天才ゲーマーも異世界から来るそうですよ?   作:alnas

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MのためのParadox

 箱庭の世界に来てから、一日が経過した。

 永夢とパラドは決意を新たにしてからは女性陣と入れ替わりで風呂を済ませ、まとめるレポートや夜間の緊急通報に備えることもなく、久々にゆっくり眠ることになった。

 眠る前に会った十六夜はやけに満足した顔をしていたが、楽しいことでもあったのだろうか?

 なんて疑問が浮かぶ前に、永夢の意識は夢の中へと落ちていった。

「おい、起きろ永夢」

「ん……あと五分……あと五分でクリアだから…………」

「なんで一人でゲームやってるんだよ! 夢とはいえ、やるなら俺も混ぜろ!」

 そんな永夢は、現在パラドによって起こされようとしていた。

 しかし、どうも寝言から推測するに、彼は夢の中でもゲームをしているらしく、一人でプレイして楽しんでいるのをパラドが恨めしそうにしている。

「永夢、今日はあいつらのギフトゲームだから行かないとまずいんだろ? さっさと起きろって」

「……ギフト、ゲーム?」

 揺さぶっていると、やっとのことで薄眼を開けた永夢。

 次の瞬間には寝ぼけながらつぶやいた言葉を意識したのか、勢いよく上半身を起き上がらせた。

「ギフトゲーム!」

「やっとお目覚めか……」

「あれ、パラド? どうしたの?」

 額に手を当てて永夢の寝ていたベッドに座り込む様子に疑問を浮かべた永夢。当然、彼がいままで自分を起こそうとしていたことなど知るはずもなく。パラドを通して伝わって来る呆れだけがやけに痛く感じた。

「起きたのならいい。それよりいいのか。あいつらが待ってるんじゃないか?」

「そ、そうだ! 急いで行かないとってっ!? いっつぅ……」

 起き上がってすぐに駆け出そうとするが、なにもないところで躓き転げてしまう。

「慌てて出て行く前に、白衣くらい羽織ったらどうだ」

「忘れてた……」

「しっかりしてくれよ。ここにはいつもみたいにレーザーやブレイブはいないんだからな」

「……――わかってる。さあ、行こうかパラド」

 どことなく頼りない永夢に珍しくため息を吐いたパラドは、それでも笑顔を向けると立ち上がった永夢の拳に自分の拳をぶつけた。

「ったく。おまえは俺が見ててやらないとな。がんばれよ、永夢」

 パラドはそれだけ言い残すと、粒子となって永夢の中へと消えていった。

「ありがとう、パラド」

 仲間のいない世界に来てしまったことを悔やんでも始まらない。だが、実際にいないと実感させられるとどこか心が痛む。けれど、パラドがいる。まだ彼は一人じゃないと、一人にはならないと教えてくれる。

 かけてあった白衣をまとい、側に置いてあった手持ちのガシャットとゲーマドライバーも手に取る。

 どういうわけかこのふたつは永夢のギフトとして作用しているのでギフトカードにしまえないこともないのだが、長らく持ち歩いていたせいか、ギフトカードにしまうよりも持っていた方がしっくり来るのだ。

 そうして準備を終え、彼はやっとのことで自室を後にした。

 

 

 

 

 

「それにしても、お医者さんが寝坊とはねぇ」

「ご、ごめん。なんか気が抜けちゃって」

 飛鳥と耀、それにジンがギフトゲームに挑むため、フォレス・ガロのコミュニティの居住区を訪れる道中。

 やっとのことで自室から出てきた永夢はいま集まっているメンバーで最後に集まったこともあり、そこを十六夜に弄られていた。

「あら、気が抜けたって、永夢さんは今日ゲームがあることを忘れていたのかしら?」

「私たちは参加するのに」

 そこに飛鳥と耀も参戦してくるものだから、彼も大変である。

 自覚が足りない、と元の世界でなら呆れられながら怒られていたところだが、こちらの世界だと自分より小さな子たちにいいように扱われてしまう。

 一人ではなく三人からなのがまた苦労するのだが。

(あ、明日からは絶対に早く起きよう)

(永夢、それたぶんフラグだぞ)

 心の中ではそんなやりとりをしつつ、黒ウサギとジンから同類を見る目で見られてることも知らずに進む永夢だった。

 それからしばらく歩くと、目的の居住区が見えてきた。

 六人が一斉に視線を向けると、全員が微妙な反応を示す。

 それもそのはず。

 居住区が森のように豹変していたからだ。

 正面まで来て、ツタの絡む門をさすり、鬱蒼と生い茂る木々を見上げて耀がつぶやく。

「……ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだしな。むしろ妥当だろ」

「いえ、フォレス・ガロのコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず……それにこの木々はまさか」

