ナイフ一本あればいい。   作:患者

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モンハンとかポケモンとか色々やってました。


ナイフがあれば教訓を教えられる。

生涯忘れないだろう━━━━なんて言うと物語でよくある月並みの言葉だが、彼女に対しては案外ピッタリな言葉ではないか、と思う。それほどまでに、彼女という存在は決して忘れることがないほど強烈だ、と断言できる。

その存在感は、ある意味、どんな存在よりも印象に残った。

その殺意、技術、被害はどれを取っても凄まじい。

一目見ても彼女に警戒出来ない。警戒していても解かれる。追い詰めたと思っても次の瞬間には首を跳ねられた。

なんてよく聞く話だ。その悪名高さは、ある意味神様の如く畏れられている……。

 

ここまで建前。

 

本音を言えば、結局のところ彼女という存在は、少し殺意が大きくて、ちょっと他より生き物を殺しただけの、そんな他と対して変わらない存在なのだと思う。

それはまぁ、私だから思うことなのだろうけれど、想うことなんだけど。彼女のキャラクター性は確かに常軌を逸脱しているが、それまで。飛び抜けた強さがあるわけでもなく、底で這うような弱さがあるわけでもない。

あるのはただ、殺意とちょっとの殺しのスパイス。

彼女という存在を表すならきっとそうなってしまう、一行で終わってしまう、完結してしまう。

 

ならば彼女の人生とは一体なんの意味があるのか。

 

彼女の人生に意味を求めて物語として見る輩でも居るのか。だとすればこの物語はどんな物語なのだろうか。

彼女の生き様を見る物語か?

彼女の死に際を眺める物語か?

彼女という存在を知る為の物語か?

彼女という危険を教える為の物語か?

それとも…本当に意味もなく、彼女の人生を観覧する物語なのか。

 

こんな話がある。

自分が生きていると思っていた人の人生は、実は人形が動かされていたモノだという話。人生というのは予め作られたモノで、自分の意思で動いていると思っていたモノは人形劇のように糸で動いていただけ。

その人はそれを知らずに死んでいく。

自分が作られたモノだとは微塵も疑わず、一生を生きた気でいて、満足した気で動かなくなる。

ただ単に、人形劇が終わりを告げただけなのに。

 

……。そう、彼女もだ。

 

伝承で伝えられる訳でもなく、神や邪神になったりもしない。ただ、見られるだけ。彼女が生きてきた人生を、その一生を見るだけ。

それは彼女にとってどれ程のことなのだろうか。彼女の物語は、彼女にとってどれだけの物なのだろうか。

あるいは、この物語を見る者にとってはどれ程の物語なのだろうか。

 

観覧されるだけの物語。それはなんというか、操り人形のような気がして。

 

きっと他の人は違うのだろう。

そもそも、普通はこんなこと自体思わないし、考えないんだろう。

物語がなんだとかとは私は言うが、結局のところ本当に見られてる訳もなく。単なる被害妄想もいいところなのだとは、流石の私も理解していた。

現実は事実しか映さない。

だがもしも、仮にも、本当に見ている者がいるとしたら、動かしている者がいるならば、そういう神様なんかがいるのかもしれない。

それこそどうでもいいが。

 

……。彼女は、どうなのか。

 

長々と語ってはいるが、彼女に対しての感想はつまるところ私個人からの一印象でしかなく、彼女のことを全て知っている訳でもない私の感想なんて、食べたことない料理の味の感想を言う奴並みに意味がなくて。

 

………。

 

そもそも私は口数は少ない方だとよく言われる。知り合いの魔法使いにも、何考えてるかわからない。と前に一度言われたことがある。

違うのよ。

私は口数が少ないのではなく、頭の中で色々考えた結果口に出すのが面倒になるだけ。それだけ。全く関係ないことから確信をつくことまで、色々考えている。でも、それを口に出さないのも人間というものだ。それは私でも共通している。

……それでも、一人頭の中で完結してしまう私でも、彼女のことを語りたいと思った。その事実だけは覆しようのない本当の本心だ。

まぁ、彼女のことを知っていて尚且つ話せる奴なんて両手で足りるぐらい少ないだろうが。

………いや、悪名に限ってはそうではないか。

………。

前置きが長くなったが、それはともかく。

殺意が人より少し強くて、人よりちょっとだけ生き物を多く殺した彼女。

だけど。

 

私にとっては無二の存在だった。

 

そう私、博麗霊夢は思う。……最初からこれが言いたかっただけなのよ。本当よ?

