鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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美人で可愛くて飯が旨くて旦那のことが大好きでエッチ。モモンガ爆発しろ!




7 極上の美食

「なんでなの……奥様方には出来るのに……」

「おかしな話だねぇ。あなた意識飛んだようだったよ」

 

「あれ? この村のお肉なら出来るでありんすね?」

「あはは、今度は炭にしないようにね。うん、そろそろ野菜を入れようか。ネム! つまみ食いしない!」

「はーい」

 

 明けて翌日。テント前広場には香ばしい……若干焦げ臭いが、食欲を誘うにおいが漂っている。

 

「あー……君たち料理が気になるのはわかったから、戦士長様のお話を聴いてあげてくだされ」

「妻と娘たちならお嬢さんたちに料理を教えられるさ。だから、な?」

 

 そわそわと落ち着かない様子で炊き出しの調理を見守るモモンガとペロロンチーノ。ガゼフ・ストロノーフはそんな微笑まし気な状況を笑顔で見つめながら話し出す。前日の戦闘を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 最後の攻防は実に呆気ないものであった。

 

 敵指揮官が召喚した他のものより大きな天使をモモンガが打ち上げると、ガゼフは身体強化の武技を最大限に発揮し一撃。

 魔法的防御があったのか、その装備のせいなのか。即死させるまでには至らなかったが瀕死の重傷を負わせ、無力化させることに成功したのだった。

『ま、待て! まだ私にはこれが!! アッー!?』などと最後に口走っていたが待つ同義など皆無である。

 

 正直陽光聖典の部隊がすぐさま撤退を始めたのは僥倖だった。その統率の取れた動きと魔法による情報の共有だろうか。無駄に足搔こうとするでもなく撤退を選択する練度の高さに驚愕するも、こちらも満身創痍。

 頼みの綱であるモモンガ殿も、鉄の棒を地面に付き肩で息をして大粒の汗を流している。

 

 その理由は知れないが奴らの狙いは確実に王国戦士長である自分であり、村を襲う帝国騎士もその陽動であると判明している以上、深追いは不要。

 

 完全勝利とは言えないものの、この騒動に終止符を打つことが出来た。

 

 積もる話はあるものの村へと帰還し、村長へ簡単な報告を済ませてから我らは広場へ。テントの前で待っていた三人に……いや白磁の女神に彼を託し、すべては翌日にと告げ、今に至る。

 無論こちらは交代で見張りをしながらではあったが、そういえば彼は眠ることが出来たのだろうか。

 別れ際に『寝たい……あ、そういえば三日も寝てなかったな』なんておかしなことを呟いてはいたが、眠ることで頭と体をリセットするのは大事なことだ。

 彼らの表情を見返せば休息はとれたのだろう。若干ほほもふっくらとしているようだ。

 

「あらためて、此度の御助力感謝する。モモンガ殿が来られなければ我らは壊滅していたことだろう。だがそれを置いたとしても君らの素性が伺えん。もちろん無理にではないし話したくないと言えば構わないのだが……」

「もちろん構いませんが……ちょっと突拍子の無い話になるんで……」

「ガゼフさんから見れば俺らってどう見えるんだ?」

 

 帰ってきた言葉に安堵しそれに答えるように一考。貴族の娘とその従者であるというのが第一印象であったが『貴族の娘と、その従者に扮した貴族の男性』というのが正直なところだと返答した。

 

 まず武具と言えど身なりが整いすぎている。単なる傭兵に揃えられるものではないのは一目瞭然だ。

 もうひとつは戦闘中に垣間見た不自然なまでの力のアンバランスさ。あの武器のネタ晴らしは聞いてはいたが戦士としての技量はありそうにも思えるのだが、どうにも戦闘を生業にしている者ではないと断言できる。

 

「あーバレバレですね」

「はずれてるけどバレバレだったな」

 

 そこから語られたのは、彼女たちもある意味『箱入り娘』ではあるものの貴族ではないし、彼らもただの一般人だということや、どこか遠くの国から転移してしまった等々。

 到底信じられるものではなかったが、信じてもらえないだろうからアンダーカバーを用意したという話には納得もしてしまった。

 

