私「マ」
旧風成邸の中は流石に薄暗く、今の家にあるような白熱灯すら存在しなかった。だがこの場所だけは木々が開けていたので月明かりが差し込み、周囲の確認くらいはできる光量である。
封印してそのままだったのか、所々に蜘蛛が巣を張っている以外は特に汚れてもいない。まるでこの場所だけ時間が止まってしまっているかのように、寒く不気味で、何故か底なしに恐ろしい。
「れ、霊夢さん……」
「……こっちよ、吹羽」
霊夢が吹羽の手を引いて歩き出す。吹羽もそれを強く握って着いていく。
封印して数年経っているというが、霊夢の歩みには迷いがなかった。それはまるで、吹羽よりも吹羽のことを知っているかのように感ぜられた。
導かれるままに着いていき、霊夢が足を止めたのは畳張りの少々広めな部屋。
「ここ、居間よ。いつもご飯はここで食べてた。あたしも何度か戴いたことがあるわ」
「ボクの家族と……一緒にですか?」
「ええ。当然……あんたもね」
居間の中心には卓袱台がぽつんと置いてある。埃を被っており、ひと撫ですれば指の軌跡がくっきりと残った。酸化して茶けた襖は新品のものより何倍も柔らかく、畳には少々粗が目立っていた。
――ここに、四人で茶碗を並べて食事したのだろう。たまに霊夢も混ざって五人、肩を寄せ合い向き合って、和気藹々とご飯を口に運んだに違いない。
「次……こっち」
「ぁ……はい」
次に訪れたのは庭だった。
もう草が生え始めてしまっていたが、玄関先にあったような飛び石や玉砂利、申し訳程度の小さな池は当時もそれなりの風流を保っていたのだろうと思える。阿求の家には及ばないかもしれないが、風成家も一応名家ではあったのだと吹羽はちょっぴり寂しい気持ちになった。
「この家はね、もうずぅっと前からここに建ってるのよ。空き部屋が多かったでしょう? まだ人が多かった時代からこの家を使ってるってこと」
「それって……百年じゃ済まないですよね?」
「そうね。外の世界なら文句なしに一番古い家でしょうね」
広い庭だ。寺子屋の子供達が駆けっこをしても十分な程に広く立派な庭である。
幼き日の鶖飛や父、母ともきっとここで幾度となく遊んだのだろう。それこそ駆けっこや、かくれんぼや、鶖飛とは剣の稽古をした記憶が朧げに残っている。家を眺めて時折思い出すそうした記憶の欠片は、吹羽の一番の宝物である。
そう――二度と失くせない、宝物。
「行くわよ」
「はい」
そうして二人はしばし旧風成邸の中を歩き回った。居間、庭と続いていくつかの空き部屋や台所、木造りの風呂や工房、火炉、残っていた僅かな工具。そうして見て回るのは状況が状況だけに楽しいものではなかったが、なんだか懐かしいやら悲しいやら、複雑な気持ちが吹羽の中で渦を巻いていた。時折見上げる霊夢の表情もどこか懐かしそうに緩んではいるが、やはり悲しげに細める目が特に目立って見える。
吹羽は、以前から取り戻していた僅かな記憶の欠片が本当に欠片でしかなかったことに少々ショックを受けていた。こうして見て回っていると、本当に自分は記憶が壊れてしまっているのだと実感させられるのだ。
この家は広い。もちろん当時も全ての部屋を使っていたわけはないだろうけど、こうして見回ってもほとんど見覚えのないものばかりなのだ。
台所に立つ母の姿、工房で鋼を鍛える父の姿、庭で剣の稽古をする兄の姿、どれも少しだけなら覚えていたが、残りは全部曇り硝子の向こう側。残った記憶が百分のうち三にも満たないほどに、吹羽の記憶は彼女が思っていた以上に酷く壊れてしまっていたのだ。
その事実が、どうしようもなく不安を煽る。
「れ、霊夢さん……ボク――」
「分かってる」
繋いだ手を、強く握る。
「次が……最後よ」
「…………」
そうして最後に二人がたどり着いたのは、広間のようだった。
