天才ゲーマーも異世界から来るそうですよ?   作:alnas

20 / 25
みなさんこんばんはalnasです。
しばらく期間を空けてしまいましたが無事に投稿できました。
まだまだ、話を展開していけたらと思います。
今回の話は一章と二章の幕間といった扱いになります。では、どうぞ。


login超問題児

 暗い部屋で一人、一心不乱に画面と向かい合う男性。

「永夢たちは何度もガシャットを起動させている……送り込んだ九条貴利矢のセーブデータを見る限り、彼も無事に合流できたようだな。でなければ困っていたところだ」

 ウインドウに表示される波形やグラフ、プログラムなどのいくつもの情報に目を向けながら、彼――檀黎斗神は笑みを浮かべた。

 黎斗の元に緊急事態だとポッピーが駆け込んできてから既に一週間が経過している。その間に永夢の仲間たちには原因不明の突如発生した『箱庭』というゲームのことや、永夢、パラド、貴利矢の消息など、把握していることはすべてポッピーが説明済みだ。

「しかし、こうもゲームに対してのプロテクトが強いとはな。私の神の才能を持ってしても干渉するのが精一杯……いったい誰が開発したものだ? 解析が済めばまた一歩、私の理想のゲームに近づくと言うのに!」

 キーボードに手を叩きつけた黎斗は、成果が出ないのか苛立ちを募らせていた。

 送り込んだ貴利矢は永夢を連れてどころか、自分一人でさえ帰ってくることはない。彼ならば状況を知った上で一度戻って来る選択肢があるにも関わらずだ。

 加えてここ一週間、ずっと『箱庭』について調べているが、わかっているのはこのゲームがなんらかの方法を用いてこちらの世界に干渉していること。また、向こうのゲーム世界への参加方法だけだ。この参加方法も、こちらから好きにできるわけではなく、貴利矢を送り込んだゲートが常時開放状態を保っているだけのこと。

「こうしている間にも、永夢たちは未知のゲームをプレイしていると言うのか!? こうなれば私もゲーム世界へと赴いてゲームそのものを把握してくれる! そうと決まればさっそく外へ出るしかないな」

「くーろーとー?」

 両手を広げ、名案とばかりに叫んだ直後。

 檻の向こう側。筐体の外である現実世界から、ポッピーが明らかに不機嫌な顔で彼の名を呼んできた。

「ブハハハハッ! 喜べポッピー。私が向こうへ行けばゲームはすぐさま解析、クリアされるだろう。私と永夢、二人の力があれば不可能なことなどない。すべてはこの私、檀黎斗神の才能があってこそだがなぁ!」

 ポッピーの声などなんのその。

 私欲のため、知識のため、ひいてはゲーム制作のためになるならば、彼はどれだけ愚かしい行為だろうと正当化する。たとえそれが仲間を、他人を、自分さえも賭けなければいけなかったとしても。

 笑い声を上げ続ける黎斗にため息をひとつ吐いたポッピーは、けれど彼との対話を諦めはしなかった。

「黎斗! 勝手にいなくなったら大問題になるんだからね!? お願いだから話を聞いて。黎斗にも悪い条件ばかりじゃないはずだから」

「なに? それならそうと早く言ってくれればいいものを。それで、話とはなんだい、ポッピー」

 自分に利益があるならなんのその。

 先ほどの態度が嘘のように静かに聞く体勢を取る黎斗。

 貴利矢が残っていたなら小言のひとつやふたつは言っていただろうが、頼りになる男はいまやゲームの中だ。ポッピーも出かかった言葉を飲み込み口を開く。

「黎斗に正式に衛生省から通達があったの。永夢の捜索と、発生している新たなゲームが被害を出す前に対応してほしいって」

「ほう……今回は随分と遅かったようだが、やっとか」

「衛生省だって簡単に動くわけにはいかないの。数日に渡っての永夢の捜索に、新たなゲームに対しての警戒。また、生まれかねない新型ウイルスの脅威。あげていけばキリがないよ」

