覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside

状況を進めたい。


第3話

モモンガさんが見つけてくれた地霊殿らしき建物。それはここからそんなに離れていない森にあるとのことでした。

 

仮に《飛行》の魔法で飛んでいければ1時間も掛からず到着する距離なのですが、今私は慣れない徒歩で移動しています。

両の足で歩くこの感覚は、いつ以来でしょう…

 

いえ、私だって流石に《飛行》位は使えますよ?こう見えてもLv100ですし。

 

徒歩の理由は護衛役の死の騎士(デスナイト)さん達に合わせた結果です。

決して、私の高所恐怖症が原因ではないのです、えぇ。

 

私の左右を固めるのは、見上げる鎧姿に大盾と波打つ剣を持つ骸骨の騎士。ユグドラシルでは見慣れた存在でしたが、しかしこちらに転移した影響か妙に迫力を増してる気がします。

 

合計4体の騎士が、私を囲みながら力技で森を拓いて進みます。加えて先導に影の悪魔がいるのですが、そちらは私からでは見えません。

 

当然会話等も無し。というか話せないようですね。一応彼等にも心は有るみたいですが、ひどく希薄かつ単純なので見ても面白くありませんでした。

 

…目的の場所へはまだ距離がありそうですね。この傍目物騒な一行のハイキングはもうしばらく続きそうです。

 

 

ユグドラシル時代の地霊殿はナザリックから離れた地底深くに建っていて、お互いの移動は転移魔法で行き来してました。なのでこれは一気にお隣さんに引っ越した様なものでしょうか。

 

まぁ今のナザリックからは、何がいつどんな理由で攻め込んでくるか分からない現状ですから、絶望を感じこそすれとても喜べませんけどね。お蕎麦を持っていっても歓迎してくれないでしょう。

 

うふふ。

最悪です。

 

私はあのNPC達を、意思が芽生えた人形達を欠片も信用してはいません。

 

あの時のアルベドさんの殺気。

たとえ心を読めなくても容易に感じ取れる悪意、あんなものを直に浴びせられるのは生まれて初めての経験でした。

 

怖かった。

 

この世界で「死」はきっと元の世界よりずっと身近な物なのでしょう。

ここがゲームの延長ならばLv100の自分はそう簡単に殺されはしないとは思いますが、もともと他人の顔色を見て行動していた私にはとても耐えられませんでした。この世界で死んでしまえばどうなるか、興味はありますが試す気は毛頭ありません。

 

だから私は、地霊殿を探すというお題目でどこから敵意を向けられるか分からないナザリックから脱出する事を選んだのでした。

 

モモンガさんを置いて。

私は… 逃げた、のでしょう。

 

元々、自分の現実が嫌で嫌で… ユグドラシルというゲーム世界に逃げ込んだのに私なのに、そこでも上手くいかず、遂にあの世界からも逃げ切ったかもしれないというのに。

 

結局私は今も逃げている。

 

「…逃げた先に楽園は無い、でしたっけ。逃げる程嫌なんですから、せめてそっとしておいて欲しいです、私は」

 

つい独り言を呟いてしまいますが、残念ながら骸骨騎士さんたちは終止無言です。

同じ骸骨でも、あの不器用で優しい骸骨の友人なら何と答えてくれたでしょうか…

 

当初モモンガさん自身も一緒に付いてきてくれる予定でしたが、あの怖いアルベドともう一人、スーツを着て眼鏡をかけた悪魔のNPC …確かウルベルトさんが作られた領域守護者のデミウルゴスでしたか… にすがられて止められてしまいました。

 

まぁあれほど身の安全を懇願されたら誰だって躊躇しますけどね…《目》で見たところ、デミウルゴスは本心からの願いでしたし、アルベドは… まぁいいです。

怖かったなぁ…

 

あの骸骨はなんだかんだで上手くやって行くでしょう。彼にはそんな不思議な魅力があって、なんとかしてしまう確かな力を持ってますから。

…一方で面倒事も抱え込んだりしなければいいのですが。

 

 

これからは何にも対処できるよう読心スキルは常にオンにしておきましょう。せっかく手に入れた明確な力ですし、夢に見た「古明地さとり」に成れるチャンスですから有効活用したいです。

 

 

死の騎士さん達が拓いてくれる道をどれだけ進んだでしょうか。

考え事をしていた私には意外と早かったように感じましたが、結構な時間を歩いていた様で、すでに周囲は夜の闇に包まれています。

 

そんな中木々の向こうに黒い建物が…

 

