鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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8 恋のキューピッド(悪魔)

「くらぇええ! チェストォオ!!」

「いっけーモモンガ! そいつで最後だ!!」

 

 秘境トブの大森林。その奥には知恵ある大魔獣が住み、その一帯を縄張りにしているという。他にもゴブリンやオークにオーガなどなど凶悪な怪物が跋扈する森に壮絶な雄叫びがこだまする。

 

「いや……普通にスゴイんだけども、あまり大声は出さないようにね」

「まぁここは森の浅いところだから問題ないが……よく剣で大木が切れるもんじゃのぅ」

 

 あの激闘から一週間ほど経っているのだが、何故か彼らはいまだカルネ村に居座っていた。

 

「す、すいませんエモットさん、ラッチモンさん。つい調子に乗ってしまって」

「掛け声的なもんだったんです……そっか魔獣とかいる世界なんだよな、危ない危ない」

 

 主に魔獣の方が危ないような気もするのだが、ここのところモモンガたちは木材の伐採作業に精を出していた。

 事の発端は料理の話にあり、エモット家でもう少し修行させてもらいたいとアルベド・シャルティア両名が申し出たことに起因する。

 早く都市部にも行ってみたい気持ちも彼らにはあったのだが、考えてみればここを逃すと彼女たちに料理を教えてくれる者など現れないのではないかという思いもあった。

 前世界で美食の類など触れたことも無い彼らにとっては十分美味しく感じたのではあるが、彼女たちには納得いかないのであろう。

 もちろん愛する嫁たちの可愛いお願いを断るわけもなく、一行はカルネ村でスローライフを始めるに至ったのだった。

 

 二児の母であるエモット夫人はかなり姉御肌な面倒見のいい性格であり快く了承してくれたものの、二人の性格というか、種族というかが少し心配ではあったのだが。

 

「そんな技が!?」

「もはや格闘技ではありんせんかえ!?」

「うふふ、じゃぁそっちも教えていきましょうね」

「お母さん!? それ、え、エッチな話だよね!?」

 

 なんて会話があったりなんてことは彼らは知らないが、関係は良好。何故か師匠と呼んでいたりする。

 

 そうなってくると元社畜の魂が疼くのか、のんびりとしてなどいられない。

 

「ペロロンチーノさんあのさ、仕事から帰ってくると嫁が」

「みなまで言うなよモモンガさん……つまり」

 

 言葉など不要とばかりに『裸エプロン』を連呼しながら村長宅へ。さすがに村の英雄に仕事などと一度は断られたものの、是非にと頼み込む二人に、丁度村の柵を作る木材の調達に苦心していた村長にとっては渡りに船でもあったりして、簡易的に現在の職を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンフィーレアさん! こちらの荷馬車を追い抜いては困ります! 逸る気持ちはわかりますが、もう少しですから」

「あ……ごめんなさいペテルさん。どうしてもエン……いえ無事だとは分かっているのですが心配でつい……」

「そりゃ他の村々は壊滅って話だからなぁ、彼女が心配なのも分かるぜ」

「ルクルット、心配を煽るのはよすのである」

「い、いや彼女ってわけじゃあ!?」

「ふふっ、好きな人でしたっけ。昨日聞かせてもらいましたからね」

 

 日が高く昇りはじめそろそろ昼時といったころ。街道とも言えぬあぜ道を、二台の荷馬車と冒険者たちが進んでいく。

 

 

 

 

 冒険者チーム『漆黒の剣』が今回選んだ依頼は……いや幸運にも一早く発見できたこの依頼はかなりの好待遇であった。

 依頼の内容は盗賊の被害にあったカルネ村への支援物資の供給である。

 本来なら国の兵士の仕事であるのだろうが、言っちゃ悪いがこの国にそんな優しさは皆無。さすがに自国の民であるのでいずれかは訪問なりするのであろうが、温情など微々たるものであろう。

 

 だが今回の依頼者は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフその人であったらしい。

 

