今回はスマホが洗濯されました;;
「日が昇ってるって事は少なくともヘルヘイムではないですね」
「助かったわ……モモンガさんとアルベドが止めてくれなかったら太陽があることすらわからんかったかも」
それでも一昼夜盛り上がっていた四人であったが、それを止めたのは意外にもサキュバスのアルベドであった。愛される喜びと『二夜目の御食事』に興奮も覚めやらぬアルベドであったが、傍目に見てもわかる程に頬がこけてきたモモンガに危険を感じる。
弱々しい抵抗ではあったが、数回後に何とかモモンガの視線を時計の方向に向けさせることに成功したのだった。
「ハッ!? ってなりましたもん。それでも12時間ぐらい経っちゃってますが」
「ヤバイよなぁ……俺モモンガさんが<
「エッチやめてくれる!?」
などと話しながら二人の視線は上空を向いたまま。すでに豆粒ほどの大きさになって見えるが、アルベドとシャルティアは周囲を探索中である。
「シャルティアのあの黒いの大人っぽすぎません!?」
「意外だなぁアルベドは白なんだ……あれモモンガさんの趣味?」
今日も緊張感は皆無であった。
…………
……
…
現在四人はグリーンシークレットハウス内のリビングスペースで食事をとっている。食事はあのマーブル模様の団子ではなく、ペロロンチーノが興味を引かれて買っておいたバフ料理の『ペペロンチーノ』だ。
「うわぁ……美味しいなぁ。リアルの麺料理とは全然違いますね!」
「うん、思い出してよかったよ。名前に惹かれて買ったけどバフ効果が魔力upだから全然使ってなかったんだ。あ、シャルティアもありがとな!」
「れ、礼など不要でありんすよ! 実際これはペロロンチーノ様が持たせてくれたものでありんすし」
「料理も紅茶も美味しいわね。ペロロンチーノ様、シャルティア、ありがとうございます」
水よりもこちらの方がとシャルティアが出した無限の水差し(紅茶バージョン)のサプライズもあり、四人は楽し気に食事を堪能していく。
一息ついてお代わりの紅茶を飲みながら、話題は周辺状況の報告へと代わっていく。
「あちらの方向。かなり遠くに広大な森林が見えました。しかしながらこの近辺はただの平原としか言いようがないですね。特に気になる点は森林とは反対方向、十数キロ先から煙のようなものが立ち上っているのが見えたくらいで……シャルティア?」
「現在眷属たちをその場まで送っていんす。何分視界などの同調は出来んせんので報告待ちになりんすが……」
なにも分からなくて申し訳ないといった悔し気な表情の二人を『よしよし』『なでなで』と、イチャイチャしながら、これからの行動方針などを含めた本題に入っていく。
「あー……私が言うのもなんですが、初回だけは脱線しないようにしましょう」
重要なことなのでとモモンガが前置きしながら話を進めていく。
「そして行動方針の前にまずは全員の能力・装備・アイテムの確認から始めましょうか」
自身が制作者であるペロロンチーノは勿論であるが、モモンガもあの三カ月の間にアルベドの能力などを把握しなおしている。だが彼女たちが人間種になったモモンガたちの能力を把握しているかといえばそうではない。
対人が可能なMMOでは絶対あり得ない情報開示をモモンガは率先して始め、続くようにペロロンチーノもスキルや手持ちアイテムを時間をかけて説明していく。
だって俺たちは家族なんだからとでも言わんばかりに。
彼女たちもその誠意に答えるようにアイテムボックスの中身を披露していくのだが、大量に出てくるマニアックな衣装の数々は彼らが持たせたものであり、恥ずかしくて赤面する一幕もあったりする。
そしてすでに帰還していたシャルティアの眷属たちの報告から、立ち上っていた煙は襲撃された『村』であることが判明。わずかだが生き残っている『人間種』がいることも報告された。
「……物騒な話ですが朗報ですね。村と呼べるレベルの物があって人型の生物がいるのは」
「あとはそれがゴブリンとかリザードマンでもいいけど会話が可能かどうかですよね、それと俺達が食べられるものがあるといいんだけど」
すでに大前提としてここがユグドラシルでないことや、環境汚染された元世界ではない事は周知している。ナザリックを出たことが無いアルベドとシャルティアにとっては、どこであったとしても未知の場所なのだ。Lvが1000を超えているなんてのがいたら大変ですね、なんてとんでもない会話を真剣な表情で理解しようとしていく。
「ただ魔法もスキルも使えるのは確認できてよかった。この分だとアイテムも問題ないでしょうし、誰か欠けてもリカバリー出来るように分配しておきましょう」
「あーそうだなあ……シャルティアのメイン装備には復活アイテムを仕込んであるけど全員に蘇生の短杖は必須だよな」
あっさりと最悪な状況を、まるで日常会話でもするかのように語っていく二人に戦慄する彼女たち。「そんなことはさせません!!」と叫びたい気持ちを抑えて、会話の内容を頭に刷り込んでいく。
「それとアルベドのギンヌンガガプはそのままでいいとして、これとこれどうしましょ。こっちは一応手持ちの杖の先端に付けただけなんですが」
