鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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21 九つの宝石

 モモンガの朝は早い。

 

 エ・ランテルを出立してからというもの、御者である天使たちを召喚するために朝六時前にはカルネ村に赴いている。

 召喚時間は12時間。つまり一日に二回超位魔法を放てば一日中活動できるのだが、面倒なのと夜間は彼女たちの仕事がほとんど無いので行っていない。

 

 一昨日は裏娼館で大捕り物があり、緊急的に夜間に呼び出したせいで翌日昼間、丁度モモンガたちがガゼフ宅に着いた頃には消えていた。

 

 本日もその召喚の為にと嫁を起こさないようにお借りしている部屋を出る。もちろんアルベドが起きていない訳はないのだが、日課は把握しておりその為だけに妻を起こすことを良しとしないモモンガの気持ちを汲んで同行することは控えている。

 

「ちょっと出てくるな」

 

 瞳を閉じてはいるが、頭をなでられ額にキスされ耳元で『愛してる』とささやいてから部屋を出ていくモモンガを見越し、シーツを被って身悶える。なにこれ……幸せすぎて死んでしまうと。

 さすがに他人の家で事に及ぶことはなかったモモンガだったが、アルベドは一度寝たらなかなか起きない旦那を相手にものすごいことを平気でしていたのだ。

 だがそれを超えるカウンターを食らい頬を真っ赤に染めて震えるさまは、清純な少女のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村に転移してくると、テント前には真っ白なシーツが干されてあった。そして何故かヌラヌラと照り輝くこの場には不自然な地面に置かれたベッドの前で呆然としているペロロンチーノとシャルティアと()()()()()()()()()()の姿が。

 

「てへ! やっちゃったぜ!」

「好奇心を抑えられなかったでありんす! なので勝負に出たのでありんす!」

 

 とりあえずペロロンチーノにアイアンクローをかましながら情報を聞き出して脱力するモモンガ。もうそれはどうにもならんから老夫婦に謝ってきなさいと促す。

 シャルティアのエインヘリアルもヌルヌルなのはどういうわけだと聞くことは無かったが、昨日はペロロンチーノの完全敗北だったらしい。むしろすごく嬉しいらしい。

 

 二人を帰還させモモンガはいつもの森の広場で超位魔法を発動。天使たちを召喚する。

 

「ごしゅじんさま! だいしゅき!」

 

 どうやら召喚時にランダムで掛け声が変わるらしい事は知っていたが今日は末っ子の番だったようで、続くように『だいしゅき!』と復唱される8人の声にガックリと膝をつく。

 寝起きの連続攻撃にしばらく立ち上がれないモモンガであった。

 

 

 

 

 気を取り直したモモンガは天使たちを連れて倉庫へ。先日も召喚限界の昼まで元娼婦たちの面倒を頼んでいたのだが、やはりカルマ値が高い天使であるためなのか率先して真摯に対応してくれるのはありがたいと思っている。あの客達にはかなり苛烈な対応だったが……

 

「モモンガさん! えへへ……おはようございます!」

「お、おはようございますニニャさん。昨日はよく眠れましたか?」

 

 その『えへへ』はなんなの? なんて一瞬たじろいでしまったがやたらと笑顔がまぶしいニニャに、そりゃあ会いたがっていた姉に会えたのだから嬉しいに決まっているかと一人納得し、昨日からの状況の報告などを行いながら倉庫内へ。

 

 ペテルたちは薪拾いや薪割り水汲みなどの朝の作業を率先して行っているのでこの場にはいなかったが、ニニャの姉や元娼婦の女性六人と少年一人は起き上がって笑顔で出迎えてくれた。

 ニニャの報告によるとやはりまだ男性は怖いらしく、おどおどした様子が窺えるので離れた場所から天使たちを紹介する。

 

 今日から彼女たちの仕事は二人をモモンガたちの御者兼護衛役に。六人にカルネ村の雑事、元娼婦たちが落ち着くまでの介護を。最後の末っ子はいつものようにエモット家へ駆けだしていったので放って置くことにした。

 この倉庫内のことは村人たちもすでに周知しており『またしてもモモンガ君たちが弱者を救済してくれた!』などと大盛り上がり。奥様方を中心に食事などの支援をしてくれたのは大変ありがたかった。

 金貨は受け取ってくれず無理やり食料だけは提供したのだが、この村の温かみを再度認識してしまい末永く付き合っていきたいなんて考えている。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃった……どうしよ姉さん頬が熱いよ」

「うふふ……素敵な……人ね」

 

 まだ言葉がたどたどしいツアレであったがニニャの手を握り笑顔で答える。ニニャの名前についてだが辛い過去を思い出させる本名は捨て、改めて『ニニャ』を名乗っていくことに決めたようだ。

 

「格好良かった……」

「素敵だったわ」

 

 少年を含めてそこかしこで先日の雄姿を思い出す元娼婦たち。さきほどの自分たちを気使い一歩引いて対応してくれる紳士な姿勢にも好感がうなぎのぼりであり、ニニャの気持ちも分かると言うものだ。

 高貴な衣服をまとっているせいで貴族ではないのかと、ついどんな方なのかを知りたくて天使たちに問う彼女たちだったが、その答えに驚愕してしまう。

 

「ご主人様は貴族などではありません。奥方様から大墳墓の王であると伺っております」

 

 『ダイフンボ』なるものがなにかは分からないが『王族』であることが断定されてしまった。全員口を開けて呆けてしまうが、何かを思い出したのか少年がぼそっと零す。

 

「王さまは奥さんいっぱい必要……ぼくも……」

 

