いよいよこの日がやってきた。
全日本ガンプラバトル選手権
日本各地の中高生ファイター達がこぞって競い合う最高の舞台。
七年前に行われた世界大会よりもさらに規模が大きくなったこの大会。
場所は七年前に行われた会場の隣に建てられた施設。
そして、七年前にあった大会の会場は記念碑だけが残されているだけだ。
記念碑に俺は手を触れる。
「あれから七年か……」
今でも脳裏に焼き付いて離れない。
スタービルドストライクとガンダムエクシアダークマターの激戦。
大会の後に起こった騒動、俺はみているだけだったがファイター達によって解決した騒動の後で行われたガンプラバトル。
あの大会が一番、忘れられない。
俺はあんなガンプラバトルをしたい。
あの人達みたいに……。
「やべっ、感傷に浸りすぎたか」
時計を見るとトライファイターズのメンバーが到着する。
あいつらの出迎えをしないと。
最後に記念碑を眺めてからホテルへ向かう。
ホテルの入り口でカミキ弟達と合流する。
「先輩、早かったですね」
「寄りたいところがあったからな。さて、中に入るぞ」
「はい!うわぁ、人が一杯だ」
「だけどな、この人数も大会の日程が進むにつれて減るんだ。最終日はほとんど人がいないくらいだ」
「へ~」
「「……」」
カミキ弟が驚きの声を上げる。
何も知らなかったらこういう反応をするよな。
左右の二人はかなり緊張した様子だ。
それにしても、
「なぁ、ホシノ後輩。やけにこっちへ視線が集まっていないか?」
「……あのぉ、先輩、この前からずっと言おう、言おうと思っていて言えなかったことがあるんですけど」
「……なんだ?」
真面目な顔をしているホシノ後輩に俺は尋ねる。
「瓶底メガネ、していませんよ」
「…………Oh、No」
そっか、ここのところ、やけに周りの物が良く見えると思ったら。
しかも、素顔を晒しているから。
「おい……」
「あの人」
「ああ、間違いない。白い悪魔だ」
「ウソだろ?あの伝説的なファイターがなんでこんなところに?」
「噂じゃ、去年の大会である企業があることないことを広めたからファイターとしての生命を奪われたって聞いたんだけど」
「でも、あんな大物が参加するならもっと話題になるだろ?」
俺の世界大会の記録を知っている奴らがこそこそと話をしているわけね。
「ホシノ後輩、メガネ、もしくは変装用のアイテムをくれ」
「そんなもの持っていませんよ」
だよなぁ。
今も向けられる視線。
有名人もこんな気分なのだろうか。
「しばらく、晒し者の気分を味合わないといけないってことか」
だが、すぐにそのざわめきは別の者たちへ移る。
ガンプラ学園のキジマ・ウィルフリッドの出現によって。
彼らに視線が向けられる。
全員がガンプラ学園に視線を向けられている間に遠ざかろうと思っていたのだが。
「おい、ハヤテ・シン」
アドウ・サガが俺に話しかけてくる。
やめろよ。逃げることが出来ないじゃないか。
再び集まる視線。
それだけならよかった。
だが、キジマ・ウィルフリッドまでがやってきたのだ。
「お初にお目にかかります。キジマ・ウィルフリッドです」
「ハヤテ・シンだ。よろしく、ガンプラ学園のエースさん……こんな廃れたファイターにまで声をかけてくれるとは光栄だ」
「とんでもない、あなたほどの猛者。礼儀を尽くすのは当然のことです」
「買いかぶりすぎだっての、俺は本大会に出場はしないからな」
「そうだとしても、機会があれば貴方とも戦いたいところです」
「光栄だよ」
キジマと握手をする。
それだけで外野がおおぉ!と騒ぎだす。
おいおい、この程度で騒ぐってどんだけだよ。
いつの間にか、コウサカの姿が消えていたがWCだろうか?
