バルド・ロフーレさんのお店で昼食を終え、女性二人は足りなくなってきた食材の買い出しへ。モモンガとペロロンチーノはロフーレさんと蒼の薔薇から送られてきた例の『支援金』についての話し合いなどを行い、あっという間に日が暮れる頃合いになりガゼフ邸へ戻ってきた。
あのドレスはすでに彼女たちのアイテムボックスに仕舞われており、しばらくは出てくることは無いであろう。
「燃やしたら燃えそうでありんす」
「切ったら切れそうよね」
いや服なんだから当たり前だろうとは思うものの、魔法の装備とは違うのだ。汚れたら洗わなければならないし、とてもじゃないけれど
それを少し残念にも思うけれど、口の端を緩めて大事そうにドレスを仕舞う二人にほっこりしてしまった。
何故かブリュンヒルデと蒼の薔薇の女忍者の片割れが裏庭の片隅にあるベンチでイチャイチャしていたがあえてスルー。
もう一人いる女騎士、三女と交代した五女に話を聴いてみるとガゼフ・ストロノーフが戻ってきていると言う。
「あーしご主人様も好きだけどー、あーゆうオジサンもちょー大好きなんよー。奥さんとかいるん?」
髪の毛を人差し指でクルクルといじりながらそんなことをのたまう五女は変態ではなかったがギャルだった。
「あーゆう男の加齢臭ってゆーの? 嗅ぐだけで足ピンしてイきそうじゃね?」
いや、匂いフェチの変態だった。
言葉節に思うところがあったアルベドも『いないから頑張りなさい』などとモモンガに手を出さない娘ならOKらしく煽っていたりする。
まるで我が家のように普通に家に入りリビングまで来ると、会話を交わしていたガゼフと老夫婦が気づき声をかけてくれた。
「あらお帰りなさい。それじゃ早速夕食を温めてくるわね。アルベドちゃんとシャルティアちゃんはいいから今日は任せて頂戴」
普段は率先して台所に立つアルベドたちもそういうことならと席に座り、何とも久しぶりにガゼフ・ストロノーフと再会を果たすことが出来た。
「とにかくまずは謝らせてくれ。多忙だったとはいえ客人を長期間待たせることになってしまった。申し訳ない」
上座に座っていたガゼフが立ち上がり頭を下げる。その多忙の一端をモモンガたちが作り出してしまったのは明らかであり、慌てて声を上げる。
「やめてくださいよ、こんなに良くしてもらっているのに戦士長様が謝ることなんて無いですから」
「ホントだよ。いろいろあったけど宿に泊まるより全然いい生活が出来ちゃったし」
ベッドもヌルヌルにしちゃったし、裏庭もいろいろありすぎてボッコボコになっちゃったしなどと、今更ながら他人の家でやりたい放題だったことを反省する。
しかしお互いにぺこぺこと頭を下げていても仕方ないとばかりにアルベドが話題を振ってくれた。
「そろそろストロノーフ様も、あ、あなたもお座りになって下さい。それで……少し不思議なのですがここまで忙しいものなのですか? 戦士長というのは」
「王城まで馬車で30分ぐらいでありんしょうか。別に家に帰ってもよかったのでありんせんか?」
確かに一番の原因があの娼館の件で吊るされた王子だとしても、一週間以上も王城に寝泊まりする理由にはならない気もする。それ以前に王城に帰還してから一か月以上帰れていないとも聞いている。
「うーん……まあ君たちなら構わないか。あの時君たちが受け取ってくれなかった水晶がまず一つの原因だ」
「あー……あの残念な」
「ラストアタックはストロノーフさんですしね。なんにしても私は受け取る気はありませんでしたよ」
カルネ村での一戦。敵大将が持っていた魔道具は使われることは無かったが、鑑定の結果第七位階天使が封じ込められている水晶だった。
「魔術師組合の者の鑑定でどういった物であるかはこちらも把握できたのだが……アレを奪おうとする輩がいたんだ。幸いなことに賊を捕らえたはいいんだが、首謀者は教会から洗礼名までもらっている貴族だった」
「教会って確か法国が関与してるんだっけ」
「……あいつらストロノーフさんが言ってましたけど法国の部隊でしたね。取り返しに来たのかな?」
「その貴族は取り潰しになったが……今度は別の賊が宝物庫を狙ってきてな。王宮に寝泊まりというよりは昼は王族警護、夜は宝物庫の番人のような生活だった。そんな中クライムから連絡があって、なんとか王に許可を取り一カ月ぶりに自宅へ帰ってきてみれば、緊急連絡ですぐさま王城に戻ることになったわけだ。目撃者も多く隠すつもりも無いが王族が吊るされた事件だな」
「あー……」
「た、タイヘンデシタネ……」
「全部妾達が」
「シャルティア!? あら、夕食が温まったようよ! ほら配膳を手伝いましょう!」
シャルティアが言いかけたが一端どころではなく多忙の原因の殆どにモモンガたちが関与していたらしかった。アルベドもなんだかんだで状況は察したらしく面倒な話に時間を取られるのは御免だと、シャルティアを連れてキッチンへ。
そんな中扉を思いっきり開けて飛び込んできた女忍者ティアの登場は、ある意味救いだったのかもしれない。
「ブリュンヒルデ様が空に消えていった……」
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話をがらっと変えることが出来た功労者のティアは、アルベドとシャルティアの間の席を用意され現在至福の時を迎えている。女なら誰でもいいわけではないのだが、絶世の美女と美少女に引っ張られれば例えレズではなかったとしてもホイホイついていってしまうのは仕方がないのかもしれない。
