鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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20 大相撲初場所

「治療は出来る範囲でだけど終わったわ……あとは何か消化に良いものでも……ってあなたたちまだやってるの?」

 

「あそこまで慎重に行動しておきながら何故単独で、しかも防具さえ纏わずに飛び出して行かれたのですか!」

「そ、その通りです御免なさい」

「反省しろよ! モモンガさん!」

 

「ペロロンチーノ様もでありんす! あの場はモモンガ様に振るのではなく私たちに相談してほしかったでありんす! バックアップもできんせん!」

「あ、あぁ本当にその通りでございます……反省してます」

 

 ニニャの姉をシーツに包み御姫様抱っこをしながら颯爽と帰還した英雄は、現在部屋の隅で正座をしながら嫁に延々と叱られていた……かれこれ30分は経っている。

 ラキュースとしても聞きたい事やお願いしたい事など。話したいことが山ほどあるのだがあの状態ではどうにもならない。

 漆黒の剣の面々や特にニニャなどもお礼すら出来ていないありさまなのは、帰還直後から首根っこひっつかまれて怒涛の説教が始まったからであり、今は彼らの部屋で看病をしながらこれが終わるのを待っているところだ。

 

『お前ら死にたくないならあれに口出ししない方がいいぞ』

 

 そう真剣な……いや必死とでも言った方がいいイビルアイの助言に恐怖しつつ、黒いオーラを放つ女性陣の愛するが故の怒りが収まるのを待つしかないのだ。

 

「もうあれだな、あいつらは別として考えないと話が進まねぇよ。あの魔法はなんだのとか聞いても理解できないだろう」

「ガガーランの言うとおりね……こっちはこっちで洒落にならないのが出てきちゃったし……」

 

「巡回吏のスタッファン・ヘーウィッシュ。結構黒い噂が絶えなかった」

「小物はいい。もう一人は本物?」

 

 名前までは知らなかったが巡回吏が一番目の部屋にいたのは気づいていた。ただニニャの姉を嬲っていた人物の方に問題があったのだ。

 

「あれだけ鮮明に映ってたのよ、それに声まで……バルブロ第一王子に間違いないわ……」

 

 噂の域を出ないが八本指と金銭のやり取りがあったなどとは聞いてはいたが……他の部屋には護衛や子飼いの貴族がいるのかもしれない。

 

 私たちへの依頼の最大の目的は八本指を潰すこと。不確実だった裏娼館を置いて黒粉を生産する村の破壊工作にシフトしたのは要は身バレを回避するためだ。

 強襲は可能だが下種な性癖を持つ者たちの最後の楽園。確実に強固な抵抗があり、大騒動になることが目に見えているため出来なかったのだ。

 ギルド規約を無視している依頼だと言うのも関係している。

 

「もし……モモンガさんたちに手伝っていただけるならこれは起死回生のチャンスになるんだけど……」

 

「暗殺者廃業案件」

「多分あの裏娼館いまだに誰も気づいてない可能性がある」

「だよな。頭おかしくなんぞ」

「……」

 

 怖い。恐ろしいのだ。遠く離れた場所から誰の目にも気づかれず強固に守られた目的の場所に容易く侵入し得る能力……イビルアイが自分たちより強いと断言し、王国の危機だと叫んだ理由に気付いてしまう。だからつい彼らを視界に映すのだが。

 

「目覚まし時計は良案だと私も思いました! ですがいくら至高の御方の御声とはいえ女性であるぶくぶく茶釜様の声で営みを止められた私の気持ちがおわかりになりますか!?」

「はい……あれは私もビクッとなってものすごく気まずかったです……」

 

「あはははははは!!」

「ペロロンチーノ様、笑いす……ぷっ……ダメでありんす、腸がよじれるでありんす!」

 

 あ、大丈夫そうだ。全然怖くなかった。

 

 何やら今朝方起こった悲劇(?)の話題にまで説教が飛び火し始めていたが、傍から見て彼らが恐怖の対象には全く見えず、一段落したのかモモンガたちが立ち上がり申し訳なさそうに謝ってきたのには笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでお願いなんですけど他の人たちを助けるにはどうしたらいいでしょうか?」

