もう逃がしません!」
どこかぶっ壊れ気味に笑う黒ウサギ。
耀を引き寄せ、胸の中で強く抱きしめ、彼女の耳元で囁く。
「後デタップリト御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ」
「りょ、了解」
反論を許さないカタコトの声に、耀は怯えながら頷く。
「レティシア様、協力ありがとうございました。黒ウサギはこのまま十六夜さんたちを追います。耀さんのことはくれぐれもお願いします!」
「ああ。だがな黒ウサギ、十六夜と飛鳥を追っているのは二人、逃げているのも二人。ならばそこに加勢するのはアンフェアではないか? 耀もこうして捕まえたことだ、十六夜たちは永夢と貴利矢に任せるのもいいだろう」
「しかし! コミュニティ存続の危機と言っても過言ではないのですよ!? もてる限りの戦力で手早く捕獲するべきです!」
黒ウサギの叫び声が響く中、突如として彼女の彼方後方にあるビル群が倒壊していく。
「な、なにごとですか――――!?」
「ふむ……十六夜と永夢の鬼ごっこも苛烈さを増してきているようだな。当初の計画通り、彼らの言うげーむえりあ? とやらに引き込んだのは正解だったようだな」
「ゲームエリア?」
「ああ、なんでも永夢と貴利矢の持つゲーマドライバーに備わっている機能のひとつだそうだ。こうも容易くゲーム盤を出されると少々困りものではあるが、今回に限ってはプラスに働いてくれたな」
ビル群の倒壊。
これがもし、実際の街で建造物を破壊していたと想定するならば、統治者からどんな言葉を言い渡されていたものか。
それを想像するだけでも溜息が溢れるというものだ。
「本当に、永夢さんたちがいてくれてよかったのですよ…………」
遠い目をしながら呟く黒ウサギには、既に喧騒の渦中に首を突っ込む気は微塵もなかった。
時間は少し遡り、貴利矢の資金で十六夜たちの向かう北側へとたどり着いた永夢たちは、彼の思いついた作戦実行のため、各々行動を開始した。
「では作戦通り、レティシアさんは姿を隠しつつ、僕がゲームエリアに十六夜くんたちを押し込んだら黒ウサギと協力して機動力のある十六夜くんか耀ちゃんのどちらかを押さえてください」
「了解した。では、残った方は?」
「僕と貴利矢さんで捕まえます」
「任せよう」
言うが早いか姿を隠すために去っていくレティシアを見送り、永夢もガシャットを取り出す。
『MIGHTY ACTION X!!』
「大変身」
『ガシャット』
バイクに乗ったまま、自身のドライバーへとガシャットを挿入し、ゲーマドライバーを素早く開く。同時にバイクも発進させる。
走りながらでも展開するパネルのひとつをバイクでぶち破る勢いで突撃して選択しながら、黒ウサギに追いつくべく速度を上げながらのレベルアップを果たす。
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!!』
変身した勢いのまま黒ウサギに追いつくと、今まさに分かれて行動しようとしていた問題児三人が視界に映ると、永夢はレーザーを巧みに乗りこなし、十六夜、飛鳥、耀を囲うように走行し、動きが硬直した一瞬をついて、鬼ごっこのステージそのものを変更する。
『ステージセレクト!』
「さあ、俺たちのゲーム攻略はここからだ!」
「ノリにのってるぜ!」
変貌した辺り一面は彼らもよく戦闘をこなしていた現代の街並み。
ステージの切り替わりの時間を利用し、景色を眺めている問題児たちの隙をついて一旦身を隠す。あとは手筈通り、黒ウサギが動き出したら残る一方を追うだけだ。
「できれば、十六夜くんに真っ先に捕まってもらうのが一番なんだろうけど」
「だろうなぁ。けど、永夢もパラドもそんなこと望んじゃいないんだろ?」
永夢の独り言に反応した貴利矢の言葉に苦笑を浮かべながら、永夢は「そうなんですよね」と小声ながら反応を返した。
「これもゲーマーの性ってやつか」
「すいません、貴利矢さん」
「いいのいいの。最後におまえたちが勝利するってなら、過程も楽しんでくれて構わないさ」
「そう、ですかね?」
「そうそう。そら、自分たちもいつまでも止まってるわけにはいかないんだからな」
促され、首を縦に振る永夢。
(十六夜との勝負、実現できるのなら心が躍るな!)
