鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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40 初めては上に乗ってするってお母さんが

「良いのではないでしょうか。お兄様が死んでも実質王はまだ健在なのですから現状維持ですし。ラキュースたちも依頼を受けてくれましたからお父様を癒すための貴重薬草も見つかるかもしれません」

「……お前兄に対して辛辣すぎじゃないか? まあその通りなんだがエリアス(レエブン候)は一応止めようとしたぞ」

 

 積み重ねてきた心労と年齢。そこへ息子であるバルブロ第一王子の惨殺という件も重なり立つこともままならなくなったランポッサ王。療養という名目で姿を隠してはいるがこのまま退位するのであろうことは王派閥、貴族派閥に限らず全ての臣下の暗黙の了解だった。

 まだ正式な儀式や式典を行ったわけではないけれどザナック第二王子の即位は時間の問題であり、諸外国には王が成り代わったと伝えられていてもおかしくは無い現状。

 そんな中、翌日に王国総大将として戦場に赴くザナックは、宮殿の私室で忙殺されそうな書類仕事を妹であるラナーの来訪に止められ、しばしの休憩をとることになった。

 

「戦闘としての適任は戦士長だとは思いますけれど、政治としての戦争ならばお兄様がやるのは当然じゃないですか。違いましたか?」

「違わないが普通はそれを当然とは考えんぞ……なんだ……お前この戦争で王国が()()()()だろう事も分かってるんだろ?」

()()()()のでしょう? 王国貴族の求心力も高められて一石二鳥どころか三鳥なのですからお兄様があの水晶を自らお使いになるのは面白いと思いますよ」

「……俺は全然面白くも無いんだがな」

 

 話題は此度の戦争の要とも言われているアイテム。鑑定の結果『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』を呼び出すことが出来ると判明した水晶についてだ。その結果が主要貴族にも知られたものとなっているのは、ガゼフ・ストロノーフ帰還後頻繁に訪れる賊の存在にも起因するのか、戦場への投入も早い段階から王へ進言されていた。

 盗まれる前に使っちゃえと言う考えではないだろうけれども、魔法に疎い王国貴族でもそれだけの価値がある物だと気づかされたのだ。

 それを仮ではあったとしても王が使うのは表向きに八本指討伐を指揮したことになっているザナックにとっては更なる追い風。王家簒奪ではないかなどと見当違いな陰口をたたく貴族を黙らせることも出来、強い王を内外に知らしめることも出来る。

 

 

 ただこれは想定以上にうまくいった場合の話に他ならない。

 

 

 まず魔法詠唱者でなくても扱えるという事以外不明な点が多すぎるのが難点か。一度きりの召喚であり、召喚時間がどれくらいあるのかも分かっていない。元より呼び出してみなければどんな姿形なのかも想像できない。

 十三英雄の話にも出てくる天使という存在がどんなものかは分かっていないけれど、絵本や絵画の類には大きな翼を生やした人間のような美しい女性が描かれることが多いのだが。

 

「どんな化け物が出てくるのでしょうね」

「……だな。正規兵ならともかくとんでもないものが出てきたら招集された民兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出してもおかしくないな」

 

 お前みたいな容姿の化け物なら混乱は抑えられるだろうけれども、実際に見てみなければ何とも言えない。目の前の化け物を相手にお前が出てきたら俺だけは逃げ出すがなとは思ってても言わないけれど。

 

「それでも一撃……貴族や騎士や民兵が王国が勝ったと思える一撃を放てさえすれば、例年通りの負けたとは言わないだけの引き分けでいいんだ。俺が死んだら帝国との交渉は頼んだぞ」

「……別に生きててもお兄様は私を()()()()の場に連れて行く気ですよね? そんなどうでもいいことより私はモモンガ様一行の行方を調べた方がいいのではと思うのです」

 

「お前、俺今すごい格好良い事言ってるのにどうでもいいはないだろう……」

 

 ザナックの戦争における真意はラナーの掌の上。何をやり遂げようとしているのかは理解していたが、なんで今切なそうな顔になっているのかはさっぱりわかっておらず兄の返答に可愛らしく首をかしげる。

 なんだかんだで傍目には仲のよさそうな兄妹に見えるのに残念極まりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼を受けるとは言ったけど……ロバーだけじゃなくって俺たちもいいのか?」

「えぇ。ヘッケランさんはリーダーとしてだけではなく近接戦闘において類まれなる才能を持っていると聞いてますし、イミーナさんの弓の腕は超一流だとアルシェから伺っていますので」

