『いいぜ、もっとだ!もっと来い!』
「ぴーちくぱーちく、うるさいってぇの」
あぁ、面倒だ。
通信機越しで興奮している男の声ほど嫌なものはない。
どうせなら、女の子が……うん、なんでもない。
俺が操るスタークジェガンにしつこく迫って来るデスサイズヘルのような外観をしたオリジナルガンダム。
データ上の名前ではガンダムジエンドということになっている。
鋭い爪から繰り出される無数のファング。
体から赤い粒子を放っていることから機動戦士ガンダム00のGN-X、もしくはスローネシリーズをベースにしていることがわかる。
近づいてくるファングをバルカンと左手に装備している散弾式に切り替えたバズーカで撃ち落とす。
『すげぇ!ここまでやれる奴がいたなんてよぉ!もっとだ!もっと、相手しろぉ!』
どうして、俺が興奮している男とバトルしているのか。
トライファイターズは夏休みにヤジマ商事ガンプラバトルシステム、新システムを開発及び世界レベルのファイターを召集し各種データ、新プラフスキー粒子を研究する施設……またの名をニールセン・ラボがある静岡へと来ていた。
このニールセン・ラボは最新式のバトルシステムや広大な工作室があり、ガンプラバトルの特訓場として有名。
だが、参加条件として全国大会三回以上の出場が利用可能条件となっている。
ちなみにトライファイターズは参加資格を有していなかったのだが、ラルさん、責任者のニルスさんの友誼によって利用できていた。
やってきて早々、カミキ弟が鹿児島代表の我梅学院チームホワイトウルフと騒動を起こしてガンプラバトルをすることになっていたのだが、開始時間になっても三人が来ない。
謝罪していると白い学ランの男が乱入。
ホワイトウルフの三人を瞬殺した。
それだけで終わればよかったのだが。
「アンタ、あのハヤテ・シンだな?」
どういうわけか強面の男子、アドウ・サガは俺を知っておりガンプラバトルを挑んできた。
何でも誰かから俺の特徴を聞いていたらしい。
拒否していたら今にも殴りかかってきそうだったのだ、仕方なく合宿用に準備していたスタークジェガンでバトルすることになった。
そして、現在。
「全弾、発射っと」
近づいてくるガンダムジエンドにスタークジェガンの両肩に装着していたミサイルをすべて撃ちだす。
『邪魔だ!』
ジエンドは巨大な手でミサイルのすべてを破壊する。
『こんなものでぇ』
「ある映画で、こんなものがあった」
俺の声にアドウが驚きの声を上げる。
「ミサイルポッドを怪獣にぶつけるとかってなぁ!」
『なにぃ!?』
爆炎の中からスタークジェガンが肩に背負っていたミサイルポッドが次々とガンダムジエンドへぶつかる。
地上へ押し戻されるガンダムジエンド。
このままとどめを刺そうとした時。
ライトニングガンダムが乱入してきた。
「コウサカ!?」
『見つけたぞ!何年もお前を探していた!!』
激昂しているコウサカ。
彼は俺の制止を聞かずジエンドに攻撃をしていく。
冷静さを欠いているのか。
ジェガンのポッドを退かしたジエンドはDNファングを繰り出す。
コウサカはライトニングガンダムをWR形態に変えるとファングから逃げていく。
体勢を整えるために距離を取っているとコウサカとアドウが会話をしていた。
何でも数年前にコウサカをぼこぼこにしてガンプラバトルから遠ざけた人物がアドウだという。
だが、肝心のアドウは覚えていなかった。
戦闘狂でバトルばかりしていて倒した相手を覚えていなかったというパターンだろう。
「……ま、こうなるよな」
あの後、ライトニングガンダムを屠り、他のトライファイターズのメンバーを圧倒したアドウのガンダムジエンドが俺のスタークジェガンに迫る。
仕方ない。
「俺も疲れてきているから……さっさと終わらせるか」
『あ?』
怪訝な声を上げるアドウに向かってスタークジェガンはビームサーベルを取り出す。
ジエンドが巨大な手を広げて襲い掛かる。
その時、新たな乱入者が現れた。
乱入者の姿を見て、俺は驚く。
真紅に彩られたガンダム……プラモ狂四郎で主人公《京田四郎》が制作した新たなパーフェクトガンダムの三代目…パーフェクトガンダムⅢ…アメイジングレッドウォーリア
三代目メイジンカワグチが作り上げた新たなガンプラ。
その姿を見て、俺の口の端が浮き上がる。
近づいてくるガンダムジエンドの腕と頭部を切り落としてそのままアメイジングレッドウォーリアへ向かう。
