鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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35 不動

「えっ? そんな認識なんですか?」

「傭兵団か……そういえば姫と従者スタイルは長いことやってないな」

 

「え、えぇ。今でこそ私は違うとはわかるのですが、陛下たちの認識としては『ガゼフ・ストロノーフを救った南方の傭兵団』ということになっていますわ。訂正しようにも()()()などと正直に答えてよいのかわかりませんでしたので」

 

「下手に警戒されても面倒ですからね。レイナースの判断は正しいわ。クーデとウレイは私たちのことをどう思うかしら?」

「アルベド姫さま!」

「シャルティア姫ねぇさま!」

「ほらほら頬にべっとりスープが付いているでありんすよ。ふふっ、わかる娘にはわかってしまうのでありんすねぇ」

 

 明けて翌日。レイナースさんの認識も違うからね!? などと騒ぎながら和やかな朝食の席ではあるけれど、今日の皇帝との会合についての打ち合わせも兼ねていたりする。面倒事はなるべく早くと提案したはいいけれど帝都の観光前になるとは計算外であった。

 前日から将来の為の子守の練習台になっている双子はアルベドとシャルティアにべったりであり、楽しそうに食事をする姿が微笑ましくそんなことなど忘れてしまいそうだが。

 

 アルシェは歌う林檎亭にそのまま泊まっている。最後のお別れというわけではないが、積もる話もあるだろうとフォーサイトに託している。

 一人欠けてしまうチームがどうなるかはわからないけれど、カルネ村のテントという仮宿に無職であるという実情のモモンガにはどうすることもできない。むしろワーカー(何でも屋)を名乗る彼らを助けようなんて話は逆に失礼とも言えるしこちらが仕事を紹介してほしいくらいなのだから。

 昼過ぎに皇城から迎えが来るらしくアルシェも拾って一緒に会合に赴く予定であり、嫌かもしれないが彼女たち姉妹の更なる安全の為に国の最高権力者と会っておくことは悪い事ではないだろう。多少聞こえてくる話に不安はあるものの師事していたという人物もいるようだし。

 

「でも武装して行くわけにもいかないですし、私たちはこのままでいいんじゃないですか?」

「ある意味別ギルドの拠点に行くわけだし、決戦装備……あ、ダメだあれ俺蛮族じゃん」

 

 そんな装備もあるのですかとレイナースに問われ朝食後に見せることになったが、久々に着たことにより思い出される死闘(注、あの夜の性的な闘い)からか溢れ出る覇気と闘気を垂れ流し、漆黒と金のオーラを漂わせれば、腰を抜かし震えて泣いてしまう帝国最強の騎士がいたりして取りやめとなった。なんか可愛くてゾクゾクしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下、先触れが到着いたしました。構成はレイナース様と屋敷に滞在していらっしゃる四名。それに護衛の女性騎士の方が一名に先日追加してくれるようにと報告がありました少女が一名になります」

「うん? 護衛は二名ではなかったか? あぁ屋敷の警護に充てるわけか」

 

 皇城執務室にて書類にペンを走らせていたジルクニフは近衛の報告にも動きを止めず案件を片付けていく。

 

「余裕ですねぇ陛下。こっちはどんな化け物が来るのかとぶるっちまいそうなのに」

「嘘をつくのはやめてくださいバジウッド。きちんと報告したではないですか」

 

 そんな二人の声を聴きながら並列思考で先日の会議の事を思い出す。衝撃的だったのは代表であると言う男の名前だ。

 それが冗談であり申し訳ないと謝罪も受けたというけれどニンブルは腑に落ちないと言っていた。その場にいたわけではないので空気感までは分からないが、まるでその名前が当然であるかのような周囲の態度に違和感を覚えたという。

 確かに『モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・フォン・ナザリック』なる名前が咄嗟に出てくること自体おかしなことで、傭兵団という認識を捨て仮ではあるが他国の王族を迎え入れる態度で接することに決めていた。勿論モモンガ以下の名前については文献などを調べさせてもいる。

 

 肉体的な強さとしての指標は自分に判断出来るものではないと理解しているので、強者である四騎士の判断を仰ぐ以外ないが、『侮っていい方達ではありませんが、過剰に構える必要は無いです。女性騎士たちの力量は判断出来ませんでしたが……』との言葉から機会があれば傭兵団の力も見せてもらおうと考えている。

