鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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33 モモンガVSペロロンチーノ

 どうしてこんなことになったのだろう。

 

 きっと今もフールーダ様の足止めの為ナザミやバジウッドが苦労しているのだろうが、こちらもそれどころではなくなってしまった。

 ここへ訪れた理由はレイナースから回答を貰うためだったのだが、それだけならば一般の伝令に命令すれば済むこと。一応は伯爵の地位を持つ自分が指名されたのは、それだけの要人に対するこちら側の誠意なのだろう。レイナースが彼らに通達していない線を陛下が考えていたのかもしれないが……

 軽い冗談の類だとも思えないが、最近陛下からレイナースを娶ればどうだなどと言われるのは、姉や妹から結婚をせっつかれてしまっているのを愚痴ってしまったのが切っ掛けだろう。

 確かに美しい……というより呪いが解かれ笑った顔を初めて見た時可愛いと思ってしまったのは否定はしないが。

 

「なにをボーッとしているのかしら? 剣をかまえなさい!」

 

 模擬戦ですよね? それあなたの元実家の家宝の槍じゃなかったでしたっけ? 若干涙目になりながら与えられた木剣をかまえるニンブルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふっ、シャルティアだめよあなた。お腹が痛いわ」

「はあ? わけがわからんでありんすよ?」

 

「なんでペロロンチーノさんじゃなくてレイナースさんがキレるんでしょうね?」

「いや俺そこまで心狭くないよ!? あぁそっか、そういうことか」

 

 庭にあるベンチに腰掛けながら二人の模擬戦を鑑賞するモモンガたち。『ドゴーン!』という爆音とともに庭に穴が開いていくのは大丈夫なのだろうかと考えながら。

 

 シャルティアのパーティドレスが着たいと言う要望に舞踏会などを提案されてもこちらは誰も踊れない。貴族を多数集められて皇帝に謁見とかいうよくあるシチュエーションはお断りしたかったので、そこを考慮してくれたのか少人数での『お茶会』や『食事会』を提案してくれた。

 どうもニンブルは美味しいお茶を探すことが趣味らしくシャルティアと意気投合。意見交換などで嬉しそうに微笑むシャルティアをモモンガとペロロンチーノは『一般の人間に対してそういう意識を持ってくれるのは嬉しい』とほっこりしていたのだが、ただ一人レイナースだけはハイライトの消えた目でニンブルを見つめていたり。

 

 話も変わり最近レイナースの調子はどうなのと聞くシャルティアに満面の笑みで『お見せいたしますわ! 瞬殺です!』などとのたまい連れ出されたニンブルが大層気の毒だったがこれはこれで見ていて楽しかったりする。

 

「ついに手持ちの剣を抜きましたね!」

「木剣は一撃で柄しかなくなってるからな……」

 

「行け―! 行くでありんすよ!」

「スピードは男の方が上かしら? 激風なんて二つ名なのだから奥の手もありそうなのだけど……ふふっ。まあ防御に専念してしまうわよね」

 

 目の前で模擬戦(?)とはいえ本物の対人戦を見る機会などリアルには無かった。ゲームとは違う剣尖の音や風圧をダイレクトに感じ、持っているレベルのせいで多少遅くは感じるもののその大迫力な光景に思わず手に汗を握ってしまう。実際二人は戦闘を経験もしているのだが当時はいっぱいいっぱいだったのだろう。

 女性陣の方も一人はブリーダー感覚で。もう一人は違う意味で楽しんでしまったり。

 

 もともとニンブルが伝令にその旨を告げここに残る予定だったのは情報の収集の為だ。高貴な方々というのは分かるけれど皇帝との接触の前に自分もある程度の傭兵団としての実力を知っておきたかったのだが、戦闘を生業にするものが持つある種の威圧というもののカケラも感じられない。

 どういうわけかレイナースと死合いなどと言う訳の分からない事にもなってしまったが、その戦闘を終えへたり込んでいると予想外だが望む光景を見ることが出来た。

 

「ちょっと私もやってみたくなりました」

「お! 俺も俺も。ちょっとやってみようぜ!」

 

 戦闘に興味が無いと言ってもそれはこの世界が死や痛みを感じるリアルであるからなわけで、棒を振り回して遊ぶチャンバラ遊びが嫌いな男の子ではなかった二人は、早速とばかりに木剣を構えて対峙する。

 

「立ち合いは強く当たって後は流れでお願いします!」

「八百長はねーよ!? んじゃまぁ俺は魔法剣士って感じで行くぜ!」

 

