鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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12 闇の王

「くくくっ! 必死だねぇあの子も……で、どうなんだい? 脈はありそうなのかい?」

「今押していかないと厳しいのではないかと思うわ。その点では村に残ったのは正解とも言えるわね」

 

 手紙を読み終えて大笑いする老婆の質問に、まるで恋愛の達人であるかの如く答えるアルベド。確かに思いが通じ始めた段階で距離を置くのもアレだよなあなんて、モモンガたちやペテルたちもそれに同意するように頷いてしまう。

 漆黒の剣メンバーは一月後に遠征がてらカルネ村に彼を迎えに行くことにもなっており、今からどうなっているだろうと考えるとそれもまた楽しみなイベントだったりして微笑んでしまう。

 

 これで用件は済んでしまったが、気になるのはやはりこの薬品店だったりして。

 

 自前の物が大量にあるとはいえ無駄使いは現状御法度。『ラストエリクサー症候群』よろしく最後まで使わないなんてことはしないが、現地の物を使えるならありがたい。

 

「それでいつかは購入しようとは考えているんですが、よろしかったらお値段とか効能とかを知りたいと思って。これと同じような物もあるんですかね?」

 

 ンフィーレアが村に持って来ていた支援物資も見てはいる。傷薬なのか風邪薬なのかはわからないが青い色が不思議だなあなんて思っていたくらいで、特に突っ込んで質問はしていなかった。

 モモンガが取り出した赤い下級治癒薬に驚き、だんだんと口調が荒くなり、老婆の顔が妖怪の類に見えてくる。いや、最初からそれっぽかったが。

 見せてくれと言う彼女がちょっと怖かったので言われるがままに手渡すと、流れるように魔法による鑑定をおこない……そして狂ったように笑いだす。

 

 曰くこれは『神の血』であると。通常の青いポーションは劣化するが、この赤いポーションは劣化しないんだと。どこで手に入れたんだと。なんでもするからよこしやがれ犯すぞと。

 

 最終的に金貨32枚でどうじゃと一方的に告げられ、モモンガは結構あっさりと売却してしまった。

 

「モモンガさんいいのか?」

「劣化しないという希少的価値を考えなければ同じ効果で金貨8枚という情報があれば十分でしょう。ペロロンチーノさんに頂いたあの料理、いつ買ったものですか? 私たちにとっては普通の事だったから気づいてなかったんですけどつまりは」

「あぁ、よくある時間が止まってるやつだったのか」

 

 自分たちの使っているアイテムボックスの中では時間が止まっているなら、劣化とか考えなくていいじゃないかと。

 数的には全然問題ないし、情報流出の懸念もあるがそこまで臆病になっていたらこの世界で何もできないと。

 

「お前らすげぇな! ある程度は驚かなくなってきたけど」

「あの金玉も売ったら数年楽に暮らせるであるな」

「ダインも……」

 

 そんなこんなでこの世界の貨幣を労せずゲット。その後もやたらと質問攻めにあったが、そのうちカルネ村の家まで聞きに来てくれと、まだ出来てもいない家の情報を仄めかしお暇することに。

 老婆の頭の中では孫がここを継いでくれるなら嬉しいが、カルネ村に移住して研究生活するのもアリかななんてそんな未来の妄想を膨らませ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃぁあなた方の無事な旅程を祈って」

「漆黒の剣の皆さんの目的が叶いますようにと」

「あはは! それじゃかんぱーい!」

 

 夕暮れ時、すでに買い物などを済ませた一行は、街一番とは言えないがそれなりの格式の飲食店に訪れていた。

 ポーションの販売代金で懐が厚かったのもあるのだが、

 

「純金だったんですね、あの金玉……」

 

 そんなニニャのつぶやきも分かると言うもの。手持ちの金塊が予想よりはるかに高額で売れたのもある。どうやらこの世界の鑑定魔法は優秀らしく金の含有率までわかってしまい、手数料はそれなりにとられたがあのポーション以上の硬貨を得ることが出来てしまった。

 そんなわけで宿の手配を済ませた彼らは、案内料というわけではないが食事を奢ることにしたのだった。

 

「俺らが懇意にしてる宿は安いんだけど飯が出ないんだよ。寝に帰るだけだから十分なんだけどな」

 

 宿は漆黒の剣と同じところで、四人部屋をキープしている。カルネ村に移動して夜はハッスルマッスルするので仮拠点と言ったところか。

 もちろんそれ以外の理由もあるのだが。

 

「なんで狙われてるんだろうな? お金目的……じゃないよなあ、組合からだったし」

「なんにしても良いものを見せてもらったから俺は満足だよ」

 

「私のとも違ったけれど、シャルティアの持っているのは紐みたいだったわよね」

「マイクロビキニアーマーだそうでありんす」

 

 会話の内容が意味不明ではあったが『狙われて』の部分が気になったペテルの質問に、冒険者組合からずっとつけられていたんですよ……下からだったんでパンツしか見えませんでしたけどなんて正直に答えるペロロンチーノ。

 いろいろ突っ込みどころはありますがと前置きして、ペテルたちも追われる理由に心当たりは無いと言う。それより護衛を買って出たのに気づかなくて申し訳ないとも。

 

「いえいえ大変助かりましたよ。あなた方がいなければアルベドやシャルティアに言い寄ってくる人がいたでしょうし」

「釣り合ってないとでも言うのかねぇ? くくっ、俺ら程彼女たちを愛してる奴なんかいやしないのに迷惑なもんだな」

 

