申し訳ありませんが、今日までにいただいた感想には返信を見送らせていただきます。
今回からはまた出来る限りの返信を心がけたく!
障害を打ち払ったエグゼイドとレーザーが地上に戻ってくると、そこには仮面ライダーパラドクスと飛鳥、耀の三人がエグゼイドたちを待っていた。
「お疲れさん」
レーザーがエグゼイドとパラドクスに労いの言葉をかける。
彼らが自分たちのチームワークの良さを再度実感しつつ拳を打ち付け、するとパラドクスは途端にその姿を崩してエグゼイドの中へと消えていった。
「ありゃ、なんだ永夢。パラドはもうお休みか?」
「たぶん、パラドなりの遊び方というか、やり方があるせいかと」
「ふうん? まあいいか。おまえたちなら間違えたりもしないだろうし、手綱を握り損なうこともないだろ」
どうあれ、パラドが永夢の中に戻ったのであればこの場での彼らの戦闘は本当に終わりだ。
早々に判断を下した仮面ライダーたちはゲーマドライバーに挿入されているガシャットを引き抜く。
『『ガッシューン』』
変身の解けた二人は、それぞれが念のため辺りを警戒しながらもパラドが助けただろう仲間の元へと近づく。
「お疲れ様、飛鳥ちゃん、耀ちゃん」
「そっちも中々盛り上がったみたいだな」
永夢と貴利矢が声をかけると、それまで二人の様子を不思議そうに眺めていた飛鳥たちがハッと我に返る。
ルイオスとのボス戦をおこなっていたはずの彼女たちがステージから弾かれたということは、それほど厄介な状況に持ち込まれたか、そうせざるを得ないところまで来ていたのだろう。存外に強敵だったことを考えると、二人に大した怪我も見受けられなかったのは幸いだった。
「先生たちも、終わったんだね」
永夢の元に寄ってきた耀が彼に確認すると、永夢が小さな声でパラドが相手をしてくれたのだと伝える。
ゲームが大好きなパラドが、元の世界と同じ感覚で戦闘をしていたからこその戦績とも言えるのだが。
「そっか、パラドが」
一度ならず二度までも耀を助けた、もう一人の永夢とも言える存在。
パラドとの会話を思い出した耀は、彼の言っていたことを守るように、けれど彼らには聞こえる声で囁く。
「ありがとう、パラド」
微笑を携えながらお礼を述べると永夢から離れ、慣れない空中飛行で立ちづらそうにしている飛鳥の支えに行ってしまった。
(ありがとう、か)
(誰かに言われると、暖かくなる言葉だよね)
(そう、だな……ああ、助けた奴に言われると、こんなにも嬉しいんだな。なあ、永夢。誰かを救うってのは、こんなにも心が暖かくなるんだな)
(うん、そうだね。パラドのおかげで、僕まで暖かいや)
これまで人々のために戦ってきたパラドだが、明確なお礼を言われることはなかった。そもそもとして戦いの場には仲間か敵しか残らないこと、パラドの存在が公になっていないことなど多くの理由があるが、どうあれ手を差し伸べた人から直接言葉をもらうのは初めての体験だったことに変わりはない。
(仲間以外からの言葉ってのも悪くない)
共に戦った一人の仮面ライダー。彼との会話を思い出しながら、パラドは思う。
(ウィザード……俺にもひとつ理解することができた。あのときおまえが俺の悩みを聞き、一緒に戦ってくれたときのことが、いまならわかる。そうか、本来敵のはずの俺の話を聞いたあのとき笑っていた意味が、いまならよくわかるぜ)
永夢にも伝わらないほど奥底で指輪の魔法使いへと礼を伝えることを決めたパラドは再び意識を表面へと浮上させる。永夢の中から見えるのは、彼を――いや、彼の中にいるはずのパラドのことを考えながら笑みを浮かべる貴利矢の姿。
(…………)
