鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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10 金玉

「なあモモンガさん頼むよー、もう一回呼べないの? もう少しで落とせそうだったんだって」

「お前名前すら教えてもらってないじゃないか……コイツのことは放っといていいですから」

「いやーもう国に帰ってもらったんで会えないんじゃないかなーって」

 

「あまり詮索するものではないのである」

「ダインの言う通りですよ。お姫様だと言うのはびっくりしましたが……うん、好感も持てますし」

「そうだね、もう俺の嫁だしね」

 

「そろそろ行きますよー……エンリに良いとこ見せなくっちゃ……」

「ん? なにか言った? それにしてもモモンガ様はあの鎧を着てないのね、ちょっと残念かも」

「エンリ!?」

 

 出発前からグダグダであった。

 

 なお余談ではあるが、あの『姫と従者』というカバーストーリーの中で天使たちの役は、姫を陰から見守っていた近衛騎士団ということになっている。

 さすがに口説かれるために呼ぶことは無いが、別に超位魔法を隠しているわけでも何でもない。アルベドとの約束とロールプレイを重視しただけだったりする。

 自分たちがある意味弱いとわかっており力を隠すなんてさらさら考えてもいないので、利便性を考えてまた呼び出すこともあるかもしれない。

 

 漆黒の剣がそれを信じてるんだか信じてないんだかわからないが、断じて二百年前の英雄ではないということだけは納得してもらっている。

 

 

 

 

 

 先日別れ際にアルベドがンフィーレアにした『愛してる、結婚しようで良いじゃありませんか』から始まる説教という名のアドバイスは、直球どころかまだそんな仲でもないのに一足飛びすぎると拒否された。

 内心イライラしながらも慈愛の籠った表情でアピールポイントなどは無いのかと聞くアルベドだったが、本人が薬師であることが判明する。

 しかも漆黒の剣の面々から『エ・ランテル一の薬品店の孫』『貴重なタレント持ち』などの結構すごい評価を聞かされてしまう。

 当然『タレント』なんて技能があることを知らなかったモモンガたちはそれに驚愕すことになるのだが。

 

 曰く誰にでもあるわけではないが生まれた時から持っている能力らしく、日常生活がちょっと便利になる程の者からニニャのように『魔法適正(通常より倍速く魔法を覚えられる)』という魔法詠唱者という職業にかみ合った稀有なタレントもあるそうなのだ。

 

 そしてンフィーレアのタレントは『ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能』というものらしい。

 

 あまりに危険すぎる能力に驚愕するモモンガ一行だったが、アルベドの頭の中では家族四人が持つアイテムの数々がフラッシュバックしていた。

 

 この少年は支援要員……いざという時のバックアップ要員を任せられるのではないだろうかと。

 

 仲間に加えると言うのはシャルティアも言っていたが御免被りたいが、今は知己を交わしておくのが正しい選択だと。

 恩を売るわけではないがこちらの利にもなるし、第一モモンガへ思いを寄せるエンリを排除できて万々歳であると考えたならば答えは早かった。

 

 つまりそれがエンリを誘っての薬草採取になったわけだ。

 アルベドもエモット家でエンリが薬草を潰したりなどの仕事をしているのを見ていたし、それが収入にもなっていることを教えられていたのだから、ンフィーレアのアピールチャンスに丁度良いと提案する。もちろん私もフォローしますよと。

 

 

 

 

「あれ? アルベドさんとシャルティアさんがいませんが」

「……すいません。ちょっと動けない……というか立てないというか、今日はテントで休ませようと」

「……ホント申し訳ない」

 

 もう本当にグダグダだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもすごいのですね……私たちにはどれがどの草だとかの見分けがさっぱりです」

「漆黒の剣のみんながいるから護衛にもならないし……俺らじゃこれで生計は立てられんなあ」

 

 すでにここはトブの大森林内部。今のところ魔獣などの姿は見られず、それでも警戒しながら森の中を進んでいる。

 モモンガたちがこれについていくのはアルベドの役目を引き継ぐ目的もあったが、もう一つ、自分たちに何が出来るかの確認のためだ。

 嫁を幸せにするために仕事を見つけるのは必須事項であるなどと、あの世界ではありえなかったモチベーションを発揮していたのだが今はその気分も駄々下がりだ。

 

「いや、そこは役割分担ですよ。モモンガさん達も戦えることは聞いておりますから頼りにしていますって」

「そうですよ村を救ってくれた英雄なんですから!」

 

