風と神話の幻想譚   作:ぎんがぁ!

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第二十二話 素知らぬ心の奥深く

 

 

 

 ――吹羽という少女がどういう人間なのか、霊夢はよく知っている。

 

 中途半端に色々なことができてしまう為に、まだ子供のくせして大人ぶろうとして、逆にそこが子供らしいことに気が付いていない、とか。

 誰もが同情してしまうような過去を背負っているくせに、それを感じさせないくらいに明るくて人に優しい、とか。

 時々霊夢ですら顔が赤くなってしまうくらいに可愛らしい笑顔を零すことがある、とか。

 そして何よりも、人の感情を理解し一緒に背負ってしまう(・・・)ことがある、とか――。

 

 他人は自分以上に自分の事が分かる、なんて話を幾度か聞いた事があったが、まさに霊夢は吹羽自身よりも吹羽の事を理解している自負があった。

 何せ記憶が壊れてしまった吹羽に散々世話を焼いてきたのだ、もはや愛娘の成長を見守る母親の心境を既に垣間見ているようなものである。実際は愛娘どころか恋人の一つもできた事は無いし興味もないのだが。

 

 詰まる所――霊夢は、呆れていた(・・・・・)

 

「(全く……お人好しにもほどがあるわ……)」

 

 視線の先で対峙する二人――特に吹羽を見遣って、霊夢は木に背を預けながら溜め息を吐く。

 別に弾幕ごっこするのは良いのだが、それを始める理由に関して、霊夢は何とも言えない感覚を味わっていた。

 

 理由に大方の見当はついている。文の様子から、そして僅かに伝え聞いた風成と天狗の話から、それを聞かされたであろう吹羽が取る行動は至極容易に読む事ができる。

 ――要するに、文を放って置けないのだろう。

 同じく最愛の家族を失くした親近感かどうかは分からないが、吹羽はどうにかして文の心を救おうとしている。霊夢としては、殺されそうになったのだから殺したって別に構わないだろうに、と思うのだが……。

 

「(ま、それが吹羽だからね……)」

 

 例え自分が殺されそうになった相手でも、その気持ちを理解出来てしまえば躊躇いなく手を差し伸べてしまう。それが霊夢の知る吹羽という少女である。

 些か自分の命や価値というものに無頓着が過ぎるとも思うが、それはずっと前から霊夢が阿求と共に悩んできた問題で、結局解決出来ずにいる。今更矯正など出来ないだろう。

 

『ボクは弾幕ごっこをしますが、文さんはボクを殺す気で来てください』

 

 ――あんな言葉を平気で言えてしまうのだから、もうどうしようもない。

 それに、殺されそうになって怯えていた吹羽が“殺す気で来い”なんて言うならば、それは既に覚悟を決めたということなのだろう。吹羽だって護身術を身に付けている以上、腹を括る(・・・・)ことくらいはできる。それを横から霊夢が阻むのは、吹羽の覚悟を踏み躙るのと同じことだ。

 

 まぁ、そもそも――、

 

「(この場が整った時点で、吹羽が文に負けるなん(・・・・・・・・・・)てあり得ない(・・・・・・)しね)」

 

 文のした事を許すつもりは毛頭ないが、それに対して吹羽が何かするというのならば、大して心配は必要ない。そう考えると身の内に滾っていた熱がだんだんと冷めていく気がして、霊夢は出そうになった欠伸を一つ噛み殺した。

 「殺されそうになったら容赦なく文を消す」なんて言ったことも、恐らくは杞憂だったろう。内心で吹羽はこちらを笑っていたかもしれないと思うと、終わったら拳骨の一つでも落としてやろうかとちょっと悩む。

 まぁ、殺す気で来る相手に自分は殺さないと吹羽はハンデの宣言をしたのだ、これほど強気な吹羽も珍しいと言えば珍しい。拳骨は勘弁しても良いかもしれない。

 

 何はともあれ、

 

「お手並み拝見ね、吹羽」

 

 霊夢は大して緊張する事も手に汗を握る事もなく、二振りの小太刀を抜刀する吹羽を見遣る。その細い腰には、様々な形をした小さな金属がいくつも吊るされていた。

 さて、妖怪を相手にどれほど立ち回れるのか――霊夢はただ戦闘を観戦する気になって、吹羽の小さな背中を見つめていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……“殺す気で来い”なんて、あんたの言葉とは思えないわね。舐めてるのかしら」

 

 苛立ちを瞳に込めて睨み付ける文に、対峙する吹羽は緩く首を振る。そしてその視線を真っ向から見つめ返すと、

 

「いいえ、舐めてなんかいません。文さんに必要なことなんです」

「……そんなもの(殺意)、初めからずっと持ってるのだけどね……それこそあんたが生まれる前からさ」

「…………はい。でも、扱い方(・・・)を知らなかった」

「…………はぁ?」

 

 吹羽の言葉に、文は腹の底から疑問を吐き出すように首を傾げた。

 

 だが、真実だ。吹羽は知っているのだ。

 そういう感情をどう扱うべきなのか。燻り続けることがどれだけ辛いことなのか。

 かつては吹羽も持っていたもの(感情)。それが、例え文のような淀み濁り切った暗黒の殺意ではなくとも、吹羽のソレは文が持つものと何ら変わりはしない。

 なんで、どうして――と。何故自分がこんな――と。ひたすら悔いて悩んで、それが心の中で燻り続けて。

 それをどうしようもなくなってしまったから、きっとこんなことになってしまったのだ。

 

 だから、吹羽が教えてあげなければいけない。

 大層な理由なんて無い。ただ放っては置けないと思ったから、吹羽がそうしたいから、する。

 自分勝手なのだとは分かっていながら、それでも吹羽は覚悟を決めた。だって……“悲しみを抱いたままが良い”なんて、そんな人いる訳がないのだから。

 

 吹羽は一つ深呼吸をして、文の瞳をしっかりと見つめる。それは吹羽なりに真剣さを伝える為だったが――文は、心底不快そうに眉を歪めた。

 

「嫌い、なのよ……その真っ直ぐな眼」

 

 絞り出すような、低く唸るような声音。

 

「分かりもしない癖に、私の為だって上から物を言う。何が幸せよ……何が友達よッ!? そんなもの糞の役にも立たないのにッ!!」

「……文さん」

「もう、うんざりなのよ……何もかもが……っ!」

 

 文はそう吐き捨てると、荒い息遣いで空を仰いだ。そして緩く喉を震わせて、

 

「あぁ――だからさ、吹羽」

 

 そして、吹羽へと戻した文の瞳には、一筋の光すらも宿ってはおらず。

 

「あんたを殺して、全部終わりにするわね」

 

 刹那、無数の風の弾丸が吹羽を襲った。

 今までのような嬲るために手加減されたものではなく、当たれば間違いなく風穴が開くような殺傷性の弾丸。

 まるで散弾銃のように放たれたそれは、着

弾点から凄まじい爆発音と土煙を舞い上げ、一瞬で空間に満ち満ちる。

 

「――そうです。殺す気で来てください」

 

 しかし、晴れた土煙から出て来たのは、全く無傷(・・・・)の吹羽の姿。

 その翡翠の瞳は、まるで希望を象徴するかのように光り輝いていた。

 

