鳥ウナギ骨ゴリラ   作:きりP

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短編
鳥ウナギ骨ゴリラ


「長かった……本当に長かったね、モモンガさん!」

「ユグドラシルで12年……私思うんですけど、ここまでバカなことに全力を尽くした3カ月は無いと断言できますね」

 

 DMMORPGユグドラシル。只今その最終日の終了一時間前、ナザリック地下大墳墓円卓の間で語り合う人間種(・・・)の男性二人は朗らかに……いや黒髪の決してイケメンとは言えない二十代前半程の男性は、困り顔アイコンを出し、もう一人の茶髪のイケメンは十代後半程の年齢だろうか。鼻息も荒くこれから行われるイベントに胸を高鳴らせている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から三カ月ほど前、このゲームの最終日が告知された。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長モモンガは、この告知に憤りを覚えもしたが、心のどこかで「そろそろか」と言う気持ちもあり暗く沈んでいた。

 

 だが、その告知当日にロリコ……いやペロロンチーノさんが復帰したのは意外すぎる事件だった。いや今思えば事案であった。

 

「モモンガさん久しぶり! 俺このキャラ消して人間種のキャラ作るから手伝って!」

「ふぁっ!?」

 

 理由を聴けばもうとんでもなくバカで最低で、それでいて納得もできてしまうアホらしいこと。ペロロンチーノは自身が創りあげたNPC。シャルティア・ブラッドフォールンと結婚したいのだと言う。

 

「ほら、誓いのキスが(くちばし)で突っつくとか無いじゃない」

「もうほんと……変わってなくて安心と言うか……変われよ!」

 

 膝をついてガックリとするモモンガであったがギルメンの復帰が嬉しくないわけがない。その言葉にも笑みが生じている。

 

 久しぶりに語り合うゲーム内の友人との会話。おどけて話してはいるが、ペロロンチーノが現状かなり大変なことは想像がついた。業績の悪化に伴う倒産という近い将来が目に見えているようで、今頑張らなければならないのは分かってはいるのだが、それを回避できるのは到底無理なようで。このご時世再就職などヘロヘロさんの例を見れば明らかでもあったが、彼の将来も暗いものがさしている。

 そんな折、ネットで目に付いたのはユグドラシルの終了を告げる告知であったという。昇進に伴い付いて回る責任と重圧。今までゲームに充てていた時間を仕事と睡眠に変えるために引退したのではあるが、心残りがあったそうだ。

 

「目の前にいるのに……なんで抱きしめられないんだ……」

「まあハラスメント警告受けて最悪垢BANですからね」

 

 電脳法なんて法律を詳しく調べたことは無いが、リアルの生活にも影響を及ぼすらしい。怖い。

 

「だからユグドラシルが終了する直前に抱きしめてブチューってやっちゃえばセーフじゃね?」

「天才」

 

 そんな理由である。

 

 

 無論モモンガにも葛藤はあった。これから3カ月、ギルド拠点防衛のための維持費を稼ぐだけの、ゲームとも言えない無意味なログインを続けるのか。

 続けるんだろうな……それしかないのだもの。

 

 それがこの男はどうだ。人間種になると言う。つまりはギルド加入のルールすら破って……

 なんだよルールって……ここ数年自分一人しかいなかったじゃないか……

 

「実はすっごいパンツ履かせてるんだけど見れないんだ……」

「うん、ちょっと黙ってて」

 

 だんだん考えるのすら馬鹿らしくなってくる。自分のナザリックへの愛着はすごいのだと自負できるけど、彼のシャルティアへの思いもまた本物なのだろう。友達の望みを叶えてあげて大団円。うん、それでいいじゃない。それになんかちょっと……この3カ月が楽しくなりそうじゃないか。

 

「わかりました手伝いましょう。けどなんで人間種なんですか? アバターを変えれば……ああ……」

「多分だけどものすごい金額になると思う」

 

