天才ゲーマーも異世界から来るそうですよ?   作:alnas

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逆転のCard

 穏やかな海を眺めながら、二人の男が笑みを浮かべて横に並んでいた。

「いやはや、中々知能派じゃないの、十六夜くん」

「そうですね。態度や口の悪いところはありますけど、仲間想いのところもありますし」

「ハハッ、でもありゃ危なっかしいけどな」

 陽気に笑う男性が、サングラスを取り外す。

「でも、今回は僕たちにも協力するように声をかけてくれましたし、時間が解決することもあると思いますよ」

 もう一人の青年は、白衣のポケットへと手を突っ込む。

「お、ちっとは成長したな。ならひとまず彼のことは置いておいて、俺たちもやるべきことをするとしようか」

「はい。十六夜くんの作戦に乗ったからには、時間との勝負ですからね。行きましょう、貴利矢さん」

 永夢と貴利矢が同時に前を向き、ガシャットを取り出す。

 すると、これまで穏やかだった海の一角で渦を巻き始め、その中心から大ダコが顔を覗かせた。

「あれが今回のターゲットってわけか」

 それに怯むことなく、貴利矢が笑みを浮かべる。

 なんといっても、彼らは姿を現した大ダコに会うためにそれなりに長い距離を走って来たのだ。しかも、会うだけでは終わらない。

 出会ってからが重要なのだ。

 ここに来るまでに使った時間、帰るための残り時間。

 永夢と貴利矢はすべてを計算しながら、大ダコへと話を持ちかけた。

「さあ、クラーケン。俺たちとの”ギフトゲーム”を受けてもらうぜ!」

 十六夜の話を聞き夜のうちから”ノーネーム”本拠を飛び出していた二人としては、無事に見つけ出すことができて一安心といったところか。

『時間がないにはないんだが、お医者さんたちなら多分どうにかしてくるだろ。俺たちで、逆転の切り札を揃えるんだ』

 楽しいと言わんばかりの笑顔で十六夜からそう持ちかけられては、根が良いドクターたちである彼らが断れるわけがない。

 そうして切り札を揃えるべく必要なギフトを取りに来たのだ。

「それにしても、ギフトゲームを受ける気のないコミュニティなのにこういったゲームは開催してんのな」

「様式の整ったゲームなのかもしれませんね。本来なら、僕たちのしているような攻略方法が正しいギフトゲームの挑み方なのかもしれない」

「へぇ……じゃああいつに手加減は不要なわけだ」

 永夢との会話も終え、へらへらした笑みを消す貴利矢。

「さて永夢。こっちでは初の」

「はい。チームプレイといきましょう」

 二人のドクターを参加者とみなしたのか、頭上に羊皮紙が現れる。

 それを確認した彼らは、クラーケンを打倒するべく、ガシャットを起動させた。

『MIGHTY ACTION X!!』

『BAKUSOU BIKE!!』

「黒ウサギの運命は、俺たちが変える! 変身!」

「もう少しばかり、乗せられてやるか。変身」

 掛け声と共に起動したガシャットをゲーマドライバーへと挿入する。

『『ガシャット』』

 二人の周りに展開したパネルのうち、選択すべきパネルが正面に来たとき永夢は右手を突き出し、貴利矢は蹴り抜くことで選択する。

『『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム! アイム ア 仮面ライダー!!』』

 音声が流れ出し、鳴り止んだときには4頭身の仮面の戦士、エグゼイドとレーザーが姿を表す。

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 目指すはクラーケンの打倒。

 久々の共闘で熱が高まっていくのを感じながら、永夢は敵へと飛び出していった。

「っておい! 時間ないから巻きで行くぞ永夢!」

 レベルアップするつもり満々だった貴利矢――レーザーはいきなり駆け出した永夢――エグゼイドに呼びかけながら自分も走り出す。

「そういう貴利矢さんこそ!」

「自分はお守りだっての!」

 言い合いながらも息の合った行動をとるエグゼイドとレーザーは、迫り来るクラーケンの足を掻い潜りつつ距離を詰める。

 四方から押し寄せる何本もの足を各々のガシャコンウェポンで迎撃していく。

「ったく、バグスターじゃあるまいし」

 文句を言いつつも何度目かの刺突を防ぎ、鎌として使用していた両手に握るガシャコンスパローを合体させ、弓として用いる。

「あらよっと」

 クラーケンの眼に向けて放たれた攻撃は防がれるものの、僅かな隙を作るには十分だった。

「行くぞ、永夢!」

「おう!」

「大変身!」

「二速!」

 二人同時にゲーマドライバーを開く。

『『レベルアップ!』』

『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション エックス!!』

『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!!』

 エグゼイドとレーザー、それぞれから異なる音声が聞こえてきたかと思えば、そこにはゆるキャラのような姿をした戦士はすでになく、逆立った髪の毛のような頭部が特徴的な8頭身のピンク色のエグゼイドと、黄色のバイクに変形したレーザーの姿があった。