 今回ばかりは、衛生省の方に話を通すだけでも大変だった。

 仮面ライダークロニクルは終わりを告げ、未曾有のパンデミックも食い止めた。あとは、残ったバグスターウイルスとどう向き合っていくか、被害に遭った人たちをどのようにして救うかという研究という段階に来ていたのだ。

 そこにきて、正体不明のゲームが開始され、挙句CRのドクターが行方不明など怪しいにも程がある。当初は永夢が容疑者だと疑われた程だ。もっとも、仮面ライダークロニクルのクリアへの貢献と、普段の彼をよく知っている者達の声もあり、正式に被害者へと立場は変わっていったのだが、この辺りの細かい経緯はいいだろう。

「なるほど。それなりに考えてから判断を下したわけか。それでも遅いが、まあいいだろう」

 どうあれ気を遣う必要はなくなった。

 彼の意思を聞いてか、彼の自由を拘束するための妨害はなくなり、久しぶりに筐体の中から、現実世界へと姿を現す。

 思う存分、自分にもわからない謎のゲームの解明に明け暮れることができると黎斗は黒い笑みを浮かべる。あわよくば向こうで永夢と貴利矢、自身を実験体としてでもなにかしらの成果を上げてくるに違いない。

「こちらに留まってゲームそのものを解析、経過の確認をしていてもよかったが、やはり私も言ったように向こうに行くのが最もな判断か。手っ取り早いのも事実だ」

 ゲーマドライバーといくつかのガシャット。そして、この一週間で修復を終えた、当時永夢のために完成させた黄金のガシャットを握る。

「ついでだ、これも貰っていこう」

 貴重だとはわかっている。いまやどれだけ重要な物であるかなど、問われるまでもない。

 後々文句を言われるとわかっていてなお、黎斗神はプロトガシャットと呼ばれる物のうちからひとつを手に取った。

「ちょ、ちょっと黎斗!?」

 この行動にはさすがのポッピーも驚きを隠せない。

「おそらくあって悪いものではない。向こうでどうにかできれば、いい戦力になるのは間違いないだろう。幸い、向こうにいるのは永夢とパラド、九条貴利矢の三人だからな。これを持っていったとしても否定はしないはずだ」

 淡々と語っているが、ポッピーも箱庭にいる三人のことは理解しているつもりだ。余程のことがない限り彼の言葉通りになる可能性は高い。下手を打てば永夢から敗者にふさわしいエンディングを見せられることは周知の事実なので、こと彼の前ではやりすぎるといったこともない……はずだ。

「で、でも待ってよ黎斗。持って行ったとしても、使い道が……」

「もちろんあるとも。私たちの誰かが使うもよし。そして――――するのも自由だ」

 既に使うことはなくなっているが、念のためにと回収しておいたバグヴァイザーすらも持ち出す始末。

 この短時間で、自分が必要であると判断した機器を次々に持ってくる。

 とは言え、さすがにゲーム開発に扱っていたパソコンやその他機械類を持っていくわけにもいかない。残念なことだが、最優先するべきはゲームのクリアと考えるべきだろうか。

「九条貴利矢が一度も戻ってこないのは気になるが、致し方ない。クリアするまでこちらに戻れない可能性も考慮した方がいいな。ポッピー、キミはこちらに残るといい。いざというとき、他の二人を導く者が必要だ」