「この程度じゃ、ボクは死にませんから」

「〜〜っ、!!」

 

 不敵な吹羽の様子に、文は堪らず口を三日月に割いて地を蹴った。

 溢れ出す殺意を込めて、それを少しも隠そうとせずに放つ弾丸は、やはり凄まじいまでの物量で弾幕の壁を形作り致死の暴風となって吹き荒ぶ。

 対する吹羽は、腰に吊るされた金属の一つに指を滑らせると、呟くように一言、

 

「『風車(かざぐるま)』」

 

 吹羽のほんの僅かな霊力を喰らって、金属から溢れ出した光は手元で数枚の手裏剣を形作る。そのどれもが薄っすらと青みを帯びており、非物理的に背景を透過している。

 吹羽はそれを、ばら撒くように前方へ投げつけた。

 

「はっ、そんなもの弾幕の前じゃ――ッ!?」

 

 紡ぎかけた言葉を、文は驚愕によって詰まらせた。

 無数の弾丸からなる弾幕に、たった数枚の小さな手裏剣。物量的にどう考えても手数の足りないそれは、本来ならば文の弾幕に穿ち砕かれて終わるはずだった――が。

 

 文は駆けていた足を急激に踏ん張り、弾幕を超え(・・・・・)て来た手裏剣を大袈裟に避けてみせた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 驚愕と困惑に思考を止めた――止めざるを得なかった文の下に、“風車”で弾幕を掻い潜った吹羽が駆け込む。

 下段に構えた二振りの小太刀が、陽の光を受けて銀色に閃いた。

 

「『太刀風(たちかぜ)』――!」

 

 飛び退いた文は未だ中空。そして吹羽が振るうのは刃渡り一尺程度の小太刀。どう考えても届かないその斬撃に、しかし文は底知れない危機感を覚えた。

 絶対にこれをまともに受けてはいけない、と文の生存本能がけたたましい警鐘を掻き鳴らす。

 身を翻して避けることは叶わないと悟った文は、風の塊を吹羽へと叩き付けるべく反射的に両手を突き出した。

 

 結果的に――その判断は正しかった。

 

 咄嗟に生み出した風塊と吹羽の小太刀が衝突した瞬間、風塊は亀裂でも入ったかのように綻ぶと圧縮された大気が吹き出して爆発した。

 吹羽は足を地面に付けていた為に踏ん張ることができたが、中空の文はそうもいかず吹き飛ばされる。

 受け身を取って流れるように立ち上がるが――その表情は、両腕に走る切り傷(・・・・・・・・)の痛みに歪んでいた。

 

「……なるほど。それが、あんたの風紋って訳……っ」

「御名答です。風車も太刀風も、同じ風紋が刻んであります」

「どうりで……触れてもいない弾丸が、真っ二つになる訳だわ……!」

 

 吹羽の回答に、文は憎々しげな表情で呟く。

 その脳裏には、先程目の当たりにしたあり得ない現象が映し出されていた。

 弾幕の壁が、たった数枚の手裏剣に貫通される――否、手裏剣に触れるより前に切断されていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

「この“太刀風”は、振るう瞬間に風を刀身で収束して斬撃範囲を拡張できます。風車も同じです。そしてその最高距離は――約二間半(約五メートル)

 

 同じ紋が刻まれた“風車”も、回転によって十分な風を受け実質的に何倍にも巨大化することが出来る。当然“太刀風”程の拡張ができる訳ではないが、それは弾幕を切り抜けるには数枚で事足りる程の大きさと斬れ味である。

 そして文にとって何より厄介な性質が――、

 

「そして、防ぐことが出来ない(・・・・・・・・・)……かしら」

「……その通りです」

 

 風塊を衝突させて避けたはずの文に付いた、両腕の傷。これは爆風によるものでは断じてない。そも至近距離の爆風によっては切り傷ではなく、裂傷が残るはずなのだ。

 これは爆風ではなく――避けたはずの、刀による傷である。

 

「収束した風の刃というのは、例え中間部分を消し飛ばされても先端部分は一瞬だけ残ります。文さんが受けたのは、その先端部分の斬撃です」

「………………そう」

 

 つまり、接触する瞬間に大質量によって約二間半に及ぶ刀身を全て消し飛ばさなければ、一方的に斬撃を喰らう……という事。もう少し動くのが遅ければ、更に深い傷を負わされた事だろう。

 厄介だな――と文は、苦痛とはまた違った形で表情を歪めた。

 

 小太刀の重さで大太刀以上の反則的な斬撃範囲(リーチ)を持ち、半端な受けは許されないというハンデを強制的に負わせ、例え風の刀身を消し飛ばせても次の一瞬には回復し、挙げ句の果てに風紋武器による遠距離攻撃まで持ち合わせる。そしてそれらが比較的軽い小太刀二振りによって凄まじい速度で襲い来るのだ。吹羽のスタイルを言い表すならば、“受け太刀不可の大太刀二刀流”というのが相応しい。

 

 それに――文は見抜いていた。

 

 あの翡翠色の瞳。戦闘の最中忙しなく動いていたあの眼。凪紗の――圧倒的なまでの観察眼に、よく似た瞳。

 

「……気が付きました?」

「……ええ。……あんた、人間の癖に能力持ち(・・・・)だったのね」

 

 “能力”――主に中級妖怪以上が持つことの多い特殊な力。

 椛であれば『千里先を見通す程度の能力』、文であれば『風を操る程度の能力』、かの妖怪の賢者は『境界を操る程度の能力』を有すると言われる。

 人間にもごく稀にそれを持って産まれる者がおり、その例としては霊夢の『空を飛ぶ程度の能力』、後天的に発現した例であれば魔理沙の『魔法を使う程度の能力』である。

 吹羽のそれは――前者。先天的に持って生まれた能力。その名を、

 

「『ありとあらゆるものを観測する程度の能力』――鈴結眼(すずゆみのめ)と、呼ばれるものです」

 

 鈴結眼――それは風成家の歴史上に現れる、常軌の逸したレベルの観察眼の別名。

 当然個人差はあるが、吹羽のそれはこの世のあらゆる事象や、本来は見えないものすらも視界に捉え、測る事が出来る。飛び交う弾幕は勿論、筋肉の機微から雲の流れによる天候の予測まで、全力で用いれば未来予知に匹敵する洞察力を誇る代物。無理をすれば赤外線などの不可視光線まで観測することが可能である。吹羽の動体視力が異常に高いのもこの能力の恩恵であり、風紋の彫刻に長けるのはこの能力に依る部分もある。

 そしてこの能力を行使する際は、瞳が光を帯びた(・・・・・・・)ように輝く(・・・・・)

 

 吹羽を相手には、どれほど複雑な弾幕も密度の濃さも意味を成さないのだ。何故なら、全てを観て測っているが故にその行動自体を読まれているから。瞬時に弱点を見極められるから。

 ただ、長時間の全力使用は脳に負担が掛かり過ぎて吹羽が耐えられないので、今の吹羽が観測できるのはせいぜい“弾丸の一つ一つ”程度であり、未来予知染みた洞察力はない。

 それでもただの人間――それも幼い少女が持つには大き過ぎる力である。

 

