鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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19 そのたとえは分かりやすい

 場所はモモンガとアルベドが宿泊している部屋。さすがに高級宿と言うべきか二人部屋にしてはかなりの広さだが、10人を超える人数ではやはり少し手狭に感じる。

 食って掛かるような剣幕でペロロンチーノに詰め寄ったニニャにより、静まり返った食堂を離れたはいいものの、『その場所を教えてください!!』と叫ぶ彼女を落ち着かせるのにかなりの時間が……かからなかった。

 

「大丈夫か? びっくりさせちゃったな? ちゃんと教えるから、よし偉いぞ」

「……はい、すみませんでした」

 

 見た目は同じくらいの年でもその人生経験が違う。こちらもディストピアとまで呼ばれるリアルで命がけで生きてきたんだ。部下や上司の癇癪には慣れっこだとでも言わんばかりに一人の少年……いや少女の背中をなでながら落ち着かせる様子はモモンガを除いた周りの者を驚かせる。

 

「も、モモンガ様、アルベド……旦那様が格好良すぎてヤヴァすぎでありんす」

「自慢の友人だからな」

「当然でしょう至高の御方ですもの、でもこういった一面もおありになったのですね」

 

「ティナどうしたの? 顔が赤いわよ?」

「なんだろう、ドキドキしてる」

 

 初見で『惜しい』と言わしめたショタコン忍者少女に火をつけてしまったりもしたが、当人は気づいてなかったりする。

 

「教えるのは構わないんだがこの真夜中に宿を飛び出していきそうな気がしてな、クライム君も言ってたが治安が悪い地区のようだし心配なんだ。ここにはお前の仲間を含めて頼りにならない奴なんていないはずだぞ? 話せるところだけでいいから話してくれないかな?」

「……わかりました。そうですね……もう六年も経っているのですから今更慌ててはいけませんよね」

 

 そこから語られたニニャの昔話はこの国ではありふれているらしい不幸な話だった。寂れた寒村で両親を亡くした10歳と13歳の姉妹が懸命に暮らしていたこと。その姉が悪評高い領主に連れ去られたこと。そこから別の貴族の妾へと売られたこと。

 

 

 だから私はその年の税金は払わなくていいのだと言われた事。

 

 

 姉を売った村を出て街へ出たこと。幸運にも師匠と呼べる人に出会い魔法の才能を見出されたこと。その力で姉を見つけるために冒険者になった事。

 

 そんな小さな少女の六年間の始まりを、ぽつりぽつりと話してくれた。

 

 その話を聴いていた漆黒の剣のメンバーは知らされていたのだろうが無言で俯き、蒼の薔薇の面々は舌打ちを打つ者、目頭を押さえる者、無表情ながら爪が食い込むほど拳を握る者など反応はさまざまであったが『この少女の助けになりたい』という気持ちは同じだった。

 

 そしてモモンガとペロロンチーノはどうかと言うと……号泣だった。

 

「ダメだって……俺そっち系(泣きゲー)の耐性無いんだって……」

「境遇を重ねるわけじゃないが……ぐすっ、大変だったんだろうなあ……」

 

 高貴な衣服を着てはいるものの、頑張ったなあなんて呟きながら本人を放って涙と鼻水をたらたら流す姿は周りを呆れさせもしたが、苦笑が混じりながらも場が穏やかになってくる。

 ああ、こいつら他人の気持ちを思いやれるいいやつなんだなって。

 

「イビルアイちょっとこっち来るでありんす」

「な、なんなんだいったい」

 

 ただその時アルベドとシャルティアはそんな和やかな場の中イビルアイを部屋の隅に呼び出していた。

 

「今の話の泣き所を教えて欲しいの」

「オチはどこだったのでありんす?」

「……」

 

 仮面の向こうで口をあんぐりと開けてしまうが……あーなるほどと解ってしまう自分がいたりして。不死者になって人に少し共感できなくなってしまった当時を思い出すが、そんな感じなんだろうかと。

 なんでも以前こんなことがあったらしく、人間の気持ちを理解しようと頑張ってはいるのだが難しいのだと。

 そんなある意味必死に愛する人と思いを共感したいと懇願する二人に、思わず笑みを浮かべてしまうが、さてどうしようと考えて出てきた言葉にはものすごく後悔することになった。

 

「例えば……そうだな、昨日シャルティアが子供を産むんだとか訳が解らんことを言っていたが、さっきの話の姉妹をその子供に置き換えて考えてみたらどうだ?」

 

 昨日は散々イジラレ、一方的に遊ばれ、あり得ない夢まで語りだしていたが、ちょっとだけ自分も楽しかったななんて思いだしつつそれを答えてみれば二人は動きを止めてしまう。

 

「……」

「……」

 

 数秒後、二人から暴力的なまでの禍々しい波動が膨れ上がりイビルアイは思わず座り込んでチョッピリ漏らしてしまったが、部屋にいるメンバーも同様で、蒼の薔薇の面々は思わず武器に手をかけるほど。