“ようだった”というのは、扉となる襖を開けるのを霊夢が躊躇って、中の様子が分からなかったからだ。
その部屋は広い屋敷の丁度真ん中ほどにある部屋だった。外周は廊下が巡り、何枚もの襖が部屋の中を覆い隠している。風成の住む家は、風紋を機能させる為風通しを良くせねばならない特徴があるが、その中で完全に締め切っているこの部屋はなんだか浮いて見え、雰囲気が非常に不気味に感ぜられた。
その部屋の正面の襖。掛けた指を迷いがちに離して、霊夢は呟くように言葉をこぼす。
「ねぇ、吹羽。本当に……本当に記憶、取り戻したい?」
「……え?」
唐突な霊夢の問いに、吹羽は疑問符で返した。
「なんでここに来たのか、もう薄々察してるだろうから言うけど……あたしは――あたし達は、ここであんたの記憶を取り戻させようとしてる」
「……はい」
霊夢の言葉通り、なんとなくそれは察していた。
この場所は最早吹羽にしか関係がない場所である。こんな切羽詰まった状況で吹羽をここに連れてきたならば、記憶をなんとかして取り戻させようとしている他に目的が思いつかなかった。
部屋を見て回ったのは果たして霊夢の気遣いなのか、それとも打算的な行動だったのか。
前者であって欲しいと少し思いながら、吹羽は霊夢の言葉に耳を傾ける。
「正直ね、あんたをここに連れてきたのは、あたしと紫の勝手な都合だと思ってる。紫はそれでいいって考えてるだろうけど、あたしは……やっぱりこの襖を、あんたの前で開けたくない」
「霊夢さん……」
「辛い記憶なの。きっと知らない方が良かったってくらいに。それでもあんたは……思い出したいって、思う……?」
「………………」
辛い記憶――それを自分勝手に吹羽に思い出させようとする二人は、ひょっとしたらとても酷いことを考えているのかもしれない。記憶を取り戻すことが悲願であるということに違いはないが、辛い記憶なんて誰しも忘れ去りたいと思うものだから。
だが、こうして直前になって吹羽に選択させようとするのは、偏に霊夢の優しさ故なのだろう。
恐らく、ここで拒んでも霊夢は阻まない。それによって起こる問題も、きっと全力で以って自ら解決に当たるのだろう。そんな優しさが霊夢にはあるし、その力もある。
だが――それをして一体何になる?
「……思いますよ、思い出したいって」
だって、一生後悔することになるだろうから。
「ボク、霊夢さんに恩返しがしたいんです。今まで支えてくれたお礼です。この前まではちょっと溜め込んで、無理しちゃってましたけど……そのことを慧音さんに見抜かれて、叱られたんです」
文との一件が落ち着き、慧音と話したあの空き地でのこと。
あの時から吹羽は二人に――霊夢と阿求に遠慮しないと決めた。自分の失ったものを全部取り戻して、その上で立ち直ることができるまで。
この襖の先には、きっと吹羽の失ったものが全てある。そして二人に恩返しするためには、絶対にそれが必要なのだ。ならば、吹羽が迷うことなどなにもない。
「“落花枝に返らず、破鏡再び照らさず”という諺があります。ここで逃げたら、きっともう二度と元には戻れません。……この先にあるものがボクには必要なんです」
「……そう」
霊夢は目を伏せてそれだけ呟くと、改めて襖に指をかけた。
今度は躊躇うこともなく――襖に隠された真実が、吹羽の前に明かされる。
そして、息を呑んだ。
「……ひっ!?」
――襖の先には、真っ黒な空間が広がっていた。
薄暗いだけではない。部屋全体が黒く変色し、殆ど換気もされていないらしく形容し難い臭いが充満していた。
一つ唾を飲み込み、吹羽が思い切って一歩踏み出すと、黒い部分はパキンと音を立てて砕けた。
「――な、なんですか……これ……」