 

 

「モモンガ様もなかなかやるでありんすね!」

「ペロロンチーノ様を信頼しているからでしょう。それに完全に受けに回りながら隙をついて<魔法の矢(マジック・アロー)>を放てるのはレベル1の魔法詠唱者としてはすごいことよ?」

 

「いたっ!? それ卑怯ですよペロロンチーノさん! 必中魔法は避けられないから。デコピン食らうぐらい痛いですって」

「それじゃヌルヌルになるか? そもそも俺戦闘用の魔法これしかないし、って剣が折れる!? モモンガさん本気ヤメテ!?」

 

 はぁはぁ言いながらも本気のお遊び。額に汗を浮かべながら二人は楽しそうに剣を振るう。レイナースに匹敵する剣を振るう青年とそれをいとも容易く受け流す少年。ついでに<魔法の矢(マジック・アロー)>とはいえ魔法まで飛び出すとはと感嘆するニンブル。

 確かにこれならガゼフを救った傭兵団の主というのも頷けると言うものだ。

 

「ただなんというか安心しました……私でもなんとかなりそうですね」

 

 少し悪い事をしたとでも思ったらしいレイナースに介抱され水を受け取りながらニンブルはついそんな言葉を呟いてしまう。

 確かにモモンガの攻撃はすごいのだが単調にすぎる。受けに回る少年の方に感嘆するが第一位階の魔法を使っている時点で戦士としてはお察し。そんな言葉が出てきてしまうのも仕方がない。

 

「ふふっ、面白いわ。ニンブル、きちんと陛下に報告してあげてね」

「? そ、それは勿論ですが……」

 

 なぜか優しげな瞳でそう言われて困惑してしまうニンブル。その美しい顔にドキリとしてしまいその言葉の違和感には気づかなかったが、レイナースはこの世界でモモンガたちの強さを知る数少ないうちの一人でもあったりする。

 七日以上の戦闘訓練という名の共同生活でモモンガがフールーダを越えていてもおかしくない魔法詠唱者であることは知っていたし、シャルティアが自身より強いことも身をもって体験している。

 まあその程度ではあるのだが、本人たちが望まない以上教えることも無い。あぁこうやって騙されてしまうのだわと、ある意味違う方向に驚愕するレイナースであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらへん?」

「たぶんあっちー!」

 

 モモンガたちが模擬戦を楽しんでいる頃、帝都の閑静な住宅街を麦わら帽子をかぶり同じようなワンピースを着た二人の愛らしい少女が歩いていた。どんどん行動範囲が広くなっているネムと天使の末っ子グリムだったりする。

 ネムの麦わら帽子は漆黒の剣のダインから。そして真っ白なワンピースの方は当然のように所持していたシャルティアからハーブを育てる報酬として貸し出されていたり。防御力は言うに及ばず固定値での身体能力向上補正も施されており、偶然ではあるのだが身の安全が保障されてしまったりしている。

 そんな少女たちが何故ここにいるかというと、ネムの『レイナースおねえちゃんはちゃんとお家に帰れたかな?』なんて他愛無い発言がきっかけであり、姉妹の位置が特定できるグリムが遊びに行こうと提案しただけの事で、空を飛んできたもののここが帝国だとかいうことはわかっていない。

 手をつないで歩く姿は微笑ましく、道行く人や巡回の兵士もついつい頬が緩むというもの。傍目にも高級素材であると思われる輝きすら放つワンピースにどこぞの貴族の娘だろうかと思われる程度で、高級住宅街であることも幸いしたのか兵士に『気を付けるんだよ』と言われたぐらいの事で済んでいる。

 

 ここが王国なら秒で攫われていそうなのだが……人攫いが帝国に居ないわけでもないのだ。

 

 路肩に停められた一台の馬車。そこからとある家の門柱を内側から掴み通りを眺めている双子を監視していた二人の男は望外な別の少女たちを発見してしまう。門を越える手間を考えても少し大きいとはいえ幼女と少女の違いでしかない。

 まだ下調べの段階ではあったものの思わぬ幸運に飛びついてしまった二人のワーカーは双子を発見して気がそれた少女の後ろから近づいていく。

 

「すらっしゅたん、すらっしゅたん」

「え? スラッシュさん? わっ!?」

 

 存外に悪意に対して敏感な天使がちょっとしたジャブとして放った第一位階魔法<舌切り(スラッシュ・タン)>。ゲームでは言葉が上手くしゃべれないように変換される程度。舌を切りわずかなダメージを与える程度の魔法なのだが、現実にそれをやられた方は堪ったものでは無い訳で。