 ジンがそっと木々に手を伸ばす。その樹木はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じさせた。

「やっぱり、鬼化している? いや、まさか」

「フィールドが書き換えられているってことかな。相手がゲームマスターならそれくらいのことは普通だと思うけど」

 自分たちが頻繁にステージセレクトでゲームエリアを書き換えていた都合か、永夢にはこの事態を特に重く受け止めてはいない。むしろ、相手に有利なエリアで戦うことは相手がゲームマスターであるのなら普通なのではとさえ思ってしまっている。もちろん、なにかしらの打開策があるだろうという前提なのだが。

「みんな、ここに契約書類が貼ってあるわよ」

 飛鳥の声に、全員が門柱に貼られた羊皮紙の前に集まっていく。そこには、今回のゲームの内容が記されていた。

「なんだって?」

「ガルドの身をクリア条件に…………指定武具で打倒!?」

「これはまずいです!」

 ジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げる。

「このゲーム、そんなに危険なの?」

 飛鳥が心配そうに問う。

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はルールの方で……このルールでは、飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つけることもできないことになります」

「……どういうこと?」

「”恩恵”ではなく”契約”によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません! 彼は自分の命をクリア条件に組み込む事で、御二人の力を克服したのです!」

「すいません、僕の落ち度でした。初めに”契約書類”を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに…………!」

 ジンはギフトゲームに参加したのは今回が初めてであり、ルールが白紙のギフトゲームに参加することが如何に愚かなことであるかわかっていなかった。

「敵は命がけで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」

「でも、危険は格段に増えたことになる……」

 十六夜の軽薄な台詞と、永夢の自分たちを心配しかしていない台詞に、飛鳥と耀はやる気を出していた。

 元より勝つ気である二人にとって、このくらいのハンデは相手のプライドを壊すのに好都合とさえ考えている。

「貴方たちはそこで吉報を待ってなさい」

「じゃあ、行ってきます。先生も、あんまり心配ばかりするのはよくない」

「そう、だね。わかった、信じて待つよ。三人とも、気をつけて」

 永夢の言葉に頷いた参加者三人は、門を開けて突入していった。

 

 

 

 

 

 

 三人が突入してしばらく経ったころ、門前で待っていた黒ウサギ、十六夜、永夢の元に、獣の咆哮が届いた。

「なんだか面白そうなことになってるみたいじゃねえか。見に行ったらまずいのか?」

 そろそろこのつまらない状況に飽きてきていた十六夜が黒ウサギに聞く。

「お金をとって観客を招くギフトゲームもありますが、最初の取り決めにない限りはダメです」

「なんだよつまらねんな。審判権限とそのお付きってことでいいじゃねえか」

「だからダメなのですよ。ウサギの素敵耳は、どこからでも大まかな状況がわかってしまいます。状況が把握できないような隔絶空間でもない限り、侵入は禁止です」

「…………貴種のウサギさん、マジ使えね」

「せめて聞こえないように言ってください! 本気でき――」

「お医者さんはどうだ? お嬢さまたちの様子がわかったりとかしないか?」

 黒ウサギを無視し、隣にいる永夢へと話しかける。

「無理だよ。生身の状態じゃ普通の人とほとんど変わらなし、変身していたとしても様子までは探れない」

「そうか。まあいい、詳しいことは御チビに聞けばいいしな」

「話の途中で無視は酷くないですか!?」

 二人して談笑する中、黒ウサギの悲痛な声が門前から響いた。

 余談だが、この叫び声はギフトゲーム中の三人の耳にも届いたとか。

 そうしている間にも、ゲーム終了の合図のように、木々が一斉に霧散していった。

 

 

 

 

 

 ゲーム終了後、黒ウサギは三人の元に一目散に走り出した。彼女を追うように十六夜が追随する。その更に後ろを、レベル1の状態のエグゼイドがなんとか付いて行っていた。

 と言うのも、十六夜と黒ウサギは元の身体能力が高くそのまま走っていくのに対し、永夢は一度変身をおこなうまでの僅かなタイムラグがあったのだ。もっとも、いくら俊敏な動きを見せていても、十六夜たちのスピードには追いつけないのだが。