おー… あれは確かに私の城、地霊殿。

…嬉しいのですが、これから私のNPC達に顔合わせしないといけないと思うとどうにも不安を感じてしまいます。

まさかあの子達に限って突然襲ってくるとは思えませんが…

 

開きっぱなしの錆びた門をくぐり玄関の前に立つと、振り返り死の騎士さん達に声をかけます。

 

「…これから中に入ります。いざと言う時は、よろしくお願いします」

 

暗に、突然襲われた時は盾になれ、という意味ですね。念のためです。

そして出来得る限りの強化魔法を自分にかけ終えると、意を決して扉を開けました。

 

 

音もなく開いた扉。

中は照明もなく真っ暗でした。

 

「…ただいま、帰りました」

 

返事は、ありません。

ここからはそんなに広くない為、死の騎士さんには一人だけ護衛してもらい残りは待機して貰うことにしました。彼等が並んで暴れたりしたら、私なんか潰されてしまいそうですから。

 

さて、奥に進んでみましょう。

おっかなびっくり声を出す私。

 

「…お燐?…お空?…誰かいないのですか?」

 

うちの地霊殿は、2階建ての洋館で地下には広い空間が2層広がっている作りでした。

上物が転移した影響で現在地下がどうなっているのか分かりませんが、地下は基本的に金策や実験に使う施設にしていたのでとりあえず後回しにしましょう。

 

何より今は、私の装備品を回収したいのです。前も言いましたが今の私はユグドラシル基準でいえば裸よりマシ程度の装備しかしていないのです。

種族的ペナルティで標準よりひ弱な私にとってこれはひどいストレスです。

 

…彼に呼びだされて浮かれて飛び出して行った、云わばツケですかね。

 

地霊殿の廊下は、ナザリックに比べれば全く地味な装飾です。

特に目に留めるものも無く、2階にある自室兼書斎を目指して中を進むと、やがて奥から何か聴こえてくる気がしました。

 

啜り泣くような音、嗚咽を堪える、我慢しきれずまた泣き出す声。

 

…怖!なんですかこれ!

いつの間にわが家はホラーハウスになったんですか…!

もしや原作の設定通りに、地霊殿も怨霊渦巻く呪いの館にバージョンアップしてくれたのでしょうか?

なんて迷惑なサービス… さとり初心者の私には難易度高すぎです!

 

 

完全にビビりながら、それでもこれからの事を考えると装備品は諦めきれず、私は死の騎士さんの後ろに隠れながらようやく自室前に辿りつきました。

 

「……ぁぅぅ…… シクシク…」

 

声の発生源、私の部屋からか!

なんということでしょう!私の部屋はのろわれてしまった!

 

「……シクシク ……りさまぁ ……グス」

 

ん…?

というかこの声は… もしや。

 

「…ねぇ、お燐? …ここにいるの?」

 

そっと扉を開ける…

暗い部屋の隅で、赤髪の少女が踞って泣いていました。

 

…やっぱり、お燐。

いつもの生意気そうな顔も今は崩れ、トレードマークの黒い猫耳もしんなり垂れてます。

その耳がピンとこちらを向きました。

 

…あ。私に気付きましたか。

 

「!? …さとり様? ほんとにさとり様ですか!? なんで急に居なくなっちゃうんですかぁぁ… あたいもう…!」

 

お燐は錯乱しながら叫んで飛び掛かってきましたが、護衛についてきていた死の騎士さんが素早く立ち塞がります。

 

「うわっ何だこいつ!さとり様から離れろこのアンデッド!」

 

激昂するお燐はそのまま死の騎士さんと戦闘を始めますが、防御に徹する死の騎士さんはLv以上の固さを誇るので中々崩せないでしょう。

 

しかしお燐はLv60の獣人種、いくら攻撃手段が少なくてもその内地力で押しきりそうです。

 

借り物のシモベに傷をつけてモモンガさんの機嫌を損ねたくないですし、今のうちお燐の心を覗かせて貰います…

激しく動き回るお燐を『目』で見ると。

 

…そうですか、どうやら私がこのアンデッドに捕まってるのと勘違いしているようです。他には寂しかったとか戻ってきてくれた等の感情が入り雑じってますね。

 

全く、単純なんですから…

でも私への害意は欠片も無いようです、正直ホッとしました。この子達まで疑うのは、流石の私も勘弁して欲しいんです。

ともあれ、お燐を止めましょう。

 