「…………そう」

 

 ぽつりと呟く文の脳裏に、浮かび上がるものは一つだけだった。それは吹羽の能力への驚嘆などでは決してなく――膨れ上がった嫌悪感(・・・)

 だって、凪紗によく似た眼を持つ風成一族だというのなら、辿り着く答えは一つだけ。

 

 吹羽は、凪紗の“先祖返り(隔世遺伝)”なのだ――と。

 

 文の中に、再び憎悪が膨れ上がる。先程まで感じていた怒りや嫌悪など比較にならないくらいの憎悪が、文の身の内で荒れ狂う竜巻の如く渦巻いていた。

 吹羽と文の間にある関係は、正しく因縁だったのだ。

 恐らく彼女はこのことを知らないのだろう。自分が誰の先祖返りかなんて普通は知っている訳がないのだから。しかし、これが数百年前に生まれた因縁。その終止符が、今ここで打たれるべくして打たれようとしているのだ。

 憎悪の中に、ぽつりと底無しに暗い歓喜が浮き上がる。自然と、赤い唇が僅かに歪んだ。

 

「ここからです、文さん。文さんの“殺す気”はこんなものじゃないはずです。さっきまでの方が……よっぽど怖かったです」

「……言ってなさいよ……クソガキがッ!!」

 

 会話中に腕の治癒を済ませた文は、鋭い犬牙を覗かせて吐き散らした。再び悠然と佇む吹羽目掛けて無数の弾幕を放つ。しかし今度は先ほどのような単純なものではない。彼女を甚振る時に使ったような、風の刃を多量に封じ込めた――言わば“風刃の砲弾”。

 食らえば当然ズタズタに切り裂かれるそれは、例え“太刀風”を用いて相殺しても刃が飛び散る。

 

 尋常ではない殺気の込められたそれらが壁の如く迫る中、吹羽は滑らかに吊るされた棒状の細い金属を撫でた。

 

「……『疾風(はやて)』」

 

 宣言と共に現れた大量の釘を掴むと、吹羽はそれを無造作に放り投げた。

 投げられた釘それぞれは僅かずつに風を受け、それが刻まれた風紋を撫でていくと――釘は落ちることなく、加速した(・・・・)

 ひゅうと飛んだ釘たちは加速によって更に強く風を受け、その等加速度運動によって際限なく速度と貫通力を上昇させ続ける。まるで重力を真横から受けたように掛け算式に加速する釘たちは、吹羽の手元から離れた瞬間に散弾銃の如く鋭く撒き散り、襲い来る砲弾すらも正確に芯を穿ち炸裂させて尚飛び荒ぶ。

 

 いち早くその威力を察知し、そして確実に自分自身も狙っているだろうと確信した文は、瞬時に自分の周囲に風を渦巻かせて地を蹴った。

 風紋は風を受けてこそ力を発揮する。それは吹羽の情報を精査する前から知っていたことだ。ならば触れるより前に風を乱してしまえば威力は抑えられる。これでもあの“太刀風”を受ける事は出来ないだろうが、吹羽の弾の威力を削るくらいはできるはずだ。

 

 文はなるべく弾に当たらないよう注意を払いながら、しかし実に大胆に、懐から羽団扇を取り出して吹羽の下へと駆ける。勿論、風を使っての超低空飛行である。

 

「もう見切ったわッ!」

「そう、ですかっ!」

 

 潜り込もうとする文を前に、吹羽は多少驚きを露わにしながらも斬撃による迎撃を始めた。

 文が潜り込むより前に“太刀風”の反則的な斬撃範囲による中距離戦を仕掛けるが、文の華麗な身のこなしは双刀の連撃でも捉え難く、二、三度の斬撃の後に懐へと侵入を許してしまう。

 

 そうして文が振るうのは、羽団扇。

 下から跳ね上げるように振るわれるそれは、天狗族が風を操る際に扱うれっきとした武器である。

 羽団扇は風紋武器のように振るう瞬間に風を圧縮すると、その強烈な衝撃波を至近距離で打ち出す――が、

 

「――来ましたね」

 

 呟くような一言が、文の耳を撫でていく。それに不信を覚えた時にはもう遅かった。

 どういう原理か、吹羽が文の目の前から一瞬で姿を消すと、次いで、いつの間に放られていたのか上空から雨のように“疾風”が降り注いだ。

 

 してやられた、と思う暇もなく、羽団扇による迎撃と纏った風による防御を行うも、相当な加速度がついていたのか幾本もの“疾風”が文の防御を貫き、その華奢な身体に衝撃を齎す。

 血は出ない。そも吹羽の僅かな霊力によって生成されるこれは、霊夢直伝の簡素な結界術の一つであり、小さな霊力の塊である。まさしく“弾”。とてつもない衝撃を伴いはするが妖怪の肌を貫けるものではないのだ。

 しかし、それによって動揺した文は、致命的な隙を晒すことになる。

 

「背中が――」

 

 耳を撫ぜる声に咄嗟に振り向けば、そこには薄っすらと青みがかった刀を構えた、吹羽の姿が。

 

「お留守ですッ!!」

「ッ!!」

 

 刹那、吹羽の斬り上げと文の羽団扇が衝突する。

 互いに強力な風を纏った一撃であるそれらは、ただ競り合うだけとは思えない程の暴風を周囲に撒き散らして鎬を削る。

 木々をへし折る勢いで吹き荒び、ともすれば竜巻にさえ匹敵しそうな威力の暴風は、恐らく周囲の木々の隙間で鎌鼬をいくつも生み出し多くの木々を切り刻んでいる事だろう。

 

 ――しかし、流れる風を須らく力に変えるのが風紋の能力。曰くこの歳で“次階”に到達した吹羽(天才)の風紋は、その暴風でさえ力に変えて更に文を押し込んでいく。

 吹羽が振るう太刀――“韋駄天(いだてん)”はそういう風紋武器だ。

 これは風紋に流れた風を推進力に変える力を持つ。それは吹羽の体重ならば容易に体を浮かせてしまえる程で、一度振るえば凄まじい速度で体ごと宙を駆けることができ、非力な者でも木々を切断するくらいのことはできてしまえる威力を持つ。勿論これは実物(・・)であった場合だが。

 

 咄嗟の防御で耐え切れるほど吹羽の風紋武器は甘くない。そして非常に力の入れにくい部分を狙って吹羽の斬撃は放たれている。一瞬の拮抗の後、文は遂に羽団扇を弾かれて“韋駄天”の刀身を脇腹に食い込ませた。

 

「やぁぁああッ!」

「ぐっ、ぅう――っ!」

 

 爆発的な推進力によって振り抜かれた“韋駄天”は、文の身体をくの字に折って吹き飛ばす。受け太刀からしてあまり良い体勢を取れなかった文は成す術なく木に打ち付けられ、僅かに血を吐き出した。

 ――が、そこで止まっている暇はない。

 何故なら、警戒して上げた視線の先で、吹羽が既に腕を振り被っていたから。

 

「『飛天(ひてん)』ッ!」

 

 投げ放たれた杭は、その周囲に暴風を巻き起こして飛ぶ。一本の杭が巻き起こせるとは簡単には思えないほど巨大且つ強力な横殴りの暴風が、まるで竜巻を横倒しにしたようにして迫り来る。

