十六夜の案に乗り、とあるギフトゲームをクリアしてきた永夢と貴利矢。そして十六夜。
彼らがギフトゲームで勝ち取ってきた物は、力のない最下層のコミュニティのために常時開催されている試練で、様式も調った立派なギフトゲームだった。
永夢たちが挑んできたゲームはふたつ。海魔クラーケンとグライアイの打倒。
ゲームクリアによって手に入れてきたものは、”ゴーゴンの首”の印がある紅と蒼の宝玉であり、これらは”ペルセウス”への挑戦権を示すギフトである。
十六夜はこれらを用いて、どうあろうともギフトゲームを受けるつもりのない相手を、これで強制的に舞台に立たせようという魂胆なのだ。
今回の騒動を起こした一人である”ペルセウス”のリーダー・ルイオス=ペルセウス。
彼は今回の一件に対してまともに取り合うつもりなど毛頭なく、また”名無し”と対等な決闘を受けるなど屈辱なことだとさえ考えている。だが、彼も男だ。金、道楽、そして女のこととなれば積極的になるもの。要するに、黒ウサギは欲しい。だから”ペルセウス”が握っている過去の”ノーネーム”の仲間と引き換えるといった提案が出されていた。でもゲームは受けないといった状況なのだ。
放っておけば、献身的な黒ウサギは仲間のためにその身を差し出すかもしれない。
時間が経ってしまえば、そもそも仲間を取り戻す機会を失う。
だからこその策だ。
突然の乱入によって廊下に吹き飛ばされていた黒ウサギはその報を聞き、これまでの扱いよりも彼らの心遣い――好意の方が何倍も胸に響いていた。
それからしばらくして、彼女は”ペルセウス”に正式に宣戦布告をするのであった。
『ギフトゲーム名 -FAIRYTALE in PERSEUS-
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
宝生 永夢
九条 貴利矢
・”ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・”ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件 プレイヤー側ゲームマスターによる降伏
プレイヤー側のゲームマスターの失格
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合
・舞台詳細 ルール
*ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない
*姿を見られたプレイヤーたちは失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
数日後。“契約書類”に承諾した直後、七人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。
次元の歪みは六人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと誘う。
「姿を見られれば失格か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」
背後に建つ白亜の宮殿を見上げ、なんとも楽しそうな声音で十六夜が呟く。その呟きにジンが応える。
「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だということになりますよ。流石にそこまで甘くはないと思います」
「YES。そのルイオスは最奧で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギたちはハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギたちには綿密な作戦が必要です」
黒ウサギもジンに賛同し、より詳しく状況を説明してくれる。
今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。
“契約書類”に書かれたルールを確認しながら、飛鳥が難しい顔で復唱する。
「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私たちのゲームマスターであるジンくんが最奧にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら、大きくわけて三つの役割分担が必要になるわ」
飛鳥の隣で耀が頷く。
本来なら、このギフトゲームは決して一桁単位の構成員で挑むものではない。
この場での役割分担は必須だというものだ。