「じゃぁ作戦は上手くいったんですね」
「あぁ。だが君らが六腕を倒したと聞いたときは驚いたものだぞ」
「倒したのはうちの御者なんだけどね」
「よく見るとこの娘結構可愛いわね」
「ふわぁ……そこ……んっっ!?」
「イビルアイ程ではありんせんがあのチームは粒ぞろいでありんすよ」
食事を頂きつつガゼフに昨夜の作戦について教えてもらったのだが、主要メンバーはもちろん襲撃側に死者は出なかったそうで一安心だ。
女性陣はこちらの話には加わらずにテーブルが邪魔で何が行なわれているかは見えないが、自ら『男も女もいける』と設定した吸血鬼に、『エッチである』と設定されたサキュバスの行為を止める理由がない。相手が男だったり、嫌がっていたりすれば止めもするのだが。
たぶん太ももを撫でているだけだろう。うん、きっとそう。
「そういえば王都には何か用事が? それとも王宮に来てくれる気になったのなら嬉しいのだが」
「あはは、そんなんじゃなくて……あれ? なんでだっけモモンガさん」
「あー……こっちに知り合いがいないから、とりあえず家に来ていいって言ってくれたストロノーフさんにでも会いに行こうかと観光ついでに王都に行き先を決めたんでしたね。あれ? 考えてみたら居座る理由が無かったですね」
王都についてからイベントの連続で流されるままに過ごしてきたが、特にガゼフ・ストロノーフにこれと言った用事は無かったりする。
「ははっ、どんな理由でもいいさ。共に戦った仲間とこうしてまた会えたのだからな」
「仲間……ストロノーフさんにそんなこと言われると……なんか嬉しいですね!」
「クククッ飲もう! とっておき出しちゃおうぜ、モモンガさん!」
「ここは……どうでありんすか? 旦那様の得意技でありんす」
「あっ!? らめっ!」
「ふふっ、何がダメなのかしら? 私たちはいつもこれの数十倍の刺激を12時間くらいぶっ続けで与えられているのだけど……これはこれで女体に関する勉強になりそうね」
男性陣と女性陣で盛り上がり方が多少違ったが、王都の夜は更けていくのだった。
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「行くのか……いや、もう何も言わん。君たちにはすっかり心を折られたからな」
「人聞きが悪いな!?」
「エ・ランテルの方が王都より栄えてるって聞かされた上に、お城以外の観光地も無いんじゃ散策する理由が……それにガゼフさんに会うっていう目的も果たせましたしね」
明けて翌日。急ではあるがモモンガたちはこの都市を離れることを決断した。
昨夜女性陣は早々に三人で寝室に行ってしまったが、夜遅くまで再会を喜ぶ宴は続けられた。ただ話の中で観光名所やこの都市の名物。美味しい食べ物などの情報を聞き出すも、ある程度分かっていたことだが『趣がある古都』というより『寂れた古臭い都市』であることが分かってしまった。
ガゼフ自身もそんなことを言うつもりなどさらさら無かったのだが、改めて聞かれると全く思いつかず、三国の中継地であるエ・ランテル以上に食料をはじめとした物資が集まる都市は無い訳で、ありのままエ・ランテルを超える場所は王都には無いと言ってしまったのが発端であったり。
「それにこれ以上ここにいるとガゼフさんが言いたくないことを話してしまいそうなので」
「まぁ絶対に応えられんしな」
「……そうか」
最後まで言う事は無かったが、王の安寧の為に第一王子の解放に助力してもらう事。不確実ではあるがそれが可能なら、つまりはあんなモノが切れるならその者が犯人である可能性が高いのだ。
今のやり取りでその確信も高まったが、モモンガたちの誠実さは身に染みて理解しているのもあり、それ以上の言葉を発するのはやめた。
それに昨夜散々に心をえぐられたのにも理由がある。
Q1 働き口を探しているのなら王に仕えてみないか。
A1 もう一度自分の仕事内容を把握して他人に勧められるかどうか考えてみてください。
Q2 この国に住むのはどうだ。
A2 以前家族とも相談しましたが、子供を産んで育てるのに適した環境とは言えません。ガゼフさんはどう思いますか?
もちろん酒の席でのマイルドな言い回しではあったが、内容に間違いは無い。逆に問われて言葉に窮するほどに王国の現状は酷いものなのだから。
「ただいつでも遊びに来てくれて構わんぞ。あれらも喜ぶ」
「えぇ、そうですね」
「また王都に遊びに来るときは泊めてもらうことにするよ」
近くで老婆に抱きしめられるシャルティアを見ながらそんな答えを返す。
「おばあが生きている間に子供を見せに来てくださいね。それと二人とも身体に気を付けるんだよ」
「はい、必ず」
「当然でありんすよ」
普通の笑顔で答える二人を見ていればこの出会いだけでも値千金。この都市まで来た甲斐もあると言うもの。
御者の一人が多少不服そうであったものの、馬車はストロノーフ邸を後にするのだった。
「うおっ!?」
ただ自室に置き土産があった。両足をガクガクと震わせあられもない姿で気絶する女忍者の対処に、顔を赤らめながら頭を抱えることになるガゼフ・ストロノーフであった。
どうにか王女に会わせようと思ったけど大して面白い展開にならなかったので大幅カットw そのうち会うでしょう。