「モモンガ玉とスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンか……両方とも拠点防衛ならめちゃくちゃ優秀だけど、派手だなぁこれ」
テーブルの上には真っ白な杖の台座にはめられた禍々しい紅玉が目立つ杖と、なぜか直立しくるくると回転しているド派手な杖がある。
結局のところ、この場にワールドアイテムが二つとギルド武器があることは幸運だったのだが、モモンガのアイテムボックスに戻されることになった。
その理由がモモンガの次の発言になるのだが。
「よしこんなところかな? 一応偽装的な身分も作っておきますか。私は剣士……いや近衛騎士がいいなあ」
「じゃぁ俺は宮廷魔導士だな! 第一位階しか使えないけど!」
「ちょ!? ちょっと待っておくんなまし!」
「ふぉ、フォーメンション的な話ではないんですよね!?」
「姫を守護する騎士とか……実際は夫婦なんだから……こうラブロマンス的なあれでも……」
「いやまてよ……魔法より短剣とかの方が使えるんだから盗賊……いやプレイ的にはアリだけど守護剣士あたりが無難か?」
どこまでいっても根はロールプレイヤー。さっきまでの慎重論はなんだったのかと思われる程に散々妄想を吐き出したものの、最終的には「お願いですからそれは安全が確認出来てからで」と女性陣に諫められるのであった。
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「なんで言葉が理解できるのかは置いといて、これはあれかな……ラノベ的な中世ファンタジーって考えればいいのかな?」
「隊長格の二人が話してた内容から考えると、盗賊がここらへんの村々を襲っててこの戦士たちが追ってるってことだよな……うーん」
「こいつらがこの世界の平均と考えるのは時期尚早だけど、この程度で仮にも戦闘を生業にする者たちなのだから一段落ね。シャアルティアはどう?」
「なんの脅威も感じないでありんす……でも油断はしないでありんすよ!」
あれから色々と大目標、小目標などの行動方針を固めた一同は、テントを畳んでフル装備フル支援不可視化で上空から煙の出ている集落へ接近を試みた。
だが丁度そこへ騎馬の一団が接近してきたため行動を見守ることにしたのだ。
戦士団は必死に瓦礫を撤去していき、生存者を探しだそうとしているその状況を、はるか上空から観察している一行であった。
「ここでの接触は避けるべきかなあ? 俺たちが犯人だと思われてもなんだし」
「そうですねぇ……現存している村があるなら先にそっちに接触した方が無難かもしれないですね。シャルティア、アルベドどうだ?」
「あれは集落だったのかしら……モモンガ様、大森林の方角にちょっとした空き地というか空白地帯があったのですが、もしかしたら生きている村かもしれません」
「あーあれでありんすか。さすがに10キロを超えると村かどうかの視認は困難でありんすが確かに不自然であったかもしれんせん」
もしここが地球であったのなら上空100mも昇れば周囲40kmは視認できるはず。この世界が球状であるかどうかとか大きさがどうであるかとか不確実性が高すぎて、この場では言葉にすることは無かったが、モモンガは行動方針を提案する。
「そこへ行ってみましょう。集落であるなら次に襲われる可能性が高いし、襲われなかったとしても情報収集の最初の拠点にするのもいいと思います。日暮れまではまだまだありますし善は急げです。なにか他の意見などはありませんか?」
「いいね! さっきのロールプレイも出来そうだし!」
笑顔で即答するペロロンチーノだったが、先ほどとは打って変わって複雑な表情をしているモモンガに気付き首をかしげる。
「リアルの襲撃された集落を見ちゃったからなんでしょうが……私たちの強さ的には多分問題ないと思うんですよ……でも戦えるんでしょうか? 盗賊とはいえ人間相手に剣を振れるのかどうか……」
「あ……うーん……」
はっきりいって調子に乗りすぎていた。何でもできてしまえるような万能感が自身を支配していた感も否めない。
だが、もしリアルの世界であったと考えると……例えば駅前で鉄パイプを振り回す暴漢に居合わせ、こちらに向かってきたとしたら一般のサラリーマンはどうするだろうか……全力で逃げるにきまってる。
「もしアルベドが暴漢に襲われて……あれ? 殺せるなそいつ」
「あ、ほんとだムカムカしてきた」
あれ? おかしいな……ラノベだったら殺す覚悟がなんて展開だと思ったのに、なんて考えながらがっちりお互いの嫁を抱きしめる。
「クフゥ!? いえ、待ってください! 何か大事なお話だったような気が、あふぅ!?」
「ふにゃぁ……あ! そこは敏感でありんすから!? 待って、待って!」
「あ! あぁごめんアルベド……絶対守るからな!」
「あぁ! 二度とシャルティアと離れるもんか!」
なんて嬉しい言葉を与えられたならもうどうにでもなってしまう。これから始まる『姫プレイ』というのはよくわからないものの、全力でサポートさせていただきますと考える女性陣であった。
実際モモンガさんが人のままだったら殺しは難しいんじゃないかなーと思いますw