なんか、こんなに読まれていいのかってくらいに読まれてます。ランキングにも何度か乗せていただき、みなさん本当にありがとうございます。
今回は本編の投稿になりますが、ちょくちょくクロスエンディングの方も進めていくのでそちらの更新がされたときは「チッ、こっちの更新かよ」とか言わずに読んでもらえると嬉しいです。
それからたくさんの感想もありがとうございます。すべての原動力になってます!
では、続きをどうぞ。
神の才能により永夢の居場所を突き止め、これまた神の配慮によって永夢の存在する時間軸へと送り込まれた貴利矢は、非常に面倒な状況に巻き込まれていた。
というのも、やっとのことで自分以外の人に会うことはできたのだが、なにやら一組の男女が言い合いを始め、挙句鬼ごっこにまで発展してしまったのだ。
「やれやれ……」
これは騒ぎが収まるまで待つしかないと座り込んだところ、走り回っている十六夜と黒ウサギと共に行動していた飛鳥とジンが貴利矢へと話しかけてきた。
「それで、貴方は結局なにを聞きたいわけ?」
「コミュニティのことを知らないというのは本当ですか? にわかには考え難いことなのですが」
面倒な連中とひとまとめにしていたが、比較的まともそうだと判断した貴利矢は彼女たちから情報を聞き出そうとする。
「自分は少し前にプレイヤーとしてこの世界に来たんだが、右も左もわからない状態でね。だからこうして一人で彷徨ってるわけなんだが、できればこの世界の情報が欲しい。それから、探したい奴がいるんだ」
いまだ素性のわからない連中に詳細までは話せない。そう判断した上で、けれども最低限の真実を語る。
今日始めてこの世界にやって来たこと。
会わなければいけない人がいること。
なにひとつとして、ウソは言っていない。
「あら、貴方もしかして、私たちと同じように呼ばれた側の人なのかしら?」
「キミと同じ?」
貴利矢の話の中に気になることがあったのか、飛鳥が問いかける。
「私も、あそこで黒ウサギと戯れている十六夜くんも、元々は日本にいて、昨日突然この世界に呼ばれたのよ」
「なに? というと、キミはゲームキャラクターじゃなくてプレイヤーなのか?」
「ゲームキャラクター? よくわからないけれど、確かに私はプレイヤー側ね。今日もゲームに参加してたわけだし」
いまいち噛み合っていないのだが、それでも培ってきた洞察力、推理力が貴利矢を支え、いくつかの仮説を作っていく。
(となると、ここは恐らくゲーム病患者と関係なく人を呑み込むゲーム世界……もしくは参加しているプレイヤーの誰かが作り上げたものになるってわけか? どちらにしろ、大層なものを作ってくれちゃって)
改めて箱庭の世界を見渡すが、どう考えても現実世界と変わらない。
どうにも妙だ。
そもそも、データとしてではなく生身の人間がゲームに取り込まれる。あまり考えたくはないが、まるで知らない現象が起きているのかもしれない。
「ったく、こっちはただでさえ永夢を探しに来たってのに、ここに来て面倒事が増えたんじゃないだろうな……」
つい愚痴を言ってしまったが、結果的にはそれが良かった。
「永夢? あら、もしかして」
「あの、到底有りえないことだとは思うんですがそれって……」
「な、なんだ?」
ついうっかり探し人の名前をつぶやいてしまったが、すでに遅い。
飛鳥とジンに名前を聞かれてしまった。
彼女たちは互いに顔を見合わせたあと、再度、貴利矢に視線を合わせた。
「あの、すいませんがひとつ尋ねたいことが」
ジンが飛鳥の意を汲み取った上で低い位置で手を挙げた。
「あ、ああ。なんだ?」
「もしかしたら、僕たちは貴方が探している人を知っているかもしれません」
突然の告白に、さすがの貴利矢も思考が止まる。
というか、完全に固まっている。
「――――…………つまり、なんだ?」
「ですから、永夢さんという方に心当たりがあると」
「あ、そう。そっか……いや早すぎるだろこの展開!」
あまりに早い展開に理解が追いついたのは、ジンの言葉からしばらく経ってからだった。
ようやく動き出した頭は、冷静に彼らを観察する。
