なんとなく親和性あるんじゃない?と思いついて書き出した作品になりますが、永夢とパラドの会話などは繋がってる、感じられるならこれくらいできるかなといった具合で書いたりしてます。
原作に忠実にとはいけませんので、これくらいなら可能だねといった細かい部分には目を瞑っていただけると幸いです。
では、どうぞ。
正体不明のウサギ耳の少女が現れてから小一時間。
それまでの時間を自分たちが落ちてきた周辺の探索に当てていた永夢は、戻ってくると知り合った三人から解放されたウサ耳の少女と、満足そうにしている三人と合流した。
「よお、お医者さんはどちらまで?」
遊ぶものがなくなり、黒ウサギの復活を待つ十六夜が話しかけてくる。
「ちょっとそのあたりをね。特に収穫はなかったけど」
「そうか。どうする? お医者さんもこいつの耳弄っとくか? それなりにいい毛並みだぜ」
「いや、遠慮しておくよ。それよりも、僕はそろそろ彼女の話を聞きたいかな。調べないといけないこともあるからね」
「へえ……」
答えを聞いたとき、十六夜の目が細められたことに永夢は気づいた。あまり余計なことを言うべきではないのかもしれないと、それ以降は無難な会話を続けながら、黒ウサギの復活を待つことにした。
待つこと更に数十分。
やっとのことで起き上がった黒ウサギは、しかし。
「――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話しを聞いてもらうために一時間以上も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いからさっさと進めろ。四割くらいはてめえが倒れてた時間だろうが」
「理不尽!?」
半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。三人は黒ウサギの前に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
永夢はこうした突然の事態にはそれなりの耐性もあるので、まずは情報収集だと、この場の誰よりも真剣な表情をしていた。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ"箱庭の世界”へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。
「まず初歩的な質問からしていい? 貴方の言う"我々"とは貴方を含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「ごめんね、いまはちょっと遊んでいられないんだ。僕はやらないといけないこともあるし。ゲームならまた今度参加させてもらうってことでいいかな?」
十六夜と永夢が即座に否定する。永夢に至っては参加すら拒否している。
だが、それは当然のことで、彼はCRのドクターであり、いまも本来ならば仕事の最中であったはずなのだ。こんなところで遊んでいたと知られれば自分を医者として鍛えてくれた人たちに怒られるのは明白。なにより、自分の医者としての自覚が許さない。
「属していただきます! そして参加してください!!」
そんな想いは知らず、黒ウサギは話を続け、
「ちょっと、僕の話も――」
「き・き・ま・せ・ん!!」
それでも食いつく永夢に、黒ウサギは一音一音言い聞かせるようにして黙らせ、今度こそ話を続け出した。
「そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」
「………。"主催者"って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための――」
これから数分黒ウサギと女子二人の会話が続いた。
「――さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいですか?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
清聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。
「………どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ、世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は………面白いか?」
「――――」
他の二人も無言で返事を待つ。永夢はしかたなく聞くしかないと腕を組み答えを待つ。
彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。
それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、十六夜たち三人にとって一番重要な事だった。
「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
ひとまず移動するということで話はまとまり、その間も永夢は考え続けていた。
(ここは僕らの暮らす世界じゃない……ゲームという言葉通り、なにかしらクリア条件を満たさない限り帰れないってことかな)
一人で考えても仕方ないと、自分の中にいる彼へと話を振る。
(どう思う、パラド?)
彼――パラドは永夢が異世界に飛ばされる間際に彼の体に宿り、この世界に共にやってきていた。これにはある過去や二人のやりとりが関係しているのだが、いまはいいだろう。
(あのウサ耳、違うな。俺やポッピーとは存在の仕方がまるで異なっている。少なくとも、俺たちを閉じ込めている元凶じゃないな。だが妙だ。ゲームの世界という気配がない……俺たちの暮らす現実世界となんら変わらないぞ?)
(そんな! でも、ここはどう考えても……)
(あいつも言ってたな。ここは”箱庭の世界”と。もう少し散策や話が聞ければ謎が解けるかもしれないが……久々に心が躍るな、永夢!)
(他にもいくつか、ヒントになりそうな言葉があったね)
なんとも楽しそうなパラド。
最近にしては珍しく、新しい玩具を与えられたこどものようなはしゃぎようだ。
(つまり、すぐには帰れないってこと?)
(多分な。だいたい、わざわざ連れ込むような奴が頼んで返してくれるとも思えない。最悪、すぐにラスボス戦になるかもな。おまえの仲間なら話せばわかってくれるさ。ここはひとつ、慎重に行こうぜ)
(僕の仲間なら、おまえの仲間でもあるんだからな。しょうがない、このゲームもクリアして、現実世界に帰ろう)
(ああ! 俺たちが組めば誰にも負けない!)
冷静に話し合いを繰り返し、いますぐの帰還を諦め、今後の動きを決めていく永夢とパラド。
そんな彼ら――傍目から見れば彼なのだが――にある話を持ちかける少年が一人。
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
外門前の街道から黒ウサギたちが歩いてくる。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの二人が?」
「はいな、ことらの御四人様が――」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「………え、あれ? もう二人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方と、白衣を着た明るく優しそうな殿方が」
「ああ、十六夜君と永夢さんのこと? 彼らなら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ!"と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて三人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「"止めてくれるなよ"と言われたもの」
「ならどうして教えてくれなかったのですか!?」
「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実が面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
ガクリ、と前のめりに倒れる。まさか召喚した人材がこんな問題児ばかりだなんて嫌がらせにも程がある。
「なら、どうして永夢さんまで行ってしまったのですか!」
この質問に対し、耀と飛鳥は目を合わせた。
「最初はついていく気なさそうにしてたんだけど、いきなり黙り込んだと思ったら次の瞬間には『やっぱり僕も行くよ!』って言って」
「十六夜君が『お医者さんは鈍臭そうだからな。転けられても面倒だし、俺が走っていくから掴まってろ』って一方的に彼の白衣を掴んで走り去って行ったわ」
倒れているのでそれ以上の反応は黒ウサギからあがらなかった。
見事な連係プレイだった。彼らの行動力といい、彼女らの声真似を含めた遣り取りといい、問題児同士はすでに息が合っているらしい。
改めて言うが、嫌がらせにもほどがある。
十六夜が何を思って彼を連れて行ったのかは不明だが、どうにも永夢は帰りたがっている節があった印象から、下手なことをしないかと黒ウサギは不安を募らせている。
(だいじょうぶでしょうか? 片や問題児。片やどう見ても人の良さそうな好青年……不安しかないのですよ!)
「た、大変です! "世界の果て"にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
ジンが慌てた様子で口を挟む。
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ………斬新? チュートリアル中にバットエンドも斬新かも」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ………ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。
外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「………。箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」
そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、
「黒ウサギも堪能してくださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。二人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐる。
その後に続くように、耀がついていった。