視界の端で、黒ウサギが十六夜を取り逃がし、耀へと狙いを定めたのがわかった。
「パラド……ああ、行こうか。すいません、貴利矢さん。僕もパラドも、十六夜くんたちを追います!」
「はあ、だろうな! それでこそ天才ゲーマーMだぜ! おまえたちの力、十六夜くんに見せてやりな!」
「はい!」
(おう!)
運転に集中し、十六夜の駆け出したすぐ後を追うようにして追跡。
耀は先の場所で黒ウサギとレティシアに追われてるだろうことを推測するに、あまり音のない空間ではバイクの騒音など既に十六夜の耳には届いているに違いない。
だからこそ、隠れてこそこそ動くより正面切って追った方が十六夜からの反応もいいのだろう。
「お、やっぱり追ってきたなお医者さん!」
楽しそうな笑みを浮かべながら、後方に姿を現した永夢と貴利矢を一瞥する十六夜。
しばらく走行を続けてみるが、バイクと人の身での追いかけっこであるにも関わらず、永夢たちはいまだ十六夜に追いつけずにいる。
「こいつはまずいんじゃないのか?」
「そうですね……十六夜くんの力は僕たちの予想の上を行っているみたいです。それに、彼の通った道を見てください」
「ん? こいつは!?」
貴利矢の視線の先には、砕かれた道の端々。
かなり強力な力で踏み抜かれたのだろうそれは、先ほどから十六夜が逃走しているルートにのみ発生している。
「おいおいおい、自分たちはもしかしてやばい相手と鬼ごっこしてるんじゃないのか?」
「どうでしょう? 十六夜くんはあれで、人に力を振るうような真似はしたくないような素振りがありました。同時に、力を十全に使える場所を求めているようにも……貴利矢さん、一度十六夜くんとぶつかってみようかと思うんですが」
「はあ……患者と向き合うのも医者に求められる一要素、か。自分にも求められることだけど、永夢には最も必要なことかもな。もちろん付き合うぜ」
「ありがとうございます!」
相棒からの了承も受け、永夢はもうひとつのガシャットに手を伸ばす。もう一方の手はバイクに乗りながらも器用にゲーマドライバーを閉じた。
「ここからは、真剣勝負だ」
『GEKITOTSU ROBOTS!!』
「大・大・大変身!」
新たに一本、ガシャットをゲーマドライバーに挿入し、もう一度開く。
『ガシャット』『レベルアップ』
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!』
『アガッチャ! ぶっ飛ばせ! 突撃! ゲキトツパンチ! ゲ・キ・ト・ツロボッツ!』
召喚されたロボットアーマーと合体しレベルアップを果たした直後。
前方に建てられていたビルが一階から数階上までを残して倒壊した。
「な、なんだ!?」
その瓦礫の山は永夢たちの行く手を阻むように倒れており、瓦礫の上には十六夜が一人、腕を組んで待ち構えていた。
「よお、お医者さん、レーザー。俺を追ってきてくれて嬉しいぜ」
「飛鳥ちゃんは?」
「お嬢様ならこの先を一人で逃げてると思うぜ」
瓦礫の向こうを差しながら答える十六夜だが、視線は依然として永夢に向いて離れない。
「これならお医者さんはお嬢様を追う前に俺を相手するだろ? ついでにお嬢様も逃げられる。さあ、遊ぼうぜ」
(いいぜ、元からそのつもりだ。永夢、レーザー!)
「ああ。天才ゲーマーMの力、しっかりと見せてやるよ!」
「ついでに名監察医の力もな!」
「よし、なら俺が捕まるか、お医者さんたちが俺を捕まえるかで勝負だ」
「のった!」
言葉を交えてすぐ、双方動きを見せる。
十六夜は倒れていないビルへと向け駆け出し、永夢はゲキトツスマッシャーの装着された腕を十六夜の進路の更に先へと向けた。
次いで、ゲキトツロボッツガシャットを一旦ゲーマドライバーから取り出し、
『ガッシューン』
引き抜いたガシャットをキメワザスロットホルダーへと挿入。上部のボタンを押す。
『ガシャット!』『キメワザ!』
「先手は譲らない」
『GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!』
腕に装着されていたゲキトツスマッシャーを射出させ、その一撃は――。
天才ゲーマーと問題児の初の勝負は、まだ始まったばかり。