鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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38 夕食会と就職説明会

 時刻は夕暮れ時。モモンガたちの望む通りの派手ではない食事会が始まろうとしているのだがジルクニフの顔色はすぐれない。もっと豪華な歓迎の宴を準備するべきだった。皇城の料理人が手を抜くことは無いだろうが最高のものを用意しろと厳命しておくべきだったと。

 

「やはり私は立って」

「座っとけ激風。陛下とモモンガ様たちの好意だ。癒してもらったとはいえ疲労は抜けてねぇんだから。それにこの席に座ってることの意味を考えろ」

 

 長いテーブル席の上座にジルクニフ。そこまではいいのだが後ろに控える予定であった四騎士のうち二人はジルクニフに一番近い左右の席に座っている。

 本来の席順ではそこにモモンガとペロロンチーノが来るはずであったが『せっかく奮闘して頂いたのですからご一緒に』と言われたならば応えないわけにはいかないわけで、護衛としての立場を考えたらそこしかないのだ。力を見せつけられた今となっては護衛の意味など無いのは承知ではあるけれど、会話の都合上こちら側に居てもらわなければならず、非公式とは言え会食マナーもあったものでは無い。

 主催として席順ですら段取り悪くなってしまったことに申し訳ない気持ちになってしまうジルクニフの気持ちも分かるというものだ。

 

「ご主人様。あの……」

「ん? そろそろ時間か? 天井突き破っちゃうことは無いよな?」

 

 また何かトラブルだろうかと、こちらも護衛というより今回の殊勲者である女性が席に座り、その主に問いかけるのを思わず見つめてしまう。

 先ほどまでの戦闘が嘘であったかのようにニコニコと笑顔の美しい女性であったが、困ったように眉を寄せる仕草に不安を覚え室内を見回してフールーダを探すジルクニフであったのだが、

 

「おじいちゃんがテーブルの下で私の靴をペロペロ舐めているんですけどどうしましょう」

「えぇぇ、うわっホントだ!? こわっ!? ジルさんおじいさんご乱心です!」

「爺ぃいいい!?」

 

 四騎士は疲労で動けずナザミに至っては命に別状は無いがまだ意識が戻らないのでこの場にはおらず、他の近衛が何とか引きずり出し椅子に縛り付ける。

 このハプニングのどさくさに紛れて召喚限界の次女はこの場から消えていたりするのだが、そのせいで顔を蒼褪めさせて大人しくなるフールーダより、この世の終わりのような顔をするジルクニフの方が可哀そうだったと後にモモンガが語っていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国の最高権力者である立場から頭を下げたい気持ちをぐっと抑え謝罪を述べる皇帝の顔には申し訳なさがにじみ出ており、当の本人であるフールーダは縛られた椅子ごと頭を床にこすりつけて、『け、決して不快にさせるつもりでは』と、なんとも器用に謝罪の姿勢を取っていた。

 フールーダをこの部屋から引きずり出さないのはモモンガ個人が話を聞いてみたいとジルクニフに伝えていたからで、それが無ければ今頃は地下牢であったかもしれない。

 

「あの娘たちは悪意には敏感ですけどあの様子なら気にしていないでしょうから大丈夫ですよ。今いないのはちょっと用事を申し付けて帰らせただけですから」

 

 力を隠す気などさらさらないモモンガであってもアレを召喚したのが自分だと伝えてしまったら、ペロペロされる対象が自分に変わるかもしれないと誤魔化す。考えると鳥肌が立ってくるので無心だ。

 

「そうもいかない。このあと必ず懲罰委員会にかけそれ相応の罰は与えるつもりだ。ただフールーダにもこの場にいてもらわないとこちらも話が進まないので許してほしい」

 

 多少の(?)トラブルはあったけれども前菜が運び込まれモモンガやペロロンチーノが笑顔を見せてくれて一段落。ジルクニフにしてももはや策を弄する状況ではなくホストとして真摯に対応している。

 

「あぁおじいさん。次女からの伝言で最後に見せたのが第八位階の魔法だそうですよ。約束したから教えておいてくれと言われていたので」

「お、おぉ! やはりそうでございましたか! ありがとうございます!」

 

 その態勢はきついだろうと起こされジルクニフの後ろで椅子に縛られたままのフールーダに声をかけるモモンガ。主菜のパスタと肉料理が運び込まれご満悦であったのだが、忘れないうちにとそれを伝える。

 

「第八位階……モモンガ殿たちの傭兵団はとんでもないな……」

 

 魔力系第六位階を使えるフールーダが帝国軍全てを相手に出来るというのに、それを越える者がただの従者であるのだ。正直今落ち着いて話をしている場合では無いのではないかと思うが、努めて余裕ある態度で感心するジルクニフ。いやなんかもう感覚がマヒしているのかもしれない。

 

「肉料理よりパスタの方が新鮮でありんすね。あとで作り方を教えて欲しいでありんす」

「そうね。麺類にはまだ挑戦していなかったから興味があるわ。あぁそれとだけどあの娘は特殊だからあまり気にしない方がいいわよ」

 