 そうだ、外装を変えられると言ってもお金がかかるのだ。むしろ格好いい、可愛いキャラを作りたいなら人間、エルフなどの基本的な人間種を選ぶのは当たり前。ヤツメウナギや大口ゴリラにいったいいくらの金銭をつぎ込んだのかを聴けば、想像もつくだろう。

 

 例えばこのオーバーロードの外装を人間種っぽくすることだって出来なくはない。3桁万円程かかるらしいが……外装変更部分が多ければ多い程、お金がかかるわけで、だからこそ『異形種の見た目の人間種』も『人間種の見た目の異形種』も少ない(・・・)のだ。

 

「でも手伝うって……レベル上げでもするんですか?」

「当然じゃないかモモンガさん! 嫁より弱くてどうするよ!」

 

 ぶっちゃけLv90までなら課金ブースト&壁で3日で上げることも可能だ。だがLv100となるとどれくらいかかるのか……

 

 そしてペロロンチーノさんの新キャラ作成が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラコンセプトは今までの武装がもったいないので弓手系の方向性はそのままに、種族特性を盗賊系の職業(クラス)スキルで補っていく。レベル上げと言っても単純に言えば最大火力で矢を放つだけの作業なのだが、遊びが入った魔法特化のモモンガのキャラではタゲ取りに向いていないかと言えばそうでもなかった。

 

「デスナイト無双」

「もうデスナイトに足を向けて寝れないね」

 

 過疎に拍車がかかった誰もいないからこそできる経験値狩場でのDQN狩り(他のプレイヤーに迷惑になるような狩り方)。一か月を過ぎるころにはレベルは早くも99を迎えていた。

 

「……折り返し地点ですね」

「ほんと運営はクソ」

 

 レベル1からレベル99までの経験値とレベル99からレベル100までの経験値は一緒だった。

 

「で、実際のところどのくらいの時間抱きしめてられるんですかね?」

 

 モモンガは過去に見た掲示板での勇者(・・)の報告を思い出そうとするが、『やわらかかった』『いいにおいがした』などの賢者(・・)の言葉しか思い出せなかった。

 

「勿論調べてきましたよ!」

 

 ペロロンチーノの情報によるとハラスメント行為に限らず、『接触行為』は機械的に運営に感知されるのだそうだ。つまり握手やハイタッチなどもそれに含まれることになる。それを30秒続けると注意喚起のアナウンスが流れ1分で凍結。ログを解析されOUTなら垢BANといった流れだ。

 

「なんかずいぶん大雑把というか……穴がありすぎません?」

 

 そうモモンガが思うのも仕方がないことだが、実際五感のうち味覚と嗅覚は完全にシャットアウトされているし、触覚も曖昧なものだ。そんなものに触れて、運営の公式ホームページにキャラ名と実名と国民番号を晒され、社会的に抹殺される行為を誰が望んでするだろうか。

 

「うーん、結局ハラスメント行為って曖昧なんですよね。実際に人の目でそれを確認しないと分からない事とか多いんですよ」

 

 ペロロンチーノが語ってくれた勇者の話。ある拠点のPCであるモンクがNPCとしてビキニアーマーの女戦士を作ったそうな。そしてそれを相手に連日稽古と言う名の性的部分への掌底を繰り出し、数日後に垢BANされている。

 

「……人間のエロへの欲望はすさまじいですね。でもそれなら今抱きしめちゃっても変わらないんじゃないですか?」

「モモンガさん勘違いしているかもしれませんが、キスとか性的部分への接触とか、通常は出来ませんからね?」

「え?」

 

 つまりそれが出来てしまうと疑似的な風俗と変わりないわけで、常識的に禁止されているのは勿論、物理的にできない仕様なのだ。唯一可能なのがPVPやPVN、PKなどの対人行為なのだが、確実にログが取られ一瞬で垢BANされる。

 

「公式HPの最後の方に『このHPは最終日を持ちまして更新終了いたします』って書いてあるんですよね。だけどリアルの安全を考えるなら30秒が限界だと思います。つまり俺が最終日にやるのは、シャルティアとのPVNです!」