呟いた言葉は、最早無意識的だった。今まで見てきた家の風景とは二転も三転もした光景に、思考がまるで追いついていない。
だが唯一、吹羽は知っていた……時間が経つと、
「れ、霊夢さん……これ、これは……一体、
そう――血。
外気に晒されたままの血は、酸化されて黒くなる。何年も放って置いたまま換気もされなければ、それは風にさらわれることもなくその場で黒く固まって、部屋の中にこびりつく。
ちょうど――この部屋が黒く染まっているように。
吹羽は錯乱していた。
今まで綺麗なまま残っていた我が家の一部屋にあった惨劇の跡。尋常でない量の血が部屋の中にこびりついていたなど、幼い吹羽の頭ではすんなり納得できようもなかったのだ。
「ねぇ霊夢さん! どういうことなんですか! なんでこんなに血がついてるんですか! ボクの家にっ、なんで?! まさか――」
「吹羽、落ち着いて……とは言わないわ。あたしの話を聞いて」
しゃがんで目線を合わせると、霊夢は吹羽の額に人差し指を置いた。
だがその純黒の瞳はまっすぐ吹羽を見ていて、吹羽の困惑した言葉は否応なしに留められる。
霊夢は力なく目の端を垂れさせると、意を決したように口を開いた。
「……あのね、吹羽。あたしは今から、あんたに酷いことをする。とても辛いと思うけど、我慢して、乗り越えてほしい」
「どういう……ことですか?」
「…………あんたの記憶は……
「……ぇ」
吹羽の瞳に動揺が浮かぶ。だが霊夢は有無を言わせない強い瞳で目を離さず、躊躇うこともなく、真実を告げる。
「記憶の一部……この家に関することを、あたしが封印したの。でもそれがあまりに膨大で、あんたの記憶の大部分だったから、他の記憶もろとも壊れてしまった……」
例えば、複雑な立体パズルの芯のみを抜き取った所為で、パズル全体が崩れてしまうように。
霊夢が封印し、記憶から消し去ったものは吹羽にとってあまりに大きく、記憶そのものを容易く崩壊させた。だから吹羽の記憶はこわれてしまっていたのだ。割れた鏡の破片のように、無理矢理記憶の芯を抜き取られてしまったために、繋がっていた記憶がばらばらに砕けてしまった。
「今から、その封印を解く。でも忘れないでね。あんたの傍には、あたしがいること」
額に触れた指が僅かに押し込まれる。すると、指先から伝わる熱が急速に高まり、吹羽の脳内に染み渡るように広がった。
異常な変化に体が震える。全身にまで広がった熱は、重い気怠さとなって吹羽の足を崩し、その場にへたり込ませた。
頭が、熱い。痛い。意識が朦朧とする。
「あぅ……う――っ」
靄のかかる思考の中で、いくつかの情景が浮かび上がってきた。
父の顔、母の顔、兄の顔、この家で過ごした思い出。
「っ、ぁ」
じゃれ合い。部屋。食事。稽古。触れられる感触。
「あ……」
夜。風。銀色。血。血。血――。
「あ、ぁ、あっ、ぁああぁああああッ!?」
急激に流れ込んできた情景に、吹羽は耐え切れず悲痛な叫び声をあげた。
煮え滾るような頭の中はがんがんと痛くて、今にも爆発してしまうのではというほど。ぼやける視界がぐらぐらと揺れて、まともに座るっていることもできそうにない。ただ熱くなった手や膝に触れる大粒の涙が、氷のように冷たく感じられた。
「ぁぁあぁあぁぁあ……いや、やだ、やだやだやだぁあぁあっ!」
「っ、吹羽っ!」
「あぁあぁあ、なんで、なんでおにいちゃんっ! うそ、うそうそ違うこんなの違うよっ、おとうさ、おかあさんっ! やめっ、だめだめだめぇッ、いやぁぁあぁああッ!」
「気をしっかり持ちなさいっ! 吹羽!」
ぐちゃぐちゃな思考がそのまま言葉となって勝手に出ていく。浮かび上がる凄惨な記憶はただでさえ纏まらない思考を侵し、吹羽の正気すらもがりごりと削っていた。