「貴利矢さん、パラドがなにか用があるのかって」
「ん? いやいや、用なんかないって。ただほら、なんつーの? 自分、人の成長を見るのが好きなタイプなんで」
「パラドが絶対ウソだろって言ってますよ。裏で動いて人の葛藤を見ているのは好きそうだけどな、だそうです」
「自分の評価ひどくない!?」
パラドからとはいえ永夢の口から放たれた言葉に地面に膝をつく貴利矢。
人々のためにではあるが色々と手を出してきた彼からすればまっとうな意見ではあるのだが、どうにも共に戦った、特に相棒とも呼べる男の口から出た評価は暴言にも等しかったらしい。
「先生たちは仲がいいね」
「それよりも早く宮殿へ戻りましょう。十六夜くんだけに任せておくわけにはいかないわ。私たちだって、戦えるんだから」
それぞれが思い思いに言葉を述べる。
ただ、飛鳥の発言は耀とはまるで異なり、永夢と貴利矢は彼女からまだ戦わせろといった意思を強く感じ取った。
とはいったものの、一度ステージから落下してきた以上は復帰させるわけにもいかないだろう。ギフトゲームのルール上、敵に姿を見られたわけではないのでルイオスに挑む条件は剥奪されていないはずだが、それでも永夢たちが首を縦に振ることはなかった。
「さあ、行くわよ春日部さん。挑戦権を持っている私たちがこんなところで時間を潰していていいはずがないわ」
「え? あ、ちょっと飛鳥……」
耀の手を引いて宮殿に戻ろうとする飛鳥だが、その行き先を貴利矢が塞ぐ。
「はいストップ。悪いけど、二人は自分たちとお留守番だ」
「退きなさい」
「退かない、退かない。簡単に通すと自分が永夢に敗者に相応しいエンディングを見せられちゃうでしょうが。人を守るための永夢は容赦ないし怖いんだよなぁ。なにより、自分も永夢もキミらを戦わせるつもりないんで」
成長を促すために背中を押した。
危険が迫ったから支えるために助けた。でも、それはもう一度無茶をさせるためにではない。このままでは通用しない、敵わないということを知ってもらうためにも、判断を誤らせないためにも必要なことだ。
二人の後ろから、永夢も声をかける。
「ダメだよ。二人はここで、十六夜くんの勝利を待っていた方がいい」
「どうしてよ! 私だって戦える! なら――」
「ダメだ。キミたちをボスのところへは行かせない」
耀に協力してもらおうとする飛鳥に向け優しい笑みを向ける永夢だったが、なお進もうとする飛鳥に厳しい言葉を投げかける。
「いま十六夜くんのところに戻ったところで、彼の足手まといになるだけだ」
「――なんですって?」
プライドの高い彼女にとって効果的な言葉であり、飛鳥は隠すことなく不満気な表情を永夢に向けた。
「ゲームで言えば、二人は場外。もう負けている状態なんだよ。敗者にゲームへの参加権は残ってない。なにより、二人が宮殿から落ちてきたこと自体、ボスには敵わなかったってことでしょう? なら、あえて負けに行くくらいなら待っていた方がよっぽど正しい選択だと思うよ」
「……ッ」
痛いところを突かれたのか、飛鳥が永夢から視線を逸らした。
既に原型を留めないまでに破壊された宮殿だが、ルイオスの切り札に対抗策がないのは事実だ。いや、ルイオス自身にさえいまはまだ届かないことも、飛鳥は理解している。
それでも弱いことを認めるのは癪でしかない。自分はその他大勢ではないのだと声を大にして言いたい。弱いままで仲間と足並みを揃えるなどあってはならない。
「だから私は!」
「どんな理由があったとしても、僕も貴利矢さんも、キミを通すことはないよ。レベルが足りないのに無理に戦われて死なれたら困るんだ。もうこれ以上、ゲームで人が死ぬなんてダメだ」