 

「がっ!? ひゅっ」

「んんんん!? んぐんんっ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら自分たちの後ろでのたうち回る大人二人を見て驚いてしまうネム。グリムの方は可愛らしく首をかしげる程度だが、ちゃっかりと取り落とされたナイフを蹴り飛ばしていたりする。

 さすがにここまで大きな音を立てれば不審に思われるわけで、巡回中の兵士があっさりと拘束。事の経緯を少女たちに聞きたいものの、すでに彼女たちはこちらは眼中になく門を挟んで幼女たちとおしゃべりに興じている始末。

 

「私はネムだよ! こっちはグリムちゃん!」

「グリムゲルデ!」

 

「ネムおねえちゃん、わたしはクーデリカ!」

「グリムおねえちゃん、わたしはウレイリカ!」

 

 これは聞いてもしょうがないかと聞こえた名前だけをメモし、応援の到着を待って男を引き渡しあたりに静けさが戻ってきたのはある意味幸いだったのだろう。

 とある覚悟を決めて屋敷に戻ってきた少女アルシェは、昨日に引き続き驚愕の光景を見ることになる。

 

「――おげぇぇぇ! なん……なの!?」

 

 取り乱すことが無かったのは昨日より若干光の奔流が弱いためなのか、慣れたのかはわからないが実家の前で四人の子供たちに見つめられながらも吐いてしまうのは止められなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでに役目は果たしたとニンブルは帰城しており、先ほどの戦闘についてや午後はどうしようかなどと食事をしながら談笑していたモモンガたちだが、再び来客……というか妹をアイアンクローで吊り上げて連れてきた五女とそのメンツに驚いてしまった。

 

「いや……君も毎度災難だな。じゃなくて二人を送ってくれてありがとう」

「――この家を探していたみたいだから。ロックブルズ様の家が近くにあるのは知っていましたし。あの子……モモンガさんの娘さんですか?」

 

 そう言ってペロロンチーノに叱られているネムと末っ子を指さす。まあ叱るといってもストライクな少女二人がドストライクな恰好で目の前にいるわけで形だけではあるのだが、遊びに来るなら次の日モモンガが呼び出した際に言ってくれれば危険は無いのだからと諭している。

 シャルティアとアルベドは見張り(?)として一緒についていたり。

 

「あー……()()()んですよね。私たちの従者の妹です。辛くないですか? 指輪は一つしか無いもので」

「――大丈夫です。慣れたくは無いのですが最初に強烈なものを見せていただきましたから……」

 

 そう言って儚く笑うアルシェの目元にうっすらと涙の跡が見受けられてしまい申し訳ない気持ちになってしまうモモンガであったりする。あぁまた吐いちゃったんだなと。

 ただその涙の跡を別の意味に感じていたレイナースは、自己紹介と共にフルト家の現状についてお節介だとは思ってはいるのだが尋ねる。何気に子供に対してはものすごく優しいレイナースではあるのだが、その本位はモモンガたちに向いていたりする。

 

「他家のことについてとやかく言われたくは無いでしょうが、話してくれませんか? 私の恩人と約束した以上は例え陛下の意に反するとしても力になりますよ」

 

 眼がマジだった。近い上に瞳孔が開いていて怖かった。四騎士の『重爆』ってこんな方だったの!? なんて驚愕してしまうけれどこの人の目は本気だと分かってしまう。

 自分としてもここで今の境遇やこれからどうするつもりなのだとかと話すつもりなどさらさら無かったのだが、度重なる衝撃に心が壊れかけてでもいたのだろうか。

 

「――私は」

 

 後にこの出会いと吐き気に感謝することになるとは、今のアルシェには知る由も無かった。

  





久々にコメントの意見も加えて更新

ブリュンヒルデ    長女 指揮役 両刀
ゲルヒルデ      次女 神官  胸が巨大 看護服
ヘルムヴィーゲ    三女 タンク ドM  
オルトリンデ
ヴァルトラウテ    五女     ギャル おっさん好き匂いフェチ  
ジークルーネ
ロスヴァイセ
シュヴェルトライテ
ネム         末っ子の姉 村娘 純真   麦わら帽子に白のワンピース 
グリムゲルデ     末っ子 魔力系魔法詠唱者 麦わら帽子に白のワンピース

四女を飛ばしたのは以前名前が出ているのに気づいたからで意味はありませんw

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