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、いらっしゃい。刀子さん」

 

「いらっしゃったわ。霊夢」

 

彼女はいつしかそこに居る。目を離した…というか、気付いたら…というか。ともかく、気が付いたら現れているのだ。

ずっと。

昔から。

ちなみに今日は縁側でお茶飲んでたら目の前に居た。酷い時は風呂に現れるので今日はマシな方だ。

 

「今日のご飯は何かしら」

 

「ウチは人にタダ飯を食わせられる程備蓄があるわけじゃないわよ」

 

「あら厳しい。猪を『か』ってきたからこれでどうかしら」

 

はたしてその『か』るはどんな字なのか。

買って、勝って、飼って、駆って、狩って。

絶対最後の奴だろうけど。

思考するまでもない。

 

「はいはい…どうぞ、お上がり下さい」

 

「お邪魔するわね………あぁそうだ、忘れてた」

 

縁側から神社に入って来た彼女は、居間の中心で此方へ振り返って、ふと思い出したように言った。

 

「はっぴーばーすでー、霊夢」

 

それは彼女しか知らない事。私だってうろ覚えだが、彼女だけは知っている。だから言うが……。

私は別に今日の日付に生まれた訳ではない。それだけは真実だ。

 

「…それ、毎回言うの?」

 

「いいじゃない、お誕生日。早く歳を取るのは良いことだわ。大人になれば、世界が変わるわよ?」

 

それは良い意味なのか悪い意味なのか。

……とまぁ、この通り。彼女は私と会う度『はっぴーばーすでー』を祝う。何故かは知らないし興味もないが……、本当の誕生日も知っているのだから、キチンとその時に言って欲しいものだ。

でもまぁ、本当の誕生日らしき日にはちゃんと真剣にお祝いするのだが。それでも紛らわしいことは紛らわしい、最初の頃は言われる度に驚いて仕方なかったものだ。

 

「大人なんて、陸なのいないわ」

 

「そうね。だからアナタは、陸なのになりなさいな」

 

「なれるの?」

 

「なれるわ。アナタならね」

 

このやり取りも繰り返すこと94回目。

きっかけは覚えていない。時々思い出したように私から言い出すお約束みたいなものだ。

 

「でも私は…」

 

でも、さっきまで色々考えていたからだろうか。いつもはそこで終わるやり取りは、初めてその続きを綴った。

今日の私はちょっと弱気だったのかもしれない。ささいな理由だった。

 

「でも私は、博麗の巫女。そもそもこんな立場な時点で陸なのじゃないわ」

 

「……」

 

「人間代表。大層な名前だわ、でも、それはどれだけの物を捨てればいいの。大人になる頃には私は私で居られるの」

 

「……」

 

「大人になんてなりたくない。大人になって心まで死ぬぐらいなら、ずっと子供でいい」

 

それは我が儘とも見える。我ながら本当に子供みたいな我が儘だった。

 

「……」

 

「どうなの。刀子さんは私なんかよりずっと永く生きてる。所詮は子供の戯れ言だと思う?まだ20も生きてないような若造にそんなこと言われたくな━━━━」

 

コツン

 

「え?」

 

一瞬、何をされたかわからなかった。

 

「隙だらけよ、霊夢」

 

口を三日月に歪ませて、刀子さんは私の額を小突いた左手を自分の方へ戻した。

……。

お得意の意識ずらしだろうか、何度見てもとんでもない。物事起こされるまで気づかない。それがどれだけ脅威なの━━━━いや、そんな話をしていたのではない。

それまで意識ずらしするな。

 