 特殊と言われてもジルクニフには理解が出来ない。言外にあの娘が一番強い存在で他は大したことが無いのだろうかと思案するのだが、その思いも粉々にされる。

 

「九姉妹の上から三人は特殊なんだっけモモンガさん?」

「はい、指揮役・支援・タンクですね、純粋な攻撃職ではないです。四・五・六女は前衛職で七・八・九女が後衛職だそうです。ただ九女は一人だけ幼いしかなりおかしな存在なんですけどね」

 

「そういえばなんで四女をとばして五女がこちらにいるのかしら」

「……言いたくないのでありんすが四女と六女はペロロンチーノ様ガチ勢なんでありんす」

「ふふっ。ハーレム推奨とか言ってた癖にシャルティアったら……え、まって? それじゃほかの娘はモモンガ様ガチ勢なの!? でも五女はおっさん趣味だって」

「根本的に全員モモンガ様大好きでありんすよ? ただ以前長女があの二人を焚きつけたせいで(五話参照)ガチで狙いに来ているのでありんす」

「誰が一番危険なのか分かったわ……」

 

 そんな会話から傭兵団が九姉妹である真実と、先ほどの女性が戦力に数えられていない事。ついでに全員が主人を敬愛しているらしいという関係性までうかがえてしまう。

 

「モモンガ様。俺らがやり合うかもしれない敵はあのお嬢さんより強いんですかい? いや違う……本来の敵との詳しい違いを教えてもらえねぇですか」

「そうですね……事前に言ったように大きさと飛ぶ高度。体力と速度もあの娘(公式天使)なら見誤ることは無いでしょうしそれほど違いは無いです。ただ本来なら小規模範囲の攻撃魔法を撃つんですよ」

「魔法ですか。詳しくお願いします」

 

 バジウッドの指摘は正しい。力を過大に見せつけているわけでもなくフールーダと四騎士を足しても一人の女性に届かないのだ。これ以上彼らの強さを探るのは意味が無いと戦争に目を向けているのがわかる。

 その方面はバジウッドとニンブルに任せ、彼らの語らいが終わるのを待ってから本題に入ろうとするジルクニフ。

 ただ後ろでぶつぶつと『九姉妹……やはり十三英雄の末裔という事か?』などと衝撃的な事を口走るフールーダは後で問い詰めなければと考えながら。

 

「モモンガ殿、ペロロンチーノ殿。答えは分かるのだが確認の意味を込めて問おう……()()()()()()()()は無いのだな」

「はい。私たちに出来るのは先ほどの模擬戦までが限界です。即死の危険性を理解しながらレイナースさんが参戦するなら、個人的には彼女にのみ支援をしようとは思いますが」

「どっちかに加担することはないですね。肩入れしちゃった気もしますけど」

 

 ジルクニフの当初の目的はモモンガたちを帝国に引き入れること。ただそれも王国の王の代替わりを含む不穏な動静と間近に迫った戦争を考えて、後回しでも構わないので顔を合わせ親交を深められればそれで十分だった。

 勿論策を巡らし可能ならすぐにでも引き込むつもりではあったのだが、予想を超えた危険性……絶対に敵対してはいけない存在だと知ることが出来てしまった。

 

 なら首を垂れてその力を借りるのか。膨大な対価を以って臣下に加えるのか。

 帝国と王国を同時に相手に出来る勢力を臣下に? その戦力が忠誠を誓う相手が皇帝(自分)ではないというのにか?

 

「結構! その言が聞ければ良し。ただ……戦争は慣れたものだが戦闘には疎いのだ。後ろのフールーダを含むこの者達に攻略の糸口を指南してくれないだろうか……頼む」

 

 そう言って毅然とした態度で、この世に生まれて初めてかもしれない深々とした礼を取る。

 

 誰もが口をぽっかりと開けて驚くような光景であったのだが、ただ二人の人外はそれは面白そうに微笑んでしまう。

 

「ただ中途半端に賢いだけかと思ったら……あなた格好良いじゃない」

「てっきりあの娘たちの力を貸せと言われるのかと思っていんしたが……おんし嫌いじゃないでありんすよ」

 

 失礼を通り越して無礼とも言えるような言動に誰も異を唱えないのはその常軌を逸した美しさゆえだったのかもしれないが、誰もが皇帝の礼を好ましく思っている中、最悪は別の方向からやってくる。

 

「若くてイケメンで賢くて、その上男気がある皇帝で……アルベドが私から離れていってしまう……」

「困ったわ……勝てんぞ無職だし……」

 

 嫁大好きが天元突破しているバカとも言える二人が黒いオーラを垂れ流し、見当違いの嫉妬を皇帝に叩きつける。

 幸いなことにすぐさま手を取り嫉妬してくれたのが意外と嬉しいのか優しい笑顔で『ありえませんから』と答える嫁たちのおかげで事なきを得ることができ、精神耐性のネックレスを身に着け下を向いていたジルクニフはそれに気づくことはなかった。