「それにしたって、まさか自分まで参加できるとはな」
“ノーネーム”に途中参加した貴利矢は呑気に感想を述べていた。
本来ならこんな予定ではなかったのだが、乗るしかないのもまた事実。であればどんな形であれ少しでも力になろうというのが彼なのだ。元の世界においても、自身を顧みず危険をおかし、患者を第一に考えてきた。その在り方は、きっと世界が変わった程度では揺るがない。
「でも、このルールなら僕たちも役に立てそうですよ」
貴利矢と並び立つ永夢は、ルールを把握しながら呟く。
永夢の横顔を盗み見ながら貴利矢は口を開いた。
「いいのか?」
「なにがですか?」
「おまえのやろうとしていることくらいわかるさ。せっかくのボス攻略だぜ? 参加できなくて悔しいとか思わないわけ?」
「正直、まるっきり未練がないわけじゃないんですけど、十六夜くんたちにこっちをお願いするのはよくないかと思いまして」
やりたいことなどわかっている。
彼ら問題児の性格もなんとなくだが把握できた。
ならば、縛るのではなく見守ることを選びたい。
「ったく、しょうがねえなぁ……なら、俺も一緒に残ってやるよ。俺たちのコンビなら問題ないだろ」
笑顔を見せ、永夢の肩に腕を乗せる貴利矢。
つられて、永夢の顔にも笑みがこぼれる。
(俺はボスの相手もしてみたかったんだが……今回は十六夜に譲ってやるか)
パラドも彼らの案を承諾し、静かに闘志を燃やし始める。どうせ人手は多い方がいいだろうと、多人数を相手取る戦法を浮かべていく。
「十六夜くん、ちょっといいかな?」
現状、コミュニティの中心にいる十六夜に話を持ちかける永夢たち。
「おう、どうしたお医者さんたち」
会議を始めようとしていた十六夜が”契約書類”から視線を外し、彼らの話に耳を傾ける。
「このゲームの攻略には、ボスであるゲームマスターを倒す役と、囮となってプレイヤーをボスの部屋まで運ぶ役の二通りが必要になる」
「だろうな。だからその配分を考えていたんだが」
「うん、キミならそこまで考えていると思ったよ。だから、ひとつ提案したいんだ」
まだ若い、経験の浅い少年少女。
いつ最悪の状況に巻き込まれるかもわからないような世界。必要なのは、経験と覚悟。
(十六夜くんたちならきっとできる。だからこそ、いまは僕が彼らを信じるときだ。)
どうあれ、どんな状態に陥ったとしても、恐らく永夢たちは十六夜たちの戦いには介入できない。これはそういう提案なのだから。
「周りにいるだろう取り巻きは僕と貴利矢さんで相手をする。だから十六夜くんたちは最短距離でボスの元に向かって欲しい」
「……いいのか? 俺が言うのもなんだが、お医者さんなら誰にも見つからずにルイオスのところにいけるだろ?」
もっともな意見だが、永夢は首を横に振る。
「ゲームの攻略のためには、僕たちが残る方がいい。だから、十六夜くんはボスを」
言葉に偽りがないことを永夢の瞳から感じ取った彼は、心の中にあった意見を変えた。
「それができるってなら、他の全員で乗り込むだけだ。お嬢様には面白いことを独り占めするなと怒られたばかりだからな。連れて行けば多少は満足するだろ」
連れて行けば。
十六夜はこのとき、飛鳥を戦わせようなどとは思っていなかった。無論、耀にだって譲ってやる気はない。あくまで自分が打倒するべき相手なのだと考えている。
永夢と貴利矢が残ると言い張るのなら好都合。やりたいようにやるだけだ。
「おい、全員よく聞け」
そこからの十六夜の行動は早かった。
素早く作戦を立て、自分たちをルイオスの元へ運ぶための囮として永夢たちが残ることを話し、残りはルイオスの相手へと移行させる。
問題児たち三人の中でも話が着くが、黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。
「せっかく全員でいけるのであれば、皆さんで相手をしてください。油断しているうちに倒さねば、非常に厳しい戦いになると思います」
五人の目が、一斉に黒ウサギに集中する。
「あの外道、それほどまでに強いの? 前回会ったときはこう、あまりに残念な」
「はい、ルイオスさんご自身はさほど脅威ではありません」
飛鳥の疑問に、黒ウサギも肯定の色を示す。哀れルイオス……。やはり本人の評価はあまりよろしくないようだ。
「問題は、彼が所有しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは――」
「隷属させた元・魔王さま」
「そう、元・魔王の……え?」
十六夜の突然の補足に、黒ウサギは一瞬言葉を失った。