 漆黒の剣の面々やクライムも顔を青ざめさせ恐怖に凍り付く程の大惨事であった。

 

 もちろんすぐさま駆け寄る旦那たちのおかげで黒い波動は収まったが『イビルアイのおかげで共感できたでありんす』『早くあの時の大男を殺しにいきましょう』などとのたまう始末。

 

 話を再開するのに大分時間がかかってしまったり。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「話を聴いて憤慨してしまった……って言うのは分かるのだけど……なんだったの?」

 

 シャルティアが謝りながら淹れてくれた紅茶に口を付けながら一息。周りの皆も落ち着きを取り戻したけれどラキュースがそんな言葉を吐くのも仕方ないと言うもので。

 

「モモンガさんたちも怒ると怖いぜ……嫁がナンパされかけててエライぶち切れてたからな」

「あれより怖くなかったか?」

「……あの時以上である」

「僕一度着替えに……いえ、なんでもありません!」

 

「いえそういう事では……あーまあいいわ。積もる話は後ででも。でもちょっと騒ぎすぎたかしらね? イビルアイが一応見回りに行ったけど大丈夫かしら」

「鬼リーダー……あれは着替えに」

 

 一部の人たちがちょっと大丈夫ではなかったが、安心しろとばかりにペロロンチーノが答えてくれる。

 

「ここはアルベドがいくら泣こうが喚こうが外に音が漏れないようになってるから安心してくれ。な! モモンガさん」

「な! っておい!?」

「な、なんでアルベドさん限定なのかはわからないけど、今はイビルアイが言ってたように規格外の人たちって事で納得することにするわ」

 

 さすが純潔乙女を地でいく聖職者。素でわかってないのが素晴らしい。

 

「さて……今のこの状況なら大丈夫そうかな? 場所は教えるが本人かどうかは定かじゃない。調べるときは俺たちも手伝うよ」

「はい。情報なんて今まで無いも同然でしたから。焦りすぎでしたね」

 

 さっきのアレがショック療法だった……以前にすでに落ち着いていたのだが、今更話を聴いて外に飛び出していくこともなかろうとニニャに正確な場所を教えることにする。 

 

「俺はとあるスキルで上空から俯瞰して視界を確保することが出来るんだけど、俺らが見た二人組があの通りから20mくらい先の通りを曲がって建物に入るのを確認したんだ。俺はここら辺の地理を知らんから上手く説明が出来ないんだが……クライム君、あそこで『あちらは危険です』って言ってた通りわかるか? あそこなんだが」

「えーと……他の皆さんに分かりやすく言うと……市場から王城方面へ3ブロック、そこから魔術師組合とは反対方向へ3ブロックにある通りですね」

 

 いやそれ誰にも分らんだろと思わず突っ込みかけたペロロンチーノであったが、蒼の薔薇の面々の目つきが変わり、ラキュースが思わずといった感じに言葉を発する。

 

「まさか……ティナ! ティア!」

「……今はあっちの方にかかりっきりで内偵だけ進めてたけどたぶんそこ」

「……以前報告した通り、裏娼館の場所」

「まじかよ……」

 

 蒼の薔薇どころか漆黒の剣の面々も悲痛な顔になっている。モモンガたちには以前ペテルに聞いた上辺の知識しかないが『裏』というのだから非合法な娼館なのだろう。

 なら連れだしちゃっても何も言われないだろうなんて考えていたモモンガであったが、『蒼の薔薇』がその場所を調べていたという話に違和感を覚える。

 それは冒険者の仕事なのか? と。それにこの人たちなら潰そうと思えばやれるんじゃないだろうかとも。

 血の気を失い真っ白な顔をしているニニャには悪いが、私たちが迂闊なことをしてここにいる誰かが大変な目にあってしまう可能性もあるかと、昔のように……そう、ギルドの調整役としての立場でしかなかったが、この場を取り持つことを決めた。

 

「まずは確認だ。蒼の薔薇の諸君、我々がその場へ行ってニニャの姉がいるとして連れだすことに問題はあるか?」

 

 なんか変な魔王ロールスイッチが入ったのか雰囲気やオーラといったものがガラッと変わり声まで威厳ある物に。

 

「む、無理です……ってそんな話ではないのね。可能なら問題ないわ。でもそれって裏娼館を潰すって話でしょ? 王都最後の裏娼館……まだ八本指に繋がっている証拠は無いけれど絶対奴隷売買の部門に……あ!?」

 

 その声や態度に惹かれるものを感じてしまったためか思わず心の内を吐露してしまう。

 

「なるほど……内偵ってそういう事か……だから強襲しなかったのですか」

「私だってあんな奴らぶっ殺してやりたいわよっ!! ってまた!?」

「わははは! ラキュースもう諦めろや、こいつらなら信用できるし問題ないだろう。なっ、おチビさん」

「信用できるかは置いてこの世界で一番頼りになるのは間違いないぞ。あ、あと外なんだが誰か張ってるな」

 

