覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside


第4話

お燐と合流した後、部屋で装備のチェックをしていると、元気の良い少女が勢いよく飛び込んできました。

 

「わーーい、さとり様ー!急にどこにいってたんですかー?」

「ただいま、お空。いい子にしてたかしら?」

「勿論です!地下の掃除を頑張ってました!うにゅー!」

 

この子の名前は霊烏路空。私は、おくうと呼んでいますが。モチーフである原作の彼女に極力似せて作成した私の自信作です。

伸び放題の黒髪に緑のリボン、大きな黒い羽が特徴的な、控え目に見ても美少女。そんな子がえっへんと胸を張ってる様子はなんとも和みます。頭撫でてあげましょう。

 

「えへへー」

 

…私より背の高いお空の頭を撫でるのは少々つらいですが。おまけに標準以上の…その…大きな胸が目の前に…

悔しくないです。ええ。

 

こんな天然系美少女なお空ですが、その実体はLv100超火力偏重スキル構成のガンナーです。

この構成に当たっては、沢山の方にお世話になっています。

種族鳥人間ですが、色々弄って羽以外は人間種という外見にしました。あのお空がカラス頭じゃ悲しいでしょう?

 

装備は、以前のverUPで追加された特大ハンドキャノン。ファンタジー要素などどこかに吹き飛ばした追加装備でしたが私は結構気に入ってますよ? やはり弾幕はパワーです。これを火力バフ過剰搭載で広範囲にぶっ放すのが彼女の戦闘スタイル。

 

お空は傭兵NPC扱いなのでよく稼ぎにも連れ出していました。高い火力を持たない私にとって彼女は戦闘の要でしたから。

今後もお世話になるでしょうし仲良くしておくべきでしょう。少なくとも彼女の心に私への嫌悪感は欠片もありませんでした。

 

「これからもよろしくお願いしますね、お空」

「はーい!頑張りまーす!」

 

 

ふぁぁ…

いけません。安心したのか気が緩んで欠伸がでました。

疲れてても無理ないのですが、私ちゃんと疲労・睡眠無効の指輪着けてるんですがね。

 

「二人とも留守番ありがとうございました。…色々と話もありますが、もう夜遅いですし今日はここまでにしましょう。私も少々疲れましたので…」

 

「あっ!あたいとしたことが、すみませんさとり様!すぐ寝室の用意してきますね」

 

「助かるわ、お燐。私は少しこっちを整理してから向かうわね。貴方達も今日のところは休みなさい」

 

「えー。わたしまだお話したいです!いま外はどんな感じなんですか!?敵は!?焼き払いましょうか!?」

 

「こらお空!さとり様はお疲れって仰ってたでしょ!また明日にお願いしなさいな」

 

「…はーい。じゃさとり様、また明日。お休みなさーい!」

 

「では、失礼します。さとり様」

 

 

はい、おやすみなさい。

手を振って退出する二人を見守る私。

 

…やはりうちのNPCもしっかりとした自我を確立している様です。それも私が思い描いた原作の彼女達の如く…

 

しかし、騒々しかったですけど不思議と嫌ではありませんでした。むしろ落ち着きました。

 

いけません。

心を入れ換えましょう。色々と思うことはありますが、今の私にはまだそれを受け入れる余裕が無いのです。

 

 

さて改めて、寝る前に自分の装備の確認を済ませておきましょうか。不測の事態には即対応出来るようにしておかないと。

 

まずは指輪。

これは出掛ける前から着けていたものですね。

疲労無効等、状態異常無効化の指輪を4つ。残りの指にはMPブーストやMP高速回復の指輪を揃えています。高いんですよ?これ。

 

次は服を取りだします。

今着ているものと同じデザインをシンプルにした見た目ですが、詰め込んであるデータは桁違いのもの。等級は伝説級でしょうか。

 

全身神器級?どこの廃人ですかそれは。神器級は最高クラスの装備です。そんなものを私にいくつも揃える力量はありません。私は所詮三流プレイヤーだったんです。詰め込んである魔法効果の大半は簡単なMP増加ですし。

 

心配せずとも防御に関しては私の場合ほぼスキル頼りです。ただ、こちらの世界でも有効かどうかは要検証ですね。

 

 

次に取り出したのは腕輪。

これも飾り気の無いデザインですがこれは防具ではなく武器、私物の中で唯一の神器級装備です。

 

これが私の命綱。

大切な頂き物。

名前は、特にありません。

…最初、作ってくれた方々は短杖ベースに「マジカル★さとりん棒」と命名、外見も白い羽根飾りのついた蛍光ピンクのステッキというお目出度いデザインでした。制作者曰く「専用の衣装もあるので安心して欲しい」とのことでしたが、私がぶくぶく茶釜さんに泣きついたので計画主導者は制裁、無難な腕輪形になりました。

なので無銘の腕輪です。

 

この腕輪、攻撃力は皆無ですが込められたスキルは《消費したMP分を魔弾に変換して放つ》というもの。威力や範囲は消費量に比例し、全力で込めればそこら一帯を焦土に変える大玉になりますし、最小の弾をマシンガンの様に放って弾幕を張ることも可能です。欠点はMP効率の悪さですかね。

私には無駄に膨大なMPがあるのであまり気になりませんが。

 

ちなみに似た性能の装備は他の東方系アバターの方達にも弾幕装備として愛用されていたみたいです。

 

 

そして何より大切な装備がこれ、この本、文庫本サイズに付箋が着ついたある意味私には必須装備。

 

その名も「完全魔法マニュアル ~初心者用」

 

…早い話がカンペです。私が覚えている魔法を分類別に分けて、よく使うのには付箋をしてあります。元の世界ではマクロ化した補助アプリみたいな物でしたが、こちらでは完全な辞書ですね…

 

私が使える魔法は全部で300近く。そんなの全部覚えているはずもなく、こうして手元で確認しないと必要な時に必要な魔法が出てこないという事態が…

 

大体この世界、魔法多すぎるんですよ。なのに上位者はアドリブで色んな魔法を繋げてくるから困ります。700使えて全部暗記してるとかどんな変態ですか。

今後はこの本をチラミしつつ行動していきましょう…

 

 

とにかく、これで準備万端です。

本当は地下もチェックしたかったのですが、本来ないはずの疲労(気疲れですかね?)があるのか、何をするのも億劫です。

…気のせいか指輪にまで重さを感じてきました。考えてみれば生身で指輪5個は付けすぎですね。

もう寝る予定ですし睡眠無効くらい外しておき ……

 

!?