消えていたコウサカはどういうわけかサカイ・ミナトを連れてきた。
「アホ毛も全国大会に出るのか?」
「だから!アホ毛やない言うてるやろ!この瓶底メガネ」
「残念、メガネはしていない」
「なん……やと!?本体を捨てたというのか!」
「おい!?人をマダヲみたいな扱いにするんじゃない!メガネが本体なのは奴らだけだ!」
「いーや!よう考えてみぃ、今のお前にとってパーソナルパーツといえば、ダサイ髪型にしょうもないメガネ!どちらかをとればお前に存在価値はない!」
「な、なんだとぉ」
「……なに、この会話?」
「参加しない方がいいですよ。バカが移る」
「「なんだとぉ!?」」
「それより!サカイ君はどんなガンプラを使うの?」
「いやぁ、ほんまは教えられへんねんけど、フミナちゃんの前やからしゃーないわぁ」
どこかで何かがあったのか、ホシノ後輩の前だと形無しだな。このアホ毛。
「誰がアホ毛や!」
「人の心を読むな」
読心術を会得しているのか!?
「先輩がわかりやすいだけです」
「うるさいぞ、コウサカ」
そんな他愛のない話をして俺達は与えられている部屋へ向かう。
ちなみにホシノ後輩が一人部屋、カミキ弟とコウサカが二人で一部屋。俺が一人部屋という形になっている。
本当はコウサカ達と三人部屋でもよかったのだが、何があったのか、運営側から急に一部屋与えられたのだ。
まあ、こちらとしては一人だけの方が作業に集中できるんだけど。
「問題は、こいつだよなぁ」
机に置かれているXXプロト。
武装パーツなどを外して本体のみ。
アドウに対して右手を失うだけで済んだが一回のバトルでいちいち片腕を失っていたら予備パーツがいくつあっても足りはしない。
何より。
「もう一個の奥の手を使ったら全体がバラバラになる」
WWのアレを他の機体で使えるようにデチューンしているからより繊細になっているんだよなぁ。
「完成すれば最高の出来栄えになるのはわかっているけれど……うーん、どうすべきか?コウサカやアホ毛に頼るべきか……ふーむ」
ちらりと俺は武装の方へ視線を向ける。
ビームライフルはガンダムAGEに登場したドッズライフルを弄ったドッズライフルカスタム。
盾は対ビームコーティングを施している特別仕様。
他の武装は本体につけている実体剣。
背中のバックパックに搭載しているビームサーベル。
「うーむ、武装はこのくらいにしておくか?もう少しガトリングとかバズーカをつけたいところでもあるけれど……武器が多すぎると動きも悪くなる……ライフルの方を強くして粒子関係に対応できるようにしておくかぁ」
そんなことをぶつぶつと考えながら俺は眠りについてしまった。
「アンタ、バカじゃないの!?」
「うるさい、ギャン子」
観客席にいる俺の言葉に呆れた態度をとるサザキ・カオルコこと、ギャン子。
ギャンに浸透しているサザキ・ススムの実妹。
聖オデッサ女子学園のガンプラバトルチームを率いている。
隣にいるのはイズナ・シモン。ボクシングで中学生チャンピオンを務めるほどの人物。
この二人はカミキ弟達がガンプラバトルを通して知り合ったメンツだ。
カミキ弟達を応援するためにやってきたという。
ちなみに補欠メンバーである俺は観客席ではなく、下にあるバトルフィールドのあるエリアへいかなければならないのだが。
「ま、俺は補欠で、バトルに出る予定は微塵もないからいいんだよ。何より寝坊した」
「最低」
「何をしていて、寝坊を?」
「作っていたガンプラの改造を考えていたら寝落ちしていたんだよ……直前に名案が出たことでプロトを取り外せそうなんだけど」
鞄の中にあるガンプラのことを考えながら俺は開会式をぼーっと眺めることにした。
ちなみに開会式で聖鳳学園の姿は微塵もなかった。
全く、アイツラ、俺以上に寝坊をしているなんて……羨ましいなぁ。
ホント。