「見ちゃったもんなあ……放って置けないけどどうしようもなくて」

 

「は?」

 

 そうだ。八本指だなんだと呑気にこんなことをしている場合ではなくて、他の部屋にいた娼婦を助けるのは当然じゃないかと……だがあの光景をまざまざと見せつけられて『どうしよう』は無いではないかと。

 

「10人くらいでしょうか? 病院……じゃなくて神殿? それと衛兵に突き出せばいいのか?」

「俺たちじゃ抱えきれん案件だからな……」

 

 その答えに納得すると同時に戦慄するラキュース。あの襲撃に抵抗は無意味だ。もうすでに彼らは制圧とかより娼婦たちの今後についての意見を求めているのだと。

 

「私がラナー様に」

「やめなさいクライム。それは本当にどうしようもなくなった時の話よ。治療は私が、あとは父に頭を下げて領地に囲ってもらいます」

 

 実家に戻れば見合いの一つでも受けなければならなくなるかもしれないが背に腹は代えられない。

 

「……ただの犯罪じゃないのか裁く側も犯罪者なのか遠回りなのがわからないわね。根が深いのかしら? モモンガ様。どうやら彼女たちは秘密裏に事を進めたい様子」

「やっぱりか。じゃあとりあえずは私たち流にやってしまいましょう」

「カルネ村だろ? シャルティア、エモットさんに話して村の倉庫貸してもらえるようお願いしてきてくれないか。10人分くらいの寝床が欲しいから」

「あい了解いたしました。村長にもでありんすね」

 

「え? え?」

 

 

 翌朝、王城正門前に王子を含む素っ裸の男たちと、屈強な男たちが奇妙な縛り方で吊るされ、半日以上もの間晒され続けたのは多くの者に目撃された。

 『裏娼館の客』『従業員』とご丁寧に落書きまでされて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでもします! そうだ、僕実は女なんです! 貧相な身体かもしれませんが」

「いらんから! 私の妻の前で怖い事を言わないでくださいよ、国が消えます」

「くに!?」

 

 翌朝しれっと食堂で食事をとるモモンガたちを発見した漆黒の剣一同は、昨日は結局会うことは叶わなかったためでもあるのだが、詰め寄って頭を下げてお礼を述べるばかり。またしても遅い時間であるために他のお客に見られることは無かったが。

 

「お願いというのはそうではなくてですね、この街をすぐに出ていただきたいんですよ」

「え……でも」

 

「お姉さんは俺たちが一度カルネ村に運ぶ、ペテルたちは組合に行って……そうだな『やっぱり金のプレートを早く身に付けたくって』とでも何でもいいから告げてからがいいか」

「……危険かもしれないということですか」

 

「接点は無いから尾行は無いと思うんですけど念のためです。街を出てしばらくたったら全員カルネ村に送りますので」

 

 なにからなにまで頭が上がらない。ここで姉が見つかることも繋がりを知られることも拙いのだと理解できる。それほど凶悪な組織に対抗してしまったのだから。

 だからこそ、それに対する対価が見つからない……それどころかほのかな恋心を抱いてしまっている自分を恥じるばかりなニニャであったが、姉にも会って欲しいと言葉を続ける。

 

「姉が……お礼をと……」

「ニニャさん……昨日のあれを見て何を感じました? ねぇ……あなたのお姉さん……私の旦那様に惚れてしまったなんてことは……」

 

 怖い。ものすっごく怖い。必死に首を横にぶんぶん振るが……ゴメンなさいアルベドさん。私も含めてその通りです、てへ♪ なんて言った瞬間死ぬ。あ、違う国が消える。

 変なことを言わないように釘を刺しておかなければと心に決めるニニャであった。

 

「モモンガさんたちに従おうぜ。どう考えても蒼の薔薇が手こずる相手に俺ら程度じゃ話にならんだろうさ」

「ツアレ殿も療養が必要なのである」

「あれ? ラキュースさんが治療したと……病気は治せないのかな。シャルティアでもいいけど向こうに本職がいるから頼んでおくよ」

 