「な……なんだってーーー!!」 

 

 言ってみたかったセリフなだけにモモンガもノリノリだった。

 

 ペロロンチーノの作戦とは、ユグドラシル終了1分前にシャルティアとのPVNを開始。 相手を抑え込み『サバ折』と『吸血』を決めるといったものらしい。

 

「弓手のペロさんが『サバ折』とか……それはいいとして『吸血』なんて持ってないでしょうに」

「大義名分ですよモモンガさん。シャルティアを作るのに命を懸けていたのでつい自分も出来ると錯覚してしまった……そんな理由でいいんです!」

「……」

 

 お前それ大義名分の使い方が違うだろうとも思ったが、もう、なんか面倒くさいので言うのはやめておいた。

 

「あれ? 1分前? 30秒前じゃないんですか?」

「さっき話したモンクのせいです。PVNモードでNPCの待機設定が出来なくなりました。ガチで行かないと押し倒せません」

 

 ユグドラシルには対人練習用としてPVPモードとPVNモードがあったりする。ギルド拠点や特定の街にもあるのだが、拠点の場合は場所を指定できる。

 ナザリックにおいては第六階層闘技場と、なぜか円卓の間がそれだ。主に茶釜さんがペロさんを殴るのに使用されていた。

 そしてマスターソースから場所指定が出来るので、今回は玉座の間を指定して戦い(結婚式)を行う予定だと言う。

 無論シャルティアには謹製のウェディングドレスを着せる予定なので、防御耐性はお察し。戦闘AIはそれほど賢くも無いので、スキルで足止めして接触するのは簡単だが30秒の余裕は見ておきたいとのこと。

 

「なんかもうペロロンチーノさんが馬鹿なのかロリコンなのか、わかんなくなってきましたよ……」

「いやーそんなに褒めないでくださいよ」

 

 まったく褒められていないのだが、愉快に笑うペロロンチーノ。とにもかくにも、あとはレベルを一個上げるだけ。一度シャルティアを玉座の間に移動させて、テストをしてみないかってことになり、狩場から転移する二人であった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーアルベドは美人ですねー。可愛さではシャルティアに劣りますけど」

「確かに美人ですけど……なんでギンヌンガガプ持ってるんだ……」

 

 第ニ階層死蝋玄室からシャルティアを引き連れ、玉座の間にたどり着き、三人を迎え入れたのは、にこやかに微笑みかける守護者統括アルベドであったが、何故か右手に宝物殿にあるべき至宝、世界級アイテムのギンヌンガガプが光り輝いていた。

 

「なんでもなにも、モモンガさんが持たせたんじゃないんですか? あれ? モモンガさんいつからここ来てないの?」

「そういえば二年以上来ていませんでしたね……たぶんだけどタブラさんかなあ?」

 

 一言断ってくれてもいいのにとも思ったが、数年も気づかないこの現状。そういえばボーナスぶっこんだシューティングスターの指輪も使わずに消えていくんだなあと考えたら、宝物殿の肥やしになるよりタブラさんの望みが叶ったってことで良しとしておこう。多分だけどアルベドに範囲攻撃装備を持たせたかったんだな。

 

「まあいいか……ってペロさんなにしてんですか?」

「ん? タブラさんに電話」

「ぶふぉっ!?」

 

 こういうところが自分と彼の違いなんだろうなあと感じる。現在の人間種の姿はリアルの彼を若返らせた感じのものだ。つまりイケメンで、即断力があり、倒産しそうだが中堅企業の部長職。これでロリコンを拗らせなければモテモテだっただろうに……

 

「あーごめんね、忙しかったみたいで。うんモモンガさんに伝えとくね、それじゃ、はーい」

「なんか言ってました?」

「アルベドをモモンガさんの嫁にあげるから許してだって」

「ふぁっく!」

 

 あの人はなにを言ってるんだと思いながらもチラリとアルベドを見ると、小首をかしげてこちらに微笑みかけている。

 

