「あいつしゃべれるじゃありんせんか!?」
「よーし、偉いぞ。咄嗟に金属バットに持ち替えてくれて助かった。パンツ見られないで済んだな」
モモンガがたまに使用していた敵を吹き飛ばすことだけに特化した武器は、現在シャルティアが保有している。四人の中で一番キレやすいという理由でもあるのだが、一番物理攻撃力が高い少女の『なんでやねん!?』といった軽い突っ込みが相手を殺してしまう可能性もあり、こらえられなかったらそれを使うようにと渡されていたのだ。
まあペロロンチーノが蹴り足をはたき落としバックドロップしたのも、杖でぶっ飛ばすのを放置したのも過剰にやりすぎない為というより妻のパンツを見せない為だったとは誰も気付かなかったが。
城壁に突き刺さったナザミは引き抜かれ、次女の魔法で回復したものの完全に伸びていたので、レイナースが他の近衛騎士に預けて再び皇城の見学を開始したのだった。
今更ながら一行が着用している衣服を説明すると、モモンガとペロロンチーノがいつもの高貴なスーツ姿で。妻二人はエ・ランテルで作ってもらったドレスであり、アルベドは水色のミニドレス。シャルティアも膝が隠れる程度の短いピンクのドレスを着用している。
レイナースは何故かあのゴスロリメイド服を装備。「服を買いに行く服がありませんでしたので……」などと引きこもりのようなことを言い出す帝国騎士姿の彼女にシャルティアが再度渡し着せていた。「今度おんしもエ・ランテルの店に連れて行くでありんすから」という言葉に涙をこぼし感激していたのは微笑ましいエピソードだったのかもしれない。シャルティアは若干引いていたが。
アルシェも前日シャルティアから受け渡された服をそのまま着ている。落ち着いた若草色のスカートは誰よりも短いがスパッツらしきものを履いているので見えることは無いのだが、ドレスというよりは変わった学生服。この世界で言うなら踊り子のようでもあった。つまりイビルアイに続いて二人目のプリキュア衣装だったりする。
可愛すぎて恥ずかしくて結構嫌々だったのだが先ほどの光景を間近に見てしまい、拒絶の言葉は二度と出ることは無かったり。
「ご、護衛の方。ここで武器の類をお渡し願えますか」
そして天使の次女ゲルヒルデは戦乙女そのもの。左の腰に短剣をぶら下げているものの、本来の武器であるメイスは戦闘にならなければ取り出すことは無い。
これから皇城屋内に入るに伴い武器の携帯を許されないのは当然でもあるのだが、美しすぎる女性たちを前にして動揺しながらも仕事を全うしようとする騎士の言葉に、元より装備の譲渡が出来ない召喚された天使は困ってしまう。
「ご主人様、どうしましょう?」
「あーそっか、看護師姿でお願いするよ。形式的な物だろうし見た目に武器を所持していなければ大丈夫だろう」
まるで困っていないかのように小首をかしげて微笑む次女の問いかけを瞬時に理解したモモンガは、魔法がある世界で武装解除も無いよなあなんて思いもあり、衣装変更を促した。
光が集まっての変身バンクシーンなどは当然なく、一瞬で真っ白な看護師衣装に着替えるゲルヒルデ。今日も巨大な胸は健在だ。
「でかい……え?」
「大きい……よ、鎧はどこに?」
「仕事ですから気になるのでしょうが、目を潰して……ではなくて目をつぶってくれませんか。四騎士が一人レイナース・ロックブルズが彼女の安全を保証いたします」
視線が完全に胸にしかいっていなかった憲兵二人は、かなりの怒気が溢れるレイナースに気付き素早く脇によって道を開ける。
そこまで気にするほどの事ではないが彼女もまた
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「怒らせたわけではないのだな?」
「どうでしょう……近衛から酷く陽気に護衛騎士の女性を口説いていたとの信じられない報告もありなんとも……」
