一行は目的の集落が目視確認できた段階で地上に降り、例のロールプレイを開始したのだが、ちょっとしたハプニングというか事前練習になってしまったというか。
とにもかくにも大の字になって倒れこむ男性陣がそこにいた。
「あれはだめ……あれはダメですって……」
「見つけた瞬間心臓がキュッってなったよ……とっさに弓出しちゃったし……怖かったあ」
なお接戦とかそんな事はあり得ず瞬殺。両者、騎士だ宮廷魔導士だなんて言っていたのにもかかわらず、魔法と弓でオーバーキルである。
「こないだペロロンチーノさんがあんなエロゲ貸してくるから……」
「それな……オークはダメだよな……」
ものすごいくだらない理由であった。
なお、女性陣はなんで倒れこんでいるのかさっぱりわからないものの、あまりにも素早い対応に自身の伴侶の強さを再確認し興奮に震えている。
「み、見えたでありんすかアルベド!? すごい! すごすぎるでありんす!」
「弱いモンスターの反応はわかってたのよ? でもどんな姿かたちかは確認する暇もなかったわぁ。この分ではモンスターの死骸すら残っていないのでは……やはり私たちの旦那様は最強ね!」
結果オーライであった。
●
カルネ村の少女、エンリ・エモットの今日の最後の仕事は小麦畑の見回りだ。これは持ち回りの役目なのだが、村共有の畑はそろそろ実りが目に見えるようになり、妹のネムと一緒に夕暮れ時の畑を見回るこの作業は、エンリの一番好きな仕事でもあった。
「もうすぐオレンジ色になるね! お姉ちゃん!」
「そうね。今日も問題無さそうかな」
なんて妹の言葉にそっけなく答えるエンリであったが、その表情はにこやかだ。自分もこの小麦畑が夕陽で染まる美しさが大好きであるからなのだが。
今日も畑は何事も無く仕事も終わり。畑の最端から自宅へ戻る頃のあぜ道はさぞ綺麗だろうなと思いを馳せながらゆっくりと歩いていると、唐突に馬の蹄がたてるような音が聞こえてくる。
「お、おねえちゃん、あれ……」
「ね、ネム! 下がって!」
それはまるでおとぎ話のような光景であった。
まず一番に目立つであろう大きくて凶悪そうで、それが馬であるのか不審に思うほどの騎馬がまったく目に入らない程の美しい女性が二人。
黒髪の真っ白なドレスを着た涼やかに微笑む女性が、少し小さな同じく
両脇に控えるのは軽装鎧に身を包んだ騎士というよりは傭兵のような出で立ちであるものの、優しげな、そして親しみやすそうな笑顔を浮かべる青年と、精悍な顔つきをしながらも、いたずらっ子のように微笑む美少年。
エンリたちの数十歩前で立ち止まった一団の中から、青年が数歩だけ前に出て声をかけてくる。
「はじめましてお嬢さん、私はモモンガという者です。決して怪しい者ではありません。できれば安全の為に一晩この村に滞在させていただきたいのですが……あ、あれ? 言葉は通じているかな?」
冒険者とは違う。エ・ランテルで見たことがある兵隊さん達とも明らかに違う。強いて言うなら貴族のお姫様と従者といったところであろうが、目線を合わせるように片膝をつくその素振りに偉そうな態度は一切見られない。
頬を夕陽に染められたせいかどうか真っ赤に染めながら呆けていたエンリであったが、その優しげな声を聴いてさらに顔を赤くしながら我に返る。
「あ! はい! ちょっと……あの! すぐに大人を呼んできますので!」
「良かった~言葉通じて! あ、ここから入らない方がいいなら待ってますので! よろしくお願いしますね」
あまりにも丁寧すぎる物言いにズッコケてしまいそうなエンリであったが、妹の腕をつかんで黄金色の畑をつっぱしるのであった。
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「お、覚えきれないでありんす! メモを! メモの許可をお願いするでありんす!」
「シャルティア無駄だわ……最後に『その場その場で内容が変わったりもするから臨機応変に』と言われてしまえばどうしようもないもの。ふふっ」
アルベドもシャルティアも困っているような素振りをしながらも、時折出てしまう笑顔は隠せない。
初戦をあっけなく乗り切った一行は、それではと装備の変更を開始した。
ペロロンチーノはレベリングの中盤に使用していたバンデット・メイルに換装。魔法使い初期セットはレベルが低く、シャルティアのクラス、カースドナイトのペナルティの影響で装備が破壊されてしまうことを察し、触れ合えないことに我慢ならなくなりこうなった。
モモンガは剣士の初期セットにしたのだが、ペロロンチーノと並ぶと低級すぎて違和感が多く、クリエイト・グレーターアイテムで同じようなバンデット・メイルに換装した。
なお、初めて使った<
あの三カ月のレベリング作業では必要な魔法しか取っていなかったのだが、この世界でペロロンチーノに連絡をしようと思った際に取得出来てしまったのだ。
頭の中でどのレベルの魔法が取れるかなどが理解できたモモンガは、この世界で楽しく暮らせるために必要な魔法を取っていこうと考えていたりもする。
アルベドは普段着ではあるが白いドレスを纏っている。もちろんウェディングドレスを筆頭に数々の衣装をアイテムボックスに詰め込まれていたのだが、防御力の観点から今回は残念ながら見送られた。
シャルティアは逆に先述のカースドナイトのペナルティにより弱い装備を身に付けられなかったため、もとより高レベルな衣装を多数買い与えられていたというのもあり選び放題。
