今回、ちょっとエロいかも……?
屋上菜園の隅っこの方で俺は床に座り込んだ。園芸部も元々人が来ないから、ゆっくりできる。大量の汗を拭いたタオルを隣に置きながら、柵ごしにグラウンドに目を向けた。
ここから陸上部が練習しているのが見えた。そこでは胡桃の走っている姿が朧げに見えた。そして彼女に話しかける先輩というやつも。
「あー、滅べ世界」
「ゆーくん、なに物騒な事をいってるの?」
ふと、背後から声をかけられた。それにそちらを見る事なく答える。
「だってこの世は顔で決まるんだぜ?不平等とか思わないか?」
「そうかしら?」
「そうなんだよ。りーさんみたいな美少女にはわからないだろうけどさ」
「美少女って、嬉しい事言ってくれるのね」
「本当のことだしな」
「隣、いいかしら?」
「どーぞ、俺みたいなブサイクの隣でよければ」
「イケメンの隣なんて役得ね」
冗談めかしながら隣に来るりーさんもとい、悠里はクスクスと笑い、ゆっくりと腰を下ろした。一瞬パンツが見えないか期待した。
しかし、彼女はよく同じ園芸部の俺に構ってくる。学内ヒエラルキー的には彼女の方が断然上だというのにだ。ただの戯れなのかそれとも……。
「なに見てたの?」
「胡桃。あいつの走りは清々しいから」
悠里の問いかけに思っていた事をそのまま言う。彼女には嘘や偽りは通用しない。ので、とりあえず本音でぶつかるのが一番だ。
「そう」
先ほどまでの全てを包み込むような包容力を持つ声とは打って変わってとんでもなく無機質な声で話を切り上げる悠里。その声から彼女の感情を察してどうしようもない幸福感を感じた。そして悠里は次の瞬間には笑顔を咲かせて話題を変えた。
「そうだ、明日は私がお弁当を作って来る番だからご希望があればなんでも作るわよ?」
「ん、じゃあハンバーグで」
「いいわよ、楽しみにしててね?」
うふふ、と心底幸せそうに笑う悠里。その幸せそうな顔に思わず襟から垣間見得たうなじに触れてしまった。滑らかでスベスベだ。
「ふぇ!?」
「あ、ごめん。つい可愛かったから」
真っ赤になる悠里に、慌ててを引っ込める。セクハラじゃねぇか。最低だな俺。べつに性的な意味は少ししか含んでないとはいえ、それでもこれはアウトだろう。
「え、あ、その……」
ほら、悠里も困惑してるし。
「ごめん、悠里。お前の笑顔があんまりにも魅力的でさ」
誰かに見せたくなかったなんて口が裂けても言えない。ただの嫉妬だ。それはいけない。そんな事をすれば彼女に嫌われてしまう。
「あう、き、気にしないで!む、寧ろ…嬉しいっていうか……あう……」
なんというか悠里が少し由紀のやつに精神年齢が近づいてきてるような気がする。
この反応を楽しむために口にはしないけど。
その時、午後の眠気が襲ってきて、思わず欠伸をしてしまった。
「……眠いの?」
「ん、そーだな。ちょっと眠いかも」
「じゃあ、学校が終わるまで寝ておいたら?時間が来たら起こしてあげるわ」
「いいのか?」
「もちろんよ」
天使のような笑顔を咲かせて、任せてと言う悠里。そうさな、確かにこの夕方は眠るのにちょうどいいくらいだし……
「じゃあお言葉に甘えて……」
腕を枕にしてその場に寝転がる。最後に悠里の顔を見てから目を瞑ると、すぐに意識が遠のいて来た。
すうすうと寝音をたてる目の前の少年ゆーくん、彼の周りにはいつも女性がいた。ある時は陸上部の少女と、ある時はクラスメイトの女の子と。ある時は後輩の二人組の女の子達と、ある時は優しい先生と……それ以外にもたくさんの女が彼の周りにいるのだ。
それがたまらなく嫌だった。かろうじて許容できるのが先ほどの具体例の娘達だけだ。それ以外は殺したいくらいだ。
「ほんと……ぐっすりね」
彼の寝顔を見やる。呼吸の度に上下に動く胸。少し滲んだ汗でへばりつく髪の毛。そして少し固そうな唇……
「だめ……」
理性が弾け飛びそうになったのを辛うじて防ぐ。あと少しでも彼の姿を見ていたら、私はどうにかなっていただろう。
「……あ」
だというのに、私は自然と彼の寝顔を盗み見てしまう。
そこには安心しきった姿があった。私を信頼してくれたからこそ見せている隙があった。
「あ、はぁ……」
どんどんと顔が彼に近づいていく。近づいていくごとに呼吸が荒くなっていくのがわかる。緊張や期待、背徳感などたくさんの感情が私の中で濁流となって渦巻いた。
いつもじゃあり得ないほど顔を近づける。少し短めの睫毛や、薄く少し固そうな唇。うっすらと浮かぶ汗。その全てが愛おしい。
「ハァハァハァ……」
呼吸がうまくできない。そっと、彼の肌に自身の唇を近づけて、浮かんだ汗を舐めとった。
しょっぱくて、すごく甘かった。ゾクゾクゾクと、背筋を途方も無い快楽が奔った。今、私はとんでもなくだらしない顔をしている事だろう。
その直後、少し身じろぎをする彼に反応してばっと姿勢を整える私。
「……」
身動き一つ取らずに彼の様子を伺う。幸いにも彼は起きてこなかった。ほっと胸を撫で下ろして、先ほどまでの自分の行動を思い返して、なんという事をしてしまったのだと、自己嫌悪した。
彼は私を信頼してこんなに無防備な姿を晒してくれているというのに、私はその信頼に背いてしまったのだ。なんと情けない。
ふと、彼の隣に放置されているタオルを見つけた。彼のだろう。彼がこれと同じ柄のタオルを使っていたのをよく覚えている。
「あ、ぁ」
それに手を伸ばす。その手を咄嗟にもう一方の手で押さえ込んだ。それでも押さえきれずに、そのタオルを掴み取った。じんわりの湿っているそのタオルに、私ははしたなく興奮した。
そのタオルの臭いを嗅ぎ、その臭いが彼のものだとわかった瞬間、口に含み、肌で感じた。そして……私は……
数分後、私はつやつやとした肌をしていた事だろう。
だからこそ、離さない。
りーさんはナニしたんでしょうかねぇ……私にはわかりません(純粋な瞳)