「うっ……かわいい……」

「なんでかモモンガさんの方ばっかり向いて、アルベドは俺の方見ないんですよね。 設定かなあ?」

 

 シャルティアは俺の方向いてくれるのにと、ぶつぶつ呟きながら玉座へ歩いて行きマスターソースを開くペロロンチーノ。モモンガも興味があったので二人でアルベドの設定を覗き込む。

 

「意外に家庭的って……長いなおい!?」

「確かに長い……そして最後でドン引きです……」

 

 『ちなみにビッチである。』

 

「うーん……アリか無しかで言えば……アリですかね。エロゲー的にですけども」

「いや無いでしょう!? シャルティアがビッチ設定だったらどうなのよ!?」

「無しですね!」

「もうお前がわかんねーよ!」

 

 くだらない、本当にくだらないことでお互いの主張を述べ合う二人。だが二人とも半笑いであり、こんなバカげた議論が楽しくてしょうがないのだとの思いは隠せてはいない。

 

「まあ、もうモモンガさんの嫁ですからね。『モモンガを愛している。』とかにでも変えちゃえばいいんじゃないですか?」

「いやそれは……なんか愛を強要してるみたいじゃないですか……ってなにを本気になってるんだ俺は」

「……モモンガさん」

 

 ペロロンチーノはそれはそれは優しい声色でモモンガの名前を呼び、右手を差し出す。

 

「なっ、なんですか!?」

「こっちの世界へようこそ!」

「ぐっ!?」

 

 否定できない。彼を否定できないのだ。だって綺麗で可愛いのだもの。今一度ちらっとアルベドを見ると、再びにこっと微笑んでくれる。本当にAIなのかよと思ってしまうほどのタイミングの良さに完全に心を射抜かれる。そして『笑顔アイコン』を出しっぱなしのペロロンチーノを見つめ……差し出されたその手を固く握るのだった。

 

 

 

 

 

 

 なお、アルベドの設定の書き換えは、散々悩んだモモンガが一文字だけ変更するに留めている。

 

 『ちなみにエッチである。』

 

 このせいでペロロンチーノが過呼吸に陥るほど爆笑したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもそのアバター最初から用意してたんですか? オフ会の時のモモンガさんそっくりですよ」

「ええと、アバターラというか……ゴーレムを作る練習で作ってたものがあったんですよ」

 

 現在二人はナザリック玉座の間特別スペース、単に椅子と机を用意しただけであるが、そこにアルベドとシャルティアを侍らせて語り合っている。

 あの固い握手の後、ペロロンチーノから合同結婚式にしようと提案され、ちょっと楽しくなってきたモモンガはそれに同意する。

 その後結婚式の話で盛り上がっていたのだが「でもモモンガさん唇無いからキスっていうより前歯押し付ける感じだよね」「大丈夫? 歯磨いてる?」「エッチなのにエッチできないね!」などなど。

 煽りに煽られたモモンガは自身も人間種になることを決意する。勿論葛藤はあったのだが、自身が欲していたのがこのアバターでもナザリックでもなく、ギルメン……いや友人であったことに気づかされていたこともあり、意外に早い決断でもあった。ゲーム終了まで2カ月を切っている事も、それを後押ししたのかもしれない。

 

 二人で……いや四人でモモンガの育成方針を考えていく。とにかく時間が無いのでやはり火力職一択。つまりは装備面も含めて魔法職にはなってしまうが、ここで一つ問題が発生する。

 

「壁がいないね……罠だけじゃ効率悪いよなぁ」

「しまった……死霊術か他のサモン系魔法でも……MPきっついかもしれないですね」

「姉貴のキャラでも使えればよかったんだけどなぁ」

 

 ペロロンチーノ育成ではモモンガのアンデッド創造や召喚などで簡易のタンクを作り出していたのだが、モモンガを育成するための壁がいない。

 ここで颯爽と登場するギルメンでもいれば良いのだが、ペロロンチーノの連絡網により全滅。

 無論草生えまくりの返信メール文は『超行きたいwwww でもごめん無理』などなど。混ざりたいけどリアルが忙しすぎるために不可能といったものがほとんどで、これにはモモンガも「みんな辞めていった理由があるんですもんね……」と、一人黄昏ていたのだが、