 地を抉り、大気を引き千切って飛ぶそれは、たった一本の杭が巻き起こしているにも関わらず最早“砲撃”と言って差し支えない程の破壊と圧力を放っていた。

 

 文は再び咄嗟の回避を余儀なくされる。予想外の奇襲によって吹き飛ばされた挙句に追撃がこれ程強力であれば、僅かにも思考する暇はなかった。自然、体は使い慣れた動き――風を纏っての加速を反射的に行使する。

 しかし、それでも迫り来るのは砲撃だ。故に反応が遅過ぎた。

 纏った風によって大した力を入れることなくその場から飛び退くが、完全には避けられず、文の右足が砲撃に巻き込まれた。揉みくちゃにされた大気が足の皮膚を千切り飛ばし、容赦なくあらぬ方向へと折り曲げようと万力のような力を加える。みしり、という嫌な音が妙にクリアに聞こえた。

 

 一瞬の事だったとはいえ、圧倒的な力に巻き込まれた文の脚は瞬時に血に塗れ、骨すらも複雑に折れ曲がった。

 激痛と“飛天”の威力に体勢を保てなくなった文は、受け身すら取ることができずに無様に地面を転がる。

 その表情は、怒りや焦燥、苛つきなど加えて脂汗が吹き出し、凄絶に歪んでいた。

 

「ぐっ、ぅうぅうううう……ッ!」

「………………」

 

 苦悶の声を押し殺し、それでもなお漏れ出る唸声。完全に無防備となった文に対して、しかし吹羽は追撃するでもなく――ただジッと、真剣な瞳で見つめていた。

 

「っ、なに、惚けてんのよ……! 絶好の、チャンスでしょ……っ!」

 

 怒りでもなく、哀れみでもなく、ただ強く真摯な瞳を向ける吹羽に、文は堪らず悪態付いた。

 足を負傷し、未だ動けない敵を前に見つめるだけなんて、戦闘中であれば普通あり得ないことだ。

 まるで見下されているようで。いつでも殺せるのだと言外に示されているようで。

 吹羽に対して深淵のような殺意と憎悪を煮え滾らせる文にとっては、その行動はあまりにも不愉快だった。

 

 しかし、見つめる瞳は揺らがない。

 

「いいえ、初めに言いました。ボクがするのは弾幕ごっこです。文さんを殺す気も、況して殺される気もありません」

「意味が、分かんないわよ……っ! 一体何がしたいのっ!? 私に! 何をさせたいのッ!」

「………………」

 

 ――無言。

 そして荒んだ文の心は、それを吹羽の本心とは全く異なって、醜く捻くれた解釈を始める。

 

「……あぁ、分かったわ。今度は逆に私を痛め付けたかったってわけ。そりゃそうよね、あんだけ嬲ればやり返したくもなるわ。だから私には殺す気で戦わせるくせに、自分は弾幕ごっこなんてしようとしてるんだ? 幾ら当てても傷にはならないから……死にはしないから……ッ!」

 

 当然の報いだと。少なくともその権利は確かにあるんだろうと。

 全てを諦めようとして、それでも今戦わされている文は、その理由に無理矢理に――そして最も合理的な回答へと辿り着く。

 最早自分などもうどうなってもいい気がして、ならば嬲った分だけ仕返しされるのも仕方がない。どうせもう終わる(・・・)んだから、それまでに何されたって構やしない。

 

「どうせ最後には殺すんでしょう? 弾は霊力で出来ていても風はちゃあんと私を切り刻めるものねぇ? どう? 自慢の風紋で私の足をぐちゃぐちゃにした気分は? きっと最高に気持ちいいのでしょうねぇッ!?」

 

 まるで意識と体が離れてしまったかのように、一人でに唇が動いて罵声を放つ。心の内に溢れ出て燻り絡まり合うそれらを、一つずつ紐解き吐き出すように。

 

 文は、最早何も考えることが出来なくなっていた。――否、考えることをを放棄してすらいた。

 あらゆる負の感情を押し留めて幾星霜、遂に始めた復讐を他の介入によって粉砕され、同じ境遇のはずの吹羽と自分の違いを見せつけられ、遂に心が折れてしまっていたのだ。

 

 ああ強いとも。

 数えられる程度の年数しか生きていない癖して。

 支えてくれる人に恵まれている癖して。

 風成の憎っくき仇の癖して。

 それよりも確実に辛く険しい道を孤高に歩んできた文を今、吹羽は圧倒している。強力な能力に恵まれ、その才能を遺憾なく発揮し、己の刻んだ紋で文を追い詰めている。

 精神的にも戦闘力的にも、きっと吹羽は文よりずっと強い。

 

 ――もう十分だろう?

 

 足の怪我以上に心が崩折れてしまった文は、罵詈雑言を吐き出す口とは別に、内心で懇願するように泣き喚いていた。

 

 ――これ以上苦しみたくない。

 

 それは子供が駄々をこねるようでもあって。

 

 ――一思いに殺してよ。

 

 感情に圧殺され、何もかもから目を逸らして、全て終わりにしたいと願う様は奇しくも彼女の忌避する人間の、一部の者の行動に、よく似ていた。

 

 だが、そこで吹羽の言葉が想いを阻む。

 自分は弾幕ごっこをする――と、それは疲弊して死を望み始めた文にとっては、正しく絶望の一言。

 痛みを以って嬲り続けるという宣言に等しいそれに、文は奥歯を噛み砕いた。

 

 そんな文に、かけられた言葉は。

 

 

 

「……それで全部ですか」

 

 

 

 ――たったそれだけの、無関心。

 

「………………は……?」

「言いたいことは、それで全部なんですか」

「な、に……言って――……?」

 

 まるで響いていない、若しくはその言葉に何の価値も見出していないかのようなその言葉に、文は一瞬で表情が抜け落ちた。

 向けられる翡翠の瞳。そこにあるのは文に対する真剣な眼差し。されど言葉には抗議反論棘すらもなく、ただ凪いだ水面を体現するかのような静観とした無関心が篭っている。

 怒りを通り越して、文の脳内には困惑が満ち満ちていた。だって、人の絶望を目の当たりにして何も感じないなんて。

 何をしたいのか分からない。何をさせたいのか分からない。吹羽の全てが、何もかもが分からない。

 

 そうして溢れ過ぎた困惑は、今度は荒れ狂う殺意となって噴火した。

 今、吹羽は文を見てすらいないのだと沸騰する脳が不気味なほど自然に理解する。自分たちが堕とした、絶望に打ちひしがれ心で涙する者を前にしても、そこに無関心以外の何も感じることなくただ平然と児戯のように軽くあしらう。

 吹羽の態度にそう理解を示した文が、酷く冷たくあらゆるものを否定するかのような殺意を漲らせるのも当然のことだろう。

 

 果てしない疑念、絶望、困惑は、吹羽を前にして絶対否定の殺意へと昇華したのだ。

 

 その身の内に燻る何もかもを混ぜて煮詰めて、吐き出すように。

 

「――……ころしてやる」

 

