覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside
※長くなったので分割しました。


第7話 (前編)

少し時間を戻して話しましょう。

 

私は約束した時間丁度にナザリック入り口に《転移門》の魔法でやってきました。

 

(はぁ… 憂鬱です)

誰がどこで聞いてるのか分からないので、心の中で何度目か分からない溜め息をつきます。

 

 

今は迎えが来るのを待ちましょう。

ここから先は一人で勝手に入っていくわけにはいきません。私は部外者なんです。案内無しでは私なんて即恐怖公の餌送りでしょう。おお怖い。

 

 

これでもしも、入り口開幕からアルベドさん遭遇スタートだったりしたら、私の胃には穴が開きそうです。

…胃痛は低級治療薬で治るのでしょうか?試す事にならないといいですね私。

 

 

…おや、迎えが来たようです。

 

「ようこそ、ナザリックに!古明地様。主人…コホン、至高の御方がお待ちになられております。ご案内致します」

 

誰ですか貴方。

 

迎えに来てくれたのはアルベドさんと戦闘メイドの2名でした。

アルベドさんは満面の笑みを、戦闘メイド ───プレアデスのユリさんとルプスレギナさんと言う名前でした

─── には神妙な様子で歓迎されて。

どういうことなの…?

 

凄まじい手のひら返しに混乱したまま、私はモモンガさんの自室前に案内されました。

途中アルベドさんの心を見せて貰いましたが、これがまた頭が痛いです…

楽しい家族計画だとか愛の正妻候補だとか言った不穏な単語が混じっていましたが大体の概要は見えてきました。どうやらモモンガさんが手を回してくれたみたいですね。これはありがたい。しかしナザリック入りは慎重に考えたい問題です…

 

それにこのNPC達の反応も問題です。

私に対する嫌悪感が薄れているのは助かりますが、これがまた何を切っ掛けに殺意に変わるか分からないから恐怖は倍増です。例えるなら不発弾が軽快にこっちにむかって転がってくるようなもの。

彼等NPCについては、私は私で独自に考察していく必要があります。何故ならモモンガさんは身内には結構甘い評価をするタイプですからね。

 

結局、頭痛の種は一向に減りません。

というより私はこっちに来てから順調にトラウマを増やしてるような気がしますが気のせいでしょうか?

…他人のトラウマを弄くるのがさとりの特技だったはずですが、どこかで仕様変更でもあったのでしょうか?

 

あぁ、早くモモンガさんと他愛ない話でもしたいです。彼もきっと慣れない支配者ロールで疲れているでしょうから、お互い良い気晴らしになるでしょう。

…そういえばあの骸骨、疲労無効でしたね。ずるいですね。

あぁ妬ましい。

─────────────────

扉の前でセバスさんに対応して貰い、中を進みます。

 

アルベドさん達はまだ仕事があると戻って行きました。仕事、と言いつつ内容は妄想メインの様でしたが。それでも業務自体は完璧なんでしょうね、さすがアルベドさん。他のメイドさん二人とはあまり話せませんでした。でも褐色肌の人狼メイド、ルプーさんはなんとなく話が合いそうなので今度また個人的にお話したい所。楽しいですよね、上げて落とすの。同じ赤髪の三つ編み繋がりでお燐も紹介したいです。もう一人のユリさんという方は真面目そうでしたが心の中は色々楽しいですね。それに…あの兇悪な胸は…。あー妬ましい。なんだか残り4人のプレアデス達にも興味が湧いてきました。

 

広い個室の奥では、大きな鏡の前でモモンガさんが何故か不思議な踊りを踊っています。

見てるとなんだかMPが減りそうだったので、邪魔を覚悟で話しかけます。

その支配者ロールかっこいいですね。

 

そうそう、私は胸元の目玉を閉じておきました。こうしている間は読心スキルが停止する、と説明する為です。

 

…実際はそんなことで読心スキルは止まりません。ちょっとノイズがかかる程度です。

 

これは、私が嫌われ者にならないための保険。原作の古明地さとりは人間にも妖怪にも、怨霊にすら嫌われていました。当人も遠慮なく相手の心を抉っていた結果でしょうが、私はあそこまで周囲に嫌われて正気を保てる自信はありません。少なくとも今の私には。なので、勝手に心を読みませんアピールを私はしていくことを決めたんです。

 

これでモモンガさんに好かれなくても構わない、ただ嫌わないでいて欲しい。その為に必要なら私はなんでもしよう。

嘘と真実、本音と建前を織り混ぜ説明し、結果モモンガさんから信頼を勝ち得る私の心は、子供の様に我が儘で支離滅裂なのでした。

 

…あー、一応断っておきますが、私にモモンガさんへの恋愛感情はありませんよ?

私はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あの姿が好きなんです。

 

私、自分勝手な自己犠牲とか典型的な悲劇のストーリーって大嫌いなんです。

その点、彼は最高ですね。自分が犠牲になって、はいさようなら後は任せた、なんて事は絶対に考えない人ですから。

そんな彼は私の理想、これからも彼にはそのままでいて欲しいと思っています。

 

「…あっ、モモンガ様。いま映像が変わりましたよ」

「おっ」

 

その為に私は彼を見守ろう。

 

「よし、これで目的地を探しやすくなったな。早速報告にあった村を見てみるか。さとりも見てみるか?」

「はい、お隣失礼します」

 

彼の隣で。

 

 

─────────────────

鏡に映し出された例の村は血祭り騒ぎでした。

 

ふーむ… 昔の私なら卒倒してた光景でしょうけど、今となっては特にどうということもない… むしろこの場で彼等の絶望の心を直に視てみたいけど、グロいのはちょっとなぁ、くらいしか興味を持てませんでした。

 

覚悟はしてましたが、どうやら私も心身共に立派な異形種になれたようです。

特に名残惜しむ事もありませんがね。

というかどうせ異形種になったのならメンタル面も強くして欲しかったです。

 

「チッ」

 

舌打ちが聴こえたので画面から目を離すと、モモンガさんは不機嫌そうに画面を睨んでいます。まぁそうでしょうね。彼は見過ごせないでしょうから。

 

彼には「困っている人を助けるのは当然」という縛りを受けています。

以前モモンガさんがたっち・みーさんに助けられた時にかけられた言葉です。

彼にとって大切にしている思い出にひとつらしいですからね。

 

しかし何気なく覗いたモモンガさんの心を見て私は愕然とする。

 

彼は、助けに行く気が、無い。

人間への憐愍など欠片も無いことは分かっていた事だが、あれほど強く彼の心に刻んでいたはずの言葉までもすっぽり無くなっていたのです。

…えっ。なんで。いつそんな心変りをしたんですか?

…異形種に、アンデッドになったから?

どうしても問いかけざるを得ません。

 

「…助けに、いかないのですか?」

「…行かない。見捨てる。助ける理由が無いからな」

「…そうですか」

 

私はモモンガさんから視線を逸らしました。

…彼の想いは不変ではなかった。

このまま彼の心はどんどん異形に変わって行き、最後はギルドメンバーもナザリックも私の事も、自分の利用価値でしか判断しない本物の化け物になってしまうのでしょうか…

 

むう。それだけは何とか阻止しないと。

何でもする、と決めたんですから。

暢気に静観していた過去の自分が、今は苛立たしいです。

 

 

…心ここにあらずと画面を見ていた私ですが、画面隅の方で我先に逃げている一組の父娘を見つけました。

 

あらあら、これは…

今、父親が自分を犠牲にして二人を逃がしている。このまま行けば順当に姉が妹を庇い死に、妹は…例え生き残っても地獄でしょうに。

 

…あぁ苛つきます。安直な悲劇はあれほど嫌いだと言ったのに。庇われて生き残って放り出される身にもなって欲しいのに。

 

私の中で不快感が渦を巻きます。

調子に乗っているあの騎士もどきが気に入らない。何よりも、もうすぐ犬死にするであろうあの姉の運命が気に入らない!

私はあいつらを…

 

「モモンガさん、私、行きます」

 

《転移門》を無詠唱で発動、即飛び込みます。モモンガさんが何か言っていましたが知ったことじゃありません。

 

早く行かなくては。

私の中の()()()が私を急き立てる。

それは知らず知らずに私の中を書き換える。誰もが忌み嫌う妖怪に。

 

早く彼等を ………しないと。

早く、あの場にいる全員の()()()()()()()()()

 

急がないと()()()を食べそびれてしまいます。

 

あぁ… おなかがすきました。

 

─────────────────

to be continued...




ご意見、ご感想お待ちしております。
少し忙しくなってきたので直ぐには返事出来ないかもしれませんが…

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