 

「ね、ねぇ……なんかペロさんの電話の相手泣いてなかった?」

「あぁ、姉ちゃんモモンガさん好きだったからなぁ。いろんな意味でショックだったんじゃない?」

「おぃい!? 先に言ってよぉおおおお!!」

 

 リアルのあったかもしれないフラグをバッキバキに折りながら、ペロロンチーノが壁になることが確定した瞬間だった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「やっとレベル90の大台に乗りましたね」

「まぁ俺もレベル90になっちゃったけどね……」

 

 基本戦術はペロロンチーノがヘイトを抱え込んで走り回り、モモンガが範囲大魔法で撲滅するといった原始的な方法であったが、一週間ほどで大台に乗っている。

 代わりにペロロンチーノがデスぺナを受けまくり、一月掛けて上げたレベルを下げまくっていたりするのはご愛敬である。

 途中から二人のレベル差が10になったことで、『公平パーティ』と呼ばれるパーティを組むことが出来、撲滅に回らない方も公平に経験値を得ることが出来たため、初期のデスナイトによる壁を使った戦闘に戻している。

 

「しっかしこのキャラ遊びが足りないよなぁ」

「あっ、ペロさんもそう思います? 私も効率に括りすぎてバフと攻撃魔法しか取ってないですしね」

 

 目的が完全に効率的Lv上げになってしまっているので、ロールプレイもくそもない。それでいてガチビルドでも無いのだ。モモンガなどは現状、魔力系魔法職レベル90で取れるはずの270個の魔法の内、50個程度しか取っていない。

 

「人間種になった設定とか欲しいよね」

「私の場合は受肉とかですかね……なんか怖いな……」

 

 元は中二病ロールプレイヤーの二人。狩りを行いながらも自身の設定を考えていく。無論フレーバーテキスト的な脳内設定なので意味は無いのだが、こういうのを考えるのはやはり楽しいものなのである。

 

「羽とか欲しいな……『昇天の羽』と『堕落の種子』だっけ? あれ使って羽とか生えないかな?」

「根本的に種族が変わっちゃいますからねぇ、アバター変更で結構お金かかっちゃいますよ? それ以前に属性(アライメント)が偏ってないと使えなかったかと」

 

 キャラを作り直してからPKをすることもされることもなく、属性にかかわるゲーム内イベントもこなしていない。あーだこーだ言い合いながら、何故か『二つ名』だけは確定する。

 

 そしてもう一点。レベルはある程度まで妥協し遊びを入れていくことに。つまりモモンガは興味のあった前衛職のファイターを。そしてペロロンチーノはウィザードを選択する。

 

「モモンガさん、すっごいこれ! ヌルッヌルだよ!」

「なんでまっさきに<グリース>の魔法を取るのよ!?」

 

 ステータス補正なんざ知ったこっちゃねぇ、とばかりに選択した低級職業(クラス)であったが、

 

「モモンガッッ!! その構えはっ!?」

「知っているかペロロンチーノ……アバンストラッシュは闘気を飛ばすことが出来ることを……」

 

 もうやりたい放題であった。

 

 そんなこんなで、狩りではっちゃけ、玉座の間ではそれを活かしたロールプレイを、まるで妻たちに言い聞かせるように語り合い、ついには最終日を迎えるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘロヘロさん爆笑してましたね……まっ、まあ元気になってくれたみたいだから良かったですが」

「タブラさんもウェディングドレス着せてスクリーンショット撮って帰っちゃいましたもんね。 まあアルベドの設定見て膝をついてプルプルして笑いをこらえていたのはモモンガさんのせいですけどね」

「なんで!? そんなに『エッチ』だめだった!?」

 