「そんな話をして━━━」

 

「確かに大人は陸でもない、博麗の巫女もこんな女の子一人に人間代表なんてさせてる時点でどうかと思う。紫の考えなんて私にはわからないもの、私には人並みの感想しか出てこないわ。こんな奴でもね」

 

こんな奴。と自分のことを指す時、刀子さんの表情は少し悲しそうになる。

多分、私だけしか知らない。

 

「私は永く生きてきた、死んできたとも言うわ。その中で、糞みたいな奴もいたし、高尚な奴もいた。私は相手の事なんかこれっぽっちも考えないけれど、その人格まで否定はしてないわ。

人を見て助けたいと思う奴もいれば、殺したいと思う奴もいる。

妖怪は恐ろしいけど、人間はもっと恐ろしいわ。それを殺して回る私はもっと恐ろしいのかもしれないけれど」

 

……こんなに話す刀子さんは久しぶりだ。なんて場違いな考えが思い浮かぶけれど、私の体は聞き入っていた。

ずっと生きてきた人外の言葉を。

 

「でもね、何度でも言うわ。アナタは違う、アナタは必ずなれる、自分が望んだ人になれる。

途中、死にたくなることもあるでしょう。壊したくなることもあるでしょう。

でもいいの、それは人として当然のこと。そう思ってしまうのは人ならば絶対ある。

アナタは他の人とは少し違うけど、その当然を当然として受けいられないのかもしれないけど。

でもきっと最後はこう言うわ

『やってられないわね』

そう言ってお茶を飲むわ」

 

まるで、私のことを知っているような口振りだった。

私のことを、理解しているような言葉だった。

私のことを……。

 

「どうして、そんなことが言えるの……」

 

「……さてね。でも私は、それがわかってるからアナタとこうして話し合う。永琳とだってこうはならないわ」

 

「……」

 

「まずは生きなさい、霊夢。そうすれば、わかるわ」

 

生きてきた人の言葉。

それは思った以上に重く、強く。そして何より、私が求めてた答えだったのかもしれない。

……結局は私も子供で、大人から諭されたみたいな構図になったわけだ。

でも私は知っていた、そんなこと言う刀子さんが一番子供みたいな人だと。大人はやっぱりズルい。

 

「じゃ、ご飯にしましょうか」

 

まぁ、そのズルさすら武器にするのが刀子さんなのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はあの人いないんだな」

 

「どの人よ」

 

「あのおっかない人」

 

「……刀子さんならここ最近来てないわよ」

 

私の隣に座る白黒の魔法使い━━魔理沙。

私と語り合える数少ない存在だが…その話題は少しタイムリー過ぎたかもしれない。…まぁ、その理由を話すのは少し後になるかもだが。

 

「刀子さんは仕事」

 

「へぇ、仕事ねぇ」

 

やけに煮え食わない魔理沙の態度。

お茶だけ減っていく。

 

「言いたいことあるなら言いなさい」

 

そういう態度は残念ながら私のお気に召すところではない。

むしろ、イライラする。

……こういう所が喧嘩早いと言われる由縁なのは、流石の私も気づいていた。まぁ人間、性格なんてわりと変わらないものだ。意識しなければ。

……そんなことに気付けたのも一重に刀子さんという存在が居たからなんだろうが。だからこそ、刀子さんの話題でこんな態度を取る魔理沙に少し過剰に反応してしまったのかもしれなかった。

 

「いやなに、最近妙な噂話を耳にしてな?」

 

「噂話?怪談でも流行ってるの?」

 

「何故噂話と聞いて真っ先に出るのが怪談なのかは小一時間程問い詰めたいところだが、違うぜ」

 

「……」

 

「いやわかってるだろ?今の話の流れ的に」

 

「…刀子さんの噂話なんて古今東西どこでも聞くわ。英雄譚から悪事まで、そりゃまぁ色々と」

 

