鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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37 使徒、襲来

「あいつはなにがやりたかったんでありんすか?」

「……行動自体はアレだけど、驚くべきことよ。必要ないけど彼女たちの武器防具をはぎ取ることも出来るし、逆に私たちの武器を彼女たちに渡して強化なんてことも可能になる。モモンガ様たちがよく言っていらっしゃる『この世界の仕様』ってことね。召喚……いえそれだけじゃなくてシャルティアのエインヘリヤルだって仕様が変わっているかもしれないわ」

「そういえば一緒に全裸になってヌルヌルになりんした」

「……脱げてるじゃない。後で詳しく話してよね」

 

 うん、聞こえてるからね。もう少し小さい声で話すように。でも確かにここにナザリックがあったとして、自動ポップするオールドガーダーあたりから武器防具をはぎ取れれば資源調達など永久機関だろう。

 元世界で出来ていたことがこの世界で出来ない。ゲームで出来なかったことがこのリアル世界で出来るようになっている。告知の無い仕様変更には困ったものだが、彼女も何の気なしに触れたボタンをいじったらはずれてしまったというだけで、出来るとすら思っていなかったのはわかる。

 色々考えることはあるけれどこの雰囲気を作り出してくれた偶然に感謝し、男達の話の輪に交じっていくモモンガであった。

 

「いやあれはもう暴力でさあ……あの瞬間に間者が現れたら下手を打ってたかもしれませんぜ。なあ激風」

「否定できません……」

「確かにな……アレはモモンガ殿の策なのか?」

「モモンガさんおっぱい星人だからね、仕方がないね」

 

「そんなわけあるか!? あっ、いやもう取り繕うことも無いか……ホントすいません。彼女も悪気があったわけじゃないんで」

 

 そう、こうやって普通に会話が出来るのはありがたい。そもそも村長から始まりギルド長、商会長、戦士長。アダマンタイト級冒険者に、四騎士などなど。偉ぶる人がいなかったのもその理由だけれど、皇帝にだけ態度を変えてもしょうがない。

 アルシェの件で敬う気持ちはあるけれど、その役職に過剰になりすぎたかといつもの自分たちらしく言葉を崩していく。まあ元からモモンガは敬語がデフォではあるのだけれど。

 

 なおこの隙を突いたのかはしれないが枯れた老人は同室内の別席にアルシェと次女を招きつつ何やら話をしている。レイナースが鬼のような形相で同席し見張っているので安全でもあるが怖かったりもする。

 

「謝罪は承りましたけどそれだけじゃないんですよね?」

「レイナースさんからある程度聞いちゃったけどたぶん応えられんぞ」

 

 嫁の幸せの為に仕事をしなければという思いはあるものの、この国のために働こうという意識はまだない。オフレコの話を嬉々として話してくれるレイナースの言葉から、傭兵団という意識が皇帝にあるなら戦争に駆り立てられることもあるはずだとペロロンチーノは最初からやんわりと否定の言葉を口にする。

 

「あはは、四騎士の忠誠心もあったものではないな、誰に仕えているのやら。どう思うバジウッド」

「そりゃぁ陛下が悪い。それも込みであいつを四騎士に引き入れたんですから。大丈夫ですぜ俺らの忠誠は本物ですよ」

「それは心強い。だがそれは自分で言うものでは無いのではないか? あぁペロロンチーノ殿の心配には及ばないさ。こちらもレイナースから聴かされているので君たちに無理を通すことはしないと約束しよう」

 

 余裕とも言える笑みを持った返しに驚くとともに安堵するモモンガとペロロンチーノ。アルベドとシャルティアも優し気な笑みを持って答えるが瞳の奥は冷淡だ。今の所その本心は誰にも読めない。

 

「そもそもこちらも戦争を控えている身。()()()()()()()()との初めての戦になるわけだ。モモンガ殿たちををこの国に引き入れたいのは山々だが、今はそうも言っていられないのでな」

 

 モモンガたちが知るところではないし知ったこっちゃない事ではあるのだが、数日前にリ・エスティーゼ王国の王は退位し第二王子ザナックが即位していた。戦争を通達されたばかりだというのにだ。

 なお王宮の一室にて隔離されていた第一王子は何者かにバラバラにされて殺され、縛られていた紐を奪われ『ウェヒヒ』と笑う声だけを残して消えていたことまではジルクニフは知らない。その間諜が()()()()()()()()()()()()()()()()に雇われ帝国に潜んでいることも。

