鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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13 王の服

 先日の戦いのあらましはこうだ。

 

 『漆黒の剣』のパーティとの晩餐を終え宿に戻ってきた一行は、あのビキニアーマーの女性にどう対処するべきか話し合った。

 あらかじめシャルティアの眷属が空と地上から追跡していたので居場所は分かっていたのだが、地上を行った眷属がすべて倒されたという報告からそれなりの力もあることも確認でき、このまま放置してしまうと『漆黒の剣』が狙いだった場合殺されてしまう確率が高いと判断する。無論それを防ぐために同じ宿を取ったのではあるが。

 ペテルが言ったように女性陣が狙いの誘拐目的だった場合はどうにでも対処できるのだが、もしかしてそれがユグドラシルから来た連中で狙いが自分たちであった場合を考えると後手に回るのは避けたかった。

 

 そんなこんなで完全装備でエ・ランテル西地区にある共同墓地、報告された小さな霊廟の前まで来たのだが、そこに居るのは分かっているのに誰も出てこようとしない。

 こういった霊廟の場合出口が複数あるのが普通だったりするので、あらかじめ呼んでおいた天使たちに周囲を警戒させているのだが『スケルトンがいたので倒しました』ぐらいの報告しか来ない。

 

 追跡までしてきたのに出てこないんじゃ話にもならないとプライマル・ファイヤーエレメンタルを召喚してあぶりだそうとしたのだが、霊廟の出口でふらりと倒れる人影をアルベドが発見して即座に(スキルを使用して)捕縛。

 口から泡を吹いて気絶している女をよくよく見ると、ビキニアーマーの部分に複数の冒険者プレートが張り付けてあるのを確認できた。

 

 要はハンティング・トロフィー。狙いは漆黒の剣でこいつはただの犯罪者であったのだ。

 

 ならばと犯罪者の証である鎧以外をすべて押収して簀巻きに。ペロロンチーノの縛り方がアレだったものでシャルティアが興奮する一面もあったり、突然出てきたスケリトル・ドラゴンがプライマル・ファイヤーエレメンタルに触れて、ジュッと消えたりもしたが特に危険なことは無かった。

 

 どうにもユグドラシル勢とは関係なさそうだと判断して霊廟に突貫させた天使たちは、他の複数のフードを被った怪しげな男たちを連れてくる。

 生きてはいるもののボッコボコで完全に気絶してるのをいいことに、ペロロンチーノに教わりながら見事な亀甲縛りを披露してくれた。

 

 墓地の衛兵にこいつらを引き渡そうかと思ったが、天使たちを見られてはなんなので、冒険者組合の軒先につるしてもらい、ようやくカルネ村に戻ってきたのだった。

 

 

 

「本当は早く宿に戻らなきゃなんだけど……くぅ~旨いなぁ」

「アルベドもシャルティアもどんどん料理が上手くなるな!」

 

「味付け自体はそれほど変わっていないので、そ、そこまでとは」

「品数が増えただけでありんすのに、ふふっ」

 

 いつも通りのいつものテント。リビングで四人は昨日のことなど完全に忘れている風で、仲良く談笑しながら朝食を堪能する。

 話題は今日のショッピングについてだ。食料品店を中心に色々と案内はしてもらったのだが、まだまだ見るべきところはたくさんあるのだ。

 

「これで少しはちょっかいが減るといいんだが……フォーマルよりに作っといてよかったですね」

「染色で少し落ち着いた色にもしたからな、ビジネススーツって言っても違和感ないよね」

 

 それをうっとりとした瞳で見つめる女性陣。思わずあの誓いのキスを思い出してしまう。

 

 二人が着ているのは結婚式のときに着用していたタキシードだ。もとより彼女たちに見合うようにとその出来は素晴らしいの一言に尽きる。

 そしてそれが見事に似合っているのは、守護者としての勘違いでも妻としての贔屓目でも何でもなく本当に似合っていたのだった。

 イケメンを地で行くペロロンチーノは当然ながら、ニニャやンフィーレアと同年代と見られていたのは鳴りを潜め、落ち着いた貫禄までうかがえる。

 その若さまで戻した作りからこの世界で三枚目に届くかといったモモンガも、見事に着こなし……というよりは着慣れたというのだろうか、一流のビジネスマンといった風貌は、ある種の威圧さえ感じるほどだ。

 

 これを提案したのはアルベドであるのだが今はシャルティアと手を取り合って飛び跳ねている。まさに狂喜乱舞であった。

 

 これはあの晩餐のペテルの言葉が発端であるのだが、全員が平民の……農民のような恰好をしているのが付け込まれる要因であると理解したのだった。

 ならまた『姫プレイ』に戻るかと提案したモモンガであったがそれをシャルティアに止められる。

 

『もっと他に策はないのでありんしょうか……やはりあれはペロロンチーノ様やモモンガ様を下に見られているようで落ち着かないのでありんす』

 

 俺たちに上下関係なんか無いさと笑って言うペロロンチーノやそれに頷くモモンガであったが、アルベドはシャルティアの気持ちと同様であるかのように考えながら言葉を紡ぎ正解を導き出そうとする。

 

『農民の服……農民は農民の服を着ているから農民に見られるのよね……モモンガ様という王が農民の服を着て、いつものように慈愛の微笑みを振りまいていたら……知らないから理解できないのだもの……モモンガ様、あの服はいかがでしょうか?』

 

 王としての服なら昨日の装備が一番であるのだが、あれは決戦装備だ。自分たち全員が平凡で非力な平民だと見られるなら構わなかったのだが、どうにも私たち女性が目立ってしまうらしい。

 それなら見せてやろうじゃないか! 知らしめてやろうじゃないか! 旦那様の素敵な姿を! と提案したのだが、もうなんかそんなことも忘れてウッキウキで飛び跳ねている。

 