こんなにも錯乱する自分は、霊夢には発狂しているようにも見えるのだろうか。不意に温もりが体を包みこむと、優しく強い声が耳元から聞こえてきた。
「しっかりして、吹羽」
「おとうさん、が……おかあさんがっ、れ、れいむさん……お、おとうさ……おかあ、さっ……!」
「分かってる。分かってるから、落ち着いて」
「ち、ちが……たお、れて、おにいちゃんがぁ……っ」
「吹羽ッ!」
ぴしゃりと声を張り上げて、吹羽の揺れる瞳を霊夢が見つめる。両肩を掴む彼女の手は、いつよりも力強かった。
「あたしの目を見なさい。いい? 目を離さないで」
「れいむ、さん……」
「気をしっかり持って。辛いことだけど耐えるのよ」
「――……」
次第に視界が暗くなる。熱かった体から血が抜け出ていくかのように熱が消えて冷えていき、過呼吸気味だった呼吸はより深く浅いものへと変わっていく。
頭の中で目まぐるしく浮かび上がる情景が、少しずつ繋がっていく感覚があった。自分が失ったと思っていた記憶は本当に霊夢が封印していたのだろう、長らく失っていたはずなのに、そこに懐かしさは感じられない。ずっと自分の中にあって、見失っていただけなのだ。
霊夢の呼びかける声が僅かに聞こえた。ぼやける視界は一心に見つめる霊夢の顔をぼんやりと写している。
そうして吹羽は、糸の切れた人形のように気を失った。
◇
気を失った吹羽を抱えながら、霊夢は空っぽな表情で座り込んでいた。
腕の中にある吹羽は寝息を立てている。大量の記憶が急激に蘇ったのだ、脳が休息を求めて休眠するのも仕方がない。――或いは、辛過ぎる記憶に歯止めをかける為意識がシャットダウンしただけなのか。
時折耳元で聞こえる呻き声が鼓膜を揺らすたび、霊夢の中でぎしぎしと音を立てるものがあった。
吹羽に対するあらゆる感情が詰まったそれは、きっと心だ。
「……ごめん……ごめんね、吹羽……っ」
頰を静かに伝うのは、雫の形をした後悔だった。
なぜ吹羽の記憶を封印していたのか――そう訊かれれば、当然吹羽が辛そうだったからと霊夢は答える。だが今思えば、それは家族のことで苦しむ彼女を霊夢が見ていられなかっただけなのではないか。結局自分のことしか考えていなくて、守ろうと決めたはずの吹羽のことなんて本当は何にも考えていなかったのではないか、と。
そうでなければ――いや、そうだったから、吹羽は今こんなにも苦しむ羽目になってしまっている。
「結局、あたしがしたことは苦しみを先延ばしにしただけ……本当はどうすればよかったかなんて、今でもあたしは分からない……っ!」
なぜ、吹羽に対して面と向かって友達だと言えないのか。その問いの答えがようやく分かった気がした。
家族を失う苦しみを霊夢は知っている。だから同じ苦しみを霊夢よりもずっと幼くして突きつけられた吹羽を助けてあげようと思った。そして記憶を封印して笑顔ができるようになった吹羽を見て、自分は正しかったのだと思いたかっただけだったのだ。
自分がしたことは正しかった。自分と似た苦しみを持つ者を救うことで、
でも、それは結局霊夢が自分を慰めるためにしたようなもの。吹羽のことなんて考えちゃいない、自分勝手な恩人気取りに過ぎない。事実、こうして吹羽に辛いことを強要してしまっている。それに無意識ながら大きな引け目を感じていたから――結局自分のためだったのだと気が付いていたから、霊夢は吹羽を友達だと言い切ることができないのだ。
そんな人間が、友達だなんておこがましいにもほどがあるだろう、と。
「後悔しているのね、霊夢」
不意に、真っ黒な部屋の奥から声が聞こえてきた。
嗚咽を物ともせず通った声に、霊夢は徐に顔を上げて向ける。そこには案の定、顔を無表情で固めた八雲 紫が歩み寄ってきていた。