 ぽつりと一つ呪詛を零し、文はゆらりと幽鬼のように立ち上がった。会話の内に治療した足は、治しきれなかったのか未だに血が滴っているが、今の文はその程度の些事を気にはしない。

 身の内で暴れ回る殺意が徐々に溢れ出し、文の周囲で濃密な妖力となって燻る。文が言葉を一つ一つ、譫言のように呟くたび、それはまるで鼓動のようにどくんどくんと震えていた。

 

「ころしてやる……ころしてやる……ころしてやる……ころしてやる――……」

「…………それでいいんです。そうやって、全部吐き出すんです。……全部、ボクに向けて」

「――……ぅぅうあああアアアッ!!」

 

 天に轟く程の咆哮。それを切っ掛けとして再び始まった風の応酬は苛烈を極め、互いに一歩も引かない闘争へと進化していった。

 文の風が、大気を巻き込み空間を駆けて、周囲の木々すら穿ち倒して暴虐の限りを尽くす。まるで文を中心に大竜巻が起こったかのように暴れまわる様は、傍から見れば、最早凄惨(・・)ですらあった。

 吹羽の風は冷静さの極みにあり、文とは対照的にどこまでも正確に、無駄なく行使されている。

 時に“太刀風”で鋭利に切断し、時に“疾風”で穿ち貫き“韋駄天”で宙を駆け、光の灯ったその瞳は静かな中に確かな強かさを秘めて冷静に戦況を見通す。どこまでも(わざ)を極めた動きで風を操る様は、やはり“風の一族”と呼ばれるに相応しい。

 暴力的な力と清透な業。対称的な二つはまさに、二人の心の有り様をそのまま示していた。

 溢れ出るままに、本能に従って、身体は己の風を操る。

 

「なんで……なんでよっ!」

 

 圧縮した風を無数に創造し、流星のようにして地を駆る吹羽へと放つ。一撃一撃が大木を消し飛ばし岩盤を捲る威力を持つそれは、文の殺意が十二分に込められた致死性の砲弾だ。

 

「なんで、ころせないのよ!」

「――っ!」

 

 向かい来る砲弾を的確に捉え、“太刀風”で切り裂いては“韋駄天”で回避する。“風車”で砲弾に傷を付ければたちまち圧縮した風が暴発し、周囲の砲弾ごと巻き込んで消滅する。

 吹羽は腰に差した小刀を三振りとも指の間に掴むと、抜刀と同時に振り抜いた。

 “鎌鼬(かまいたち)”――その名の通り、風の刃を飛ばす風紋武器である。

 

「私の方が、ずっと苦しんできたのにッ! ずっと憎しみで生きてきたのにッ!!」

 

 飛来した刃を無理矢理裏拳で打ち払うと、腕に切り傷が走った。ピッと血が飛び散るも、文は寸分だって気には留めずに羽団扇を振り上げた。

 込められた妖力に応答して膨大な風が収束し、嵐を丸く押し固めたかのような砲弾を形作る。最早目に見えて荒れ狂う暴威の弾頭を、文はなんの躊躇いもなく打ち下ろした。

 全ては憎っくき風成を――否、吹羽を(・・・)抹殺するため。

 

「あんたが憎かった! 殺してやりたいってずっと思ってたッ! 私にないもの全部持ってるあんたが、私は憎くてたまらないッ!!」

 

 迫り来る大質量の嵐に、渾身の力で放たれた“飛天”が突き刺さる。

 互いに強力な推進力を誇る二つの風は、周囲の何もかもを千切り飛ばす勢いで暴風と轟音を天に響かせ、大気をすら振動させて拮抗した。

 

「私と何が違うのッ!? どうしてあんたは幸福なのッ!! なんであんな笑顔が、できるのよォッ!!」

 

 全てを圧殺せんとする嵐の塊の背後から、文は駄目押しとばかりに風の砲弾を放つ。

 全ての力を、言葉を、想いを、身の内に渦巻く何もかもを爆発させてなお止まらない。己の全てを絞り出すかのように叩き付けられる風は果たして――吹羽の“飛天”を、遂に打ち砕いた。

 

「ぁぁああああアアアアアアッ!!!」

 

 凄絶な雄叫びを上げながら、文は烈風を纏って吹羽に肉薄する。

 上空から嵐の塊が迫る中、文が駆け込めば吹羽に逃げ道は無いに等しい。

 羽団扇を引き構えて、ありったけの怨嗟と鋭利な風の刃を込めて、文は吹羽を一閃で亡き者にするべく地を疾駆した。

 

 そして、全てを斬り伏せる一撃を振り上げたその刹那――低く構えた吹羽の手にあったのは、刃の潰された青い大太刀。

 

「――『大嵐(おおあらし)』ッ!!」

 

 瞬間、あらゆるものを吹き砕く(・・・・)衝撃波が文を襲った。

 たった一振りの大太刀を振り抜いただけにも関わらず、その名に納得してしまう程無慈悲な瞬間的風の衝撃波が、吹羽の前方にあった全てのものを蹂躙する。

 木々はへし折れ、地を抉り取り、圧倒的質量で迫り来る巨大な嵐の塊さえも真っ向から粉砕し、肉薄した文を容赦なく吹き飛ばした。

 まさか真正面から挑んでくるとは思わず、文は無防備に晒した体に、鉄壁に叩きつけられたような衝撃を諸に受ける。そのまま圧倒的な風圧に抵抗出来ず、背中を後方の木に厳かに打ち付けた。

 

「が――ッ!?」

 

 衝突した反動で体が前へと跳ね返る。全身を侵食する痛みにどうにか耐えながら姿勢を戻そうとすると――視界に映ったのは、“韋駄天”で懐へと潜り込んできた吹羽の姿。

 

「『(ぜっ)――」

 

 そのまま勢いに乗せて“韋駄天”で切り上げられ、文は強烈なカチ上げによって宙へと放り出された。

 度重なる衝撃で、身体は上手く動かせない。

 

(くう)――」

 

 宙に舞った文の体に、次々と衝撃が走る。

 “疾風”が凄まじい速度で飛来し、ただの一つだって外さずに体の節々へと強烈なダメージを与えていく。合間に放たれた“風車”は、同じく合間に放たれる“鎌鼬”と共に文の柔肌を薄く、しかし無数に切り刻んでいき、最後には“飛天”の生み出す暴風の砲撃によってさらに高く打ち上げられた。

 

(らん)――」

 

 嵐のような連撃の最後、朧げに捉えた視界には“韋駄天”で駆け上がって来た吹羽の姿が。

 一瞬で持ち替えた“大嵐”を振り被った吹羽は、すぐさま刀身自体を叩き付けるようにして風の衝撃波を振り下ろした。文字通り、文は糸切れのように地面の方へと吹き飛ばさる。

 

「――()』ッ!」

 

 吹き飛ぶ文を、吹羽は再度“韋駄天”によって追撃する。片手にそれを、もう片手には指の間に咥えた二振りの“太刀風”を。

 “韋駄天”の推進力を使って肉薄した吹羽は、高速で回転しながら文を斬り抜く。“太刀風”で浅く斬り、“韋駄天”で地面に叩き落としながら、吹羽は膝を着くようにして着地した。

 

