覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside

9/27 あとがきを修正。


第20話

門をくぐった私達はそのまま露店商の並ぶ道を進みます。

 

異国の街並み。

行き交う人々。

 

感慨深く見渡したい所ですが、さまざまな匂いと人間達の思考が私を呑み込みました。

 

あまりの情報量に頭がくらりとしました、また酔いそうです。おまけに隣の駄犬はまだ笑っていますし…

 

「プフー ! 咄嗟でもあの偽名は無いっすよ。 サトリーヌ様は面白いっすね。メイド達に良い土産話ができたっす」

「話したら冗談抜きで記憶を全部別物に上書きしてあげますからね…」

 

おお、怖い怖い。と、おどけるルプスレギナさん。貴方、気軽に、とお願いしましたけどちょっと砕けすぎじゃないですかね?

 

「それで、サトリーヌ様?」

「…別の呼び方でお願いします」

「では、お嬢?」

「それでお願い」

 

「んー。お嬢、先ずはどちらに向かうっすかね? さっきの衛兵の話じゃ冒険者組合とか言われてたっすけど?」

「冒険者はあの御方にお任せするつもりですが、下準備くらいはしておきたいですね。それと資金と住む場所は確保したいですし…」

 

突然まともな話を振ってくるルプーさんに、露店を流し見しながら答える私。

あの果物とか気になるんですけど、生憎今持ってるのはエンリさんからサンプルで貰った銅貨3枚だけです。

 

「1から稼ぐっすか? 手っ取り早くそこら辺でカツアゲしてくるっすよ?」

「やめておきなさい、私達が来てすぐ事件が起きたら真っ先に疑われます。…一応元手はありますよ。ほら」

 

路地裏を血で染める気満々のルプーさんを宥めつつ、私は懐から砂金の詰まった袋を見せました。結構な重さがありますね。

 

と、何気なく会話している私達ですが。

 

「…お気付きですか、さとり様。後ろに一人っす。只の雑魚っすね」

 

私にしか聞こえない声で伝えてくるルプーさんは満面の笑顔です。勿論、私はつまらなそうな顔で頷き返します。

 

…実は街に入って暫くしてから、数人に尾行されていました。もしや早々にこちらの正体がバレたか?と思いましたが、心を読んでみると只の追い剥ぎ目的でした。緊張してがっかりです。

 

どうやら田舎から出てきた世間知らずの娘と思われているようですね。まぁ、あながち間違いでは無いのですが。

 

とりあえず、ご希望通り大通りを抜けて寂れた方に進みましょう。

相変わらず下手な尾行を続ける男にイラついたのか、ルプーさんの声のトーンが少し上がりました。

 

「どうします?ここらでやっちまいますか?」

「もう少し我慢なさい、人の目があります。もう少し進めば向こうから仕掛けてきますから。ふむ… この先の路地裏奥と向こうの木陰にお仲間が居るようです。あっちは人気も無い様ですし、潰してきていいですよ」

 

私が許可を出すと「了解っす!」と嬉しそうに脇道に入るルプーさん、それを手を振って見送る私。

すぐ視界から消えたところを見ると《完全不可視化》でも使いましたね。

…派手な行動は禁止しておいたのですが、お手並み拝見ですかね。

 

「………」

 

後ろの男は、私が一人になったのをチャンスと見たのか一気に距離を詰めようと走ってきますが。

 

「…《誤認識》」

「───?」

 

無詠唱で魔法を小声で発動。

この魔法は敵に自分が狙われた際、別のターゲットに標的を移す幻術魔法のひとつです。

 

「───!」

 

まともに魔法にかかった男は私を認識出来なくなり、そのまま私を通り過ぎると、私の前を歩いていたお婆さんの手荷物を奪い取りました。

 

「な、何をするんじゃ!?」

「うるせぇ!」

 

突き飛ばされ石畳に転がるお婆さん。

…さて、私も傍観している訳にもいきませんね。

 

「《茨の束縛》!」

 

私の手から棘の生えた蔓が勢いよく伸び、まず男の足を捕らえ、倒れた男の全身を茨が束縛しました。

 

「う、うおお!痛っ!なんだこりゃ!?痛ぇぇえ!」

 

痛みで敵を拘束する中級魔法です。流石に真っ昼間から即死させるわけにもいきませんからね、手加減しました。

 

「おお!助かったぞ。お主、魔法詠唱者か。見たこともない魔法じゃが… 見事な腕前じゃな」

 

