鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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16 にちあさ

「ご主人様! 野盗を排除拘束いたしました!」

 

「北門を出てから一時間も経ってませんよ……この世界こんなに危ないの?」

「びっくりだよなあ、モモンガおにいちゃん」

「おにいちゃん止めてくれる!?」

 

「アルベド昨夜はどんなプレイだったのでありんす!? ありんす!?」

「ちょっと口が滑っただけじゃないの。もうしょうがないわねぇ、あれは背徳的で」

「アルベド!? ストップ! ストーップ!!」

 

 城塞都市エ・ランテルを背に、一路王都を目指すモモンガ一行。御者にアルベド苦渋の選択だったが天使たちの長女ブリュンヒルデを擁し、他七名に周辺警戒を。最後の末っ子は『ネムちゃんは?』と言うのでカルネ村に遊びに行かせている。

 

「まあそれは後で聞くとして……あの赤い鼻の男だなあれ」

「うわぁ……なんか常習犯ぽいですね。身形だけはあの男が一番のようだし、高級宿とかで狙う対象を探してたんでしょうか」

 

 完全に白目をむいて伸びている拘束された男を見ながら考察するが、考えるのはそんな事じゃなくてこいつらどうしようか? なんて話に変わっていく。

 急ぐ旅でもないし、夜にはペロロンチーノさんの方のテントを出して夜営してバーベキューしてなんて馬車の中で盛り上がっていただけに、出立していきなりの出来事にテンションも駄々下がりだ。

 さらにそれに追加するように『ご主人様! 妹たちが野盗の塒を発見したようでございます』なんて報告まで入ってしまう。

 嫁を危険に晒すわけにはいかないしとモモンガたちがどうするかと相談していると、アルベドが少し困ったように声をかけてくる。

 

「モモンガ様、ペロロンチーノ様……私たちはそんなに弱い存在でしょうか」

「妾達は妻でありんすが守護者でもありんす」

 

「うっ……」

「わかってはいるんだがなあ……お前たちが俺たちより強いことも」

 

 圧倒的なプレイヤースキルという経験により同レベルだったのなら勝つことも可能だったであろうが、レベル差わずか『3』とはいえ現状対峙したならば確実にモモンガたちは負けるだろう。しかも高速育成のための対人を無視したスキル構成・魔法構成ではどうにもならない。

 それでも、それでもだ。愛する人を矢面に立たせたくないと思ってしまうのは、やはり人間としては当然の感情なのだろう。

 

「いえ、それはどうでしょう? モモンガさまにはアレがありますし、ペロロンチーノ様に至っては常軌を逸しております。すべてを知らされている現状、勝率は五分五分……いえ、そんな話ではありませんでしたね」

「私たちはこの世界に来て守られてばかりで……いえ、それは嬉しいのでありんすが……あーもう! 私たちはパーティでありんす! 私も私の()()を果たしたいのでありんす!」

 

 この世界に来て何度か戦闘の機会が会ったがまともに戦ったことは皆無。シャルティアは眷属たちがあの騎士たちを嬲ったのみ。アルベドに至っては鼻息荒くモモンガの陰に潜んで見守っていたくらいのことしかしていない。

 

「モモンガさん……諦めようぜ。思いはシャルティアたちも一緒なんだよ」

「はい……そうですね。でも確実に強敵だとわかるまでは前にはださせませんよ」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ペロロンチーノ様……可愛い衣装なのはわかるのでありんすが思ってたのと違うでありんす。これ夜の装備だと思っておりんした」

「どっからどう見ても魔法少女だろうが! よしキュア・シャルティアのキメポーズを考えよう!」

「きゅあ!?」

 

「モモンガ様……これは水着とかレオタードといったものではないのでしょうか? いえ防御力があることは体感できるのですが」

「結構有名なんだぞ? 昔はエロゲーだったなんてデタラメ言う人もいたけど日朝お約束の対魔忍だ!」

「にちあさ!?」

 

「よし、やらない善よりやる偽善! ブリュンヒルデはこの場を確保。誰か通りかかったら衛兵を呼んできてもらってくれ。他の姉妹は塒までの案内と連絡役を頼む」

「俺たちのロールプレイ(()()演技)第二幕だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……ただ者じゃぁなさそうだな」

 

 腰を落として刀に手をかけ最初から臨戦態勢。久々に感じる強者の感覚……これだ、これを求めていたんだ。

 前衛三人の中で確実に強いのは女だろうか。煽情的な衣装は相手を油断させるための罠か? 確実にデカい方の剣士は論外、剣をかじった程度の素人臭がしており、短剣をかまえる少年剣士の方がましに見える、いや一番危険な存在か。

 

「第三位階とは恐れ入ったな」

 

 そして後方にはフワフワとしたオレンジ色の衣装をまとった宙に浮く銀髪少女。杖を前に構えてなにがしかの言葉をぶつぶつと呟いている……詠唱では無さそうだが。

 

「アルベド!」

「問題ございません」

「よし! 続行!」

 

「は?」

 

 何が問題ないのかさっぱりわからないが、何故か緊張した空気が霧散するかのように殺気が消える。ふざけるなよ舐めやがってと武技<領域>を発動したブレインであったが、透き通るような少女の声に時を止めてしまった。

 

「き、きらきら輝く夜空の星! キュア・シャルティア! 魅了しちゃうでありんすよ、<人間種魅了(チャーム・パーソン)>」

「くそっ!? 魅了なのか!? うおぉおっ!」

 