 これも王に伝えねばならないがと頭を悩ますが、彼らの行為は賞賛されてしかるべきもの。どうか王宮へご同行できないだろうかと問うも、すげなく断られる。

 

「これ以上面倒事は勘弁願いたいんです……すみません」

「でも王都は行ってみたいな」

 

 なんて返答に『なら是非我が家へ。君たちなら大歓迎でもてなすぞ』なんて言っちゃったことで後に大変なことになるかもしれないのだが、丁度そこへ料理の皿を持って女性陣があらわれ、楽し気な昼食会が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、うちの嫁は天才ですね! こんなうまい飯初めて食べたよ。考えてみればオーバーロードのままだったら出来ないことが沢山あったんだなぁ……ペロロンチーノさんにも感謝しきれないよ」

「いやいやそんなことより、シャルティアの肉野菜炒めも最高だったよな! う~……愛妻の手料理とか最高かよ!」

 

「もう……本当に勘弁して下さい。本気でおっしゃっているのはわかるのですがあまりにも恥ずかしくて……」

「焦げ焦げでありんした……精進するでありんす……」

 

 一方は天にも昇るような表情で、もう一方は顔から火が出るほどに赤くなり、嬉しさよりも羞恥に身を縮こませている。

 

 あれから戦士長達は早々にこの村を出立している。早急に王への報告と対策が必要であるらしく、村の荷馬車を借り受け、捕縛した騎士五名と未だ昏睡状態の指揮官を載せて、まずは城塞都市のエ・ランテルに向かうそうだ。

 荷馬車はエ・ランテルから返却され、その際には支援物資も詰め込んでなどと村長と約束していた。

 

 村長たちは現在村の代表者たちで会議中であるらしい。そもそもオークやらゴブリンやらがいる世界で柵すらない村など正気の沙汰とは思えないが、それにも理由があったらしく、それでも今回のことを教訓にしなければということになったらしい。

 

 モモンガたちの立場はそのまま。貴族とその従者という装いは一部の人たちを除きそのまま受け止められているものの、村を救った勇者たちであることに間違いはないのだが、遠慮されたのか会議には呼ばれてはいない。

 

 そんなこんなでリザルトというか報告会をいつものリビングでおこなっているのだ。

 

「それより少し奇妙な出来事がございまして……」

 

 から始まるアルベドの報告は、ペロロンチーノの持ち込んだ肉だけ調理が不可能であったとのこと。この世界の食材なら不器用ではあったものの扱えたことを。

 

「でも昨日食べたよな? あれはなんだったんだ?」

 

 理由は分からないが村の奥様方は調理が可能だった。エンリやネムでさえもだ。

 

「つまり私たちはなんらかの……って決まってるか。ユグドラシルの法則に縛られてるんでしょうかね?」

「あー……料理そのものじゃないよな。バフ料理が作れないって事かな?」

 

 うんうん考えながらこれはどうだろうとペロロンチーノは弓を取りだす。レベリング中盤に使っていた威力強化に特化してはいるが一般的な弓だ。

 

「ユグドラシルなら俺以外弓って使えないよな? 試してみてくれよ」

 

 モモンガもアルベドもシャルティアも弓を扱うクラスは取得していない。順番に試してみると持つことは出来ても弦を引くことも矢をつがえることも出来ずに取り落としてしまった。

 

「この世界の食材ではバフ料理は作れないんだろうな。つまり手持ちの食材を俺らが調理するにはコックかなんかのクラスが必要なんだろうね」

「この世界の者たちにはその法則が無いから料理できちゃうわけか」

 

 だんだんとその理由が分かっていき残念な気持ちもあるが光明も見えてくる。

 

「でも大したことないな!」

「そうですね、この世界の食材で作ればいいんですから……あー思い出してきた、めちゃくちゃ美味しかったなあ」

 

 それでも嫁の手料理は食えるのだ。そんな嬉しさでいっぱいな男性陣は些細な問題だなと笑顔で語りあう。

 そんな様子を、嬉しくて照れくさくて、そして申し訳なくも思いながら笑顔をこぼす女性たち。そんな優しい時間が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗なものだなあアルベド。稲穂が風に揺れてキラキラと輝いているみたいだ」