「おい、そんなに急ぐ必要があるのか?」

「大ありです! 黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重傷のはず……あっ!」

 三人がジンたちの元に駆けつけると、すぐに耀が怪我を負っていることがうかがえた。右腕からの出血が酷いことから、傷跡もそれ相応のはすだ。

「ふ、ふたりとも速いって……って、耀ちゃん!」

 遅れてやってきたエグゼイドは変身を解き、永夢として横たわる耀に駆け寄る。

「出血が酷い……このまま血が止まらなければ、出血性ショックの危険がある。それから呼吸不全を引き起こしたりしたら事だ」

「すぐコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器が揃ってますから!」

 永夢の診断を受け、黒ウサギが大慌てで耀を抱きかかえようとする。

「待って、僕も行く」

「しかし、黒ウサギでは耀さんを抱えて永夢さんまでは連れて行けません!」

 その通りだ。

 彼を連れていくことによって、耀の扱いが雑になったりでもしたら意味がない。無理についていくべきではないのだ。

「だったら、僕が変身して黒ウサギの後を追えば」

「無理です! 先ほどの永夢さんの速度では、黒ウサギには到底追いつけません」

「そんな……だ、だったら」

 再びガシャットを手にした永夢は、即座にボタンを押す。

『MIGHTY ACTION X!!』

 そして、スイッチを入れたことにより、永夢の周りには特殊な空間が展開され、所々にブロックやメダル型のアイテムが配置されていく。

「変身!」

 ガシャットをドライバーに挿入し、

『ガシャット!』

 ピンク色の戦士のパネルが正面に来たとき、右手を突き出してパネルを選択した。

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム! アイム ア 仮面ライダー!!』

「さあ、頼むぞ!」

 変身してすぐに近くのブロックを破壊し、エナジーアイテムを出現させる。

 しかし。

「違う! ならこっちだ!」

 お目当のメダルが出ないのでまたさらにブロックを破壊していくが……。

「これも違う! アイテムなし!? くそっ!」

 いくら破壊しても望んでいるエナジーアイテムが出る気配がない。

「え、永夢さん! これ以上は待てないのですよ!」

「でも、ここで患者を見捨てることなんて俺にはできない!」

 黒ウサギが耀を抱える。

 自分の目の前で傷を負っている少女がいるのに、治すことも、付き添うこともすらできない。

(それじゃダメなんだ……ッ!)

 出てきたメダルに、望むものはない。このままでは間に合わない。

(おまえのやりたいことはわかった。人間を治すことは俺にはできないが、その手助けくらいは、俺がしてやる!)

 彼の中で、もう一人の声が響く。

「パラド……?」

(変われ、永夢。おまえは俺が、連れていく)

 意識を共有しているからこそどうするべきかを心得ているパラド。対して永夢も、その手があったかとパラドの案に乗ることを認めた。

『ガッシューン』

 変身を解き俯いた永夢の瞳が、一瞬赤く光る。

 顔を上げた彼は笑みをひとつ作ると、懐から十六夜も見ていない青を基調としたガシャットを取り出した。

 ガシャットギアデュアル。

 2種類のゲームを内蔵した、大型のガシャットである。

「世話が焼けるぜ。まあ、人間を助けるためなら、もちろん力を貸すけどな」

 誰に言っているのか曖昧な発言をしながらも、ガシャットに取り付けられたダイヤルを回す。

『PERFECT PUZZLE!』

『What's the next stage?』

「変身」

 これまでの永夢に比べて静かな声でガシャットの起動スイッチを押す。

 周辺にエナジーアイテムが拡散され、永夢の前に現れたゲートが彼を通過していく。

『デュアルアップ!』

『Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!』

 ゲーマドライバーを使用せずに変身してみせた永夢は、これまでと違い、青い仮面ライダーへと姿を変えた。

「さあ、時間もないしどんどん行くぜ」

 彼が両手を掲げると、どこからともなくエナジーアイテムを出現させ、まるでパズルゲームをするように縦横にいくつもエナジーアイテムを並べると、幾度となく組み合わせを探るように移動させ始めた。

「やりたかったのは、これだよな!」

 やがて組み合わせを見つけたのか、みっつのエナジーアイテムを使用する。

『高速化』『高速化』『高速化』

「よし、これで準備は整った。おい黒ウサギ、さっさと移動を始めるぞ」

「は、はい? だいじょうぶなんですか!?」

「早くしろって。これで間に合わなかったら意味ないだろ」

「わ、わかりました!」

 永夢の急変もさることながら突然のことに理解の追いつかない黒ウサギはそれでも耀を抱えて駆け出した。

「俺も行くか」

 その後を追い抜かんとする速度で移動を始めた永夢。

(普段よりも更に速い……? いくら高速化の影響とはいえこれはなんだ?)

 パラドはひとつの違和感を覚えながらも駆ける速度を緩めることなく、彼の速度は黒ウサギを追い抜き、本拠で彼女の到着を待つこととなった。

 黒ウサギは泣いた。

 


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