「……まぁ直接関係あるかはわかんないんだがな。妖怪の斬殺死体が無数に発見されたと、それを聞いて思い浮かんだのがあの人だったんだが……その様子だとしょっちゅうのことらしいな…」

 

その通りだった。

刀子さんは人から頼まれたり、自分の快楽の為に頻繁に生き物を殺してる。……八割方自分の快楽だが。

だからこそ、そんな噂話は「またあの人か」で終わってしまうものだった。…強いて言うなら確かに最近はそんな噂話は聞かなかったな、とは思う。刀子さんがいる以上、どこかで聞いてもおかしくはなかったと思うが、ここ半年は確かに聞かなかった。

言うなれば、久々、ということか。

 

「…あぁ、確かにわりと頻繁に聞いてたなぁ……単に休憩期間とかだったんだろうか……」

 

ぶつぶつ煩い魔法使いは無視して、私はお茶を一口。

 

━━━━━━

 

…勘だが、とても嫌な予感がした。

さっきまでは微塵も仕事していなかった私の第六感が、一瞬警報を鳴らした。そして、その警報が意味することは、今までの経験でよく知っていた。

 

『異変』

 

幻想郷で度々起こる災害。小さいことから、幻想郷その物を壊しかねない大きいことまで様々あるが……今回のそれはその何処にも属さない「嫌な予感」だった。

言ってしまえば、よくわからない。わからない。

 

「……」

 

…ちなみにだが、勘で異変を察知するなんて普通はバカげてるとは私も思う。だが、博麗の巫女は人間の代表として、そういうことがあらかじめわかるようになっているのか、それに関しては私はわからないけれど、こと異変に関しては凄まじい予知能力を発揮するようになっている。

紫ならなにか知っているのかもしれないが、聞く気もないし興味もない。

少し、話が逸れた。

 

「……」

 

「…おーい、霊夢?」

 

……刀子さんの話題の中で起きた予感ならば、ほぼ間違いなく刀子さんはその異変に関わっているのだろうと予想がつく。便利な第六感なのだ。

…さぁ、さっき言ったタイムリーの意味。そろそろ明かすとしよう。

 

「…刀子さんは最近仕事で来ない。でも、私は刀子さんが何をしているか知ってるの」

 

「ん?そうなのか?でもお前さっきの噂話の件、全く知らなかったじゃないか」

 

「刀子さんの殺しは日常茶飯事。私は『噂話』を聞かなかっただけよ」

 

「…んー?……まぁいいや、それじゃあこの不祥霧雨魔理沙に教えてくれよ、刀子さんが今なにをしてるか」

 

野次馬根性全開の魔法使いである。

……まぁここまで言って言わないのもそれはそれでどうだろうとは思うけど。

 

「刀子さんは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩く。

 

━━━あぁ、どこまで来ただろうか。これは何回目だろうか。

 

「終わりね」

 

「ま、待ってくれ…!命だけは…」

 

「その命はさっき終わったわ」

 

「ぇ━━━」

 

走る。

 

━━━何度終わらせたか。何度終わらせられたか。

 

「つまらないものね」

 

━━━見上げた。

 

「…あら、今日は月が綺麗ね」

 

殺す。

 

「……今回は」

 

その次になにを言おうとしたのか、自分でもわからない。

 

「……ま、いいか」

 

意識なんて、とっくの昔にこんなのよ。

 

「私は刀子、ただの刀子。━━━でも、本当にそう?」

 

自問自答なんて、何度もやってきただろう?私は私、刀子は刀子。

 

「終わりのない殺しをずっと続ける愚か者」

 

それが私、私は刀子、ただの刀子。

 

「はて、私は一体なにを殺そうとしていたのやら」

 

何度繰り返したってわかんない。

いつからかは知らない、誰もわからない。

私だってわかんない。

 

「とりあえず殺そう」

 

だって私は刀子。最後はやっぱり、殺しに限る。

 

「……んー」

 

えーでは…

 

「なに考えてたっけ」

 

全部忘れた。まぁいいや。


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