 しれっと戻ってきていたイビルアイだったが目ざとくガガーランに声をかけられるも、断じて着替えに行っていたわけではないと宿の外に感じる気配を報告する。

 

「昼間から尾行してるやつらですね。まあ放っておきましょうか」

「なるほど……俺たちがここにいるという証拠にもなるか。それよりそろそろ始めよう、ニニャが不憫だ」

 

 完全に二人の気配が変わり、周りが言葉をかけることも許してくれないような張りつめた空気感。まずは確認からかとモモンガは中空から無限の背負い袋を取り出す。

 

「モモンガさん俺がやろうか? 暗視もあるし」

「あ、そっか。ペロロンチーノさんの方が上空から見てる分早そうだ。お願いします」

 

 魔術師lv1のことを素で忘れていたが袋から次々とスクロールを取り出しペロロンチーノに手渡していく。

 

「よし<千里眼(クレアボヤンス)>……ちょっと待っててな」

 

 目の前で起きている光景に疑問が沸くが無言で二人を見つめ続ける一同。『大丈夫ですから』と励ましながら背中をさするアルベドのおかげで幾分か復調したニニャも、目の前で綴られる未知の魔法に釘付けになる。

 

「っと着いた! <水晶の画面(クリスタル・モニター)>……あとは感覚器官を付けるんだっけか」

 

 突如空中に浮かんだ楕円形の鏡とでも言うのだろうか。それに驚愕する一同であったが映る光景に言葉が出ない。夜間であるのに綺麗に映るその建物は不確かではあるが裏娼館なんだろうということは全員に察せられた。

 ペロロンチーノがもう一度放り投げたスクロールを合図に視界が移動していく。鉄の扉をすり抜けた先は通路になっており一人髭面の大男がアップで映った瞬間映像が止まる。

 

「あの時の男ですね」

 

 クライムの呟きにモモンガ一同も頷く。場所が当たっていたことに安堵しつつ視界が先に進むと大きな部屋が。複数の屈強な男たちがカードゲームをしたり談笑したりと、声も聞こえるのでまるで暇をもてあそぶようにしているのが窺えた。

 

「おぉ怖っ……武装してるな……二階かな?」

 

 まるでヤクザの事務所のような光景にペロロンチーノが零すが、()()()()場所ではないのは一目瞭然だ。上階への階段が見えるので視界をそちらに動かそうとすると、忍者娘が声を上げる。

 

「地下があるはず。店舗はそこ」

 

 簡潔に述べられたそれに頷き視界を床に向けて罠を感知。隠し階段を見つけると視界をそこに潜らせていく。

 階段を下りた先は一本の通路になっており、両脇に複数の扉が見て取れる。

 

「んじゃ行くぞ見つけたら確認してくれ」

 

 一つ、二つ、三つ目の扉を出終わった時にはペロロンチーノは心が折れそうだった。少女や少年に対する残酷なまでの性的虐待。手は出してしまったが『いえすロリータノータッチ』の心は彼の中で息づいているのだ。こんなリアルは間近で見たくは無かったと。

 

 もちろん周りのメンバーも同じだ。言葉を発せば邪魔になると思い大声をあげる者はいなかったが、ギリリと噛む歯ぎしりの音が聞こえるほど。『許せない』と呟いたのは何人いたのかと思うほどだ。

 

 そして四つ目の扉をくぐった先にそいつはいた。引き締まった筋肉は場違いではないかと思えるほどに今までの客達と打って変わった軍人のような男だった。

 それに組み伏せられていたのはあの時の女性だった。殴られているのか口から血を流し『痛い……たすけて……』とかすれた声を上げるも男の暴力は止まらない。

 取り分けラキュースが驚愕していたが、それを無視してニニャに問いかける。

 

「この人だ……どうだ?」

 

 大粒の涙をぽろぽろ零しながらしゃくりあげ、唇を震わせながら小さな声で答えてくれた。

 

 

 

「ね、ねえざんでず……がおは似ているぐらい、ですっ、が……声……が……」

 

 

 

 そこまで聞ければ話は早いとばかりにペロロンチーノは叫ぶ。

 

「モモンガッ!!」

「おうよ!! <上位転移(グレーター・テレポーテーション)>!!」

 

 アルベドとシャルティアが止める暇もない程の阿吽の呼吸で転移魔法を発動するモモンガ。呆気にとられる一同だったが、

 

『ふっっざけんな!! おらぁっ!!』

『ぐわぁああああ!?』

 

 なにがなんだかわかっていない面々にも、画面の向こうで筋肉ダルマを蹴り上げるモモンガの雄姿は、見ていてスカッとする心地よいものであったり。 




プロットは『転移して連れてくる』これだけ。
なんでこんなに長くなるのかw

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