鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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32 激風と重爆

「ガゼフさんとこより大きいなあ」

「メイドさんもいましたね」

 

 そんなこんなで色々あったもののレイナース邸に到着。白亜のお屋敷とでも言うのだろうか、馬車から見えていた屋敷の中ではかなり小さな部類に入るのだろうが。

 

「皇城から近いと言う理由で没落したどこぞの貴族の別邸をもらい受けただけですわ。今何か聞いたことがあるような名前が……」

 

 二人の若いメイドさんに用意してもらった飲み物に口を付けリビングのソファーで寛ぐモモンガとペロロンチーノ。女性二人はそのメイドさんを引き連れて屋敷の探検という名の『愛の巣探し』に向かっている。

 

「それで……早速で申し訳ないのですが皇帝が是非あなたたちに会って謝りたいと……話がしたいとおっしゃっているのです」

「皇帝!? ってああそうか。直属の上司になるんでしたか」

「謝るって……何かされたっけ俺たち?」

 

 レイナースが暇を得る条件がこれだった。勿論断られたら辞めるまであったので彼女にしては大した制約ではないのだが、一応皇帝に恩はあるのでその旨を話し出す。

 フールーダ・パラダインというカルネ村に現れた妖怪。実はその糞じじいが主席宮廷魔術師であり、城を抜け出して末っ子に迷惑をかけた件について謝罪したいと。

 なぜカルネ村に来ることになったかということや、糞じじいが変態的行為に出た理由も含めてすべて隠さずに話していく。

 ついでに皇帝の真意までも告げ「面倒でしょうし断って頂いて構いませんわ」などと涼やかに微笑まれては会った事は無いとはいえ皇帝に同情してしまったり。

 

「いやいや、それでレイナースさんがクビになったら困るでしょうが」

「だな。それにしても看破の魔眼みたいなもんか……アルシェだけじゃないんだな」

 

 その言葉に少しだけ興味を引いたレイナースに問われれば、歌う林檎亭で会ったワーカーの少女でさっきの双子のお姉さんだと答える。

 

「いえそのタレントは希少だと思われますわ。そうでしたかフルト家の令嬢はワーカーに……なるほどその娘も苦労しているのね」

 

 ジルクニフが中央集権を為すための改革。そして無能貴族を排し、有能であれば平民でも取り立てる政策は鮮血帝の名に恥じぬ過激なものであったが、帝国の新たなる礎を築いたのだ。

 そんな時代の波に乗り遅れ、いまだ貴族という名にしがみつく者などいるはずも無いと思うものの、あの双子を探していた少しだけ会話を交わした執事の疲れ切った表情に不安を覚えるレイナース。

 思ったままをついつい言葉にしてしまったけれど雰囲気を暗くしたいわけではないのだからと務めて明るく振る舞ってみたり。

 

「と、まあ私の推測に過ぎないので気にしないでいただけるとありがたいですわ」

 

「その投げっぱなし精神は自分たちに通じるところがあって好きなんですが、うわぁ……当たってそうだなあ」

「……双子大丈夫だよな?」

 

 とにかく皇帝に会うのは了承。多分近いうちに向こうから連絡をよこすでしょうから今はモモンガたちの観光を優先してくれと言われれば、確かにいつも面倒事に首を突っ込みすぎだよなと反省してしまう。

 ただ、家も近いし少しでもいいのであの子たちを気にかけてやって欲しいと困った顔で言うモモンガとペロロンチーノに、優し気に微笑み了承するレイナースは言葉に出すことを控えている親愛と忠誠心をグングンと上げてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらためましてクリアーナ・アクル・アーナジア・フェレックです」

「パナシス・エネックス・リリエル・グランです。よろしくお願いします」

「他に通いの庭師がおりますが料理人などはおりませんわ。そもそも仕事柄皇城の騎士寮の方が通いやすくて……でも最近はこちらで暮らしてシャルティアさんたちを真似て料理の勉強もしていますの」

 

 そう言ってはにかむご主人様……いえお嬢様は本当に変わられたなあなんてクリア―ナは考えていたり。

 貴族と言っても領地を持たない騎士爵。ただ皇帝直属の四騎士ともなればその権威は跳ね上がり、いかな大貴族といえども下手には扱えない。

 そんなお嬢様に仕える様になって数カ月。最初は気難しい方だと思っていたけれども、知らされていた呪いのせいであまり他人と関わりにならないようにしているだけの、ごく普通の貴族令嬢であると分かってしまう。

 私の決して美人とは言えないけど人を安心させると言われたこともある顔が良かったのか、パナシスの朗らかな性格が良かったのか。そもそもほとんど帰られないこの邸宅にメイドが必要であるとは思えないのだが、それも貴族としての面倒な務めなのだろう。前任から次いで追い出されることも無く仕えていられるのはそういうことなのだろうなと感じていたのだが、いかんせんその仕事量が少なすぎる。

 もしや前任は暇すぎて辞めたのだろうかと失礼なことを思ってしまったけれど、数週間前に久しぶりに帰ってきた呪いの解けたお嬢様により一変する。近いうちに大切なお客様が訪れると。

 

「えっとモモンガです。お世話になりますね」

「ペロロンチーノです、よろしくお願いします。俺らも家名とかあったほうがいいのかな?」

「シャルティア・ブラッドフォールンでありんす。それを言ったら妾はどうなるのでありんす?」

「アルベドよ。うーん……いっそのことモモンガ様たちに新しく作ってもらうのもいいわね」

 