 

「も、もう。アルシェったら嬉しいけど言い過ぎよ」

「王国で虐げられていた元娼婦たちですか……私に出来るのならそんな方達の為にこの力を使ってみたいですね」

 

 久々にモモンガと護衛の長女ブリュンヒルデが訪れたのは『歌う林檎亭』。戦争直前という事で冒険者のみならずワーカーの仕事も激減しているらしく、いなければ伝言だけでもという心持だったのだが、昼近くにもかかわらず三人に会えたのは僥倖だった。

 なおアルベドたちは一足先にカルネ村へ赴いており、アルシェも妹たちと共に遠足気分で参加している。

 

「アルシェは知らないだろうから聴いてないと思うけど俺たちチームも潮時だったんだよ。あいつが抜ける抜けないに拘わらずイミーナと結婚するならこの家業から足を洗えってロバーに散々言われてたからな。ただもうちょっと貯えが欲しくてヘビーマッシャーのとこの大型チームに籍だけ置かせてもらうかって話をしてたんだ。まあそれでも今の時期は仕事が無いんだがな」

「ちょっとヘッケラン!? そんなの私も今初めて聞いたわよ! け、結婚って……」

 

「私もいずれは小さな村で神官……そんな大層なものではありませんが人々を癒せる仕事をしたいと思っていたのでモモンガさんのお話はとても興味深いです」

「ロバーも私をスルーしないでよ! もう!」

 

 今日から天使の次女である看護師と三女の変態は皇城へと通っている。仮想敵の役割と数日後に戦場へと出立するフールーダと高弟・四騎士・皇室空護兵団の代わりの護衛でもあるのだが、表向きはただの観光という事になっている。

 あの救出劇から一か月以上経っているのもあってか、元娼婦たちは心身ともに回復の兆しを見せており、足の健を切られ歩くこともままならなかった元冒険者の娼婦たちも倉庫の外へ出て運動をすることまでできるようにはなった。それでもたとえ過保護と言われようとも回復要員を数日もカルネ村から離すのは頂けない。

 

「期間は戦争終結まで。帝国騎士が戻ってくるまでになりますから往復で長くても三週間ぐらいでしょうか。依頼料はどれくらいになりますかね? 相場が分からなくって」

「三週間の護衛とリハビリの手伝い。それに戦闘訓練と弓の指導か。期間は長いけど飯も出るうえ危険も無いし金貨一枚でも多いくらいなんだが……それでいいか?」

 

 正直これは仕事でも何でもないボランティアだ。金貨一枚と言えば同じ期間この宿に泊まれるほどの大金ではあるけれども、冒険者であればミスリル級の腕を持つフォーサイトを雇うには値しない。

 それでもあの場所で行われる戦争終結までアンデッドの間引きという常設依頼とも言える仕事すらなく手をこまねいていたのだ。それにアルシェの恩人からの心温まる依頼ともなれば金にがめついヘッケランと言えども高額な請求は出来ない。無償でとは言わないのが彼らしいとも言えるのだが。

 

「あぁ良かった。それと名前は伏せますけどとある方からカルネ村から抜ける二人に給与が出るそうなので半額をお渡ししますね」

 

 三週間後に何故か一日一人一枚相当の金貨63枚と、その給与の半額だという金貨500枚を渡され困惑することになるフォーサイトの三人なのだが、モモンガとヘッケランは朗らかに笑いあい固い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は出来てるとは言ったけど真っ暗な穴に入ったら村に着くなんて信じられんだろ普通……」

「弓を教えるってレイナース様に!? ってかあれなにやっているのよ!?」

「あのご婦人はアルベドさんでしたか……あれ? 今モモンガさんを見つめている間に身体に当たりませんでしたか!?」

 

「モモンガ様ぁ♪」

「アルベド―! おまたせー!」

 

「聞けよ!?」

「聞きなさいよ!?」

「なるほどアルシェの怯えようにようやく合点がいきました……」

 

 カルネ村の広場にあるモモンガたちのテントの近くではレイナースが弓の特訓を受けていた。メイドドレスを着こみ右腕に無骨なガントレットを装備し真っ黒な弓を構えるレイナースが狙う先はアルベドだ。

 まだまだ粗い狙いではあるもののどこに飛ぼうともさっと飛んできた矢を()()()それをアルシェと妹たちに優しく手渡す。

 