 

 結果的にはこれは正解であった。ある程度の知識のある人間にはそれが南方に伝わるスーツという物であるという理解があるのも手助けしたのだが、いつもの白いドレスのアルベドと黒いポールガウンを羽織るシャルティアと手を握り、仲睦ましく街を歩く姿は絵になる程に似合っていた。

 煌びやかな貴族の服というわけでもなく、裕福な商人のそれともまた違う。シンプルながら洗練されたそれは高貴な人には見えるのだろう。

 

「あはは、なんだかよくわからないがアルベドの提案は正解だったみたいだな」

「俺たちの方が目立っちゃってる……あー違うのか、この目は昨日はシャルティアたちだけに向けられてたわけだ。酷なことをしちゃってたなあ」

 

 そういって互いの嫁に語りかける二人であったが、当の女性陣はのぼせるように頬を染めるだけ。そんな楚々とした二人の仕草も男性陣の評価を上げることにつながっていたりと、好循環であった。

 

「と、とにかくまずはあそこだな」

「毎日洗うのはいいんだけど、一着しかないからなあ」

 

 そんな会話を交わしながら四人が辿り着いたのは衣料店。ペテル達が言うには普通は古着の店が一般的であるのでここは入ったことが無いと言ってはいたが、モモンガたちは古着ではない切実に欲しいものがあったのだ。

 

「シャルティアのは大量にあるのに……」

「これでパンツ一着生活とはおさらばできますね……」

 

 突然異世界生活も突き詰めると不便がいっぱいであったりするのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「意外な展開になったけど、結果オーライかな。アルベドよろしく頼むよ」

「お任せください、モモンガ様の下着姿は目に焼き付いておりますので」

 

「私もアルベドに教えてもらうのでありんすよ」

「お! がんばれ! う~良妻だなぁ二人とも。飯はうまいし家事も出来るし!」

 

 残念ながらこの高級衣料店は仕立て屋さんだった。なにやら受付と思われる年嵩の女性に興奮気味に応接室のような場所に通され、ものすごい勢いでやってきた店長直々に対応して貰ったのだが、どうやら自分たちは南方からやってきた貴族の類と思われているようだった。

 単なる観光で訪れた一般人ですとは言ったものの、それでもかまわないので仕立師たちに私たちの衣服を見せてやってくださいとお願いされてしまう。

 対価としてアルベドたちに渾身のパーティドレスを贈らせていただきたいと言われてしまえば、これも社会見学として楽しそうだと了承することに。

 

 ただ対象が女性たちだけと思っていたのだが、モモンガたち全員が仕立師ほかその徒弟たち十数人に囲まれてファッションショーのように歩かされたり、血走った瞳で囲まれスケッチされたりしたのは想定外だった。

 

 その様子に満足顔の店長にため息をつきつつ下着は取り扱っていないのかと聞いてみれば、御作り出来ますよとのこと。出来合いの物は無いらしく、ブラウスやドレスの類なら複数デザインとして既製品がございますと。

 なら平民はどうしてるんだとぼやいてみれば自前で作ったり、古着を直したりするのが普通だそうな。

 

 魔法はあるけど中世ヨーロッパ時代の文明レベルなんて考えていたくせに服飾の既製品販売……いや同一製品の大量販売が無いとは気づけなかったのは失敗だった。

 

 それならばとアルベドが布の販売はしていないのかと聞いてみると、織布から高級シルクまで各種扱っておりますと答えが聴ければ話は早い。

 

『私、裁縫には一家言ございますので。子供の靴下から抱き枕まで自由自在でございます』

 

 自信満々に私が作りますよと言うアルベドに全てを託したのだった。

 

 

 

「大分時間取られちゃったけど楽しかったしいいか。さてお昼はどうしようか」

 

 なんて談笑しながら市場の方向を目指す。昨日は通り過ぎてしまったが出店を散策して買い食いなんてのもいいかもしれないと。

 途中『冒険者組合が大変なことになってんぞ!』『なんか縛られたロープが全然切れないらしい』なんて噂話も聞こえてきたが、聞こえなかったことにしてスルー。

 肉焼き串の匂いにつられるように一つの露店へ。

 

「へい! うぇっ!? 御貴族様でございたてまつりますのでしょうか……」

 

 なんて若いお兄さんに恐縮されてしまったが、「良い匂いにつられてしまった只の旅人ですよ」と笑顔で返し、帝国では有名なんだと言う羊の焼き串を頂いた。

 

「ははっ! 確かに御貴族様はこんなところで立ち食いなんかしないわな! どうだい、タレが自慢なんだよ!」

「あっつ! うまっ!」

「羊ってこんなんなんだなあ!」

 

「独特の臭みがありんすけど、出来立ては美味しいでありんすね」

「これ、テントの調味料を使ったら面白いかもしれないわ」

 

 女性陣は一言あるものの、おおむね満足。おいしいおいしいと頬張る高貴な衣服を着た男性たちに、麗しい笑顔を見せる女性陣。遠巻きに見ていた他の客たちが焼き串店に殺到するハプニングもあったが、店主にも感謝されたり、偶然居合わせた食料品取引の商会長だと言う方とも仲良くなったりと、楽しい昼食を過ごすことが出来た。

 

 

 

 

 

「あんたたちありがとう! うちのは精力が付くって評判なんだ! もっと食ってくかい?」

「ほう! それじゃもう一本いっちゃおうかな」

「俺は二本くれ!」

 

「も、モモンガ様!? そ、そろそろお暇しましょう!」

「ひぃ!? これ以上つけてどうするんでありんすか!?」

 

 

 

 





最後にちょろっと出てきたのはバルド・ロフーレさんです。

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