 だってサキュバスですよ、なんか可愛くなっちゃってるじゃないですか、などと二人で談笑しながら最後の時間を楽しんでいたが、不意に空白が出来ると言うか会話が止まる。

 一つ息を吐いてモモンガは、まるでこれからプロポーズでもするかのようにペロロンチーノに語り掛けた。

 

「ペロロンチーノさん……三か月間ありがとうございました。それで……よっ、よかったらですが明日にでも飲みに行きませんか? いや、早出残業なんで夕方からになってしまうんですが、もっ、もう本当によかったらなんですけど……」

「くくっ、姉ちゃんがそのセリフ聴いてたら大歓喜ですよ。あの人ちょっと腐女子入ってましたから」

「!? いっ、いや、そういう意味じゃなくって! あっ、あの……」

「ありがとうはこっちのセリフですよモモンガさん! こんなバカに付き合ってくれるのはやっぱりモモンガさんだけかもしれんですね。よしっ! 二次会ですね! いやー楽しみだなぁ、会社の付き合いの酒じゃなくて友達と飲めるなんて何年ぶりだろう」

「はいっ……はいっ! 友達ですよねっ!」

「? だから俺はノンケですよ?」

 

 ペロロンチーノには理解できなかったが、モモンガにとっては初めてと言える友達だった。無論彼を友達だと言う人は他にもいたはずなのだが、環境が悪いのか、タイミングが悪かったのか、それともユグドラシルが悪かったのか。

 いや、今はそんなことはどうでもいいか。彼に少しだけ光がさしたのだから。

 

 さて、と二人して立ち上がり、指輪の転移でレメゲトンまで移動する。二人して並んで玉座の大扉の前まで歩き、扉に手をかける。

 

「さて、いくぜモモンガ! 俺たちの闘いはっ!!」

「ああ、ペロロンチーノ! これからだっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体の痛みをこらえて、ゆっくりと目を開いていく……なんだ? 何が起こったんだ? 視界が定まらずぼんやりとした輪郭しか見えないが、白い服を着た黒髪の女性が自身の手を握っているのが分かった。

 

「な……なにが……おごっで……」

 

 何が何だかわからず頭もうまく回らないが、口もうまく動いてくれない。

 

「あぁああああ!! モモンガ様ぁ! 良かった……よかったよぉ……」

 

 目の前の女性が絶叫を上げ、ぽろぽろと涙をこぼしているのがわかる。だんだんと視界がはっきりしていき、それがアルベドであることに驚愕する。

 

「あ……ある……べど?」

「はい……はいっ! ですがどうかそのままで、身体をお安めください。そして心苦しいのですが一つだけ教えてくださいませ……シャルティアの為に……『蘇生の短杖』をお持ちかどうかだけ教えてくださいませ」

 

 『蘇生の短杖』ならアイテムボックスに大量に入っているが……アルベドの後ろにいるのはシャルティアだろうか。両手を組み、祈るような眼差しでこちらを向きながら大粒の涙をこぼしている。

 チャイナドレスなんてあったっけと思いつつも、なんだかよくわからないが、なんとか片手を動かし中空から消耗品をまとめておいた無限の背負い袋を引き出す。

 

「あぁ……良かった……これでシャルティアの自らの身体を引きちぎるほどの葛藤にも終止符が打たれます……いつか、褒めてやってください。今やあの子は私の半身。最強の盾と矛は……旦那様方の帰りを5年も待ち続けたのだと……そして矛が可能性を信じて盾に選択を譲った事実を……」

 

 アルベドが何か言っているのだが微塵も理解できない……無理に身体を動かしたせいだろうか……瞼に力が入らなくなってくる……

 そうだな、今はとりあえず眠らせてくれ…… 

 

 遠くからアルベドとは違う少女の歓喜ともいえる絶叫を聴きながら眠りにつくモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガさん……どう? 俺たち王様らしいんだけど大体理解できた?」

「私結構ね、異世界転生とか異世界転移とかのラノベ読んでたんですよ。でもね、全然理解できてないです」

 