「お燐、やめなさい!この方は私をここまで連れてきてくれたのです。落ち着いて、私の話を聞いて下さい」

 

まぁ正確には彼は護衛役で、アンデッドに捕まってたのは半分正解ですが。

 

「えっ!わ、分かりましたさとり様!」

 

すぐに死の騎士から離れるお燐。今度は私の方から彼女に近付きます。

 

不安そうに私を見つめる彼女を、安心させるよう優しく抱きしめます。

 

「ただいま、お燐。心配かけてごめんなさいね。もう大丈夫よ」

 

…感極まってまた泣き出すお燐。彼女が落ち着くまで頭を撫でながら、私は自分の場所へ戻ってきたことを実感していました。

 

 

 

 

「お手数おかけしました、さとり様。もうあたいは大丈夫です」

 

立ち直ったお燐はスッキリした顔で今はこちらをニコニコと微笑んでいます。

 

死の騎士さん達には、先程任務完了を告げてナザリックに帰還して貰いました。…お燐と戦って傷ついていた子も自動回復があるので帰る途中に完治するでしょう。

 

「…そう。留守番を任せている間に想定外の事が起きたみたいですね。それでも貴方はよくやってくれました」

「そ、そうです!さとり様が出ていった後しばらくして… ちょっと外を見たら風景が違ってて…!それで」

 

どうやら異常に気付いた後、慌てて庭のペット達を中に避難させ、お空には地下の警備を任せ、それから各部屋のチェックに回った所で急に心細くなったらしくそのまま泣いていたそうです。

お燐は不安そうな顔を私に向けてきました。

 

「さとり様、今なにが起きてるんですか? ここはどこですか?あたい達はどうなっちゃうんですか?」

 

それは私が聞きたいです。

 

でもここで無闇に不安を煽っても仕方ないですし… ここはひとつあの偉ぶった骸骨を少し見習いましょう。

 

「お燐、これは異変です。でも恐れる必要はありません。すでに異変に対処する為に、とある偉大な方も動き出しているのです。私はその確認に行ってたのですよ」

 

真実5割嘘5割、といった所です。

どこぞの巫女でもあるまいし、進んで解決する気は無さそうですけどねあの骸骨。

 

「異変!? そ、そうだったんですか! …あっ! もしかして急に飛び出して行ったのはすでに異変の前兆を感じていた、とかですか!? 凄い… さすがさとり様ご慧眼です!その目に見通せないものは無いのですね!」

 

やだ、私の評価高すぎ。

 

混じりけ無しの羨望の感情に思わず怯みます。この流れだと私も異変解決に参加決定でしょうか?

それはご遠慮したい所です。

 

「と、とりあえず今は情報を集める事を優先したいですね。…お燐、こちらに」

「はい、さとり様」

 

手招きしてお燐を呼び寄せます。

改めて彼女を観察しましょう。

 

彼女は火焔猫燐。普段はお燐と呼んでいます。

原作に近い容姿で、赤毛を左右にみつあみで纏め黒い猫耳には黒いリボン、釣り上がった猫目の整った顔。服装は黒地に緑フリルがついたゴスロリ風ドレス。これでも一応伝説級の装備で揃えてます。

 

種族は猫化の獣人種(原作では火車だけどそんな種族はありません)

Lvは60ですが、彼女には殆ど火力スキルを覚えさせてないので同Lvでも余裕で負けてるでしょうね…

 

その代わり彼女は盗賊系や野伏等から逃走、回避、窃盗、 感知等のスキルを網羅しているのです。更に余った枠で、商人、錬金も習得しているので、普段は雑務もこなせる便利キャラとして重宝していました。

 

「お燐、貴方の力が必要です。また私の為に働いてくれますか?」

「勿論です!何を今更… あたい達は家族じゃないですか。あたいはさとり様の為なら命だって惜しくないです!」

 

うわ、マジですこの子。命をかけてとか… 本心からなのが私には分かるので余計引いてしまいます。

 

それでも、この子の真っ直ぐな好意は胸の奥が熱くなるほど嬉しいです。私からも本心で答えてあげたいです。

 

でも無理。

私はそんな上等な人間じゃないから。

だから、貴方にも嘘を言います。

 

「…ありがとうございます。お燐、貴方は最高の家族ね」

 

私に家族を得られる資格なんてこれっぽっちも無いのですから。

 

「さぁ、もう一人の家族を迎えに行きましょう」

「はい!さとり様!」

 

ごめんなさい。

私は、きっとまだ、にげているんです。




カルネ村が遠いです。

2/4 修正

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