「ふふっ。昨日もおっしゃっていましたが確かにナザリックには無い美しい光景ですね。第六階層に近いところはありますが……あ、すみませんモモンガ様どちらがどうという訳では……」

「いや、いいんだ。あの階層を作り出したブルー・プラネットさんだってそう言うに違いないよ。むしろ彼が目指したのはこれなんだからな」

 

 手を繋ぎ寄り添いあい、にこやかに語り合う二人が何をやっているのかと言うと……ただのデートである。

 単純にテントを追い出されたという理由でもあるのだが今夜は彼らの番であるようだ。別に部屋が違うんだから問題ないじゃないかと問えば、何かがあった時対応できないだろうと前日起きていてくれた彼らに論破されてしまう。

 

―――「ぺ、ペロロンチーノ様どうかお手柔らかに……それとアルベド。デートも存外楽しいものでありんしたよ。エッチであるのはわかりんすが、もう少し自制すべきでありんす」

「そ、それは私に言わないで頂戴!? いえ自覚はあるしその通りなんだけど、今は完全に自信を無くしているわ……私サキュバスなのに……」

「よし! よおし! アルベド、デートだデート! い、行くぞ!」―――

 

 なんて会話が直前に会ったことは置いておいて、あれほど爛れた関係でありながら、傍から見ればまるで付き合いたてのカップルのように見えるのは不思議ではないのだろう。

 

 妻だ夫婦だなどと言う前の過程を吹っ飛ばしすぎなのだから。

 

「モモンガさーーん。……やっぱりやめませんか? この呼び方はどうにも」

「やっぱり嫌か? 勿論無理強いはしないけど、出来ればその呼び方も慣れておいてほしいかな」

「あのアンダーカバー的役割はどうやら的確であるようですしね……確かに必要ではあるのでしょうが」

 

 やはり深層意識に刷り込まれた『至高の御方』という思いが先行してしまう。

 

「ふ、夫婦なんだからむしろ呼び捨てでも構わないんだが、様も含めて好きなように呼んでほしいかな。アルベド様」

「もう、モモンガさんたら。ふふっ、あぁ楽しいですね」

 

 なんていちゃいちゃしながらアルベドは昨日の光景を思い出す。自身にすべてをゆだね、指輪を外して眠りについたモモンガを。

 自身に抱き着き眠る主にエッチな気持ちが抑えられず色々してしまったが、あれもまた格別であったなあなんて。

 

「どうしたんだ? 何か嬉しそうだな?」

「いえ、少し先日のことを思い出してしまって」

 

 そうにこやかに答えるアルベドであったが、モモンガは少し笑顔を曇らせる。

 

「昨日は済まなかったな……私が押し切ったのに無残な姿を晒しちゃって。見ていたのだろうが信じてくれ、お前を守りたい気持ちは本当なんだ」

「あれのどこを無残だとおっしゃるのですか……むしろペロロンチーノ様に嫉妬してしまう程でございましたよ」

 

 震えて虚勢をはり、肉体的には掻くはずも無い汗を精神的疲労によって垂れ流す。そんな姿を見せつけられたら女性は残念に思うだろうななんて考えていたモモンガにはその答えは意外であった。

 

「強さとしては当然卑下するべくもあらず。御身はマジックキャスターでございますよ? むしろ誇りに思うほどかと。それに……こう言ってはなんですが胸躍るものがございました。か、格好良かった……です」

 

 そう言って頬を桜色に染めるアルベド。

 

 二人の夜はまだこれから。モモンガが押し倒すことを我慢できたのは奇跡ともいえる。

 

 

 

 

 

 

 なお、やはりその頃シャルティアが人に見せられないような顔で気絶しているのを彼らは知らない。

 

 




『肉が焼けない』ってやつアレ書籍だと無いんだよね。ゴブ軍団が飯の用意が出来ないって描写があったくらいかな?
 捏造解釈かもしれませんが、嫁の飯を食べるためにそういう事でお願いしますw

↑書籍四巻にありました! すいませんw

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