「あいつ……真面にしゃべれたんですかい?」
なんでそんなことになっているんだと頭を抱えそうになる。確かに演習を見学することになる彼らと交戦の機会があるなら試してくれと命令したのはジルクニフだが、地面に倒され手当てされ、口説き始めてなおかつ城壁に突き刺さったとかいう訳の分からない報告は聞きたくなかった。
すでに彼らは賓客を招く際に使用するかなり大きめな部屋へ案内されている。文官一の切れ者であるロウネであれば対応を誤ることは無いだろうが急がねば。
もはや相手方の出方や対応を知るために敢えて遅れて登場などとは言ってはいられない。バジウッドとニンブル、それに近衛を引き連れて小走りになりたい気持ちを抑えながら堂々と通路を歩いて行く。
「時にじいの方は大丈夫なんだろうな?」
「今は隣室で大人しく待機しているようです。出ていらっしゃいましたね」
ニンブルが言うように前方の一室からすでに足枷を外されたフールーダが出てきたのだが、あれほど会いたがっていたのに少し気落ちした表情に首をかしげてしまう。
「うーん……では行こうかジルよ」
「待て、どうしたじい? なにかわかったのか?」
「窓から皇城内に入るのが窺えましたのでな……アルシェは
「ふむ……報告通りならその者がペロロンチーノ殿だな。確かにマジックアイテムなどで隠蔽する方法があったとしても彼が装備していないならじいの求める者達ではないのか。だが護衛騎士はかなり高位の信仰系魔法が使えるようだぞ?」
「なんと!? それは本当でございますか!」
「ははっ、現金だなじい。とにかく私が良いというまでは大人しくしているのだぞ」
魔力系魔法・精神系魔法・信仰系魔法の三つの系統を修め
満を持してというわけにはいかなかったが、フールーダ、バジウッド、ニンブルを伴い開かれる扉を威厳を持って潜るジルクニフであった。
「陛下がいらっしゃいました」
聞こえるロウネの声を耳に室内へ入ると、招いた内の男性二人が浅く腰掛けていたソファからゆっくりと立ち上がる。倣うように伴侶と思われるとてつもない美貌の女性二人が立ち上がり、慌てたようにレイナースの側に座っていた少女も立ち上がるまではよかったのだが、男性二人が軽く礼をする姿勢に驚いてしまう。
お前がこうするように促したのかと確認するようにロウネに視線を送るが瞳を閉じて首を振る。
このような非公式の場に決して特別な作法などは無いけれども、流れるような綺麗な所作に思わず感心してしまった。
この場で出迎えた貴人の多くは似た行動を取ることが多いが、私だって同じような場に招かれたならばたとえ一国の王であろうとも彼らと同じ行動を取るだろう。
ただあまりにもスマートすぎる示し合わせたわけでもない完璧なタイミングで二人が立ち上がって礼をしたことに驚いたのだ。
最初から立ったままであったならロウネを叱らなければならなかっただろう。タイミングが早すぎても見逃していたかもしれない。深く礼をされたならば仮ではあるが王族として見くびっていただろう。
たったこれだけの行動で決めつけるわけにはいかないが、あまりにも自然な態度と肝の据わり具合に王族としての推測を確信に変えていく。
(まあ営業に出向いて偉い人が出てくるってなったらこうだよな)
(社長来たらこうするよなあ。あってるんかな?)
あの世界のブラック企業でボーナスまで獲得し、陰で『営業無敗』などと噂されていたモモンガと、中堅企業で部長職にまで上り詰めたペロロンチーノにとっては一般的なビジネスマナーとして慣れた行動であったのだが、ジルクニフどころか自身の妻たちも迷走させていく。
(これは王としての礼だわ……ふふっ、そうですか装うのをお止めになられたのですね)
(なんでペロロンチーノ様が頭を……アルベド? わかったでありんすよ……妾もすればいいのでありんしょう!)