 

「貴君らが無視できない存在であり動向が読めない以上、まずは親交を深めておきたいのだ。ナザミの件にしても知っておき」

 

 

 

「使う気でございますね」

「ふ、ふむ……アルベドが言うのなら間違いないか」

 

 

 

 皇帝の言葉を遮り真剣な表情でモモンガを見つめて言葉を紡ぐアルベド。最愛の妻がこの国の最高権力者に礼を欠いてまで……いやそんな事など露ほども気にしてはいないだろうけれど、そこまでされてしまえば例えモモンガでも気づいてしまう。()()()()()()()()()()()()ヤバイんだなってことを。

 

 つい空気を読んで魔王モードで受け答えしてしまったが静まり返った室内で瞳を閉じ、全力思案中であるのは察してほしい。好きな女性にいいところを見せたいのは既婚者であろうとも変わらないのだから。

 

(使うってなんだ……戦争の事だよな? 王様が変わったことに関係するのか? 戦争は毎年消耗戦で王国の国力を削っているって聞いているけど今回は違うって事か? いや違う。アルベドはそんなことではあの表情にはならない。どっちが勝とうが負けようが失礼な話自分たちの暮らしに影響しなければどうでもいい話でもあるのだ。使う……つかう……)

 

「レイナースも戦に出るのでありんすよね? 短い付き合いになってしまうのは惜しいでありんす」

 

 シャルティアはお馬鹿キャラではあるけれども、それは設定によるものだ。洞察力や直観力などはなかなかのものだと家族全員が理解している。

 そのシャルティアの言葉でモモンガにもそしてペロロンチーノにも()()()()()だと気づくことが出来た。

 

「魔封じの水晶……レイナースさんでは対抗できないか……」

 

 なんとか正解にたどり着くモモンガ。この世界において異形種のアルベドやシャルティアが手を出さないと決めた人々は嬉しいことにかなりの数に上るけれども、その存在を良しと認めた人物は限りなく少ない。

 

 エンリの母・ガゼフ邸の老婆・蒼の薔薇のイビルアイなど。そして……レイナースもここに入るのだろう。

 

 なるほどそう考えるとアルベドが述べた短い言葉の本当の意味が理解できてくる。王が変わった事に理由があるのだろうが、王国は次の戦争で確実な勝利を収めようとしているのだと。消耗戦などではなく打撃を与えようとしているのだと。

 水晶に入れられていた『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』。第七位階を使えるあの天使のレベルはいくつであったか。気にするようなMobではなかったので詳しくは覚えてはいないけれどその魔法が限界ならばLv50から60といったところだろうか。帝国最強の騎士であってもレイナース程度では瞬殺されるだろう。

 

 話題が自身の事だと察したのかレイナースを含めた別席の者たちも固唾を飲んでモモンガたちを見つめている。

 ただ一人言葉を遮られたジルクニフは口を閉ざしてなどいられない。

 

「……王国になにがしかのアイテムが渡っていて帝国が敗れると言うのか?」

 

 一言二言の言葉からここまで正確に事態を察するジルクニフに目を見開いて驚いてしまうモモンガ。聴いていた通りの頭のいい人なんだなあと。

 

「話しちゃってもいいんじゃない? モモンガさん」

「関わる気さえなかったんですが、巡り巡って自分たちの行動でレイナースさんが危険に晒されるなら話は別ですね。助けたい人は助けたいですから」

 

 もう俺たちは何をやっているんだよと自分たちの行動に呆れたように眉間にしわを作り深いため息を放つ二人。何度も厄介ごとに巻き込まれているけれどスケールがどんどん大きくなるなと苦笑してしまう。

 

「カルネ村の事は知っているんですよね。そこであったことなんですが」

「ついでだから試してもらってもいいんじゃね?」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁー! ふぁー!」

 

「あいつはなんでファーファー言ってるんだ?」

「ラミエルの鳴き声だそうです。私もよくわかりませんが製作者の趣味が反映されてるんじゃないんですかね」

「で、でかいな……それに飛べるのか……」

 

 先ほどの帝国騎士が訓練をしていた広場にはニコニコ笑顔の巨大な戦乙女が浮かんでいた。同じモンスターを召喚できるわけではないので、次女が仮想敵の役割をしていたりする。