ウソをつくにはあまりに幼い瞳。
うまく人を騙そうとするには勝気な態度。
(この二人が演技だっていうなら相当なもんだな……それに、疑っていても動かないと埒があかねえ。乗せられてみるか)
立ち止まっていてはいつまで待っても解決しないことをよく理解している彼は、短い時間でこの身の振り方を決める。
「っていうか、あんたも医者だろ?」
これまで黒ウサギと駆け回っていた十六夜が息ひとつ切らすことなく戻ってくる。
「あれ、わかっちゃった?」
「わかるもなにも、白衣を着てお医者さんを知ってるとなれば、医者以外になにがあるってんだよ」
お医者さん。
そう呼ばれているのが誰かを当たりをつけた貴利矢は、
(永夢がお医者さんねぇ。またこどもに呼ばれそうな呼ばれ方されてんなおい)
僅かな同情とおかしさを感じてしまう。
「なにはともあれ助かったぜ。こっちは永夢に会わないと色々始まらないんでなぁ」
このおかしな状況にも、彼と組めばきっと対処できる。
自分の信頼している男ならば、きっと。
この際、罠であれついていくしかないのならばと永夢の名前を普通に出す。
「それなら俺たちと一緒に来ればいい」
ひとつ笑った十六夜は、一切の警戒をさせることもなく彼を誘う。
こうなればなるようになるだろうと、この世界に来て初めて出会った彼らの提案に乗る。
「助かるぜ。だったら案内よろしく頼むよ」
乗せられたつもりで集団に加わった貴利矢は、十六夜たちからこの箱庭の世界のことや永夢の話を聞きながら”ノーネーム”の本拠へと向かい出す。
その過程で、彼は悟った。
(あ、これ罠でもなんでもねえや。本当に永夢と一緒に行動してるだけの奴らだ……)
“ノーネーム”本拠では、永夢と耀が残っており、いまは耀もぐっすりと眠り、永夢はその近くで窓から見える外の景色を眺めていた。
「みんな、何事もなく帰って来ればいいけど」
ここから見えるのは、無数の星々が輝く夜空と暗闇のみ。
しばらくそうしていると、不意に扉をノックされた。
「はい」
「お医者さんか? ちょっと失礼するぜ」
扉の向こうから十六夜の声が響き、ゆっくりと扉が開く。
「春日部はどうだ、お医者さん」
「おかえり、十六夜くん。耀ちゃんならだいじょうぶだよ。あとはぐっすり寝てればすぐに動けるようになるから」
「そっか。ならいいや」
先ほども一度会いには来ているのだが、それでも心配だったのだろうか。
などと永夢が思っている中、十六夜は彼に手招きをする。
「どうかしたの?」
なぜか扉の前に立ち、部屋の中には入ってこない十六夜を疑おうともせずそちらに足を向ける永夢。
十六夜としてみれば、寝込んでいる女の子がいる中で騒ぎを大きくしたくないだけなのだが。
「ちょっといいか?」
「うん、もちろん。それと、押しかけはうまくいったの?」
「いや、そっちはちょっと揉めてるな。だから解決策を思いついたんだが――それは後にして、ついてきてもらうぜ、お医者さん」
話を中断し、永夢についてくるように言って先に進む十六夜。
彼なりの考えがあるのだろうと黙ってついていくが、辿り着いたのは先ほど自分もいた貴賓室だった。
「さあ、入った入った。あんたを待ってる人をつれてきたんでね」
永夢の背中を押し、貴賓室へと押し込む。
「わっと、十六夜くん!?」
つまづきかけながらも部屋に入ってみると、ソファに一人、足を組んで誰かが座っていた。
アロハシャツの上から白衣を纏う、コーヒーに砂糖をいくつも入れ続ける男。
「えっ……」
その光景を見てすぐ、永夢の中で例えようのない思いが湧き上がる。
「貴利矢さん……?」
すべての思いを飲み込んで、その男の名を呼ぶ。
何度も、何度だって自分の危機に駆けつけてくれた相棒の名前を。
「よお、永夢。無事でなによりだ」
コーヒーと向き合っていた貴利矢が顔を上げ、永夢の名を呼ぶ。
そうしてひとつ笑みを浮かべた貴利矢は立ち上がり、彼へと近づいていく。
「どう、して……どうやってこっちに来れたんですか!?」
「おいおい、待てって。俺だって聞きたいことはいくつもあんだよ。とりあえず落ち着けって、な?」
「――は、はい」