 実際本人が冒険者組合に依頼をしに来たわけではないが、戦士団の方々が平服……つまり一般人として依頼しに来たそうだ。

 隊員のほとんどが平民であった彼らにとって、村の共有財産であり必需品である荷馬車は一刻でも早く返却をと考えたのは当然で、エ・ランテル都市長を信頼していないわけではないが、早急にとはいかないことも分かっていた。それゆえのこの依頼だったのだ。

 彼らもすぐさま王都へ立つために支援物資の調達も冒険者組合に依頼しており、ついでに言うとその金もガゼフの懐から出ていたりする。

 

 まあそんなわけで容易なお使いクエストではあるのだが、銀級以上の(組合が信頼できると判断した)冒険者に限られており、それを『漆黒の剣』が掴んだというわけだ。

 

 戦士団がエ・ランテル入りしたことで、近隣の野盗が討伐されたという噂は巷では噂になっていたのだが、研究的な意味で籠るタイプのンフィーレアがこの噂を聞いたのは翌日に冒険者が店舗に訪れた際の雑談が発端であった。

 

「近隣の村は壊滅的だそうだけど、運よく戦士団に助けられた村もあるそうだぜ」

 

 取るものもとらず急いで冒険者組合へ向かった彼は、その奇跡的に助かった村がカルネ村であったことに安堵するも、すぐさま冒険者を雇い村へと急ごうと受付に申し出た。

 それならと組合の好意で『漆黒の剣』を紹介され、支援物資なら多い方が良いだろうと店の荷馬車に自作のポーションなどを目いっぱい詰め込んで同道することになったのだった。

 

 

 

 

「速度落とせ! ……なんだあ? 検問じゃねーよな? 動いてる?」

 

 幸いなことに接敵などもなく夜営を終え再び進行を開始した一行は、カルネ村まであと数十分といったところで、チームの目であるルクルットの声により速度を落とすことになった。

 他の者には点のようなものが見えたくらいだったが、徐々にそれが街道をふさぐ宙に浮く『横棒』のようなものが見えてくる。

 

「えぇえ!? なにやってんの!?」

 

 思わずそう叫んでしまったルクルットであったが、それを彼らは責められない。近づくにつれてそれが何かがわかったからだ。

 横に10メートルはあろう一本の大木を両腕に抱えた二人組がカルネ村方向へ歩いているのを見とめてしまったからだ。

 

「ま、まずい馬車来た! はぁ、はぁ、ペロさん前行って、前!」

「うぉ!? はぁ、ふぅ、わかった! きっついなこれ!」

 

 街道をふさぐようにして歩いていた二人のうちの一人が前方へと回り込み、二人してその両腕で掬い上げていた大木を手放した途端壮絶な音が響き渡るのだが……その二人も力尽きて倒れこむ。

 報告も忘れ口を大きく開けて見つめることしかできないルクルットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、この木持ち難くって。どうぞ先行ってください、はぁはぁ」

「ふぅ、ちょっと休憩しようモモンガさん。あんたたちカルネ村に行くんだろ? 道塞いじゃってゴメンな」

 

 汗を流し呼吸は荒いが大木にもたれかかって休憩を始める二人にかけたい言葉は多数あったが、すでに村の畑が見え始めている距離でもあり、軽く質問する程度にとどめて一行は村へと進んでいく。

 

「村にしばらく厄介になってるって言ってましたけど、悪そうな人たちじゃなかったな」

「黒髪は少し珍しいのである」

「異国の方かな? 農夫のような恰好でしたけどンフィーレアさんの知っている人でしたか?」

「いえ……でもあの服エンリのお父さんが……」

 

 なおモモンガたちは絶賛『村人プレイ』満喫中である。

 

「おいおいお前ら! あの行動に驚けよ!? それにしてもすげぇ力だったな」

「確かに……でも俺とダインなら……厳しいか?」

「出来なくはないのであるな」

「時たまあるのかないのか分からなくなりますが……やはり前衛職はすごいですね」

 

「良かった……村は本当に無事みたいだ」

 

 あの状態で一時間以上歩いてるなど知る由もないペテル達だったが、不可能と言えるほどのことではなかったのと、行動の理由が現在引いている荷馬車にもあるとわかり、ンフィーレアが上げる安堵した声にその疑問も霧散する。

