続きです。
ドヤ顔で転移してきた私は、騎士に剣で殴られました。
…少しこの騎士さんの性癖暴露しただけなのですが。ひどいです。
当人は周囲バレしてないと思ってたらしいのですが、皆さん知ってて内心ドン引きらしかったですよ?
あぁ、楽しい。人の心を暴きたてるのがこんなに楽しく感じるなんて、私はやっぱり「さとり」なんですね…
ちなみに剣の一撃ですが、私にはかすり傷ひとつ付けられませんでした。無事防御スキルが働きました。これが私の奥の手のひとつ、種族スキル《魔力転換》。
このスキルは、使用者の最大HPと最大MPを入れ換える、というものです。使用時には敵の攻撃をMP分受け止め、体力を消費して魔法を使うことになります。私の場合はこの膨大なMPがそのまま見えない鎧になりますね。
デメリットとして使用中はあらゆる回復効果を受け付けなくなるのと、スキル解除後に若干のクールタイムが発生する位です。まぁ回復無効には抜け穴が有るんですけどね。
今も騎士さんの剣は私の数センチ前で止まっており、しばらくすると《中位武器破壊》のスキルが働いて粉々になってしまいました。
あー… 武器も中級以下っぽいですねこれ。がっかりです。
さらに、化け物呼ばわりされてムッとした私は、思わず腕輪の魔弾で男を攻撃。頭を風船の様に吹き飛ばしてしまいました。
よ、弱っ。
今の最低出力の魔弾ですよ…
ユグドラシル時代なら数撃っても弾幕にしても牽制にしかならない代物です。
こんなにあっさり死んでしまうのなら、もう少し精神的になぶっておけば良かったでしょうか。
…初めて人を殺したのに、私が思ったのはその程度の感想です。痛むような良心など端からありませんでした。
むしろ直前まで私に向けられていた恐怖が想像以上に美味しかった事の方に驚きです。
ふぅ、なんだかとてもスッキリしました。感情を食べるといっても、要は心を読む要領と同じでした。私に向けられている感情がそのまま私を満たすのです。
実はさっきの騎士さんと怯える姉妹達に恐怖を向けられた事で、私のナニカはそこそこ満たされたようでした。もう私の心を掻き乱すこともなくなりましたし。
ここに来るまでのささくれ立ったローテンションが、なんとかニュートラルになったのが自分でも分かります。
しかし、これほど私の感情が浮き沈みするのは、私の中で「実世界の人間の私」と「ユグドラシルキャラの私」と「覚妖怪の私」で混在しているから、なのでしょうか…?
誰か私の心を読んで教えてくれませんかね。…無理でしょうね、これは私の無意識的な問題みたいですから。
…そうだとすると、もしかすると私の中の「覚妖怪の私」はお腹がすいてて機嫌が悪かったんでしょうか?食べたらご機嫌とか、どこのはらぺこキャラですか。
うーん… これからは普通の食事に加えて、感情の調達も考えないといけないんですかね。
まぁ今考えても仕方ないですし、残りも戴いてしまいましょう。
こっちの姉 ───エンリさんという名前ですか、はメインディッシュに取っておいて、先にこっちの騎士さん───サイなんとかさん行ってみましょう。彼のトラウマを覗き込んで、それっぽい効果の魔法で調理開始。《溺死》だと悲鳴も聴こえないから楽ですね。
……ごちそうさま。
食べてから言うのもアレですが、騎士達の恐怖はもう十分ですね。
最初の一口は空腹故の美味しさだったようで、食べ続けてると正直どんどん飽きてきて…
エンリさん姉妹の怯えも甘くて良いんですが、どうやら私は少食みたいで、これ以上は入りません。
お燐の作ってくれたご飯の方が断然美味しいですね。まぁ食べた物が入っていく先は色んな意味で「別腹」な感じがしますが。食べすぎて太らないといいなぁ。
…もう早く帰ってお燐達とお茶にしたいですね。
ともあれ食べ残しはいけませんし、残りはさっさと処分しておきましょう。騎士は適当に処理して、この姉妹は…
「────何を遊んでいる」
次の瞬間、私は転移してきた骸骨に怒られた。
『さとりさんっ!!勝手に飛び出すなんて何考えてんですか!軽率な行動は止めようとあれほど言ったじゃないですかっ!貴方が一番に破ってどうするんです!?』
『う…えっと、ごめんなさい?』
『なんで疑問系なんですか!まったく!ただでさえ貴方は種族上脆いんですからね…HPが直接命に繋がってる世界なんですよ、もう少し』
「ひ、ひぃぃぃいいいい」
怒気に煽られて最後の騎士さんの理性が限界を迎えたようです。叫びながら這って逃げようとしてますね。
「目障りだな。《心臓掌握》」
あっさり倒れて動かなくなる騎士 …名前何でしたっけ?──さん。
ひどいなぁ。言い掛りと八つ当たりですよアレ。
『…あれ。今ので終わりですか?抵抗も無しに一発即死?』
『そうですよ、モモンガさん。どうやらあの人たち、こちらでは計り知れないLvの低さです。私の防御スキルも抜けませんでしたし、受け止めた時に彼等の剣折れてしまいました』
『さとりさんの武器破壊が働いた? …つまり中級以下ですか。《心臓掌握》も無抵抗でしたし、本当に …ふむ、武具は持ち帰って鑑定してみますか』
…よし、話題が逸らせましたよ。
『説教の続きは帰ってからにします』
『───!』
くっ… しつこい骸骨ですね。
『…どうやら何時もの調子に戻れたみたいですね、さとりさん。怪我もないようですし、安心しましたよ』
『…えぇ、ご心配おかけしました。…本当にごめんなさい』
今更ながら自分の軽卒さを思い出して反省です。そしてモモンガさんがちゃんと追ってきてくれた事に気付き、思わず笑みが零れそうになるのを堪えました。
『…いえ、さとりさんの気持ちも分からずに、ましてやたっちさんの言葉を忘れてしまっていた俺が一番悪いんです。すみませんでした』
えっ…? 私の気持ち…? まさかはらぺこで飛び出したのがバレてる…?