 咄嗟に抜いた刀で自身を傷つける。この程度の低位階の魔法などに影響を受けるほどやわな精神は持っていないはずだったが、予想を超える効果に緊急処置を施す。驚きながらも多少の痛みはあるが戦闘には全く支障がないと全身の感覚を再確認する。

 

「はじめてレジストされたでありんすね」

「逃げるでもなく攻撃に転じるわけでもなく……カウンターでも狙っているのかしら。なら」

 

「ちっ」

 

「待ったアルベド」

「それならちょっと話が出来そうじゃないか。あんた盗賊とはなんか違うし、シャルティアやアルベドにカケラの興味も無さそうだしな」

 

 こいつら本当にべらべらと……確かに魅力的なのだろうが、今俺が求めるのは強さのみ。そう考えながら再度<領域>を発動して答える。

 

「あぁ俺はただの用心棒だ。からきし出番は無かったんだがお前らのような女には興味があるぞ……おっと怖いな、やはり小僧。お前がこの中で最強の存在か」

 

 少し漏れ出た殺気に敏感に反応するブレイン。何気に彼の考察は当たっていたりもする。モモンガとシャルティアは抜きにして、アルベドは現状短剣を持っているもののその技術が無いので無手と変わらない。この狭い洞窟通路では自前の武器は使えず仕方ないのではあるが、盗賊・レンジャーの技能を持つペロロンチーノの方が確実に強い。

 それはつまり、

 

「へぇ……綺麗な刀だな」

「異世界物に和刀が入ると途端にファンタジー色が濃くなりますね」

 

「なっ!?」

 

「さすがの速さでありんす!」

「規格外のスピードだわ……本当に何をもって弱いと言うのかしらね? ふふっ」

 

 <領域>は発動させていた。その三メートルの間合いを詰めて武器を奪ったと言うのか。生き残ることを是として逃げるかと考えるも、<領域>で知覚できない速度を見せられては無駄だと察するブレイン。武器が無いのでは闇雲に切りかかる無駄な抵抗さえさせてもらえない。

 

 俺が努力して得た<領域>で知覚できない……

 

「俺は馬鹿だ……こんなに弱いのか……」

 

 突如膝をついて涙をぽろぽろと零しながら呆然と呟くその姿に、呆気にとられるしかないモモンガ一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む! 俺を弟子にしてくれ! なんでもする! なんでもするからっ!!」

「ひぃ!? こわっ!?」

「おんしペロロンチーノ様から離れんさい! ふんっ!! あ……モモンガ様これすっごい飛ぶでありんすね」

「あー……まぁ頑丈そうだったしいいか。付きまとわれてもなんだし」

 

「そういうことだから私たちは先を急ぐの、あとのことはよろしくお願いね」

 

「へへへ……お安い御用ですよ……うへへ」

「リーダーでれでれしすぎですよ!」

「……あの美貌では仕方が無いだろうよブリタ」

 

 馬車まで戻ってくると六人ほどの冒険者たちがいた。なんでも街道の警備と野盗の塒が近くにあると言う情報から様子をうかがっていたそうなのだが、その野盗が馬車の周囲で縛られているのを発見してしまう。

 その馬車の御者席に悠然と座っていた美しい女性騎士に話を伺うと『ご主人様がたが野盗の塒を強襲しているので協力してほしい』とのこと。

 翼のような装備や馬鹿でかい馬は気になるが『これを預かっております』と渡された手紙には、私たち宛では無いものの、あの有名なバルド・ロフーレ氏の書状であることと、馬車の経緯や今の持ち主が南方の高貴な方々なんて情報が書かれており、警戒を解いて協力をすることになったのだ。

 控えのレンジャーを他にもいるらしいパーティへの連絡に放ち待機していると、森の方からふらふらと……そして続々と野盗があらわれる。

 一瞬で警戒態勢を取る冒険者たちだったがどうやら魔法で魅了されていることがわかり、流れ作業のように拘束を開始していくのだった。

 

「ブリタさんとおっしゃいましたね。妹たちが囚われていた女性たちを癒しもうすぐここに到着いたします。おわかりになるとは思いますがよろしくお願いします」

「はっ、はい! 他のチームにも女性がいますので! お任せください!」

 

 白金の女性騎士に首筋をなでられながら、なんだか違う性癖が呼び出されるような感じをしつつ頬を赤らめながらも良い返事で答えるブリタ。

 40人を超えるような大捕り物ではあるが自身は何もしていない。それでも自分に出来ることはあるのだと。

 

「ふふっ可愛いわぁ。あなたがカルネ村にいたらまた会えるかもしれないのに残念ね」

「!?」

 

「ほら。あいつ面白いでありんしょう?」

「くそっ!? ネットで性格知っておきたかった!」

「公式は頭おかしい」

「そっち系ならOKよ。それじゃぁそろそろ行きましょうか」

 

 

 

 

 まだまだ昼を過ぎた頃合いの晴天の街道を馬車が走り出す。

 

「カルネ村……お姉さま……」

 

 1人の冒険者の人生を変えてしまったかもしれないが、それはそれ。馬車の中では『新しい自分を発見したようで面白かったでありんす』『違う職業を演じる……昨日の夜に通じるものがあり興奮いたしました』などなど先ほどまでのロールプレイ談議に花が咲いたりして。

 

 

 なお余談だが、夜の魔法少女と対魔忍は無茶苦茶強敵だったらしい。




次回は(多分)王都 ツアレどうしよw

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