ナイフ一本あればいい。   作:患者

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生きてました。


ナイフがあれば暗躍もできる。

道具という物はそれぞれで、利便の為にと常日頃から改造、改良を繰り返している。求められる限り、進化を続ける物達。

端的に言えば、僕は道具が好きだった

 

「この道具なんてどうだい、『ジドウハンバイキ』と言う物だ。なんと喉の乾いた人間に飲み物を提供してくれるという素晴らしい物だ。僕の見た限りこの上半分に羅列されている物達が飲み物なんだろう、だが問題はどうやって飲み物を出すのかだ。僕的に殴る蹴るみたいな行動で飲み物出すとは思いにくい、それで飲み物を出すのは人間だけだ。つまりはなにかしらの手順を踏んで飲み物を出すのだと僕は思ったんだが……さてどこを触れば飲み物が出るのか…それがわからない。…あぁいや、わからない、をわかる、にする過程も僕は好きだ、子供っぽいが、楽しいものだよ。しかし、答えがわからないものもどかしいものだ。こういうのもなんだが、知識欲というのも中々馬鹿に出来ないものだ」

 

数多の人間が知識を求めて散っていったという話も少なくはない、未知への興味はある意味、どれだけ歴史が変わろうとも風化しないものなのだろう。

道具を見ながら僕は思う。

 

「だけど、知らないことも幸福なのではないか。と思うようになってきた、君のお陰か」

 

好奇心、猫をも殺す。

知ってしまえば最後、後戻り出来ないことだってある。無知は罪だが、逆に言えば罪以上のことはない。…先ほど出てきた知識を求めて散っていった人間のように、終わってしまうわけではない。

そうだ。

知る、ということはある意味の終わりだ。それ以上考える余地もなく、思考が挟む場所もない。

打ち止め。

全てを知りたくて、全てを知ってしまった存在の頭はどんなのだろうか。疑問というのは尽きないが、その疑問の答えすら知っている全知なんて存在の人生は、どれほどつまらないのだろう。

…彼女を見る度思う。

 

「……いや、君の事が気になるのはもう仕方がないことだろう。『まるで道具』のような君は僕からしてみれば興味を惹かれてしょうがない」

 

彼女は首を傾げた。

 

「君はなにを知ってる?なにが目的なんだい」

 

好奇心だどうだとか言っておいて、僕は彼女のデリケートな部分に触れていた。

わかっているとも。しかし、これは僕しか言えないことだ。賢者だって、絶対に聞けやしないだろう。

 

「君は、そんなに殺してなにをする。そんなに殺しておいて、どうしてあの娘に」

 

僕の言葉は、そこで止まった。

止められたとも言う。

…首にナイフを突きつけられて、口を開けたら顎が切れてしまうからね。

 

「その答えは『前に答えたわ』」

 

前…?

と疑問を返すことも出来ない。

彼女は有無を言わさぬ目で、その血のような赤い目で、僕を見つめる。

だが今更だ、彼女の殺意など、数えきれない程浴びてきた。嫌な気分だが、馴れた。…馴れたからといって動ける訳ではないが。

 

「そしてその答えは前にも今も変わらない。

私は殺すだけ。一切合切、なにも残さず、殺し尽くす」

 

口を三日月に歪めて、彼女は言う。

殺すことだけしてきた彼女らしい答えだろう。

……だが、僕には、その顔が酷く歪んで見えた。見えただけかもしれないが。

 

「…アナタを殺さないのは気分がノらないだけ。私だって殺したい時と殺したくない時だってあるわ」

 

「本当に?」

 

「本当よ?」

 

気がつけば彼女の手からナイフが無くなっている。

全く、油断ならない。何時無残に殺されるかわかったものじゃない。

溜め息を一つ。

 

「わかった。わかった。僕はもう何も言わない、そもそも僕はそういうことにはあまり首を突っ込みたくない。君は君で、僕にはわからない"やろうとしている"ことをするといい」

 

お手上げ、と言わんばかりに両手を挙げて彼女を見送る。

ニッコリ、と見惚れる…よりかは寒気を感じる笑みを浮かべて、彼女は出口へ去っていく。

……そうだ、一つ。聞いてないことがあった。

 

「今日は結局、なんの用だったのかな?」

 

彼女は足を止め、首だけ振り返った。

 

彼女はまだ 酷い/醜い/綺麗 な笑みを浮かべていた。

 

「死に場所探し。」

 

そんな彼女の顔を見て、僕は思った。

 

 

 

『使われてるのは、人と道具、どっちなんだろうな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おぉ、これはこれは………『へっどふぉん』か……どうやら音楽を聴く道具のようだが…」

 

「おーい、なー、聞いてんのかよー」

 

「構造的になにかを挟むようだが…やはり音楽を聴くなら耳か?頭につけて……はて、どうやって音楽を流すのか」

 

「おいこら聞け」

 

「……なんだ、魔理沙。こんなところにまで押し寄せて、一体なんの用があるんだ」

 