 寝起き以降ちゅっちゅくちゅっちゅくしてくるアルベドのせいで、再三思考停止させられるのだが、あの時の状況を必死で思い出そうとする。

 誓いのキスを時間限界30秒前に出来たことは覚えている。そして目を開いたときに草原のような場所にいたことも。

 

 たぶんあれはギンヌンガガプの一撃だったと思う……いや、世界級アイテムとかそんなことは関係ないか。鈍器で人間がぶん殴られたのだ。

 舌を噛み千切られ、袈裟懸けに振り降ろされた杖の一撃は、モモンガの意識を奪うに十分な痛み(・・)だった。

 

 彼女らに聞いたそこから先の蹂躙は、聞くも絶えない事ではあったが、『かっ、身体が言うことを聞いてくれなくて……私はモモンガ様を……』『延々と爪と手刀で切り裂いていたのでありんす……必死に≪血の狂乱≫を抑えることはできたのでありんすが、止まって……止まって! と叫んでも身体は止まってくれなかったのでありんす……』などの本当に辛そうな涙声の言葉を聞いては、例え彼女たちに殺されたのだとしてもなにも言うことが出来ない。 これは不幸な事故であったのだと。

 

 

 そして始まる波乱万丈の『デスペラードな妻たち』の一大スペクタクル物語。

 

 

『夜明け……ここはユグドラシルではないの? 立ち上がりなさいシャルティア!』

『……』

『『太陽を堕とせし黒翼(・・・・・・・・・)』の妻シャルティア!! あなたの思い人が落とした太陽が今昇っているのよ!! ここがユグドラシルとは別世界だと知りなさい!!』

『ハッ!? 別…… 世界?』

 

 

『モモンガ様は愛を知ってしまった……『その身に愛する心を宿したオーバーロード(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)』……私がモモンガ様を人間にしてしまったというのに……』

 

 

 などなど、冒頭から『二つ名はかんべんしてください、心がしんでしまいます』的な説明を受け止めさせたのだが、いわゆる異世界転移だということしか理解できなかった。

 

「とりあえず……王と言うのは柄じゃないですね。あのジルさんとラナーさんに丸投げしましょう」

「くくっ、モモンガさん吹っ切れたなー。宰相らしいですよ? あの二人」

「これが夢なのか現実なのかとかどうでもいいんです。理解の範疇を超えていますもの。あの約束ですが……四人でどうですか?」

「いいですね……家族計画とか語り合っちゃいますか?」

「では行きますか! 結婚式の二次会に!!」

 

 

 

 その日、わずか数年で近隣諸国を平定し、驚くほど平和的に(・・・・・・・・)一大国家を築き上げた異形の二人の女王は忽然と姿を消した。彼女たちの伴侶と共に。

 

 後にその女王の伴侶を復活させたとされる、とあるアダマンタイト級の女性は語る。

 

「不幸中の幸いだったのかしら……私も知らなかったのだけど<死者蘇生(レイズ・デッド)>の費用が難度によって違ったのは。もし一国の……いえ、数国の国庫で蘇生が可能だったのならこの平穏は無かったのよ……あの人たちビーストマンが金貨を使ってないと知ったら一瞬で滅ぼしてたもの……ホント胃が痛い5年間だったけど、良い意味で目的の為に手段は選んでられないって教えてもらったわ」

 

 

 一人は朗らかに笑い、一人は髪の毛を掻き毟り。丸投げされた二人の宰相による一大国家は、国費ゼロの状態からわずか数年で、安定した国を創り上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガさん、昨日シャルティアとヌルヌル大相撲したんですけどこれがまたすごくって!」

「そのために取ったの!?」

 

 

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 

 




蘇生魔法の費用はどれくらいかかるんだろう。ネトゲとしての考察だと無料。D&D準拠だと版数によって違ったりする。
ラナーが少なくない黄金が必要と言ってたり、冒険者が触媒が必要とかも言ってたけど、それって英雄級以下の人たちに対する蘇生だし……なんて考えてたらこうなったw
シャルティア復活費用ぐらいの金貨が必要になってしまったという捏造設定でしたw


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