「でも――」

「永夢なら私が連れて戻って来る。心配はいらない」

 これまでの雰囲気とは打って変わり、真面目なものへと変化していく。

「彼は私にとっても貴重な相手だ。まだまだゲーム開発に協力してもらわなければならない程度にはね。だからポッピー、その間は残って私の開発データを守ってくれ」

「はあ、わかったよ」

 最後の言葉は聞かなかったことにし、とりあえずやる気だけはあるという意志だけは受け取ったポッピー。彼女はひとつ笑顔を浮かべると、

「でもね黎斗。もちろん貴利矢のことも気にかけてくれてるんだよね?」

 ここまでずっといつもの調子で話していたポッピーの声音が、一段階低くなったのを黎斗は悟った。

 同時に、マジなやつだとも。

「も、もちろんだ」

「本当に? さっき永夢しか名前が上がらなかったのに?」

「あ、ああ……当然、九条貴利矢のことも確認してくるとも」

「いい? 黎斗に仲良くしてくれるのなんて本当に貴利矢くらいなんだから、友達のことはしっかり助けないとダメだからね? わかった、黎斗!」

 彼女の勢いに押され、首を縦に振るしかなかったと、後に彼は語ったとか。

 その後もなにか持ち出そうとするたびにポッピーから小言が入り、当初の予定よりも軽装備になったものの、一通りの準備を終えた。

「さて、本当に持って行ってはいけないのかい、ポッピー」

「あれもこれも持てるわけないでしょ? 自分で持っていく物くらいちゃんと選んでよね」

「選んだからああなったのだが」

 机の上に広げられた数々の機器。本当に必要な物だけに絞った結果、机が物で埋まる程の余計が出たのだ。これほどの量を持って行ったところでなにに使うのかポッピーには検討もつかないが、黎斗にとってはできれば持って行きたかったのだとか。

「ううむ……仕方ない、惜しいがこれらは置いていくとしよう」

 正座させられている黎斗が悔しそうにつぶやく。

「なんのために黎斗を自由にするのか忘れないで! これでも衛生省にはかなり無理言ってるんだから」

 貴利矢をもってしても超問題児と呼ばれた男を野放しにすることがどれだけ危険なことかは関わった者全員が知っている。そんな相手の自由を手に入れるなど、仮面ライダークロニクルでの功績があったとしても容易なことではない。

 ポッピーは約束させられたため伝えるつもりはないのだが、ここにいない永夢の仲間――鏡飛彩、花家大我の両名からの支持もあり勝ち取ったものと言っても過言ではないのだ。

 二人からは、

『あいつには黙っておけ。調子に乗らせるとロクなことがない』

『ゲンムには伝えるんじゃねえぞ。いいように利用してやっただけだ。勘違いするな』

 とのことだったが、そんなこと、ポッピーの前で正座している黎斗は考えもしないだろう。

 彼は自分に向けられている感情は把握しているつもりだ。飛彩と大我から向けられる視線に込められた思いも、それなりには感じ取っている。であるからこそ、及ばぬ思考もある。

「ほんとはみんな、ちょっと心配しているだけなのかもね」

「ポッピー? なにか言ったかい?」

「え? あ、ううん、なんでもない」

 真実を知っているにしろ、知らないにしろ関係ない。黎斗が動けることだけが結果であり、彼が重視するのもその一点のみだろうことは理解している。

「時間が惜しい。大部分の荷物は消えたが、行くとしよう」

「黎斗……」

「問題ない。これから行くのは九条貴利矢ではない。この私、檀黎斗神だぁ! 一切の心配は無用だ。彼らを連れて帰ってくると約束しよう」

 開かれているゲートに向かう黎斗は、ポッピーを安心させるように大声で叫ぶ。

 待ち受けているのは得体も知れないゲームの世界。

 エグゼイド、レーザー、パラドクス。よく知る仮面ライダーたちが幾度となく変身を繰り返す、戦闘が主なゲームであることは検討がついている。

「気をつけてね、黎斗」

 止めてもすぐに行くだろう彼にそう告げると、ゲートの前で立ち止まった黎斗が振り返り、優しい笑みを浮かべる。

 瞬間、粒子となってゲートに吸い込まれていき、その姿を最後に現実世界から彼の存在が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない程の高度から真っ逆さまに落ちていく感覚を、黎斗は味わっていた。

「なんだこれはぁっ!? チュートリアルにしてはあまりにも酷いゲーム! ん? あれは――」

 地上に落下していく最中、倒れ伏す一人の青年の姿を捉える。間違いない。彼こそは探していた人物。 

「宝生永夢ゥ!」

 上空から確認できる、戦火に包まれた辺り一帯から彼の状況を悟った黎斗は、即座にひとつのガシャットに手を伸ばす。

 

 

 いまここに、最悪の超問題児が箱庭にログインした――。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。