荷物を奪い返せたお婆さんが嬉しそうに私に話しかけてきました。

 

「…いえ、それほどでもないです。それよりこの人を」

「あぁ、そうじゃな。…誰か!早く衛兵を!」

 

突然の出来事に騒然としていた周囲ですが、お婆さんの一喝に我に返ったのか、すぐ誰かが大通りの衛兵を連れてきました。魔法を解くと同時に男はお縄です。お疲れ様でした。

 

 

「全く、油断も隙もありゃしないよ。近頃はこの街も物騒になってきたもんじゃわい。改めて礼を言うぞ …お主、もしや旅の人かい?さっきの声は随分若いように聞こえたがのう」

 

私は深く被ったローブを少しずらし顔を見せると、お婆さんに改めて挨拶しました。

 

「ご無事で何よりでした。私はさきほどこの街に着いたばかりで右も左も分かりません。それでもお力になれて良かったです。 私の名は ── サトリーヌと申します」

「おお、これは、思ったより若いのう。だが腕前は確かじゃ。恩人に立話も申し訳無い。近くにわしの知り合いがおるし、そこで少し話さんかね?丁度そこに用もあるんじゃ」

「えぇ、大丈夫ですよ。 …えぇと」

 

名前を聞きたいとアピールする私。いえ、まぁ。分かるんですけどね。さっきから心覗かせてもらってますし。

 

「あぁ、これは申し訳無い。わしの名は、リィジー・バレアレ。これでもこの街ではそこそこの薬師なんじゃよ」

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

案内された先は、なんと冒険者組合の本部でした。結局、冒険者組合に来ることになってしまうのですね…

 

今私達はお婆さん、リィジーさんに連れられて組合長の執務室に向かいました。

 

ルプーさんはあの後すぐ合流しました、体からうっすらと血臭を漂わせながら。…困った子ですね、後で後始末の確認だけしておきましょうか。

 

 

組合長 ─── プルトン・アインザックさんは、リィジーさんの訪問だと聞くとすぐ部屋に通してくれました。全員が大きいテーブルの椅子に座るとリィジーさんが荷物の中から小瓶を取り出しました。

 

「待たせたかな、組合長殿。これが頼まれていた改良治癒薬じゃ。確認しておくれ」

「あぁ、わざわざすみません、直接お持ちいただけるより使いの者を寄越しましたのに。…聞けば何か危ない目にあったとか」

 

荷物は治癒薬だったようですね。割れてなくて良かったです。

 

「あぁ、全くじゃ。…大方、どこぞの薬師崩れか競合店が改良治癒薬の話を嗅ぎ付けてチンピラでも使って奪おうと企んだんじゃろうよ。フン!下らん連中じゃ」

 

あまり気にはしていないようです。強かなお婆さんですね。どうやら当人もそこそこの魔法は使える様ですし、私が手を出さなくても捕まえていたでしょうね。

 

「ところでリィジー殿、そちらの方は?」

「うむ、先ほどの一件で世話になった娘じゃ。年の割に見事な魔法の腕じゃったぞ。エ・ランテルに来て間もないと言うので連れて来たのじゃ」

「ほう、それはそれは…」

 

組合長はそこで私に不躾な視線を送ってきました。その目は実に歴戦の戦士といった感じです。

ルプーさんが静かに(なにガンつけてんすかねー?)と怒っていますが。

早く挨拶して話を進めましょう。

 

「はじめまして、プルトンさん。私の名は… サトリーヌ・メイジと申します。魔法は父代わりのお師匠から教わりました。…あちらの女性はお師匠につけられた護衛みたいなものです。お師匠については… すみません、修行の一環で家の名は出してはいけない決まりなものですから」

 

と、ルプーさんに視線を送ります。

 

「どもども。親しみを込めてルプーさんと呼んでほしいっす。お嬢の世話役とかしてるっすよ。雇い主についてはノーコメントな契約なんでヨロシクっす」

 

「あ、あぁ、分かった。ところでサトリーヌ殿達はどの辺りまでの位階を使えるのかね?魔法詠唱者の存在は本当に貴重でな」

 

私は別に冒険者になるつもりも無いんですが… どうにも人手不足なようですね。

 

「私もルプーさんも第3位階までは問題なく扱えます。ですがすみません、私は特に冒険者になるつもりもありません。私、戦いは苦手なんです」

 