 神官戦士となると手落ちの魔法もあるのだろうか? いや、重篤な状況で限界があったのかもしれない。シャルティアの病気治療は正悪関係ないので可能だけど、天使たちの中の次女だったか? あの娘なら可能だろうとペロロンチーノは考える。

 あの娘たち万能すぎるのは嬉しいのだけど、ただ……

 

「……昼時くらいに空の彼方に消えていく女騎士たちがいますが気にしないでくださいね」

 

 こればっかりはどうにもならないなーなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は俺たちの番だな」

「食事中にごめんなさいね」

 

 漆黒の剣との話し合いが終わるのを待っていたのだろう。入れ違うように入ってきたのは蒼の薔薇のラキュースとガガーランだ。

 

「あら、他の三人は?」

「イビルアイはいじられるのが嫌だって。他の二人は()()()()()()()仕事に出てもらったわ。会いたがってたけれど」

「素直になれない妹でありんすね」

 

「……姉妹か」

「言わせないですよ!」

 

 前日あんなことがあったのに普段と変わらないような態度に呆れてしまうが、とにかく報告はしておかなければとラキュースが話し始める。

 

「資料と呼べるものは根こそぎ持ち出せたわ、検証はこれからだけど八本指との接点を見つけ出せると思う……最初はぬるい制裁だと思ってたんだけど……あれ切れるの?」

「考えると怖いからよそうぜラキュース。とにかく礼を言わせてくれ」

 

 ペロロンチーノが持っているロープは盗賊関連のスキル取得時にイベントNPCから貰ったもので、本人はどんなものか分かっていないが、ガゼフクラスが宝剣を使って武技を叩きこめば切れるかもしれないなんてことは今の所誰も分かっていない。

 

「成り行きですので礼はいいんですが……村にこっそり支援してくれたら嬉しいかな」

「村長には迷惑かけちゃうけどなんとかなりそうなのは幸いだな」

 

 ニニャの姉を抜いて女性六人少年一人を救出したが、そのうちの三人は元冒険者だったのだそうな。考えてもみればあんなことを続けられていればすぐ死んでしまうわけだが、それを耐えきれてしまうレベルがあったのだろう。

 

 後に全員がカルネ村に住むことを決め、自警団及び食肉調達の猟師などとして活躍することになるのだが、今は心を癒してほしいと望むばかりだ。

 

「当然です。あの村に迷惑をかけることが無いようにこちらでも手を打ちますし支援も……あれを全部使わせていただきますよ。ロフーレ商会でよろしかったですよね」

「はい、信頼できる方ですので」

 

 根こそぎ持ち出したものの中には当然ながら金貨や宝石の類も。モモンガたちは不要と言うので全て蒼の薔薇が預かっているが、すべて元娼婦や村に還元しようと考えている。

 正直神聖視されている現状モモンガたちからは受け取ってもらえないだろうと言う配慮だ。

 

「それでクライムが来てから話そうかと思ったんですが……来れないでしょうし一つだけ。いつか私たちの依頼主に会っていただけませんか」

 

 雇用主の情報をばらすことは出来ないが、前日クライムが零した時点でバレているだろう。変に取り繕うのもなんだがラナーも絶対会いたがることは確信できる。

 

「なんかそんな予感がしたんで絶対いやですって言おうと思ったんですが……」

「うちの嫁たちが乗り気なんですよね」

 

「さすがにどこの街でも比較されれば会ってみたくもなります」

(イビルアイ)クラスならプリキュアに入れてあげるでありんす」

 

 なぜか第三王女に変なフラグが立ったが、今度こそ厄介ごとがありませんようにと祈るばかりなモモンガ一行であった。

 

 

 なおこの日、宿を発ってガゼフ宅へ訪れた一行だが『急な呼び出しで王城に戻ることになった済まない、好きに使ってくれて構わないので戻るまで滞在していてくれ』と言われたことで、ペロロンチーノ念願の『ヌルヌル大相撲』が開催されたりしている。

 

 

 

 

 

 




次回は未定です。すまんのw

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