 “絶空乱舞(ぜっくうらんぶ)”――吹羽の用いる全ての風紋武器で怒涛の連撃を放つ彼女唯一の剣技。

 本当ならば“風車”は直に当てるべきだし“太刀風”は叩ッ斬るつもりで振るうべきなのだが、弾幕ごっこ故に吹羽は鈴結眼で正確に浅く斬った(・・・・・・・・)のだった。

 

 吹羽は肩で息をしながら全ての武器を納刀する。

 そして先程までの輝きを消した瞳で振り返ると――土煙の中、仰向けに倒れ臥す文の姿を捉え、

 

「……分かりますか、文さん」

「……何が、よ……!」

 

 身体中を傷付けて倒れ臥す文の姿は、やはり痛ましい。しかし内面にはそれほどダメージが響いていないからか、その声には見た目に見合うような苦痛は含まれていなかった。

 

「分かんないわよ……何がしたいの……っ!? 何にも、変わんないじゃない……!」

 

 その代わりに含まれていたのは――疑念と困惑。

 吹羽の行動の意図が、文には始終分からないままなのだ。殺意を向けても“殺さない”の一点張り、嬲りたいだけなのかと言えば違うという。そう言いながらも結局はこうして文を下し、勝者として立っている。

 全く訳が分からない。憎いという以上に理解が出来ないその振る舞いに、文の中には恐怖すら芽生えてきていた。

 

「……っ、じゃあ、文さん――……」

 

 そうして目の端に涙を浮かべる文の側へと、吹羽はゆっくり歩み寄ってきて、

 

 

 

ボクを(・・・)刺してみてください(・・・・・・・・・)

 

 

 

 文の手に、優しく“太刀風”を握らせた。

 

「………………は?」

 

 純粋な困惑に満ちた声がぽつりと溢れる。あまりに突拍子のない言葉に、文は一瞬息をすることさえ忘れていた。

 そして彼女の視界の外からも、困惑と焦燥の混じった声が響いてくる。

 

「ちょ、吹羽っ!? あんた何言って――」

「…………………」

 

 思わず声を荒げる霊夢に、吹羽は「手を出すな」とばかりの視線を向けた。その真剣さと覚悟を悟ったからか、霊夢は心底不満そうながらも押し黙った。

 それを確認した吹羽は、文の手をきゅっと少しだけ強く握って、その瞳を覗き込む。

 

「ほら、文さん。ボクのここに向けて、突き出すだけでいいんです」

「なに……言ってるの? なんで自分から、こんな……」

 

 頂点に達した困惑は、絞り出す文の声を無意識の内に震わせていた。

 その瞳に映っているのは最早怒りや憎しみすら超越した不理解への恐怖のみである。

 人間は生に縋るものだ。例え醜くとも手放すまいと、必死に足掻くものだ。それを自ら手放すなど、自然の摂理に反してすらいる。

 自分の事を棚上げしているのは分かっていた。だが、それを気にできない程の困惑が文の中には満ち溢れていた。

 二の句を継げない文に対して、吹羽はほうと一つ息を吐くと、

 

「――文さん。ボク、文さんを追いかけてる時決めたことがあるんです」

 

 追いかけている時――文の本性を知るより前。しかしそこで決めた事は、こうして文と苛烈な触れ合いをする中でも生き続けていた。

 ――否、揺らぎはしたものの、“そんな事関係ないじゃないか”と結論付けた事だった。

 

「文さんの手がボクから離れた時、実はものすごく焦ってたんです。無遠慮なことを訊いちゃった、酷いことを言っちゃった、って」

 

 文の口調から、あの時の話が決して英雄譚などではないのは何処かで分かっていたはずだった。故に自ずと、結末がどうなっているのかも自然と悟れていた筈だった。

 

「だから、“文さんを一人にしたらいけない”って、思ったんです」

「なんでよ……。たったそれだけの理由なら、ここまでする必要ないでしょう……?」

「……確かに、それだけの理由で“自分を刺せ”なんて言えません。そんな度胸、ボクにはありませんから」

「じゃあ……なんで……」

「ボクが傷付けたことに変わりはないから、です」

 

 言い聞かせるように、強い声音で。

 

「ボクが生きてる事が……許せなかったんですよね。自分はずっと辛い思いをしてきたのに、なんで風成が幸せそうに生きてるんだ、って。知らず知らずのうちに……ボクはそうして、文さんを傷付けてた」

「………………」

「“それだけの理由”じゃないんです。虐められて、確かに文さんが怖くなりました。でもそれはボクが気が付かない内に傷付けてたからで……だから、改めて考えたんです。ボクが文さんを傷付けちゃったのは事実で、文さんが悲しんでるのもまた事実で……それなら、決めたことを変える必要なんて、ないじゃないか、って」

 

 一つ一つ確かめるように言葉にして、吹羽は最後に、決意を口にする。

 

「ボクの所為で傷付いて、悲しんでるなら、ボクが助けてあげなきゃいけないって思ったんです。だから全部……全部全部、思ってる事悩んでる事、吐き出して欲しかったんです」

 

 ――言葉にすると、自分の心に整理がつく。苦悩や苛つきは、溜め込んでしまうからこそ身体に悪いのだ。思考が気付かぬ間にマイナスな方へと流されていき、それが積み重なると人は歪んでいく。

 ――まさに、文がそうだ。幾百年と積み重ねた憎悪や怨念が、吐き出されないまま心の中で渦巻いていた為に、思考がどんどんと歪み壊れて、破綻していったのだ。

 

 自分が思っていること。望んでいること。悩んでいること――兎に角、心の中に燻っているもの。

 例え言葉として出てこなくとも、思ったことを口にするだけでも本人には己の心のありようは見えてくるのだ。

 文の場合は……吹羽が憎い。同じ境遇の筈なのに、何故自分はこんなにも辛いのか。――要は、吹羽へ抱いた苛烈なまでの嫉妬なのだ。それが、憎悪に繋がったのだ。

 

「文さん。ボクは、文さんに伝えたい事(・・・・・)があります。でもそれは、言葉で言ったってきっと伝わらない……だから、こうするんです」

 

 そう言って、文に握らせた“太刀風”の鋒を自分の腹へと向ける吹羽。その瞳にあるのは決意と覚悟と優しさと、自分が望むこととは言え、刺されることへの恐怖だった。

 

「……わけ、わかんない……」

 

 凡そ少女が出来るとは思えない考え方を語る吹羽に、文はぽつりと言葉を零す。

 文は迷っていた。きっと少し前の自分なら迷わず刺していただろうが、こうして吹羽に負け、心折れて全てを諦めようとしていた今の文にはそこまでの殺意は最早ない。

 無論憎悪はある。心の底に深く根付いたそこからふつふつと黒い思考が脳裏を過ぎりはするが、しかしやはり殺意と呼ぶにはどこか足りないのだ。

 

「(……でも、やってみれば、変わるかも……)」

 

 ふと握られた刀に目を落とす。

 光を反射して白銀に輝き、風に靡く(すすき)の如き流麗な紋が一際目立って見えた。その刃は刀匠の腕を物語るように滑らかで、きっとこれで一突きせば致命傷になることは確実だろう。

 

 ――これで、吹羽を刺せば、もしかしたら、彼女は死ぬかもしれない。

 