私の答えに微妙そうな表情を浮かべる組合長さん。どうやら第3位階が使えるというのも信じられて無いようです。その位の魔法詠唱者は本当に貴重らしいですね、使えてせいぜい第1全般、良くて第2を幾つか辺りが妥当と思われているようです。深く突っ込まれないのはこちらの事情を勝手に汲んだのでしょうか。大人ですね。

 

元の世界では最低でも第8辺りでないと役に立たなかったものですが。

 

「組合長よ、あまり無理を言うでないぞ? わしはあくまで紹介程度のつもりで連れてきたんじゃからな」

「そうか… 苦手なら仕方ない。せめて登録だけでもしていってくれんかね、代わりに色々と融通が利くよう取り計らうのでな」

 

まぁここまで言われて断るのもあれですね。冒険者登録しておけば必要なときにアインズさんに同行できそうですし。

向こうも向こうで登録したからと言って実績も無く昇格させるつもりも無さそうです。

 

「…分かりました、後程時間を作って登録しに参ります。何かお力になれそうな時は言ってください」

「うむ、非常時は頼むかもしれん」

 

その際はしっかりとどの魔法が使えるか確かめるようです。まぁ仕方ありません、情報収集がてらその辺りを調整しましょう…

 

話題が落ち着いたところで今度はリィジーさんが口を開きました。

 

「ところで、冒険者でないなら何で金を稼ぐつもりじゃ?魔法薬でも売る気かね」

「魔法薬は私も専門外ですね。そういえばまだ言ってませんでした。…私は、占いを専業とさせてもらっています」

 

「占い、か」

「占い、のう」

おや。お二人とも急に胡散臭い物を見る目に変わってますよ。まぁ、無理もありませんけどね。

 

「えぇ、占いです。と、言っても預言とか世界が滅ぶ、とか大それた物じゃないですよ? 精々失せ物探しとか明日の天気、近い未来の吉凶とかです。試しにお二人も視てみましょうか」

 

と、言って私は携帯鞄から水晶球を取り出して、机の上に置きました。

 

「ほう、見事な水晶球じゃのう。そこまで美しい物は滅多に見掛けんぞ」

 

すいません、これうちの倉庫に転がってた物です。

 

「では失礼して。まずはリィジーさんを視させてもらいますね。んー…」

 

少し間を置きつつ、私はゆっくりとリィジーさんの心を視ます。

なるほど…

 

この人、魔法薬狂いですね。使う方ではなく、作る方の。優先度は魔法薬が一番で、次が…

 

「…お孫さんがお一人いらっしゃいますね。同じ様に魔法薬の作成に携わっていると。…でも最近、行き詰まっていますね?」

「…なんと。そこまで分かるのかい?」

「………」

 

組合長さんは冷静ですね。この程度なら街の有名人なリィジーさんの情報として簡単に手に入る、と。

 

「…そうですね、意外と近い将来、新しい治癒薬のヒントになるものが見付かるかも、と出ています。…こんなところでしょうか」

「本当か!?わしはここ数十年、試行錯誤を繰り返しておるんじゃぞ。それを突破できる何かが見つかるというのか…」

 

しかし、私は首を振って答えます。

 

「すみません、あくまで未来の占いですから、いつ何が、とまでは分からないんです。見落とさないように、でも気長に待っていて下さい」

 

リィジーさんは、ウムム…と唸って黙りこんでしまいました。

 

私は組合長さんに顔を向けると、

 

「…では貴方も視てみましょう。えぇ、別に遠慮なさらずとも。すぐ済みますから…」

「いや、私は別に、おい、待て…」

 

構わず、私は占い(仮)を続けます。

ふぅむ…

 

彼も元はそこそこの名の知れた冒険者だったようですね。

彼の目下の悩みは、近々起こるであろう王国と帝国の戦争、それに伴う治安悪化。近隣の野盗達の悪質化、邪教集団の暗躍。モンスターや亜人種の横行。

…きりがありませんね。この街も何気に詰んでいませんか?