すっごい嫌そうな顔で、すっごいデカイ溜め息を吐かれた。

無縁塚の入り口で道具漁ってる奴に。

 

「私、店の入り口からずっと居たよなぁ!?見てないフリしやがってわかってんだぞ!?」

 

全く…こんな美少女が来てやってんだから喜べよ…この男は…

 

「美少女……?」

 

「はいそこ疑問符をつけない」

 

はぁ。ともう一度溜め息をついて白髪の男はなんやら小さい椅子のような物を取り出して、そこへ座った。

…ってなんだそりゃ

 

「『携帯椅子』。そのままだ、携帯できる小さい椅子。そこまで重くもない」

 

「へー…なぁこれ」

 

「残念だが非売品さ、これは私物でね」

 

「……」

 

この男。道具屋なんて営んでいる癖に、売り物の殆どを私物にしやがるのだ。これ、いーじゃん。なんて思った品物は大概この男の持ち物である。

それでもしつこく頼むとイラついてツケのことをグチグチ言ってきやがる。

付き合いの短い真柄でもないのになんて淡白な奴だ、もっと贔屓しろよ。

 

「客は選ぶタイプでね、ツケを払ってから言ってくれ」

 

おっと、この話題は虚空の彼方へ投げ飛ばすとして。

私の聞きたいことは聞いていたのだろうか、それが目的で何度も言っているのにこの男、道具の事になると少し視界が狭い。

だからって顔馴染みをスルーするか?ふつー。

 

「…しょうがねぇからもう一度聞くぜ、ちゃんと聞けよ。

『刀子って奴はどこにいる?』」

 

私の目的は刀子と呼ばれる存在を探すこと。その為に、おそらくその存在と関わりがあるであろうこの男を問い詰めに来たのだ。

……なんで関わりがあると知っているのか。

そりゃまぁ?私の?頭脳を持ってすれば?簡単に推理出来ま

 

「霊夢に聞いたか」

 

……。はーい、そうだぜー

 

「はぁ……」

 

男はやたら長い溜め息を吐いた。

……長い付き合いの私だからわかるが、こいつ、今話をすることを最低まで嫌がってる。最低も最低、そりゃもう憎いレベルで話したくないご様子だ。

 

「一応言っておく。僕はこの件には一切関与しないことにしている、この事態は、僕には一切関係ない、そういうことにしている」

 

……そりゃまた、随分と否定的だな。

彼は確かに、この手の荒事には徹底的に無関心と無関係を貫くことは随分前からそうだが、ここまで否定的なのは初めてだ。嫌々でも情報を話す普段とは違う、とても強い意思を感じた。

 

「僕はこれでも彼女へは感謝しててね、これはそのお返しの一環だ。だから、彼女がやることには僕は何もしない」

 

「……何故か、って聞いても答えないなその様子じゃ」

 

「あぁ。だから早く次の場所に行くといい、さっさと行って、いつもみたいに解決するといい」

 

…なんだか何時もと違う反応に、私はキョトンとした。

 

「なんだぁ?お前そんなに異変解決に積極的な反応したことあったか?」

 

私の記憶が正しければ、彼に異変のことを相談をしに行っても、解決未解決に関してはどうでもいい、というスタンスだったような気がする。

それがどうか、今回のこいつは早く解決することを望んでいるように聞こえる発言すらしている。

 

「……別に、関与しないといっても、事態が起これば僕も被害が出るからね。道具が集められなくなる」

 

「…ん…んん…?そうか…そうだよな……わかったよ」

 

なんだか腑に落ちないが、これ以上は取り合っても無駄だろう。私は踵を返すことに…

 

「…そうだ。これはこの事態とは一切関係ないし、僕も独り言のつもりで話すが…」

 

思わず足を止めた。

 

「死にたくないならやめろ」

 

私が振り返った時、彼はもう背中を向けて森へと歩き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面白くない。

 

『……』

 

つまらない。

 

『………』

 

おんなじ作業の繰り返し。

 

『………』

そう決められた道具みたいに、私はただ繰り返す。

 

『…………』

 

いつか終わりが来るだろうと、いつか止まるだろうと。

ただただ繰り返し、繰り返す、繰り返せ。

 

『…………カ……ッ』

 

まーた殺した。

 

「さよなら」

 

あー楽しい。

つまらない。

あー嬉しい

楽しくない。

ずっとやっていたいな。

もう飽き飽きだ。

 

こんな有象無象殺したってなんにも感じない。

 

「何人だっけ……まぁいいか」

 

どっちが本当、どっちが私、私は誰。

 

殺したい奴はどこにいる。

 

私はトーコ、ただのトーコ。

 

「お前は…」

 

また一匹来たみたい。だったらどうする?