「嘆いても意味などないわ。後悔は所詮、それを忘れてはいけない記憶として脳に繋げておく留め具でしかないのだから。囚われるべきではないわ」
「……責めてるのか、慰めてるのか……分からないわね」
「いいえ、諭しているのよ。過ちに嘆き、停滞するのは愚者のすること。後悔を以って記憶に留め、学ぶことが大切。果たしてあなたは、学べているのかしら」
「どう、だか……」
そんなことを考える余裕もない、と霊夢は緩く首を振る。
今彼女の頭にあるのは後悔と、引け目と、自己嫌悪と、疑問のみだった。
「あたしは……やっぱり間違っていたのかなぁ……」
口を突いて出る疑問に、紫は容易には答えなかった。
「あたしは結局、自分が助かりたいだけだった。吹羽を助けて、あたしが慰められたかっただけだった……っ! この子のことなんてなんにも考えてない……薄情で自分勝手で独り善がりな、最低な奴よ……っ」
「……物事の正否は、その時を生きる者につけられるものではないわ」
物音も立てずに霊夢の隣へと歩み出て、
「いつの時代の戦争も、そのどちらにも正義があった。国を発展させること、物資や資源を奪うこと、労働力を得ること……目的は違えど、それは自分たちを始めとした国の民を豊かにするために行われるものよ。当時の人間たちにとってはいつだって自分が正しくて、敵が間違っているのよ」
長い時を生きた大妖怪だからこその言葉だった。
いつの時代の人間たちも、争うには必ず理由があった。戦争と言えるほど大きなものであれば、その理由にはほぼ確実に“国の繁栄”が含まれていたのだ。
生物が生きる根本的な理由とは、子孫を残し繁栄させること。その基盤となる生活環境が裕福になるならば、それは間違いなく正しいことだ。その為に起こった争いに、どちらが正しくてどちらが間違っているかなど愚問でしかない。
「間違っていたかどうか……それを決めるのはいつだって“後の人”。そしてそれが分かる頃には、きっと当人ではもうどうしようもない事態になっている。間違わないように行動することは大切だけれど、それでも間違ってしまったなら
「……ふふ、呆れてるみたいね」
「いいえ。これは……慰めているの」
霊夢のしたことが間違っていたのかどうか――それを決めるのは、未来の誰か。
少なくとも、それが正しいと思っての行動ならば正否を決められるまで間違ってはいないはずだ。
そこにあった想いは本物。結果だけを見ていては本質を測れない。霊夢の行動の可否を問う未来の誰か――“吹羽”はきっと、分かってくれる。
霊夢は一つ深呼吸をして、ぐしぐしと涙を拭い、いつもの凛とした表情を浮かべた。
「急ぎなさい、霊夢。時間がないわ」
「あたしがかけた封印が、もうそろそろ破られる……ってことかしら。……決死の時間稼ぎが、せいぜい数刻しか保たないなんて、なんか虚しいわね」
「ええ。残念だけれど、今回は私は手出しができないわ。……どうやら、私のみに対策した術を持っているようね」
「そんな術、一体どうやって……」
「不明よ。そして私とあなた両方が欠損する事態だけは避けなければならない」
「……分かってるわ。今回は……あたしたちだけでなんとかする」
「ならば上等」
萃香と魔理沙が隙を作り、それでも決死の覚悟を持って行った
だが、もう事は霊夢の手すらも離れた。体はある程度治癒したものの、大妖怪以上の実力を持つ相手との戦闘はとてもじゃないができない。そしてこの事態を収められるのは――きっと、紫が見込んだ吹羽しかいないのだ。
でも、どうか、無理だけは。
そう願いながら、霊夢は力無く垂れた吹羽の手を強く握った。
今話のことわざ
「
一度離婚した夫婦は、再び元に戻ることはないというたとえ。また、一度損なわれたものや、死んでしまったものは二度と元に戻らないというたとえ。