 ンフィーレアを引き立てる意味でもあったのだが、その本心からくる呟きにペテルやエンリに慰められてしまったりと本末転倒であった。

 

「さっきの話だけどエ・ランテルに行くんだろ? 冒険者になんのか?」

「うーん、それも悩みどころなんですよね……」

 

 ルクルットの質問に曖昧に答えるモモンガであったが、昨日の会話であまり冒険者という職業に魅力を感じなくなっていた。

 だがこの世界に来てまだ貨幣を手に入れることが出来ていない。一応換金可能なものとして用意しているのは金塊だ。

 手持ちのユグドラシル金貨を数枚アルベドにギュッ♪ってしてもらったら拳大くらいの大きさの金玉が出来た。

 別に金貨のままでもよかったのだが、なんとなくユグドラシル金貨を流通させるのは躊躇われたのだ。

 ペロロンチーノがユグドラシルでシャルティアだけ容姿が割れているのに危機感を持ったせいでもあり、いまのところ新婚旅行を楽しもうという行動方針のもと、小目標大目標を達成していくことになっている。

 

「モモンガ様は村にずっといてほしいのに……」

 

 ちょっと口をとがらせて残念がるエンリの仕草は、やはり初恋の淡い恋心程度であり、アルベドが心配するほどのところは皆無なのだが、ンフィーレアは涙目であったりする。

 

 そんなこんなで雑談を交わしながら薬草採取に専念する一行。

 

 もちろん森に怪しげな屋敷が出来ていたせいで混乱する魔獣はいないし、『森の賢王』など出てくるはずもないのだが、さすがにここまで森の奥までくれば遭遇しないのも稀だったりする。

 

「なんか来るな……いち……に……三体以上だ」

 

 唐突に地面に耳を押し当てるルクルット。いつものチャライ雰囲気など微塵も感じられず目つきは真剣そのもの。

 他の漆黒の剣メンバーもエンリ・ンフィーレア、そしてモモンガたちを守るように武器を構える。やはり彼らにとってはモモンガたちは力量的に未確定人物ではあるのだろう。

 

 モモンガたちもそれに気づいてはいたのだがンフィーレアを活躍させるための好材料としか思っていなかったので、自分たちが出ることも無く甘んじて守られることを受け入れている。

 

「俺は好きな奴を全力で守りたい……お前もだろ?」

 

 ンフィーレアの耳元でぼそっと告げるペロロンチーノ。その声に隠れている目を見開き、エンリを守るように一歩前に出る。

 

「エンリは僕が守るから」

 

 静かに……だが当たり前だとでもいうように堂々と宣言するンフィーレア。

 

「ンフィー君はやはり私たちと同じですね、愛する人を守りたいという気持ちは」

 

 なんて、エンリの後ろから小さく呟くモモンガのダメ押しなんかもあったりして、その少女は頬を染めていく。

 

 なお現れたウルフ三体は漆黒の剣とンフィーレアの魔法によって難なく倒されている。

 

 

 

 

「全部だなんて受け取れないよ!? 元々半分づつって……それでも多いくらいなのに」

「僕の今回の目的は復興支援なのに持ってきたポーションは役に立たなかったからね。だからこれを支援だと思ってほしいんだ」

 

 夕暮れまではまだまだあるが、一度戦闘があったなら血の匂いなどを警戒して戻ることは決めていたので、一行は早くもカルネ村に戻ってきていた。

 成果は大量ではないものの、貴重薬草が多く取れていたりとンフィーレアの活躍が目立っている。

 

「あちらはまだまだかかりそうだし、こちらはこちらで休憩しませんか?」

「そうだな、聞きたい事も結構あるし座ってよ」

 

 なおアルベドとシャルティアはすでに回復しており、出迎えてくれたのだが、夕食の用意の為にエモット家へ赴いている。

 あのお肉も持たせており、漆黒の剣のメンバーの分もお願いしているのだが、思惑もあるので彼女たちに抵抗感は無い。

 

 一行は例のごとくモモンガが入れた冷たい水を飲みつつ歓談していく。

 