 <巨人化(エンラージ・パースン)>により大きさを補正し、同じくらいの高さを飛んでもらっていると説明したけれどジルクニフだけが言葉を返せたのみ。他の騎士や近衛は口をぽっかりと開けてそれを見つめることしかできない。

 

 皇帝に詳しく説明し『相手方にフールーダがいるという認識でいいのか?』などと戦闘には疎い身でありながら脅威を理解してくれたけれど、それだけでは伝わりにくいので模擬戦を提案してみたのだ。

 何の裏表もない厚意であることもわかり、ついでに言えばモモンガたちの力の一端を知る機会でもあると快諾したジルクニフではあったが、今は冷や汗しか出てこない。

 

 相対するのはフールーダと四騎士。説明の段階から目を爛々と輝かせ身を乗り出してきた妖怪を誰も止められず、復活したナザミを含む四騎士も参加することになったけれど飛行体だとは知らなかったので地上で構えるのみ。

 実質フールーダ対次女の一騎打ちのようになってしまっている。

 なお何故ここまでフールーダが乗り気なのかと言うと、戦闘時に高位階の新たな魔法が見れるかもしれないという期待と、『私に勝てたら先ほどの質問に答えて上げますね』という言葉に食いついたからだったり。

 

「ご主人様! 私<善なる極撃(ホーリースマイト)>撃てませんけどー!」

「それはしょうがない! メイス主体で頼むよ! それじゃ、あー……ジルさん始めますよ」

「あ、あぁ」

 

 自分がそう呼べといった事ではあるけれど、この絶大な力を持つ者達の主にそう対等に呼んでくれるのを嬉しく思いながら(名前が長すぎてそこしか覚えていなかったからなのだが)離れた場所からその戦闘訓練を見守る。いや、さながら龍退治(ドラゴンスレイ)とでも言った方がよいのではないか。

 

「ふぁー! ふぁー!」

 

 あの巨体でフールーダが放つ火の玉を避けず、受け止めたり弾き落したりしながらゆっくりと近づいて行く様は恐怖としか呼べない。いや違う、避けないのは周りへの被害を考えての事か。

 

「なにをしているんでありんすかおんしらは!」

「飛べないなら弓を使いなさい!」

 

 美しい女性陣たちから檄が飛び、慌てたように予備武器である弓で攻撃を始めるレイナース。二枚楯のナザミは除くが他の二人はさすがに躊躇してしまう。

 

「弓も様になってるじゃない」

「レイナースはわしが育てた。でありんす」

 

 持つことさえ叶わなかった弓で次々と次女に直撃させていくが「カン!」という音とともに弾かれるだけ。それでもその強弓はなかなかのものである。

 

「あなたたちも! あの人たちは次元が違うの! 手加減なんて考えてはなりませんわ! ベストを尽くしなさい!」

「お、おう!」

「わ、わかりました!」

 

「(可憐だ……)」

 

 一人のぼせるような表情で天使を見つめていた大男は、次の瞬間死の恐怖を感じて必死に楯をかまえるのだが、大木のようなメイスの掬うような一撃で数十メートルほど吹き飛ばされて気絶した。

 

「……あれで手加減してくれているのよ」

「全力だ! 激風! とにかく全力で動き回れ!!」

「はいっ!!」

 

 防御全振りでアレなら自分たちでは即死ではないか。息も絶え絶えになりながら走り回り、矢を撃ち込んでいく三人。仮想敵のダメージは皆無なのだが、本来の敵のダメージ判定で計算してみるそうで意味のない行動ではないのだ。それにフールーダのための牽制にもなる。

 

 約一時間ほど続いた怪獣大戦争は次女のストップという言葉と空を真っ赤に染める信仰系第八位階魔法<炎の嵐(ファイア・ストーム)>による合図で終了。『多分倒されたと思いますよ』と笑顔で言い放つが、相対した五人は満身創痍。フールーダのみ満面の笑顔で昇天しそうであったけれど、四騎士はよろよろとへたり込んで意識を手放していたり。

 

「か、勝ったのか? それでもこれでは……モモンガ殿。……モモンガ?」

 

 後ろを振り返ってみれば何故かモモンガとペロロンチーノは正座をして嫁に叱られていた。なんでも『あっちからならパンツ丸見えですね』なんて会話がバレたらしく『見るなら私たちがいるじゃございませんか!』とわけのわからない説教がはじまり、呆然とそれを眺めるしかないジルクニフであった。

 

 




 もうすぐ新刊発売ですね! フィリップがどうなるのか楽しみですw

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