 

 ニンブル経由でレイナースからもたらされた注意事項は一つだけ。

 

『驚くほど温厚な方達ではあるのですが、彼ら二組は夫婦であり家族であるらしく、こちらに取り込むために女を手配するなどという愚策は絶対におやめくださいとのことです』

 

 そうは言っても性的関係を構築して懐柔する単純で効果的な作戦は捨てるわけにはいかない。ニンブル曰く『あの女性たちを越える美貌の貴族の子女を探すのは困難かと』という程度で、まだ実際に見たわけではないが揃えられないわけではないのだ。

 現在二名ほど選抜していつでも呼び出せるようにはしているが、カードを切るかどうかは会ってからでも遅くはあるまい。

 

「じいは、アルシェと言ったか。その者も気になるのではないか?」

「はい……急な退学は気にはなっておったのでございますが、在野で第三位階にまで上り詰めているとは知りませんでした。私と()()をつなぐ架け橋になれば……」

「……じい、分かっているだろうな」

 

 ある意味一番心配なのはフールーダなのだが、謝罪という建前の都合上退席させるわけにもいかない。鮮血帝という改革を素早く推し進めようとする愚か者のせいで、こういった才能の芽を潰していたかもしれないということは思いもしなかったが、無能の子が無能では無いという例外には驚かされたものだ。

 

 アルシェ・ロックブルズ

 

 特例中の特例だがその両親を伴わず養子としての公的な書類を認めたのは外ならぬジルクニフだ。自身のミスを拭うわけではないが結果として恩になり第一の枷にも出来たのは僥倖かもしれない。

 

「陛下。城門にお着きになられたようでございます。手筈通り城内の軽い案内を済ませてからとなりますのでそろそろお支度を」

「あぁ、わかった……楽しみだな」

 

 ペンで最後の書類にサインを済ませ筆頭秘書官であるロウネの言葉に頭を上げる。その顔に憂いは一切見られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本当に、い、いない?」

「だ、大丈夫ですって。今日はネムと遊ぶって言ってましたから」

「なんでこの娘こんなに怯えているのでしょうか?」

 

「あー……グリムちゃんがアルシェの反応を面白がってしまい、昨日『歌う林檎亭』に着くまで出たり消えたりと。私はモモンガさんと一緒に隠れていたので止めることも出来なくて」

「子供は構ってくれる人を好きになっちゃうところがあるからなあ」

「微笑ましく聞こえるでありんすが鬼畜の所業でありんすね」

「妹が大変申し訳ありませんでした。気分が悪くなったら私に言ってくださいね」

 

 そんなこんなでアルシェを回収した一行はいよいよバハルス帝国の皇城へとやってきた。護衛にカルネ村から天使たちの次女であるゲルヒルデが看護師ではない騎士姿で参加している。咄嗟の事態に対応するためチームとして不足している回復要員として連れてきてはいるけれど、本人はニコニコと微笑み窓の外を楽しそうに眺めながら観光気分だったりする。

 この世界にもいるのかと六足馬(スレイプニル)に驚いたり、七名という大人数でありながらさほど狭さを感じさせない手持ちの馬車に比べて全く揺れない高級仕様に驚いたりと早速のサプライズに気分も上々だ。

 

「綺麗なお城ですね! え? あれは……」

「うそっ……だろ?」

 

 城門まで辿り着いた一行はここからは歩きに。観光の一環として城の様子などを見せてくれるらしい。レイナースを案内にして台地のような堀の上の通路を進んでいくのだが、下の方で騎士たちが訓練をしているのが窺えた。

 ただその中の一人。他とは格の違いさえ感じるフルプレートを身にまとった大柄な騎士にモモンガとペロロンチーノは目が釘付けになってしまう。

 

「『不動』、ナザミ・エネックです。四騎士が一人で最硬の騎士という……み、みなさんどうかなされましたか?」

 

 気付けばモモンガ、ペロロンチーノどころかアルベドとシャルティアも驚愕の瞳でその訓練の様子を見つめていた。

 