ほんの数秒の出来事ではあったものの元社畜二人の行動に勝手に翻弄されて行く一同。誰が悪いわけではないのだが緊張感が一層と増していくのだった。
「面を上げてくれ。モモンガ殿たち家族の訪問を心より歓迎する。私がバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。非公式の場であるし長ったらしい名を呼んで頂かなくて結構。ジルと呼んでくれても構わん」
「お招きありがとうございますジルクニフ皇帝陛下。そして家族と言ってくれてとても嬉しく思います。私が代表のモモンガ。こちらが友であるペロロンチーノとその妻シャルティア。そして私の最愛の妻アルベドでございます」
本当にうれしそうに優しい笑顔を見せるモモンガに、注意事項をくれたレイナースを心の中で褒めつつその熟達した丁寧な言葉遣いを賞賛する。
なるほど二家族に格差は無く、紹介順からも窺えるが男性二人は同等の存在であると示したのだろう。
それにしてもこの二人の女性の美しさはなんだ。今まで出会ってきた美姫たちが霞むほどの美貌に思わず息を呑んでしまう。普通の男なぞある程度美しい者に言い寄られれば悪い気はしないであろうが、これほどまでに格が違うと
「そして今回縁がありまして連れてきましたアルシェです。どうやら特別な取り計らいをしていただいたようでお礼申し上げます」
再度綺麗なお辞儀をするモモンガに少し驚いてしまった。情に厚いと聞いてはいたものの優しすぎるのは王としては頂けない。王族としてはその度量に賞賛はするけれども自身に並び立つものとしては不服か。
少し不思議な美しい衣装を着た少女がコチコチになって礼をする後ろには、何故かあのメイドドレスのレイナースが。そして並び立つ一部分を盛大に主張する真っ白な衣服を着た女性が胸に手を置きながらニコニコと微笑んでいる。
「最後に護衛のゲルヒルデです。えーと……私どもの国に伝わる神官の正式な衣装ですので礼を欠いているわけではないことをご了承ください」
「ははは、こんな美しい女性たちに出会えてそんな事など気にはしないさ。皆楽にしてくれ。それよりモモンガ殿固すぎるぞ……貴殿と私は年も近そうだし出来れば普段通りに話してくれないか」
ここで示し合わせていた通りバジウッドに目線を送る。これは公式の場ではないから出来るこちらからの謝罪の場。そして一行の本来の姿を知るべき場でもあるのだ。
こうまで謁見の体を取られては(モモンガ的には精一杯頑張った礼を尽くした態度なのだが)個人として謝ることすらできない。
「そうですぜぇ皆さん方。陛下は寛大なお方だ。少しくらい口が悪くっても咎められることは無いってものよ。俺が牢に入れられていないのがその証拠だな。おっと挨拶が遅れた、四騎士が一人『雷光』バジウッド・ペシュメルだ」
「まあこれほど砕けろとは言わんが……こちらも紹介を済ませておくか。秘書官のヴァミリネンと四騎士は済んでいるだろうから最後の一人だな、じい」
「はっ。フールーダ・パラダインでございます。この度は私の謝罪の為に皆様をお呼び立てしてしまい申し訳ございません」
フールーダがしでかした幼女の姉の仲間だからか、瞳は胸の巨大な女性を捕らえて離さない。余計なことを言わないことに安堵したもののその瞳のギラツキは変質者にも見えてしまう。
不安になってその女性を視界に入れると、何故か首をかしげて自身の服をまさぐる様子に疑問を覚える。不快な思いをさせたのだろうかと声をかけると、服のボタンを外しだし慌ててしまう。
「あれ? これ脱げますね。もしかすると短剣も預けられたのかもしれませんご主人様」
時が止まるというのはこういうことか。王や近衛や平民であるなどとは関係なく、この場にいる全ての男たちの意識がシンクロし、一体感さえ感じるほどの言葉を全員が呑み込んだのは言うまでもないだろう。
(下着は紫色なの!? エロすぎるだろ!?)
そのチラリと見えてしまった唐突なストリップ寸前の行動が良かったのかはわからないがおかしな団結心が生まれ、この先の会談は緊張感も吹き飛び言葉も崩して和やかなものになっていくことになる。
ただ若干女性陣の瞳が冷たくなっていたのは男の性として許して頂きたいものであった。
自己紹介回。次回はきっと普通に会話しているはずw