「レイナースお姉さま持ってきた!」

「わたしも持ってきた!」

「――汗びっしょりですよ。大丈夫ですか?」

 

 矢先が潰れるのがもったいないと始まった練習は、最初こそ驚いていたアルシェであったけれどこの人たちに常識が通用しないのは今に始まった事ではないと思い立ち、屋敷に籠りきりだった妹たちの運動兼レクリエーションとして楽しんでしまっていた。

 

「はぁはぁ……ありがとう! やっぱりアルベドさんもただ者じゃなかったのですわね……服に当たったのなら納得は出来るのだけどそもそも『飛び道具が無効』ってこういう事だったのね」

 

「どうでありんすか? ペロロンチーノ様」

「う~んやっぱり俺には教えられんなあ……感覚的に撃ってるわけだしどうやっても当たるし。よしモモンガさんも戻ってきたしそろそろ休憩にするか」

 

 ペロロンチーノとシャルティアは監督役。『世界最高峰の弓手でありんす!』と熱弁してくれたもののそれを否定する気は無いけれどレイナースにかけるアドバイスが見つからない。小一時間ほど観察していたけれど良い悪いさえ言えないのは仕方のないところでもあろう。

 モモンガで例えるならリアルで使った事も無い魔法をどう教えると言うのか。ギルメンであるたっち・みーのように警察官であり武道に長けたものであれば違ったのだろうが、ペロロンチーノがリアルで弓を扱った事など皆無であった。

 

「そろそろお昼でありんしたか。『ばーべきゅう』をするのでありんすならエンリたちも呼んでくるでありんす。クククっ……そろそろンフィーレアとどうなっているのか聞いてみるのも面白いでありんすね」

「あはは、そうだな! あのお肉も俺たちじゃ調理できないし頼むとするか」

 

 まさかエンリから『アルベドさんとシャルティアさんにだけですよ……すごく……気持ちいいものだったんですね』なんて返答が帰って来るとは思ってもいなかった二人は内緒にすることを約束するとともに大爆笑であったという。

 なおアルシェと双子にフォーサイトやレイナースといった面々も初めて食べる極上の肉に大満足であったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃帝国皇城にある訓練場では天使たち二人が楽しそうに戯れていた。まあ楽しんでいたのはその二人だけなのだけれど。

 

「ふぁー! ふぁー! もっと♪ もっとよぉおお♪」

 

「ふふっ、それまでよヘルムヴィーゲ。確実にとは言えませんけれど30分切りましたねぇ。ここにご主人様たちに鍛えられたレイナース様を加えれば10分もかからずに済むかもしれませんよ。どうでしたかジル君?」

「ゲルヒルデ殿より華奢で少々不安であったのだがなんとも……た、ただ『ジル君』はむず痒いというかやめていただ」

「もっとお姉さんに甘えていいのよ? おっぱい揉む?」

「なっ!?」

 

 母性溢れるというか巨大な母性の象徴に手を添え、愛くるしく微笑む看護師姿のとんでもない美女に翻弄されるジルクニフ。『鮮血帝』とまで呼ばれる殿上人の頬を赤く染め上げられたのは帝国始まって以来の快挙かもしれない。

 

「へ、陛下は楽しそうだな……いやそうでもないか。次女だとおっしゃられていたゲルヒルデ殿より酷いなあの方は……戦争に行く前に心を折られそうだぜ」

「反撃が無い分三女とおっしゃるヘルムヴィーゲ様の方が楽なのですが……あの高笑いと涎を垂らさんばかりの言葉攻めは心を壊しに来てますよね……」

「……(おっぱい揉む!)」

 

 四騎士を含め弓に長けた近衛たちも地面に仰向けに寝転び肩で息をするほどの地獄絵図。怪我人などはいないのは幸いだけれども大分心を折られかけている。

 一人レイナースの盾になる予定の『不動』ナザミ・エミックは陛下に嫉妬の瞳を向けてはいたが。

 

「……紐だったな。あの大きさだから縄になるのか? どう思う激風?」

「あれパンツなんですか? 何にも隠してなくってアレはちょっとずるいですよね」

 

 疲れもあったのか大分毒され始めてきたニンブルに、整え始めた呼吸を再び荒くして笑うバジウッドだった。




おかしいな……そろそろ闘技場へ遊びに行ってエルヤー君が残念なことになる展開があってもいいはずなのに全然進まないw

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