 

…外した瞬間、凄まじい眠気と疲労感に襲われ、抵抗すらできず私の意識は暗転しました…

 

 

 

「……様、起きてください。もう朝ですよ、さとり様ー!」

 

…ハッ!?

朝?

 

「あ、おはようございます、さとり様。昨日は本当にお疲れだったんですね!あたいが呼びに行ったら部屋の真ん中で寝ちゃってましたよ」

 

そして寝室まで運ばれた、と。

それは、面倒をかけてしまいました…

 

「起きてたペット達にも手伝って貰いました。あとであの子達に会ってやって下さいね、皆喜びますよ!」

 

と、言うとお燐は朝食の準備に寝室を出ていきました。

私、一応飲食不要なんですが、別に食べられないわけじゃなさそうです。後でしっかり頂きましょう。

 

しかし、なるほど。

どうやらあの昏倒は疲労・睡眠無効の指輪を外した反動が原因みたいですね…

 

…こわっ!反動怖!どんだけ疲れてたんですか私。

調子にのって溜め込んだ後うっかり解放したら疲労でショック死しかねませんよこれ。

 

…この分だと元の世界とこちらのギャップはまだまだありそうですね。貧弱な私には何が命取りになるか分かったもんじゃないです。

早めにチェックを済ませてモモンガさんと合流しましょう。

うーん、でも今のナザリックに戻るのも若干怖いというか…

悩みは尽きませんねぇ。

 

 

お燐の作った朝食(美味しかった!)を済ませた後、お燐お空の二人を伴ってペット達の様子を見に行くことにします。

 

うちのギルドには結構な数のペットが配置されています。犬や猫、兎辺りから、珍しいのはパンダ、ゴリラ、ハシビロコウ等、正直把握は出来てません。

どれも現代では図鑑や過去の記録媒体でしか見れない動物ですが、これらは皆ユグドラシルの課金ガチャで出てくるペット用モンスターです。

 

アインズ・ウール・ゴウン在籍時代、レアドラゴンのペットを当てようとメンバー皆でガチャを回しまくった結果、置場所に困るほとペット達が敷地内に溢れかえりました。

 

特に戦闘には向かない種類のペットなどはテイマー職を持たない方にとってかなりもて余してたようです。かといって棄てるのも躊躇われたようでした。

一応あの子達もレアなんです。

 

その時、ちょうど私が新ギルドを立ち上げるタイミングでしたし、私がテイマー職持ちだったのもあるのでしょう。これ幸いと皆でペット達を押し付けてきました。ご丁寧に飲食不要の装備付で。

 

ちょっとした動物園の出来上りです。

ま、いいんですけどね。

 

その後も皆さんお忍びでよく見に来てましたね。モモンガさんも時々きては自分の当てたハシビロコウのハシビロさんに会いに来ていました。何故か頭を齧られてましたけど。実はウルベルトさんのお気に入りは意外にも…

まぁいいでしょう、これは秘密に、とのことでしたから。

ふふふ。

 

 

昔を思い出して歩いているとすぐに目的地に辿り着きます。

彼らは庭や飼育スペースでいつも通りに過ごしてました。私に気付くとご主人好き好きオーラを飛ばしてくるので、こちらも読心スキル全開でかまってやりましたよ。

 

あぁ…癒されます。原作の古明地さとりも動物を飼っていましたが、今ならその理由もよく分かる気がします。

出来ればずっとこのままこうしていたいですねぇ…

 

 

しかし、そうもいきません。

私は、私のすべきことをやらないと。

 

 

頃合いを見て私はナザリック責任者のモモンガさんに《伝言》を送りました。

 

『モモンガさん、今宜しいですか?』

『あ、さとりさん。俺も今連絡しようとしてたとこです。死の騎士の報告は受けましたが、地霊殿の中は問題ありませんでしたか?』

 

心配性な骸骨さんですね。

 

『はい、お陰様で。NPC達もペット達も無事でした。モモンガさんのハシビロさんも元気ですよ?』

 

『あいつか… なんであいつ毎回俺を見かけると頭を噛んでくるんですか…』

 

『好かれてるんですよ、多分』

 

さて。

 

『…モモンガさん、また一度お話をしたいのですが。新たに得た情報と、あとは今後のことについて、です。』

 

『そうですね、俺もその事で話があります。良ければすぐこちらに戻って来て貰っていいですか?』

 

『勿論です。準備ができ次第そちらに飛びますね』

 

『着いたら連絡を。迎えを寄越します』

 

ではまた。と、会話を切る。

 

はぁ… やっぱりまたあの伏魔殿に行くのですか。憂鬱ですね。

 

しかし彼らを守れるカードを持つのは私。私を慕ってくれるこの子達のためにも、私はここを守らないと…

あぁでも、怖いのは、やっぱり嫌ですねぇ…

 

いまいち覚悟も決まらないまま、私は外出する旨を伝えるため二人を呼び出す事にしました…

 

 


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