「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにもかかわらず、奴らは石化のギフトを使っている。――星座として招かれたのが、箱庭の”ペルセウス”。ならさしずめ、奴の首にぶら下がってるのは、アルゴルの悪魔ってところか?」
「十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に…………?」
黒ウサギは信じられないものを見る目で首を振りながら問いかける。
「まあな。このまえ星を観測して、答えを掴めた。まあ、機材は白夜叉が貸してくれたし、調べるのは簡単だったぜ」
「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」
「なにをいまさら。俺は生粋の知能派だぞ。なんたって、鍵のかかった扉だろうと、ドアノブのない扉だろうと、目の前にあればなんだって開けられるからな」
黒ウサギは本能的に面倒ごとか、それに近しい出来事が起きる気配を感じていた。
しかし聞かぬわけにもいかず、内心ハラハラしながら問いかける。
「………………参考までに、方法をお聞きしても?」
十六夜は期待に応えるように扉のまえに移動し、後ろにいる全員に呼びかける。
「開けたら仕掛けるぞ! お医者さんたちは準備を始めておけ」
「もちろんそのつもりだぜ」
(さて、交代だ永夢)
(ああ、パラド。ひとまずは任せるよ)
人知れず瞳を一度赤く光らせた永夢は、楽しそうな笑みを浮かべる。
「やっとまともに遊べるな」
貴利矢は黄色のガシャットを手に取り、永夢はいつか見せた青を基調としたガシャットを取り出す。
「さあ、攻略を始めようぜ」
「あんまりはしゃぎすぎんなよ」
二人は同時にガシャットを起動させる。
『PERFECT PUZZLE!』
『What's the next stage?』
『BAKUSOU BIKE!!』
「変身」
「二速。変身」
『デュアルアップ!』『ガシャット』
永夢はゲーマドライバーを使用することはなく。
『Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!』
貴利矢は起動したガシャットをゲーマドライバーに挿入するとともにゲーマドライバーを開く。
そうして、周りに展開したパネルのひとつを、正面から蹴り抜いた。
『ガッチャーン!』『レベルアップ!』
『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!!』
永夢の中にいるパラドが表に出ることで変身した仮面ライダーパラドクスと、レベルアップによってバイク形態へとなった仮面ライダーレーザーが並ぶ。
「あとは任せるぜ、十六夜」
パラドがそう告げながらも両手を操作しいくつかのエナジーアイテムを操作していく。
「よし、こんなもんでいいだろ」
『挑発』
準備は終わったとばかりに十六夜にオッケーを出すパラドだが、頭上にはいまだエナジーアイテムが置かれている。
「なら始めるか」
やはりバイクに変身した貴利矢を不思議そうに眺めていた飛鳥と耀、黒ウサギはその言葉に改めて意識を切り替えた。
「始まったらすぐに走り出せよ」
「おう、こっちは任せたぜ」
十六夜の近くでルイオス攻略部隊が固まったのを見て、十六夜は扉へと視線を向ける。
「黒ウサギの問いに応えるぞ。こうやって、開けるに決まってんだろッ!」
わずかな溜めが入ったあと、轟音とともに、白亜の宮殿の門を蹴り破った。
あまりにひどい光景を見守ったパラドは、ゲームが開始したことを確認した瞬間、待機させていたひとつのエナジーアイテムを使用する。
『発光』
瞬間、敵の視界は眩い光によって塗りつぶされた。
その隙を突いて、機動力のある十六夜と耀が飛鳥とジンを抱えながら兵士の合間を縫って駆けて行った。
「これで残ったのは俺たちだけか。しかも、ご丁寧に挑発とはね」
「いいだろ、これくらい。さて、ゲームスタートだ。つきあえよ、レーザー」
「ったく本当におまえは自由だな。永夢にはもっとしっかりしてもらわないと困るぜ。ほら、さっさと乗れ」
「一度乗ってみたかったところだ。行くぜ、レーザー。こういうときは確か、こう言うんだよな? ひとっ走り付き合えよ!」
「丸パクリじゃねえか! 刑事さん怒るぞ!?」
元の世界でともに戦った戦士。
人の身でありながら無茶をする困った刑事ではあったが、その正義感と勇敢さはCRのドクターだけでなく、協力してくれていたすべての者達を勇気付けた。
その彼のことを思い出しながら、パラドとレーザーの協力プレイによる攻略が始まった。
おや、これはもしかして別章で投稿しているクロスエンディングとリンクするやつ。
きっとそんな気がしていた人も多いのでは?