 なるほど確かにそんな話も聞いたことがあるし、そうなれば嬉しい事だなどと思ってしまったが、とりあえずはこの少年を更生させなければと一致団結。

 言葉通りの『可愛がり』により後に年上女性大好きな青年へと成長していくのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の天使を引き連れてストロノーフ宅へ戻るといい香りが。彼女たちは食事は必要ないらしいので馬車に案内して自由にしてもらう。

 屋敷に入り二階の部屋には向かわずリビングを通ってキッチンを覗くと、アルベドとシャルティアがお婆さんと一緒に料理をしていた。

 

「みなさんお若いですからねぇ。昨日の料理は薄味だったでしょうがどうでしたか?」

「特に村の料理より薄いとは感じなかったかしら? 品数が多かったので素材の味を知れて参考になったわ」

「ハーブは勉強になったでありんす。紅茶に使えないでありんすかねぇ……」

 

 仲良く料理を続ける様子にほっとしつつ声をかけ、促されるようにリビングへ。丁度ペロロンチーノさんも部屋の掃除を終えたのかやってきたので、二人で会話をしながら朝食が出来るのを待つ。

 

「<クリーン>とかそういう魔法があってもいいと思うんだ……」

「……ありますよ第一位階に。なんでMMOにあるのか不思議でしたが取ってる人は見たこと……あ、私取れるな」

 

 ごく一部の『汚れたオブジェクト』に使用可能だった魔法ではあったが、ゲーム上プレイヤーに汚れという概念が無いので取得理由がまったくなかったこの魔法。

 確かにこの世界なら便利かもしれないと取得を提案するが、ペロロンチーノに止められる。

 

「いや待って! さすがにモモンガさんの魔法は生命線だから! あの指輪と一緒で落ち着けるところが見つかるまでは保留の方向でお願いします」

「そうですか? まああとで嫁たちと相談してみますか。私今の所転移くらいしか魔法使ってないんですよね。この世界で取得した<伝言(メッセージ)>と<クリエイト・グレーターアイテム>を除くと範囲攻撃魔法ばっかりで使い道がなくって」

 

 魔法使いなのに杖で殴り飛ばすか蹴り飛ばすぐらいしかしてませんでしたねと笑うモモンガであったが、それだけで危険が回避できている現状はありがたい。

 

「ここまで危険な出来事ばっかりでしたけどね」

「あはは! おっと出来たみたいだぜ! 今日は何かなあ」

 

 老夫婦は二人そろって後でいただくらしく、いつもの四人での朝食だ。

 

「モモンガ様はもっと濃い味付けの方がよろしいですか?」

「さっきの話か? アルベドの作ってくれる飯はなんでも旨すぎてなあ。ただ村で食べた塩漬け肉だったか? 保存の意味もあるんだろうけどあれは辛すぎだったかな」

「あの時は料理を習いたてで……本来はあのまま焼いてはダメなのだそうで」

 

「おばあに聞きましたが海が遠いので魚貝の類は難しいそうでありんす。でも『海回』は必須とペロロンチーノ様から聴いておりんしたので一度は行ってみたいでありんすね」

「ああ『魚って見ないな』って話を覚えていてくれたのか。いいな! 夢は広がりまくりだな! ん~うめぇ!」

 

 他人の家であることを忘れているかのように寛ぐ四人であったが、事件は意外なところからやって来るもので。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら見てればコッコドールさんの逆転のシナリオも納得できるぜ」

「本当かねぇ? まあ仕事だからやるけどガゼフ・ストロノーフは不在ときてれば私も必要なかったんじゃないの?」

 

 目標の三人を連れ去るのは難しいとさえ思わないが面倒だ。一人連れだしてあとはおびき寄せればいいなんてサキュロントの安易な策に辟易する六腕の紅一点エドストレームだったが、奴隷売買の部門はもう終わりだと内心思っている。

 先日起こった娼館襲撃事件の真相は何もわかっていない。忽然と娼婦が連れ去られ、客や従業員が城門に吊るされたのだ。

 こんなことが出来るとすれば『蒼の薔薇』以外にいないのだが、別件でサキュロントの部下が宿を見張っておりありえないことがわかってしまう。

 しかも縄がほどけなくて貴族に根回しして解放させる以前の問題が起こっているとの噂もあり、城壁を壊して引き下ろしたとの真実からそれも嘘ではないのだろう。

 

「見えた……あれ? この間の御者と違うような……」

「へぇ……確かに女の私から見ても見とれてしまうわね」

 

 馬車を下り目立たないようにカップルを装ってストロノーフ宅までやってきた二人は、門の内側近くに停められた馬の居ない馬車に悠然と座り瞳を閉じる女騎士を見つける。

 確かにあの女を娼婦に出来れば引く手あまただろう。他に二人も同程度の者がいるとするならば、娼館再開の目途も立ち、コッコドールのメンツも保たれるというシナリオに頷いてしまうと言うものだ。

 

 辺りの人気を確認し、一気に詰め寄る二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お食事の所申し訳ございません。三女ヘルムヴィーゲがノリノリで賊に連れ去られて行きました。賊の本拠地を探るために丁度いいかと私も(不可視化で)スルーしたのですがドMな性癖の為少し不安です」

 

「もう私朝から内容が濃すぎて……大丈夫なんだよな?」  

「はい、不安なのは賊の方です」

「何度来られてもそれはそれで面倒ですから良い機会です。一気に潰してしまいましょうモモンガ様」

 

「確か三女は耐久力にガン振りのタンクだったと聞いておりんす。嬲られることに喜びを感じてしまうと言っておりんした」

「あいつらは性癖の宝石箱だな!?」

 





月曜と木曜を目途に書いておりますが十二月から年末年始は不定期とさせてください。すまんのw

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