もちろんこれはモモンガが詰め込んでおいたアルベドの衣装の見た目が劣っているというわけではなく、あくまでも戦闘装備としては不向きという事だ。
そしてシャルティアがアルベドを見て選んだのは真っ白なドレス。ついでにと皆の顔を見直して若干茶色かかった黒髪に染めている。
「妾だけ銀髪では違和感がありんすから」
「なんだか可愛いわねシャルティア!」
「あぁ! 結構新鮮だな、可愛いぞ!」
「あぁああああああ! かわいぃいいいいい!! くそぉおおお! 抱きしめたら止まらなくなりそうで出来ないぃいい!!」
1人悶絶していたが装備に関しては以上である。
そして姫を連れているんだから馬車だよな、なんて移動手段の話になったのだが馬車どころか馬すらいない。ナザリックに戻れればなんとかなるものの、その手の装備は現状皆無。
シャルティアが<サモンモンスター・10th>を使おうかと申し出るが、出せる怪物の容姿を思い出し嫌な予感しかしないのでと却下される。
モモンガが魔法で何とかできないかななんて考えていると、アルベドから自身の騎獣を召喚しようとの提案があり呼び出してみることにした。
「黒王号だな」
「角が生えた黒王号だね。これはありなんじゃない? 二人乗りは出来るのかなアルベド?」
「なにぶん呼び出したのは初めてなものですが、可能だと思いますよペロロンチーノ様。あ、あとバイコーンです」
「へぇ~結構強そうでありんすなぁ」
二人にまたがらせてみると難なく乗れてしまう。なんだか馬も嬉しそうだし、大人しそうな感じだしと決定することになった。なお、
「つまり道中で馬車は壊れたんだろうな……戦火の中追手を掻い潜りボロボロの馬車でひた走る。そして前方には進むしかない大森林」
「そんな悲壮感が漂う中、姫たちを馬に乗せ換えて迫りくる魔獣たちにも一歩も引かず護り抜いたんだねぇ俺たちは。そしてなんとか森を抜けた先に出たのはあの村だったわけだ」
「え、もう始まってるでありんすか!?」
「大丈夫です。ま、まだ付いて行けてます!」
唐突に彼らが追ったらしい波乱万丈のストーリーが語られ始めるのだが、所謂カバーストーリーも出来上がり、日が暮れる前にと村へ急ぐことになったのだった。
…………
……
…
「うははは! そりゃこんな美人だもんな! モモンガ殿も手を出しちゃうわなぁ!」
「うーん即効バレたなあ。実はこの子、妻なんです! あははは!」
「俺は健全なお付き合いをしているのだぜ!」
「嘘を付けペロロン君! ワシの村長としての目はごまかしきれんぞ!」
「すいません。この子、妻なんです! わははは!」
「……」
「……」
「ごめんねぇ。いやぁこんな娯楽の無い寒村だからねぇ、お嬢さんたちみたいな美人さんが来てくれてうちの人らはしゃいじゃって! 後でエモットの嫁にも言いつけとかなきゃ」
先ほどまでの設定はなんだったのか。カルネ村、村長宅では小さな宴会が開かれている。
もちろん最初からこうだったわけではないし、姫と従者の立ち位置はキープしている。
エンリに呼び出された父親は初対面では驚いていたものの、村長宅へ案内する間に垣間見ていた親し気な雰囲気と絡めあう指に斜め上に状況を察していた。
対面した村長夫妻も、これはどこぞの貴族のご令嬢かと驚いたものだが、どうにも主導しているのは護衛とみられる男性陣であると察し、熱を帯びた瞳でその男性たちを見つめ続ける仕草などに、ああこれは恋仲かと察してしまったのであった。
「おばちゃんがからかったったせいよね! ホントごめんねぇ」
まぁ極めつけはそれを指摘してしまった村長婦人の言葉からなのだが、モモンガたち男性陣にとっては違和感なく受け入れてもらえれば設定なんてどうでもいいとすら思っていたのでそれは問題ないのだが。
「うー……頑張って覚えたでありんすのに」
「うふふ、まぁ良いじゃないの。それで奥方様、次の質問なのですが」
「もうやめておくれよぅ、おばちゃんでいいですから、あははは」
この光景にちょっと不思議だなぁと考えるシャルティアがいたりする。
自身もそうだがアルベドも人間種に対して問題なく演技が出来ているのが不思議だなあと。考えてみれば旦那様が人間種であるのだから、それも当然なのかなあなんて。
実際アルベドは守護者統括の任を現在強制的に外されているのだから、長文で書きこまれた設定が少し機能していないのは確かだ。
ナザリックが不明であり人妻になっているのだから。
両者とも多少のヘイトはあるのだろうが、余裕で抑えられる程度に収まっているこの現状はモモンガ・ペロロンチーノにとっても良い事であるようにも思えるし、これはこれで楽しいかもしれないなあと考えるシャルティアであったのだが、
「でもうちの娘も残念だったなぁ。あれは完全に惚れたような瞳をしていたが……ンフィーレア君が報われないぞ……」
「その話詳しく!」
「ちょっとペロロンチーノ! エモットさんもそんなわけないですって!」
「ふふっ、あの娘ですか……まるで王子様のようなシチュエーションでしたものねモモンガ様?」
ヒュッと場に冷気があふれ出る。はっきりいってモモンガ様の慈愛の心は半端ではない。ペロロンチーノ様が戻られなければモモンガ様にこの身をと考えていた自分を否定できない。
あの小娘がやられてしまうのも頷けるというものだ。
なんて考えながらやっぱりコイツあんまり変わってないのかな、なんてことを同時に考えつつアルベドの暴走を抑えに奔走するシャルティアであった。
後にオリキャラ的なモブが出てくるのですが、直近小説に似たネタを見つけてしまって涙目;; 二次創作だし同じこと考えてる人もいるんだなーとw