「リアル……だからかな? そんな使い方もアリですけど驚きましたね」

「あ、あぁ。姉ちゃんのアレは実際は有利でも何でもないからな。防御ステが上乗せされるわけじゃないし……なんだろう。でもなんか嬉しいな」

 

 シャルティアですらあまり見たことのない儚げな笑みを持って呟くペロロンチーノ。守護者二人はそれにも驚愕しつつ件の騎士の動きを解析しようと射貫くような鋭い視線を飛ばしている。

 

「攻撃を捨てた楯二枚はこの世界……じゃなくてこの国では珍しくないんですか?」

「い、いえ珍しいと思いますよ。昔目撃した戦士の真似事だと本人は言っておりましたけど、私でもあの守りは抜けませんわ」

 

 ユグドラシルで楯二枚なんて装備をしているのは自分の姉以外にはいなかった。それが役割である『楯』として有効なら誰もが取る選択肢であるけれど、ゲームバランスを壊す行為として運営がそんなことを許すわけがない。

 ステータスとしての防御追加効果は最初に装備をしたほうだけに限られ、クリスタルの効果を載せるなら武器を装備した方がいい。それでも『粘液楯』の二つ名に恥じない双方向へのシールドバッシュ等取り回しを意識しこだわった姉の魂がこんなところで息づいているのを目にしてしまうと嬉しくなってしまう。

 

「クククっ。姉ちゃんに見せてやりたいなあ。本物がいるぞって」

 

「前線指揮。バフにデバフに加えてヒーラーとしても活躍されていた御方とは比べるべくもありませんが……」

「動きが無さ過ぎてよくわかりんせんが、問題ないでありんすね」

 

 アルベドやシャルティアに言わせたらそれは稚拙にも過ぎるだろうがそうではない。運動はおろかちょっと太り気味の姉にリアルであんな動きなどできないのだから。反応速度というプレイヤースキルに特化した姉だからできるゲーム内だけで見られる特技に今更ながらに驚愕してしまう。

 

「茶釜さんを知っている人がいたりなんて可能性もありますかね」

「本人がいたら怖いなあ……シャルティアと本当に結婚したなんて言ったらぶん殴られそうだよ。あ、違うか成長するまで待ちなさいかな? あはは」

 

 この世界へ転移してきたのが自分たちだけではないと把握してはいるがギルドのメンバーがこの世界に居ないというのは時期早々だろう。現実的じゃないなんて話は何度も議論し合ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの場にログインしていなかった、キャラをデリートしていたなんて論理だてた話は通用しないかもしれないのだから。

 

 敬愛する姉を思い出させてくれたこの出会いに感謝し、レイナースに話が出来るか聞いてみるとこの演習自体が帝国の力を見せつける演出であるらしく可能とのこと。

 

「ちと行って来るぞ」

「妾もいくでありんす」

 

「あ……でも彼は無口すぎて話にならないかと……行っちゃいましたわ」

 

 堀を滑り降り大楯二枚を地面に降ろした騎士の前に立つペロロンチーノとシャルティア。何かを話しかけているがどうにも会話が成立していない様子。

 

「あの人『言葉は不要、戦いで会話しろ』なんて感じの人なんですか?」

「能力は申し分ないのですが……武人気質というか滅多にしゃべらないのですわ。あ、楯を構えましたわね……え!?」

「あー……シャルティアがキレる前にペロさんがやっちゃいましたか。新しいドレス汚したら拙いもんな」

 

 モモンガとレイナースの実況の通り、まったく口を開かない騎士にしびれを切らしたシャルティアが蹴りを放つ直前に、ペロロンチーノが後ろに回り込みバックドロップ。地面ににめり込むナザミ・エネックは虫の息だったり。

 

「すまんゲルヒルデ、いきなり出番だ。これペロさんたち悪くないですよね?」

「わ、悪くないのは当然でございますが、ペロロンチーノさんの動きが見えず驚きました……」

 

 なお次女に手厚い看護を受けたナザミが一目惚れでもしたのか「結婚しよう!」などと熱く流暢にしゃべりだし、再度城壁にめり込む事態にもなったり。

 

 

 

 この報告を受けた皇帝の髪がパラッと数本抜け落ちたりもしていたのは誰も気付かなかったりする。

 

 

 




ペロロンチーノさんが弓を使うにはどうすればいいんだw

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