 それは殺意を剥き出しにしていた、心折れる前の文の望み。今は最早別人のように感じるそれでも、自分自身なのは確かだ。例え今は望んでいなくとも、刺してみれば、殺してみれば、吹羽が死んでみれば、何かこの心に変化があるかも知れないと、文はぼんやりと考える。

 

 数瞬の間を置いて――文は己の力で、刀を握り締める。

 そしてそのまま、吹羽の腹へと導かれるようにして突き出した。

 

「……ッ、く……ふ、ぅ……っ!」

 

 ずぶりと柔肌を裂いて進み、肉、内臓を深く抉り傷付け、血管の一つ一つがぷつぷつと切れていく感触が手に伝わってくる。

 溢れてきた鮮やかな紅色が服の白地に滲み出し、遂には刃を伝って文の手を濡らし始めた。

 ぬるりとして、生暖かくて、鉄臭い。それは紛うことなき命の香り。今まさに身体の中から溢れては消えていく、吹羽の命そのものだ。

 

「は、はは――……」

 

 吹羽の命が消えていく。目の前で、文の手で、苦悶の表情を浮かべながら涙を浮かべながら、吹羽の命の灯火が、今ゆっくりと消えていく。

 それは文が望み焦がれたことだった。被害者を差し置いて幸せに暮らす加害者が羨ましくて妬ましくて、ひたすらに憎かった。そして本気で挑んでも殺せなかった加害者が、今こんなにも呆気なく、そして自分の手で、ゆっくりと死に絶えようとしているのだ。

 あれ程まで望んだ結末が、今目の前にある。

 

 ――だというのに(・・・・・・)

 

「は、は……なん、で……」

 

 その様を呆然と見つめる文が零したのは、歓喜でも愉悦でもなかった。

 その表情には自分自身への(・・・・・・)困惑が満ちており、不用意に触れてしまえば途端に崩れ去ってしまうような儚さがあった。

 かたかたと震える手が、怯えるように柄を手放す。

 

「なんで、わたしは、なにも……なにもかんじない(・・・・・・・・)の……?」

 

 仇を傷付ける事の快楽も、憎悪を晴らす清々しさも、自らの手で人を殺める哀しさも――成し遂げればきっと押し寄せてくるだろうと思っていたあらゆる感情が、しかし細波程にも溢れてこない。

 鉄塊のように冷たく固くなった心は微動だにせず、感じるのは途方もない空虚感と本当に僅かな達成感だけだった。

 

 もっと嬉しいものだと思っていた。打ち取った仇の死体を足蹴にして狂気的に高笑いを上げられる程度には気持ち良くて、身体の内側を歓喜で満たされるように幸福な心地になれるものだと。

 しかし、そんな事はなかった。むしろ想像の真反対。考え得る限りの最悪な気分。

 数百年掛けて成し遂げた復讐に何も感じないなんて……それじゃあ、今までの苦悩はなんだったんだ? と。

 

「わかり、ますか……文さん……?」

「――ッ!?」

 

 不意に感じた頰の熱に、文はびくりと身体を震わせる。

 それは、吹羽の小さな手。痛みに耐え小刻みに震えるその暖かな手が、文の頰を包んでいた。

 

「自分が空っぽになったみたいに……すごく、寒くて、寂しい……ですよね」

 

 心の内を見透かすように放たれる言葉。

 “知っている”とばかりの確信に溢れた言葉に、しかし文は何一つ反論できない。

 今あるのは、果てしない空虚感。それはまさに自分が空っぽになってしまったように錯覚するほどで、そこに吹く隙間風は酷く冷たくて、どんどん心が冷えていくようで。故に、ふと自分を抱き締めて縮こまりたくなるこの気持ちは、確かに寂寞感なのだろう。

 

 震える文の瞳を見つめ返して、吹羽は悲痛そうな微笑みで言う。

 

「それは、文さんが……本当はちゃんと、分かって(・・・・)いる(・・)から、なんですよ」

「え……?」

「だって、ボクを殺そうと、する直前……すごく、悲しそうな顔……してました。……分かってる、筈なんです……それが、認められない、だけなんです……っ」

 

 辛い事なのだと分かっている。でもそれは、どうしたって向き合わなければならない――一生背負っていかなくてはならないこと。

 吹羽は途切れ途切れに、しかし必死になって言葉を紡ぐ。

 その言葉に――文の瞳が、動揺に揺れた。

 

 

 

「ボク達の大切なものは……もう、どうしたって帰ってこないんです……っ! 家族も、思い出も、ボク達じゃあもう……どうしようもないんですよ……っ!」

 

 

 

「――ッ!!」

 

 文の家族は、吹羽が築いてきた思い出は、例え二人がどんなに想いを募らせようとも、足掻こうとも、もう手に触れることすらできない程遠くにある。

 “過去”とは、“不変の事実”の別名である。“未来”でどんなに思い焦がれても変えることはできない、過ぎ去ってしまった出来事なのだ。

 そうした“未来”に生きる吹羽と文は、例えそれがどんなに非情でも過去を受け入れるしか生きる道はない――否、受け入れられた(生きられた)のが吹羽であり、受け入れられなかった(生きられなかった)のが文なのだ。

 

 それを文はどこかで分かっている筈だ。

 どれだけ足掻いても取り戻せない苦しみが、悲しみが、受け入れられなかったからこそ思考の奥深くに沈め封じて、気が付かないふりをしているだけ。

 でなければ吹羽を虐めて爽快感を味わわない(・・・・・)訳がないし、あれほど純粋な悲哀の瞳などできるはずがないのだから。

 

 吹羽は、それを伝えたかった。

 氷牢の如く強固に封印したそれを解き放って、受け入れなければならないのだと文に分かって欲しかった。

 

 そして同じ境遇の存在として、手を取り合うことができれば――と。

 

「“同病相憐れむ”、という諺が……あります。ボクたちには、分かってくれるひとが……ひつようなんです……っ! ボクには、れいむさんとあきゅうさんが、いて……だか、ら、あやさんには……ぼく、が――……っ」

「ッ!! 吹羽ッ!?」

 

 言いかけて、吹羽は遂に耐え切れなくなりどさりと倒れ込んだ。すぐさま霊夢が駆け寄って抱き起すが、その背に触れた霊夢の手は止めどなく溢れる吹羽の血液で真っ赤に染まっていた。

 ぞわりと寒気を感じて腕の中の吹羽を見るも、焦点の合わない彼女の眼は、しかしぼんやりと文の方に向いていた。

 

「あ、や……さん……」

「っ、黙ってなさい吹羽ッ! 今治すから!」

 

 譫言のように文の名を呟く吹羽。青白くなった顔で、意識も朦朧としているだろうに、無意識に溢れる言葉が文の名であることは、やはり彼女のことを心から想っているからこそなのだろう。

 霊夢はその様子に少しだけ心をざわつかせながらも傷口に手を翳す。溢れ出た霊力は淡く光り、傷口を優しく包み込んだ。

 ――しかし。

 

「(っ、傷が……深過ぎる……ッ!)」

 