「よっしゃ乗れ永夢。飛ばすぜ!」

「ああ、速攻で決めてやる!」

 バイクと化したレーザーに颯爽と乗り込むエグゼイド。

 仮面ライダーでありながらライダーマシンとなるレーザーは、単体でも行動可能だが他の仮面ライダーに操作してもらうことにより真価を発揮する。

 エグゼイドの操作により飛び出した二人は、襲いかかってくる足の上を器用に走り、次から次へと繰り出される足へと移動しながら前へと進む。

「ハッ、やっぱおまえが乗ると違うな!」

「当然だろ!」

 レーザーに乗るエグゼイドがガシャコンブレイカーを構える。

 幾度となく繰り返してきたプレイの先に、クラーケンの本体が見えた。

「決めるぞ、レーザー!」

「よっしゃ行け永夢!」

 ガシャコンブレイカーをソードモードに移行させ、速度を上げる。

 座席の前に設置されたゲーマドライバーに刺さっているレーザーのガシャットを引き抜く。

『ガッシューン』

 取り出したガシャットを、すぐさまゲーマドライバーの左側に付随しているキメワザスロットホルダーに挿入する。

『ガシャット!』

 そして上部のボタンを押し、

『キメワザ!』

 その間に二人とクラーケンとの距離はもうすぐそこまで詰まっていた。

「行くぞ。ウイニングランを決めるのは――」

「――俺たちだ!」

『BAKUSOU CRITICAL STRIKE!』

 クラーケンに正面から突っ込んでいく二人は、レーザーのドリフト走行に合わせてエグゼイドが握るガシャコンブレイカーで回転斬りを繰り出す。

 そのまま駆け抜け、足をつたり岸辺へと戻って来る。

「っしゃあ!」

 振り返れば、海へと沈んでいくクラーケンの姿。

 同時に、エグゼイドたちの前に”ゴーゴンの首”の印がある蒼い宝玉が差し出される。

「どうやらあいつで正解だったみたいだな」

「これでゲームクリアだ」

『『ガッシューン』』

 手に入れた物を確認した二人は変身を解き、満足そうにしながら一時の休息に入った。

 

 

 

 

 

 走る。

 走る。

 ただひたすらに、周りの景色をあとにして駆け抜ける。

(おい永夢、レーザーにもっと速度を上げさせろ! 十六夜が待ちくたびれてたらどうするんだ!)

(いやいやいや、これ以上貴利矢さんに無茶させられないよ! だいたい、パラドがちょっとだけとか言ってギフトゲームに挑んだりするから!)

(でもいいもんは手に入っただろ?)

「ああもう! 確かにそうだけど!」

 クラーケンを倒してすぐ、永夢と遊ぶこともギフトゲームに参加すらしていないパラドが他のゲームに挑みに行ってしまい、それを待っていたら予想以上の時間が経っていたのだ。

 もちろんパラドにも考えがあったわけで、決して個人的な目的でも、永夢たちを困らせるためにしたわけではない。

「もういいだろ永夢。パラドにだって悪気はなかったんだ。次からしっかり見とけよ。今回は自分が頑張ってやるからよ!」

 笑いの混じった声で話す貴利矢に一言お礼を言いながら先を見据える。

「あともう少し……」

 現在貴利矢に再びバイク形態へと変身してもらい、その上に乗っている永夢。

 行きもそうしてきたのだが、帰りは速度が更に速い。

「お、本拠が見えたな」

「良かった、なんとかなりそうですね」

「だな。さて、そんじゃ最後の加速だ。しっかり捕まっとけよ」

「はい! ――って、貴利矢さん、これ止まれるんですかぁぁぁぁぁぁっっ!!?」

 このとき、ぼそりと貴利矢はつぶやいていた。

 あ、やべ……と。

 

 

 

 

 