 そんなペロロンチーノの言葉に頬を染めるシャルティアだったが、漆黒の剣のニニャは顔を真っ赤にして閉じそうな瞳をこじ開けて言葉を紡ぎだす。

 

「甘く考えては駄目なのです……この世は力あるものが正義なんですから……くそっ……ねえさん」

 

 その言葉を最後にグラスを倒しテーブルに突っ伏すニニャ。

 

「あーまずった。全員同じものを頼んだんだったな」

「ここのエールは度数が高かったのである」

 

「……気にはなるでしょうがニニャが話したくなったら聞いてあげてください。ただこれだけは覚えておいて欲しいのですが、この国であなた方程美しい女性を私は知りません……それも平民のです。貴族の冗談みたいなお遊びかと思えば、仲睦ましそうに手をつないで歩く男性もまた平民です。今日はまだ街のお調子者程度の者にちょっかいをかけられただけですが、権力や暴力でどうにかしてくる輩が必ず現れると思います……正直その『狙われて』の話なんですが」

 

 つまり平民の男たちの連れが極上の美女となれば、カモにしか見えないと。そのうえこの国は以前まで奴隷制がまかり通っていて、今でも非合法ながら連れ去られた女たちが働く娼館まであるのは有名な話だと。

 ペテルの『狙っていた相手』に対する予想はまったくはずれてはいるのだが、その真摯な眼差しには心の底からモモンガたちを心配しているのがありありと窺え、その言葉も嘘偽りのない真実だった。

 

「警戒心が……足りな過ぎましたか」

「そうだよな……言われてみれば俺なんか小僧だし、モモンガさんは人の良さそうなあんちゃんにしか見えないよな」

「よく言ってくれましたペテルさん。モモンガさーーんたちは警戒心が足りなさすぎるのです。もう少し御身を大事にしていただきたいと」

 

 あれ? アルベドさん話通じてるのかなこれ? なんて首をかしげてしまうペテルであったが言うべきことは言った。これ以上はお節介にもなるだろうし、彼らの力強さもこの目で見ている。

 ここからはお前の出番だと言わんばかりにルクルットに視線を送るペテル。

 

「そんなことより俺はアルベドさんやシャルティアちゃんに会えなくなるのが寂しいぜぇ。辛気臭い話はよして飲もうぜ!」

「あはは、ルクルットの言うとおりであるな」

 

 以降は話題を変え、料理の話や冒険譚、さらには『夜に一度も勝てないんですけれど』なんて下世話な相談まではじまったりと、復活したニニャが再度顔を赤らめる場面もあったり。

 冒険者漆黒の剣との歓談は、楽し気に続いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先頭は槍というよりは柄の長い斧のような巨大な長物を悠然と持つ、漆黒の全身鎧を身に着けた翼の生えた女性。鎧の形状で女性だとは判断できるが放つ威圧感が半端ではない。

 

 その半歩後ろの両脇には二人の男女が見て取れる。

 一方は金色のガントレットにグリーブ。これまた金色の腰当や肩当は飾りだと言わんばかりに鍛え抜かれた腹筋は見事なもので、顔面を覆う鳥の嘴のような奇怪なマスクさえ無ければ見とれるほどの肉体美だ。

 

 もう一方は血のように真っ赤な全身鎧をまとった少女。だがその鎧の精緻さより整った顔より、銀の髪を揺らして狂気に笑う表情に震えが止まらない。

 

 そして最後の一人は闇の王だった。

 

 漆黒に金の刺繍が施された豪奢なローブの前を開け、研ぎ澄まされた胸筋をさらけ出した黒髪の男。立ち上る赤黒い禍々しいオーラでその表情は伺えないが、狂気すら感じる。

 宝石をちりばめられた見事な意匠の豪華な杖を振りかぶると、四人を遮るかのように炎の渦が舞い踊った。

 

 「あはは……炎の妖精さんだぁ……きれい」

 

 霊廟の出口からこっそりと窺い見えるその光景に漏れた言葉はそれだけ。思わずくらりと倒れかけたところに当身のようなものを当てられ昏倒する。

 あ、私死んだな、なんて思いながらクレマンティーヌは意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォーメーションの言い分に納得はしましたが……やはりみんなに守られているようで釈然としないと言うか……アルベド、胸さわさわするのやめてね」

「そう言ってもやっぱり理にかなってるよ。自分たちをゲームの駒に見立てたら俺でもこうすると思うぜ……シャルティア、おなかナデナデするのやめてな」

 

「そうは言われましてもこの御姿を拝見させていただくのは夫婦になってから初めてのことで……はぁはぁ、夜にもリクエストしてよろしいでしょうか?」

「ここがフサフサだったのでありんすよね……でも、じゅるっ、今はこれがしゅきでありんすぅ」

 

 久々に立場が逆転というか本来の姿というか。

 

 それならササッと終わらせて帰ろうかなんて、あらかじめ召喚していた九人の天使たちに首謀者たちを簀巻きにさせ、予定通りの場所に放置。ゲートを開いてカルネ村のテントまで戻る。

 

 これから始まる闘いはビキニアーマーの戦士たちと魔王と翼王の闘い。これは初めて女性陣に負けてしまうかな? なんて考えつつ夜を迎えるモモンガたち一行であった。

 

 

 

 

 

 

 




ペロロンチーノさんの画像を見て思ったのは、あの装備を人間が着ると蛮族みたいになるなーとw

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