 

 

 

殺せばいい。

 

 

 

「隙だらけ、ね」

 

ゆっくり近付いて来て、ゆっくり構えて、ゆっくり突き刺された。

 

「…な…っ…いきなり…っ!?」

 

箒で弾いて私は構え…

 

「邪魔ね」

 

しかし敵は目の前に居らず、直後に左半身から感じる喪失感、私は咄嗟に左を向いて。

 

 

腕のない自分の肩から先を見て、私は弾かれるように上へ飛んだ。

 

「はぁ…ッ……ぐっ…!」

 

遥か上空まで逃走してから、私は頭を回転させ、考える。

どうする?どうする?

まずは治療だ、その後は?

逃げる?戦う?

無理だ、逃げろ。

汗が止まらねぇ。

敵は?相手は飛べるのか?

飛べるなら治療は隙だらけだ、だが敵の姿はない。

ならば飛べない?

どうだ

治療を

逃走を

 

逃げた。

 

恥もプライドも捨てて全力で逃走した。

 

「なんだよ今の…」

 

やけに冷静な自分に驚愕だった。いや、冷静ではないか、一周回って逆に頭がシャットアウトしているのだ。

頭があまりの事に反応がしきれていない。

腕がなくなったことにも、突然攻撃されたことにも。

逃げる選択を選べたのは奇跡だろう、あと数秒遅ければ首が落とされていた。

血も魔法で止めているが、重症だろう。

 

「弾幕ごっこ…なんてやる口じゃねぇとは思ってたが…」

 

ここまで理不尽とは思わなかった。

いや言い訳だ。

私の覚悟が決まる前に殺しに来たのだ、戦う前に殺しに来た。殺し合いなら正解だ。

油断していただけだろう。

『スペルカードルール』が普及した現在、私はそれ以前の戦いの経験は少ししかないが…彼女はそんなルールは知ったこっちゃないのだろう。勿論、普及したと言っても守らない奴だっている。所詮はルール。

だが、それにしても彼女の殺意は正直経験したことがないレベル。

殺す、殺さない。

彼女はそれだけ。霊夢の言っていた意味がわかった気がする。

 

「ぐ…ぅ……痛ってぇ…どうする…」

 

逃げるなら霊夢の元が安全だろうか。しかし体力的にそこまで行くのは辛いか…一番近いのは紅魔……

 

「…待て、どうして腕しか切られなかったんだ」

 

あれだけの速さがあれば追撃も可能だった筈だ。

それに、急所ではなく腕なのも考えれば変な感覚だ。

 

「なんで…」

 

 

 

 

 

「何時でも殺せるから。なんて言ったらどうかしら」

 

 

 

 

ゾクリ

背後からした声に恐怖を覚えて振り返っ……

 

「がっ……ぁ…」

 

の ど に……な い ふ が

 

「空飛ぶ箒とは面白いものね、でも飛ぶのに物が必要なのは邪魔じゃないかしら。それともファッション?」

 

こえがでない

こきゅうができない

いたすぎてなんにもかんじない

おかしくなる

しぬ

しぬ

しぬ

 

ころされ……

 

「霊夢のお友達だけど、仕方ないわよねぇ。私の前に来たら殺されるだけよ」

 

 

 

さよなら。

 

 

 

そんなこえがきこえて…私は…

 

「んー…?」

 

……ただで

 

「ころされてたまるか…」

 

私は持っていた物へ魔力を使い。

 

瞬間、閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

持っていた湯呑みにヒビが入った。

…不吉だ。誰かが死んだか、これから死ぬのか。

なんとなく、腐れ縁の魔法使いが頭によぎる。

 

……こういうとき、この体の第六感は残酷だ。

原因も、やっぱり、そういうことなんだろう。

嗅ぎ回っていたことは知っていた。好奇心だけで彼女に関わるとどうなるかも、遠回しだけど伝えたのだけど。

 

そういうことで止まる人間でもなし、人間らしからぬ無鉄砲さだ。いや、むしろ人間らしいのだろうか。

……やはり、無理してでも…

 

「……はぁ」

 

感情的なのはよくない。特に、彼女と相対するかもしれないのだから、それは捨てるべきだ。

 

……でも、そう。やっぱり、私だって人間だもの。時には感情的になってしまうのも致し方のないこと。

 

「…」

 

持っていた湯呑みを手で砕く。

 

私は博麗の巫女だ。

 

しかし、その前に人だ。それは、彼女から教わった。

 

「刀子さん」

 

彼女の危険だということは、一目会った時から『なんとなく』わかっていた。

彼女は殺意を隠さないが、私へ対してだけはその殺意を隠そうとしている節があることも、『なんとなく』気づいていた。

彼女が私に対して何を思うのか、何故殺さないのか。それはわからない。でも

 

「アナタがもし異変すら起こそうというのならば」

 

博麗の巫女として。いや、人としても。

 

私はアナタを滅する。

 

そう、私は決意する。

 

「…勿論、そこに少し仇討ちもあるけどね」

 

そのぐらいのオマケなら仕事に支障はない。むしろ、いいスパイスね。

なぁに、心配ない。事が起こったならば、さっさと終わらして、何時も通りお茶でも飲むわ。

私は、博麗霊夢ですから。


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