 刀は吹羽の腹から入り、背中側に突き抜けている。文字通り風穴が開いた状態だ。当然出血は非常に多く、刀を抜かずに蓋をしている今の状態でさえ止めどなく溢れ、霊夢の手と膝を真っ赤に染めている。

 霊夢の術は治療術でこそあれ、応急手当程の効力しかない。当然だ、霊夢は妖怪退治を生業とする巫女故に、治療に関しては素人に毛が生えた程度でしかない。間違っても貫通した刀傷を完全治癒できる訳がないのだ。

 出来るのは、せいぜい血の流出を少しでも止めて薄皮を繋ぐくらいだ。

 

「本当に……無茶するわね吹羽ッ! 全部終わったら覚悟しときなさいよ……!」

 

 悪態吐きながらも、霊夢は今できる最大限の治療を施していく。薄皮は繋げても内側の傷は治らない。故に内側での出血は止まらないのだ。無闇に動かすことはできず、かと言ってこのままでは確実に吹羽は死んでしまう。

 どうするどうするどうする――歯を食いしばって焦燥に駆られながら思考を超速回転させる霊夢は、横目でこの事態の原因となる文を憎々し気に睨んだ。

 

 ――文は、呆然として怯えるように震えていた。

 

「とりもど、せない……かえって、こない……っ、やだ……やだやだやだぁ――ッ!」

 

 受け入れられない事実だった。封印してまで目を逸らしていた事実が、今文に重くのしかかっているのだ。

 最早吹羽の事など頭にはない。まるで目を背け続けてきた過去を清算するかのように、押し寄せてきては何の容赦もなく思考を侵して、文の心をぎしり、みしりと押し潰す。

 

 そうだ、自分は吹羽を嬲って気持ちよくなりはしても、決してすっきりはしなかった。心にかかる靄が消えて無くなることはなかった。それはきっと、吹羽に復讐したところで何も解決しないのだと分かっていたからなんだ。

 吹羽の事が憎かった。自分とは違って幸せに暮らすあの子が、酷く羨ましくて、妬ましくて、憎たらしかった。でもそれ(幸福)は吹羽を殺したところで手に入るものではない。幾ら焦がれても、求めて手を伸ばしても、それ(・・)では指の間を抜け落ちるどころか触ることもできなくて、下から眺めていつまでも想い続けるしか文には出来ない。

 

 ただ、そうしているのも辛いから。

 劣等感で心を壊されそうだったから。

 ――文はそれからも目を背けようとして、“届かないなら壊してしまえ”と、吹羽への復讐に狂っていったのだ。

 それも、全て無意識の内に。

 

 事実から目を背け、乗り越える努力すらせずに、心に触れる邪魔なものを目障りだからと壊して喚く。

 それがどれほど無駄なことで、無意味なことなのか、気が付かないふりをして――。

 

 

 

「これで分かったろう、文」

 

 

 

 不意に響いたその声は、何処か諭すような声音で文の耳にするりと入ってきた。

 この場の誰のものでもない声。しかし文には、そして霊夢には、嫌でも聞き覚えのある声だった。

 その声の主へ――突如滲み出すように現れた伊吹 萃香へ、霊夢は平坦な声で言う。

 

「……何しに来たの、萃香」

「お前さんには関係ないさ。……ああ、だけどコレ使え」

 

 と、萃香の投げ渡した包みには丸薬が入っていた。訝し気に睨み返す霊夢に、

 

「わたしの妖力を極限まで絞って作った万能薬だ。疎めてあるから害はない」

「……あんた、なんでそんな事……? もう殆ど妖力残ってないじゃない――!」

 

 妖力も、霊力などと同じ生命エネルギーの一種である。それを枯渇する程に酷使するのは文字通り命を危機に晒す事に等しい。

 驚きと困惑を綯交ぜに、しかし表面上は訝しげな顔の霊夢に、萃香は少しだけ青白くなった顔で微笑む。

 

「風成の子を死なせないって、汲んだ(・・・)からさ。鬼が約束のために力を振り絞るのは当然のこと。……随分無茶をしたようだしな、お前の治療術だけじゃ死ぬだろ?」

「………………助かるわ」

 

 霊夢は簡潔に礼を述べて、しかし視線だけは少しだって吹羽から逸らさずに受け取った薬を飲ませた。

 すると吹羽の傷はみるみると塞がっていき、顔にも赤みが差してきた。苦し気だった表情も、まだ脂汗が残るものの少しだけ楽になっていた。

 その様子に峠を越えた事を察した霊夢は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。萃香には後で、改めて礼を言わねばなるまい。

 

「……椛はどうしたの」

「今鳳摩の奴に診させてる。ちょっとやりすぎたんだ。あいつの為に、それを風成の子に使ってやってくれ」

「………………」

 

 萃香の言葉に何となく事情を察した霊夢は、先程の強力な妖力を思い出しながら彼女に問う。

 戦闘の最中に感じた妖力から萃香と椛がぶつかっているのを知っていた霊夢である。暗に彼女の安否を尋ねるが、萃香は実に簡潔な説明を放るとすぐに霊夢から視線を外して文を見遣った。

 その視線に、文はびくりと身体を震わせる。

 

「……す、萃香、さま……」

「文、単刀直入にいこう。なんでわたしがここに来たのか……それは、約束(・・)を果たすためさ」

「約束……? だれの……」

「凪紗だよ」

「ッ!?」

 

 端に涙を浮かべたまま、その赤みがかった瞳を大きく見開く。

 そんな文にふと微笑みかけ、萃香は朗々と歓喜を語る。

 

「大昔にしたあいつとの約束を、今やっと果たせる時が来たんだ。……待ったよ、数百年。凪紗の奴も酷い女さ、わたしが生粋の鬼(嘘嫌い)だってわかっててお前(・・)に嘘を吐き続けさせるんだから(・・・・・・・・・・・・・・)な」

「う、そ……?」

 

 “凪紗と萃香の約束”。“文に嘘を吐いていた”。

 思いも寄らない言葉の連続に、文は困惑と狼狽を綯い交ぜにして鸚鵡返しする。

 

「だがまぁ、そこの風成の子に免じて許してやるさ。ホントはわたしが分からせてやらなきゃならなかった事を、体張って命張って、やり遂げてくれたみたいだしな。全く、どいつもこいつもお人好しなんだね、風成ってのはさ」

「一体、なんの話を……してるの……っ!?」

 

 全く理解が追い付かず、思わず文は萃香へと叫び散らした。

 文の気など欠片も慮らずに語る萃香は、悲痛にすら聞こえる叫びを上げる文を見てさも、「まぁ、そう思うよな」とでも言うように、

 

「文。わたしはね、凪紗の奴に“文が受け止められる心を得たと思った時に話して欲しい”と言われたんだ。あいつはお前が自分を知っている以上に、お前のことを分かってたんだよ」

「な、なに……を……」

 

 にやりと、萃香は悪戯に成功した子供のような――しかしその奥底に果てしない優しさを感じさせる笑みを、文に向けた。

 

 

 

「凪紗は、お前を裏切ってなんかいなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)――ってことさ」

 

 

 




 今話のことわざ
同病相憐(どうびょうあいあわ)れむ」
 同じ病気や悩み苦しみを持つ者は、互いの辛さがわかるので助け合い同情するものだということ。

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