 ただそれを向けられた方向にいたバジウッド、ニンブル、フールーダの三人は脂汗を浮かべて気絶寸前だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私が魔法省に!?」

「復学したいというならそれもいいだろう。だがすでに第三位階を行使できるお前に教える者などおらんぞ? 同じ位階を使えない者がいないわけではないが、それは教師の中ではだ。最終的に魔法省に勤めようというなら今からでも構わんぞという話じゃな」

 

 会食を終え食後の飲み物を頂きながら、話題はアルシェの進路とモモンガの質問へと移る。この長いテーブル席では会話がしづらいというのもあって、最初の部屋に戻ってきている。

 ジルクニフ、フールーダとソファで相対するのはモモンガの他にアルシェとレイナース。他の者たちはペロロンチーノを中心にして別席で『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』対策会議を行っている。

 

「悪い話ではないのではないかしら? 少し驚いたけどクソじじいにしてはいい提案だと思いますよ」

「そうだな。それでクソじい。モモンガ殿の質問には答えられるのか?」

「お前たち容赦がないのう!?」

 

 完全に自業自得なのだがフールーダの扱いはこの場では地に落ちている。次女がいないせいで完全に素に戻っているものの周囲の目は冷たかったり。

 

「モモンガ君が()()()()()()()()()というならこれも魔法省じゃな。学院は基本的に魔力系魔法全般を教えている。太平の世なら生活魔法こそが人生において重要とは思うのだがままならんの。まぁ両方とも戦後の話にはなるだろうが魔力系魔法が使えないお主には少し厳しいかもしれんぞ?」

「それでかまいませんので是非お願いしたいです!」

 

 この世界には自分たちの知らない不可思議な魔法がある。手から塩や香辛料を生み出したり、紙を作り出したり。指先に小さな火種を作ったり、お皿の上の食べ物を温めたり。そのうえ新たな魔法を作り出す者までいるという。

 ユグドラシルにおいてレベル100魔法詠唱者の取得魔法数上限は300個。課金やゲーム時代のモモンガのように儀式によって取得魔法数を増やすことも出来るけれど、今のモモンガでは300に届かないのが現状だ。

 このルールが覆らないであろうとは思う反面、数々の仕様の変化を知ってしまうと試してみたいという気持ちが湧いてくるのだ。

 

「それとアルシェさ……アルシェの就職の件ですけれど」

 

 ここからがモモンガの戦いだった。ガゼフ戦士長とかいう特異な例を知ってしまったので、国に仕えることになるかもしれないアルシェを気遣ってか、細かい労働状況を根掘り葉掘り訊ねていく。

 ブラック企業勤めだった自分と同じ目に合わせてやるものかという使命感すら纏い、出される条件に首を振りつつ改革案まであげていく。

 

「私も12のころから働いておりましたが16といえばまだまだ子供です。体力的にも・・・」

「この年で第三位階と言えば有望ですよね。将来はきっと・・・」

「それに若くて可愛いじゃないですか。そんな娘がスゴイんだぞって知れば現場の・・・」

 

 教師然とはしているものの、こういった話には疎いフールーダは流されるままに納得し、ほぼすべての案を了承していく。もちろん負い目もあり最初からどんな条件でも飲むつもりではあったのだが、気押された感の方が強い。

 ジルクニフは面白いものを見たという表情を見せつつも、交渉人としてのモモンガの弁舌に感心していたりして。

 レイナースもモモンガの新たなる一面を知り驚きを隠せない。少し格好いいですわなんて感謝こそすれど今まで思ってもいなかった気持ちが芽吹き始める。

 

 そしてアルシェも年上の男性に初めて「可愛い」と言われたことに頬を染めつつ、それ以上に自分の両親に幼いころは受けていたであろう同じような温かさを感じてしまう。出会って数日しか経っていないというのに自分のアピールポイントがどれだけ出てくるのだろうと感心してしまい、それだけよく見ていてくれているのだと嬉しくもなってしまう。

 極めつけは自分を気遣ってか『魔法が使えない者』との評価を涼しい顔で受け止め、隠蔽のアクセサリーを外さない優しさに胸の内が温かくなる。

 

 まあ、自分がぺロペロされたくないが故の勘違いでしかないのだが、何故か好感度はうなぎのぼりだったり。

 

 

 

 

 なお別席から凍えるような視線を放つアルベドに二人の女性はまだ気づいてはいない。勿論対策会議は順調に進んではいたのだが、

 

「そういえばバジウッドさん看護師のパンツ何色だった?」

「赤でしたよペロロンさん……上が紫で下が赤とかうちの妻たちのようなリアルさが生々しくて正気を保つのが大変でしたぜ。なあ激風」

「わ、私に振らないでください!」

 

「うわぁエロっ」

「なるほど……色を揃えればいいというわけでもないのでありんすね、勉強になりんす」

 

 変態二人と、妻と愛人を何人も抱えるバジウッドのせいで度々脱線してしまうのはご愛敬だったり。

 




新刊読み終わったら投稿しようと思ってたら遅くなった。すまんのw

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