 荷馬車を広場のテント近くに停めると、ンフィーレアはエンリの家へと走り出す。漆黒の剣はそれを笑って見送り、近くにいた村人の案内で村長宅へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベド、おんし今夜は大変でありんすよ。妾と同じ目に合うに違いないでありんす」

「そういばあなた朝方プルプル震えてたわね。師匠の技は試したの?」

「試す暇もありんせん……『スローライフとスローセックスって似てるよな』なんて言葉から始まって朝までずーーーっと」

「シャルティアちゃんそれ詳しく!」

「師匠、シャルティアそれよりモモンガさん(・・)達がそろそろ帰ってくる頃だから昼食の用意を急ぎましょう。そのあと詳しく!」

 

「え、エンリ……あの、無事で良かった……けどあの方々は」

「ンフィーあっちは無視でいいから。それにしてもよく来てくれたわね、ありがとう」

 

 村が無事だったとしても怪我人がいるかもしれない。それがエンリだったらと不安を胸にしていたのだが、いざ会ってみるとピンピンしているどころか「ンフィー? 今回は早いわね、また薬草を取りに来たの?」なんて明後日の答えが返ってくる。

 とにかく安堵しエンリが心配でと答えようとしたのだが、家に招かれるとその光景に思わず言葉が出てこない。

 エンリのお母さんはわかる。村で一番の美人だと冗談でエンリのお父さんが言っていたけど、確かに綺麗な人だった。

 その母親につられるように振り向く両脇の黒髪の女性たち。服装はエンリたちのような村娘そのものだったのだが、その美貌に驚いて声も出ないほどであった。

 

 一応挨拶などを交わしたのだが何も覚えちゃいない。ただ「ンフィー君その態度は無理もないけどダメよ? あっちでエンリとお話しててね」と言われ今に至るのだが。

 

「私はどっちでもいいのよ? ンフィー君でもモモンガさんでも」

「なるほど……理解しました」

「クククッ、アルベドいきなり真顔になるのはやめておくれなんし。お腹が痛いでありんす」

 

 なんてひそひそと聞こえてくる会話を流し、エンリに事の経緯や村の状況などを伺っていたのだが、丁度食事が出来上がったのかこちらのテーブルの方へ三人がやってきた。

 

「わざわざありがとうねンフィー君。お昼まだでしょ?」

 

 そう言ってテーブルの上に料理を配膳していく三人と手伝いに戻るエンリだったが、不意に年上の美女と目線が会い微笑まれてドキッとしてしまう。

 

「なかなかできることではありませんよ、素晴らしい事です。確かエ・ランテルまでは二日ほどかかると伺っております。愛する人がどうにかなってしまっているのではないかと不安で一目散に訪れたのでしょう? 確かにもう二度と会うことが叶わなくなる展開もあったのかもしれません……なら、そう今がその時なのではないのですか? ンフィーさん?」

 

 諭すように顔を近づけてくるのだが、その美しさよりその真摯な言葉に心臓をつかまれた思いだった。

 

「おぬし必死すぎでありんす。行くでありんすよ」

 

 そう言ってケタケタと笑う美少女に手を引かれ、かごに丁寧に入れた料理を持って家を出ていく二人。最後まで何かを訴えかけるように目線を反らさない美女に、何故か心が温かくなってくる。

 

 気付けば何故かエンリと二人だけ。エンリは不思議そうに頭をコテンと傾げるが、それもまた可愛いなあなんて……

 

(あの方は僕に勇気をくれたんだ……今でしょ!って)

 

 話から本当に今エンリが生きているこの状況は奇跡なんだと分かってしまった。あの方々の仲間や戦士団がいなければ蹂躙されていたことだろう。

 

「え……エンリッ! ぼくは!」

 

 少年の思いは届くのか。この天然属性を攻略するのは大変だぞとこっそり扉から笑顔でのぞき見していたエンリの母親であった。

 

 

 

 

 

 





確かエンリちゃんは村の男性と結婚して村に居たいはず。
ンフィー君は頑張らないとキツイっすねw

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