確固たる意志を持ち飛鳥を止める永夢と貴利矢。
たかがゲーム。されどゲーム。
彼らにとって、ゲームで勝たなければという個人の意地よりも優先させるべきものがある。戦う前から結果の見えている勝負に出していいはずがない。
箱庭の世界にいたのが永夢であろうと、彼の仲間だろうと、世間を揺るがせたひとつのゲーム。その二の舞を踏むことは絶対に許されないのだから。
「ゲームは自分とみんなで楽しく真剣勝負するためのものだよ。決して、自分の価値を見せつける場所でも意地を張るための舞台でもない。今日ここで悔しい思いをしたなら、次の機会に活躍することを目標に備えることが本当に大事なことなんじゃないかな?」
あくまで優しく、彼は問いかける。
少女が間違えないように。誤った選択の末、後悔の念に囚われないように。そして、いつか彼女がゲームの舞台で輝くために。
「…………あなたって、なんだか不思議だわ」
やがて、飛鳥が小さな声を漏らす。
途端、これまで張り詰めていた緊張を解き、耀の手を握るのもやめた。
戦いたい。ルイオスに勝利して自分を認めさせたい。そういった気持ちは、いまも確かにある。けれど、それがなんだというのだろう。勝ちたいのと勝たなければならないは違うのだ。
(そうよ……私が欲しいのはあんな小物からの勝利じゃないわ。もっと大舞台で、私は必ず私がいたからこその勝利を飾ってみせる。だから今回は貴方に託すわよ、十六夜くん!)
強い光を宿した瞳が、崩れ去った宮殿の一角を見上げる。
自分の中にある想いを伝え終えた飛鳥は深く息を吐き出すと、改めて永夢へと視線を移す。
「いいわ、今回は待っていてあげる。私だって、他人が追い詰めた相手を横から掻っさらう趣味はないもの」
短く返事をすると、彼らから離れて適当な木陰に座り込んだ。
「えっと、つまり……」
「十六夜くんが勝つって信じているから、今回だけは貴方たちの言葉を素直に聞いてあげるわよ! って言ったんだよ。永夢にはまだ難しかったかー」
アハハ、とからかうように笑いながら、貴利矢が飛鳥の言葉を翻訳してみせたのだが、
「そんなこと言ってないわ!?」
永夢をからかう前に飛鳥が釣れた。
「どうだかなぁ? 女性は本音を言葉の裏に隠すって言うし? もっとも今回はちっとも隠れちゃいないがな。いいんじゃないの、仲間の勝利を祈って待ったり託したり……最後の最後にそんな相手がいるってのも、悪かない」
「貴方はいったい……」
反発するはずが、上を見上げて正体不明の懐かしさと共に語る貴利矢を見ていたらそんな気もなくなってしまう。
永夢は貴利矢の言葉を聞きながら、どこか浮かない顔をしつつも悲しみと嬉しさのないまぜになった笑みを浮かべながらひとつ頷くだけに留めた。
そんな空気を壊すように、立派な宮殿が建てられていた最奥の部屋から轟音が響く。
壁のなくなったむき出しの舞台で、輝く翼と灰色の翼が羽ばたき、両手を広げる金髪の少年へと駆けていく。少年は獰猛な笑みを浮かべ、それらを迎え撃つために拳を握るのだった。
一撃、二撃。
空気が震えるほどの攻防はしかし、三度目には拮抗を保つことなく。
「終わりか」
最後の勝負を見届けていた誰かが呟いた。
直後、輝く翼を羽ばたかせてきた男が地に堕ち、次いで灰色の翼を持つ怪物の姿が霧散していった。
宮殿があった場所にはただ一人。
逆廻十六夜だけが、どこかつまらなそうにゲームの終わりを眺めていた。
次回で一章は終わりです!
ついでに言っておくと、次の次の話では再びあの男が登場! セーブデータを元に、どうにかして干渉を試みる彼はついに自由を手に入れる!?