掴みかからん勢いで迫ってきた永夢を一度遠ざけ、改めて向き合う。
「まず初めに、自分がここに来れたのは檀黎斗のおかげだ。あいつがおまえの居場所を割り出し、箱庭のゲームっていう聞いたこともないゲーム世界に俺を送り込んだ。ここまではいいか?」
「黎斗さんのことについては色々聞きたいところなんですけど……」
「言うな言うな。神のすることだぞ。便利くらいの気持ちでいろって。それがあいつとうまく付き合っていくためのコツだ。もっとも、おまえには必要ないだろうけどな」
ゲームマスターとしての黎斗とゲームプレイヤーの永夢としての相性は決して悪くない。ゲーム開発や攻略といった面だけであれば彼らの相性は最高なのだ。
それを知っている貴利矢としては、自分とはまた違った付き合い方を確立させている永夢はこのままでいいだろうということだ。
「つまり貴利矢さんは僕と同じようにこの世界に来てゲームの攻略を進めるってことでいいんですか?」
「ああ、大枠はそれで間違っちゃいない。妙なのは、神がここをゲームの世界だと認識していたのに対して、十六夜くんたちの話を聞いているとどうにもゲームの世界とは思えないってことだ。その辺りも地道に探っていかないとな」
もっとも、永夢のことだ。
「それよりもだ。俺もここに案内されるまでに現状は軽く聞いてる。おまえのことも、このコミュニティってやつのこともな」
現状を知っていながら、放っておくことなどしないだろうと理解している貴利矢は、
「俺もおまえに乗ってやるよ。黒ウサギちゃんからも、ジンくんからも了承を得ている」
“ノーネーム”の本拠につくまでに、もしも貴利矢の探している人物が十六夜たちの出会っている宝生永夢だった場合、彼の意見を尊重し、自分も協力するという形で話をつけてあるのだ。
もちろん、警戒する必要がなくなったからこその判断であったのだが。
「つーわけで、自分もいまから”ノーネーム”に力貸すぜ」
「貴利矢さん! ありがとうございます!!」
差し出された手を強く握る永夢。
なんだかんだで、彼と最も早く信頼関係を築いた仲間の参戦は、彼を精神的に力付けた。
「やっぱり、あんたたち仲間だったんだな」
二人の様子を眺めていた十六夜は、更に後方から覗いていたジンと黒ウサギ、飛鳥が頷くのを見て、貴利矢への警戒心が三人から完全に取り除かれたのを確認した。
どうにも、本拠に来るまでの会話で彼ら彼女らはそれなりに良好な関係になったようで、実は既に自己紹介を終え、不何気ない会話すらしていたのだ。
となればあとは黒ウサギたちから話すこともないので、一言断りを入れて各々が貴賓室から出て行く。
「……みんないたんだ」
今更になってそのことに気づいた永夢は呆れながらも三人が退室していくのを見送った。
黒ウサギと飛鳥は言い合ったことが響いているのか、特にアクションを起こすことなくそれぞれの部屋へと向かっていく。
「あの二人、なにかあったの?」
この場でただ一人事情を知っているはずの十六夜に訊くと、彼も面倒そうにしながらも出かけた後の出来事を語り出した。
「ってなわけで、昔の仲間を取り戻したいなら黒ウサギと交換って話にされてな。それで交換に応じそうな黒ウサギにお嬢様がキレてな。しかも、”ペルセウス”はどうあっても決闘を受けそうにねえ」
大方のことを語り、いまの問題点を挙げていく十六夜。
けれど、彼は言っていた。
「十六夜くんには、解決策があるんじゃないの?」
「……まあ、な。黒ウサギはトレードなんてさせないし、つまらなそうな相手だったが、ギフトゲームはどうなるかわからない。このまま手をこまねいているのもしょうに合わないところだし、逆転の切り札を用意しようかと思ってな」
「切り札?」
「ああ、そうさ。決闘したくないって言うのなら、決闘しなきゃいけない状況に持ち込むまでだ。なあ、お医者さんたちよ」
この場に揃う、十六夜、永夢、貴利矢。
時間は限られている。けれど、この三人ならば時間の制限も、相手の要求も突破することができる。
「ひとつ、俺の作戦に乗ってみないか?」
いまここに、問題児とドクターたちの最初の協力プレーが始まろうとしていた。