『でも良かったですね。何とかあの姉妹、助けられたじゃないですか。まだ怪我してるみたいだし、ちょっと俺がみてきますよ』
そう言ってエンリ姉妹の方に歩いていくモモンガさん。
あー… なるほどー。ですよねー。
そう思いますよねー。
私が人間の姉妹を憐れんで助けに向かった、と。
確かに妹を庇う姉、という姿には思うところはあるんですが…それは今言うことじゃないですし。
…とりあえず今のところは私は人間に好意的、としておきましょうか。
「怪我をしているな。 …あった。さあこれを飲め」
いかにも怪しい骸骨がエンリさんに怪しい薬を差し出してますね。アレは下級治癒薬ですか。あの人、自分が飲んだらダメージ受ける薬を何で持ってるんでしょう?
傍目からは悪の幹部が投薬を強制しようとしてるようにしか見えませんけど。
しかも飲めないなら傷口にぶっかけようとか考えてますね!最低です。
「待って、下さい! …飲みます、飲みますから、妹だけは…!」
うぷ。もう十分なのに、エモット姉妹から濃厚な恐怖の追加が… ってなんで私にも怯えを向けるんですか!
あんな姿で迫れば怖がって当然ですし…私はその隣で笑ってますからね。ほら、彼女実験台にされると思ってますよ。
…いい加減モモンガさんを止めましょうか。そうしないとエンリさんが色々限界みたいです。
んー、でも、モモンガさんをなんと呼びかけましょうか… 迂闊にモモンガさんの名前を外で出すのも避けたいです。
軽卒だと怒られたばかりなので慎重に行きたいのですが。
…
そうですね…ここはアルベドさんに倣って…
「…そこまでで許してあげて下さい、
あっモモンガさん感情抑制されてます。
『…ふぅ。いきなりなにを言い出すんですかアンタ! …大体、娘だなんて、さとりさん確か俺とひとつふたつしか歳かわらな』
『…ふぅん?』
『なんでもないです』
『それでいいです。 …モモンガさんを外でなんと呼んだらいいか分からなかったんですよ。それに警戒しろ、と言ったのはモモンガさんの方です。…そんなに驚きました?今日アルベドさんが、私が娘だどうのと考えてたのを読ませてもらいましたよ。大元は貴方の発案らしいじゃないですか』
『アルベド… うーん、その話はまた後にしましょう。…とりあえず俺は…この名を使おうと思います。ユグドラシル関係者なら殆ど知ってるでしょうし、心当たりのある人なら必ず接触を図るはずですから』
『…いいんですか? いえ、反対する人は誰もいないと思いますけど…』
やっぱりギルドメンバーを、まだ諦めきれないのでしょうか。いい兆候、でしょうかね…?
『反対するなら堂々と言いに来てもらいますよ、そしてその場で返還します。とにかく…』
彼はきっと、自分が行く道を決めたのでしょう。あの名前を継ぐのだから、彼はきっと進み続けるはずです。
ならば私も決めましょう。
私は彼を見守ります。彼が変わってしまわないように、あらゆる手段を尽くしましょう。例え私が異形の化け物になっても。
「私の名はアインズ。アインズ・ウール・ゴウンと言う。親しみを込めてアインズさん、と呼んで欲しい」
呪いのような親しみを込めて。
次回からは少し話の展開スピードを上げていきます。
ご意見、ご感想お待ちしております。
※言い訳
少し時間を戻しすぎて内容が被ってしまい増長感が強いですね。
以後気をつけます。