 話題の序盤は先ほどまでの薬草採集や戦闘のことなど、自分たちに冒険者は難しいかもしれないという話だ。

 まず薬草の見分けがつかない。これは漆黒の剣には判断できたところからこれも職業やスキルに由来するんじゃないかと考えているが不明。

 もう一つはあのウルフを倒した際のことだ。ぐちゃぐちゃになった狼の死骸が三頭分。それを見るのも結構きつかったのだが、彼らは討伐部位を採取したり、自分たちも手伝ったが匂いの痕跡を消すために埋めたりと、気分的にどうにも率先してやりたい仕事では完全になくなってしまっていた。

 

「まぁあんたら騎士っていうより一般人だもんな、それでよくお姫様を……お前ら大金星なんだから頑張れよ!?」

 

 何故かルクルットにより理不尽な説教を受けてしまったりもしたが、村の青年の恰好をしている今の状態では、ただの平凡な青年と少年にしか見えない。

 モモンガに至ってはこの世界の顔面偏差値が高すぎるせいもあってか並み以下。もし若く作っていなかったら残念とさえ呼ばれていたかもしれない。

 なおそんなルクルットの言いように彼らは結構喜んでいた。見た目の年齢的にもペテルとルクルットがモモンガと。ニニャがペロロンチーノと近いこともあり、徐々に敬語も少なくなり友達感覚で接してくれてるのが嬉しかったりしている。

 

 続いて話題は金銭の問題へ。数日間滞在していることもあり貨幣経済であることも、手持ちのユグドラシル金貨がこの国の金貨に対してどれくらいの価値があるかなどは知っているが、街での一般的な貨幣価値がわからない。

 金貨と金玉を見せつつこれを換金できるかなどを聞いてみる。

 

「へぇ~綺麗な金貨ですね。でも安心しましたよ、それだけあれば四人で一年は暮らせるほどですね。あとさっきから、き、金玉はやめてください」

 

 そう答えるニニャがペテルに視線を送り、金庫番らしい彼がこの国の貨幣を見せてくれた。彼らも銀級冒険者であることでそれなりの金貨は持っていたが、その十倍の価値がある白金貨は持ち合わせがなかったりする。

 それとテントにあったクリスタルも見せたが宝石の部類になるんじゃないか? ぐらいの反応しか得られなかった。なおこのデータクリスタルの効果は<防御+2>とかいうゴミ評価であったりもする。

 

 そんなこんなで雑談という名の情報収集をしていると良い匂いが。アルベド達がエモット一家と一緒にやってきた。

 

「頂いたお肉は赤ワインでソテーにしてみたの。私たちもここでいただかせてね」

 

 とっておきのワインなんだからなんてエモット夫人が言いながら、女性陣が次々とテーブルの上に料理を載せていく。お肉のあまりはエモットさんが村に回してくれたそうだ。

 

「えー!? こんな旨そうな肉食べちゃっていいんですか!?」

 

 などと遠慮されつつもその匂いに堪えきれずがっつきはじめる冒険者たち。

 

「うっそだろおい!? すげぇ旨いぞ!」

「これほどの肉とは驚いたのである」

 

 評価は上々であるがモモンガやペロロンチーノは嫁たちに注いでもらったスープに夢中になっていて聞いていなかったり。

 

「もうモモンガさんったら、うふふ。それでいかがでしょうか皆さん、このお肉は販売可能でしょうか?」

 

 そう、もう一つの金銭を得る方法がこれだった。誰かに料理してもらうしか使い道がないお肉。ダメならこの村で消費していこうなんて考えていたのだが。

 

「確かに美味しいですし誰もが求めてすごい値が付きそうですが、食料の卸となると専門外で……それよりどうやって手に入れたかの方が気になりますよ」

 

 アルベドとシャルティアの案ではあったがやはりそういう答えになるかと納得する。出所不明の食肉を買ってもらうのは難しいだろうと。

 

「むー残念だわ」

「そうでもないさ、料理店に渡して料理してもらうって手もあるしな。理解があれば売れることもあるかもしれんぞ」

 

 でも私はこっちで十分だけどななんて笑いながらスープを飲みアルベドを慰めるモモンガ。ペロロンチーノもであるが他に人がいようとイチャイチャしっぱなしである。

 

「あら、熱いわねぇ二人とも。あら……あちらの方も熱くなっているかしらね?」

 

 そう言葉を紡いだエモット夫人の視線の先を見て全員が頬を緩ませる。黄金色の日差しを浴びながらエンリとンフィーレアが恥ずかしそうに手をつないでやってくるのが見えたのだった

 

 





次回(多分)エ・ランテル

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