 豪華とは言えないけれど高貴と思える衣服を着こんだ男性二人と、絶世の美女と美少女の来訪。聞かされてはいたけれども特に女性陣のこの世のものとは思えない美しさに驚愕しきりだ。つまりこの御方達がお嬢様の呪いを解いた恩人であるのだろう。

 先ほどパナシスが御者の方達に挨拶に行った際彼らが王族であるとの情報を得たのだそうな。

 

「こういった場合、名前・洗礼名・家名とかでしたっけ?」

「確かタブラさんに昔貴族名についての蘊蓄を聴いたんだけど、治めてる領地名とか所属名とかも入ったり、洗礼名なんかはバンバン貰って長くなるんだとか聞いたことがあるな」

「となるとモモンガ様でしたら……モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリックでしょうか」

「それ格好いいでありんすね!」

「素敵なお名前でございますわ!」

 

 お嬢様の最近見せるようになった微笑みに嬉しくなってしまう。ただ、今の微笑みが一番年若い少女に向けられているように感じてしまったのは気のせいだろうか。

 それはともかく毎日のように帰ってきては念入りな掃除を指示するようになったことや、私たちと一緒に料理をするようになったのもこの御方達の為なのだろう。

 極めつけはあの日着ていたドレス。嬉しそうに『お借りしているメイド服よ』とおっしゃっていたのは、新たにこの王に仕える立場を得たという事なのだろうか、もしや愛妾として……。

 いや無粋な詮索は無しだ。お嬢様とついでに私たちの幸せの為なら全力でバックアップしますからねと鼻息も荒いクリアーネであったりする。

 

 

 

 

 ただ翌日早朝までの嬌声。あれは拙い。

 

「すいません……聞こえてました……よね? モモンガさんたちは()()()行ってたのか……忘れてた」

「あれ? 聞かせていたのではないのでありんすか?」

 

「……す、すごいのですね殿方というのは。知りませんでした」

「……ま、まったく寝ておりませんよね?」

「……」

 

 無言で真っ赤になっているお嬢様を見ればその手の経験が全くないのも推測できる……いや私たちもなのだが。

 だ、大丈夫。きっとこれが普通の男女の営みなのだろうと間違った性知識を手に入れ、レイナースをより一層焚きつけていくクリアーネだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 謝罪と朝食を済ませたあと、さて今日はどうしようかとレイナースを含めたみんなで案を出し合っていると、ガゼフ邸を出てから新たなオッサンとのラヴを探している五女が来客を告げてくる。

 

「ご主人さま~イケメン連れて来たよぉ……あーし、こーゆう真面目なの好きじゃないんだけど」

「す、すみません……失礼致します、四騎士が一人ニンブル・アーク・デイル・アノックです」

 

 一方的に興味ない発言されても困るだろうに律儀に謝るイケメンはレイナースの同僚である四騎士の一人らしい。

 

「驚いたわ。陛下の事だから直接やって来るなんてことも考えていたけど、まさかあなたが来るなんてね」

「戦争前ですので時期が悪いですね。ロウネ殿が止めなかったらそうなっていたことでしょう。フールーダ様も陛下でなければ止められませんし……大変でした。モモンガ様御一行ですね、帝国への御来訪歓迎いたします」

 

 内心ひどく疲れているんだろうなと思ったものの笑顔でそういうイケメンを見て、モモンガとペロロンチーノが感じた第一印象は苦労人なんだろうなといったことと少しの違和感。

 考えるまでも無く自分たち……特に女性陣を見て驚くようなそぶりを見せなかったことなのだが、それほど気になることではない。

 ただアルベドの瞳だけはそれを見逃さなかった。女としての勘なのか、サキュバスとしての感覚なのかはわからないが。

 

「……代表という事になるのでしょうか。私がモモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・フォン・ナザリックです」

「げほっ!? げっふぉっ! フォンって、卑怯だぞモモンガさん!?」

 

 どや顔でそう言うモモンガに少し見とれてしまったが、この男が気にしている女は……意識しているのはレイナースなのだろうとアルベドは感じていた。

 恋愛感情とは違うとは言えないけれど何かが違う。カタカタとスーパーコンピューター並みの頭脳がはじき出す答えは異常なほどに早かった。あぁ皇帝とやらの差し金かと。

 レイナースが私たちに傾倒しているのを防ぐ為の対策……いえそんな難しい話ではなく可能性を増やそうとしているのだろうか。

 皇帝とかなり近しい立場であろうこの男がせっつかれて意識してしまっているものの、言動からも分かるこの真面目な男が呪いを解かれて途端に美しくなった女にすぐさま言い寄るわけにはいかないという感情がありありと見えてしまう。

 あれ? こういうの考えるの楽しいわね! なんて大当たりな予想を立てたアルベドは自分が安泰なせいかサキュバスの性なのか他人の恋愛って面白いわねなんて感じ、新たな楽しみを見つけてしまったり。

 

「モモンガ……フォン……はっ!? 失礼いたしました。そ、それでレイナース例の件は」

「了承していただきましたわ。今日は無いとしても……シャルティア様♪ なにかご要望などございませんか?」

「え? そ、そうでありんすねぇ……せっかく作ってもらったパーティドレスがありんすし着る機会があれば嬉しいでありんすね」

 

 ピンポイントでシャルティアに振るレイナースの表情を見つめながら『あ、これ本当に面白いわね』なんて一人思うアルベドだった。

 





Web版からアインズ辺境候のメイドさんを賑やかし要員として拝借。多分もう出ないw

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