とらんあんぐる組曲   作:レトロ騎士

31 / 35
Wenn Schicksal und der Suffering Sie angriffen, sch?tze ich Sie dann.
Ich tue so, selbst wenn die Welt einst?rzt.
Solange Sie seien mit mir.
Ich liebe Sie, liebe Sie, liebe Sie...


終章  「誰にも、渡さない」

         ◇

 

 二人きりの旧校舎の屋上で。

 少年と少女は寄り添い、語り合う。

 

「先輩……本当にだいじょうぶですか?」

「ああ…あとでちゃんと病院に行くとしても――いまはもう少しこのままで」

 

 フェンスに寄りかかり、肩を並べて座る二人。風は冷たかったが、触れ合っている部分は温かい。

 爆発音を立ててしまった以上、しばらくすれば誰かがやってくるかもしれないが――それでも、命を賭けて取り戻した、二人のこの時間は譲れない。

 ほんの少しの蜜月を、今は大事にしたい。

 

「色々言わなくちゃならないことがあるけど――ごめんな、さくら」

「……ゆるしません」

 

 すねたように、さくら。

 

「もう二度と――こんな危険なことはしないでください。でないと――」

「でないと?」

「もう、血を吸ってあげません」

 

 どうだ、といわんばかりに上目遣いで少年の瞳を覗き込む。

 かつては己の宿業として、嫌悪すらしていた異形の行為。

 だけど、いつしかそれは、二人の絆を育む愛おしい行為へと変わっていった。

 だからこその、その可愛らしい脅迫だ

 

「……はは、それは嫌だな」

 

 真一郎が、きゅっと、さくらを抱き寄せる力を大きくする。

 小さな少年の、その大きな抱擁に身をゆだね、さくらはめを閉じて彼の暖かさを感じる。

 このまますべてを許したくなるが、今はダメだ。

 この愛しい人がもう無理をしないように、ちゃんと「めっ」と叱らなくては。

 

「約束、してくれますか? ほんとうに、もう危険なことはしないって誓ってくれますか?」

「……ああ、少なくても、君と、何時か生まれる子供を守る為以外には、しない」

「ちょっとずるいですけど……わかりました。それはきっと私も同じだと思いますから」

 

 はあ、とため息。

 そういわれては、何もいえなくなる。

 自分も、真一郎のためなら、どんな危険なことでもするだろうから。

 

 さて、お説教が終わったなら、今度はご褒美の時間だ。

 そう思うと、さくらは手を伸ばして、少年の頬に添えた

 そして、そのまますっと、さくらが真一郎の顔を覗き込む。

 

「どうしたの?」

 

 何もしないまま、じっと自分を見ているさくらを不思議に思ったのが、真一郎が首をかしげた。

 さくらは、ふふっと小さく笑って、

 

「……約束してくれましたから、ご褒美に血を吸ってあげます」

「ちょと……いまは、どっちかっていうと俺の方が足りないんだけど……?」

「ダメですよ。ほら、こんなに血が流れてるんだから」

 

 その場所を、指でなぞる、確かに血液が少し付着しているが――

 

「イヤ、ですか?」

「……ううん、そこなら大歓迎」

 

 目を閉じて、

 

 

 

 言葉では、足りない想いを唇に。 

                         想いを届ける交響曲 ~終~

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。