「メイジン、カワグチぃぃぃいいいいいいいいいいいい!」
繰り出すビームサーベル。
だが、アメイジングレッドウォーリアはあっさりと躱してジェガンのコクピットを貫く。
また、俺はメイジンに負けた。
「久しいな、ハヤテ・シン君。相変わらず血気盛んなことだ。白い悪魔としての腕は衰えていないようだ」
「負けた後にいわれると嫌味にしか聞こえないんだけど」
あれから少しばかり時間が進んで俺は一対一で三代目メイジンカワグチと会話をしていた。
「しかし、あのスタークジェガン、武装に手は出しているようだが本体そのものに手を加えないのは何故かね?」
「……」
「何よりキミは世界大会ベスト3という記録を出した後に半ば失踪のようなことをしている。やはり、あのスキャンダルを気にしているのかね?」
「あんなこと、でっち上げなので俺は気にしていないです。精神的な問題で離れようと思っただけです。でも、ガンプラバトルが大好きだから完全に捨てられないという中途半端な状態なんですよ」
「チナ君から聞いているが、キミがトライファイターズの面倒を見ているそうだね」
「なし崩し的なものです」
「……だとしても、キミがガンプラバトルにこれからも関わり続けようと思うのなら……何事にも本気で挑まなければならない!」
「本気で?」
「そうだ、ガンプラバトルは誰かのためにするものではない!自分のためでなければならない!!」
「……仰る通りです」
「私も含め、世界の覇者達は望んでいる。キミが、イタリアの伊達男のもとで鍛えられて純白の機体で敵を圧倒し、周りを魅了させた。あのファイターの姿を」
こりゃまた、随分と買いかぶられているな。
俺はメイジンの言葉になんともいえない気持ちになる。
「戻るのなら、この世界へ戻るというのなら今一度、覚悟を決めろ!キミが、白い悪魔としての姿を見ることを私は待ち望んでいる!キミのライバルも!」
卑怯だ。
ここで、アイツの存在を言うなんて。
「ああ、そうかい」
息を吐きながら俺はメイジンの覇気と向き合う。
「それでは、私は」
「コウサカと会うなら、徹底的にしごいてやってください。アイツ、色々と後ろ向きなので」
「フッ」
メイジンは小さく笑うと去っていく。
「さて、俺は制作ブースに行きますか」
ニールセン・ラボにある制作ブース。
そこで俺はあるガンプラを弄っていた。
ボコボコにされたスタークジェガンのパーツを外してジェガンへ戻す。
用意している箱の中に戻して、あるものを取り出す。
コイツは埋もれるつもりだった。
だが、メイジンからあんな言葉を貰ったら、やることは決まっている。
「さぁて、こっからが本番だ」
鞄から工作パーツを取り出す。
少しばかり徹夜を覚悟しよう。
よし、やるぞ。
「素敵なガンプラね」
頭上から聞こえた声に顔を上げる。
「ぶべ?」
口元から流れる涎を拭いながら顔を上げたら銀髪の小さな少女がいた。
コイツ、どっかで見たような?
「先輩、こんなところで寝ていたら風邪ひきますよ?」
小さな少女の隣にビルドバーニングを弄っているカミキ弟の姿がある。
「あれ、かなり寝ていたか?」
端末の時間を見た。
どうやら一時間ほど寝ていたか。
首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がる。
「ところで、カミキ弟、この銀髪娘は?」
「えっと、今、知り合いました」
「あ、そう」
コイツ、警戒心というものがないのか。
俺は呆れながら少女を見る。
彼女は興味深そうに机上のガンプラを眺めている。
「そこの少女、眺めているガンプラを取りたいのだが、いいか?」
「あ、ごめんなさい」
少女は驚くように離れる。
俺は机の上に置かれているガンプラを手に取った。
「それ、貴方が?」
「ああ」
手の中でガンプラの稼働を確認しつつ、箱の中に収納する。
「カミキ弟、俺は部屋で休む。明日になったら起こしてくれ……シミュレーション使うから」
「はい!おやすみなさい」
ふらふらと指定されている部屋で爆睡する。
スタークジェガン。
機動戦士ガンダムUCに登場したジェガンの特殊武装形態。
両肩にミサイルユニットが装備されている。
機体は素組みだが、武装のバズーカに実弾と散弾式にできるように調整。
ミサイルユニットもゴジ〇に出てきた機械の龍のようにユニットを相手へ射出できるようになっている。