 自室にてドアノブを壊され、挙句たったいまドアそのものを破壊された黒ウサギは、部屋に集まった問題児たちを眺めていた。

 飛鳥とは少し前に完全復活した耀も交え話し合ったことで和解し、これからのことを考えていたときにドアをぶち破り入ってきた十六夜によって思考は中断されていた。

 当の十六夜は大風呂敷を抱えており、辺りをキョロキョロと見回していた。

「あれ? お医者さんたちはまだか?」

「先生?」

 耀が聞き返し、それに頷いた十六夜は再度部屋を見渡す。

「なんだ、まだ帰ってきてないのか。こりゃ、一人でやった方が――なわけないか」

 どこからともなく、こちらに向かってくる音が聞こえて来る。

「ねえ、十六夜くん。それはなにかしら?」

 飛鳥が十六夜の抱える大風呂敷に興味を示すが、

「戦利品さ。中身はまあ、揃ってからでもいいだろ。ほら、来たぜ。最後の役者が、逆転のカードを持ってな」

 次の瞬間、盛大な破砕音と共に一台のバイクと白衣を纏った男性が黒ウサギの部屋へと突入してきた。

「なにごとォォォォォォォォッッ!!?」

 わけもわからず吹っ飛ばされた黒ウサギは、十六夜によって破壊されたドアを突き抜け、廊下へと転がっていった。

『ガッシューン』

 同じように部屋の中で転がっていたバイクからはそんな音声が漏れ、近くで寝転がる永夢は腰を打ったのか摩りながらも起き上がろうとしていた。

「悪い永夢。久々で飛ばしすぎた」

「途中で高速化なんてあったのが悪かったんですよ……だいじょうぶですか、貴利矢さん」

 自分をここまで連れてきてくれた貴利矢を非難することなく手を差し伸べる永夢。

 その手を取って起き上がった貴利矢は、部屋の惨状を見て嫌そうな顔をした。

「こいつは酷いな。全員、怪我とかしてねえな?」

 見渡した限りにいた十六夜と、その背後に隠れる耀と飛鳥に問いかける。

「おう、俺もこいつらも無事だ」

 サムズアップして見せた十六夜に一安心し、ぶち破ってきた壁には申し訳なさそうに合掌しておく。

「レーザー、だっけ? やっぱりあんたも面白いな」

「おう、十六夜くん。確かに好きに呼んでくれていいとは言ったけど、まさかそれに定着するとはな」

「ヤハハ、かっこいいと思うぜ?」

「そう? ならいいか」

 とりあえず全員の無事が取れた貴利矢はいい加減な十六夜と楽しく話し出した。

 部屋の惨状からは目を背けた永夢は、

「耀ちゃん、飛鳥ちゃん。本当にだいじょうぶ?」

「うん、平気」

「私も問題ないわ。十六夜くんが咄嗟にかばってくれたし」

「そっか。なら良かったよ」

 こちらも少女たちの無事を再確認し笑顔になる。

「先生たちこそ、すごい登場してきたね」

「本当ね。でも、爽快そうでいいじゃない。今度私も乗ってみたいわ」

 よほどバイクに乗っての登場がよかったのか、少し興奮気味で話し出す。

「おうおう、永夢にも春が来たか?」

「お医者さんいくつだよ。あれだと危ないんじゃねえの?」

「あー……永夢の趣味はよく知らないしなぁ。ポッピーくらいしか近くにいなかったし。というか、あれ絶対保護者の目だから問題ねえよ」

 なんて話していると、「貴利矢さーん!」と永夢から呼ばれたので三人の元に行くと、

「貴方が九条先生?」

 耀からそう呼ばれた。

「ああ、そういえばもう一人いたんだったな。少し前から”ノーネーム”に力を貸すことになった九条貴利矢だ。永夢の仲間とだけ覚えてくれればいいよ。よろしく」

「春日部耀、よろしく」

 互いに自己紹介を終え、認識し合う貴利矢と耀。

 永夢の仲間であり、飛鳥たちからも一応の話しを聞いていた耀は警戒することもなく彼の手を握る。

「ニコちゃんとはまるで反応が違うのな」

 などと一人感想を述べていた。

「それで、お医者さんたちはうまくいったのか?」

「もちろん。はい、十六夜くん」

 永夢が十六夜に、彼が抱えるのと変わらないサイズの大風呂敷をひとつ渡す。これで大風呂敷に包まれた物がふたつになる。

「見込み通りか。俺と変わらない速度で戻って来れるならお医者さんだとは思ってたけど、中々だったぜ」

 風呂敷の中を覗いた十六夜は笑いながらそうこぼす。

 これでやっと、現状を覆せる。

「結局なにが入っているの、それ」

「そうよ、私達だけのけ者にしてまで取ってきたってことは、それなりの物なんでしょう?」

 待ちきれないといった様子の二人。

 対して、行動を起こしていた永夢、貴利矢、十六夜は顔を合わせて笑みを浮かべた。

「ああ、もちろんだ。逆転のカードを持ってきたぜ」

 その頃、黒ウサギは吹き飛ばされた廊下の先で、いまだ放置されていた。

 


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