 

「…ご苦労、なさってるみたいですね。この街を囲む様々な暗雲が見えます。この問題は中々解消出来ないでしょうね」

 

彼は苦虫を噛み潰した表情で私を睨みます。

 

「─── 分かるか。 …あぁ、そうだ。君をスカウトしたのもそれが理由だ。ここ最近は不安要素ばかり増え続けるのだ。全く頭が痛いな」

 

なるほど。

なら、ここらで売り込みでもしておきますかね。

 

「…でも、その中でひとつ大きな光が見えます。それは数々の暗雲を払う剣となるでしょう」

「…!それは一体?」

「そこまでは。しかし、近々この街に新たな英雄が誕生するのかもしれません。精々、他所の組合に奪われぬよう気を付ける事ですね」

「………」

 

こちらも黙りこんでしまいました。まぁ、ふんわりとした言い方をしましたからね。

 

私としては「黒い鎧の男は超強いから崇め奉りなさい。そうするとよく働くから」と言いたい所ですが、あまり直接的過ぎると怪しまれますし。

 

 

「では、私はこれで。組合長さん、リィジーさん、ありがとうございました」

 

頭を下げて退出しようとする私をリィジーさんは慌てて止めます。

 

「待て待て! …お主、行く当てはあるのかい? 占いを商いにするにも場所が必要じゃろう? 」

 

んー、そこら辺を悩んでいたのですが。

すると、リィジーさんは素敵な提案をしてきました。

 

「実はな、わしの店の近くに最近空き屋なった店舗があるんじゃ。わしが口を利けばすぐ使えるじゃろう。勿論それなりの貸賃は必要じゃが…」

「それは助かります。換金すれば手持ちもできますので大丈夫です」

「なら決まりじゃ!早速行くとするかい」

「…でも、良いのですか?私なんかをそんなに信用して」

 

私、人間じゃないんですよ?

 

「構わんよ。老い先短い老人にささやかな希望をくれたんじゃからな!」

 

実は、私からもっと情報を得れれば、とも考えてるみたいですけど。

でも、嫌いじゃないですよ?そんな元気な考え方は。

 

「では、よろしくお願いしますね。リィジーさん」

 

 

 

────────────────

 

 

あのあと、私は組合の換金所を通じて砂金を換金し、かなりの量の金貨を手に入れました。暫く遊んで暮らせる量です。

 

まだ砂金の山は残っていますし、無くなったらルプーさんに交換に行ってもらいましょう。

 

次に空き家も案内してもらいました。こじんまりとした建物ですが、私には十分です。賃料も随分良心的で、外側も手直しの必要がありませんでした。お店の奥は小さい居住スペースになっていて三人位なら生活できそうです。

 

契約の際、名前、というかこの世界の字が書けなかったのは焦りましたが、そこはあえて日本語で書いて「異国の字です」で通しました。気付かれたらその時です。

 

気付いたらもう夕方、そろそろ日が沈みます。今日も濃い一日でしたねぇ…

 

リィジーさんにお礼を言って別れると、私は自分のお店に入り、感慨にふける間も無く一旦ナザリックに《転移門》で帰還しました。

 

「ただいま、お燐」

「さとり様!? お早いお戻りですね」

「…別に任務失敗じゃありません。向こうの拠点が決まったので誰か手を貸してもらおうと思いまして」

 

失礼な。出戻りみたいに思わないで下さい。

 

「あぁ、そうなんですね。では私が手配して来ますので、さとり様は中でお夕飯でも召し上がってお待ち下さい」

「悪いわね、お燐。 …あぁそうでした、向こうにルプーさんを待たせていますからレイアウト等は彼女に聞いて下さい。…その時、何か食べ物を持っていってあげてね」

「わっかりましたー!」

 

お燐はピシと敬礼して走り去っていきました。 あの敬礼、誰の真似ですかね。もしかしてナザリックで流行ってきてるのでしょうか?

 

…早く外に出れると良いですね、アインズさん。

 

その日は結局、地霊殿の自分のベッドで眠りました。

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

現地に戻ってみると、お店の中はどこに出しても恥ずかしくない見事な占いの館になっていました。

いつの間に…

 

どうやらプレアデス達や他のシモベの皆様が一晩でやってくれたようです。

そんな急ぐ必要も無かったのですが。

 

「ありがとうございます、皆さん。お休み中のところご迷惑をお掛けしたようですね」

 

私が頭を下げると、ユリさんが慌てて止めました。

 

「そんな!さとり様の頼み事とあれば、ボク… 私達は光栄に思う事こそあれ、迷惑になど思う訳が御座いません!」

「そうっすよ!さとり様にはここで大手を振って頑張ってもらいたいっす!」

「ルプスレギナ!その口の利き方はなんです!」

 

…まだ朝ですから、あまり騒がないでほしいですね。

 

「いいんです、ユリさん。ルプスレギナさんはとても良くやってくれてます。それでは、また何かあればお願いしますね」

 

とりあえずフォローすると、彼女達は頭を下げて《転移門》で戻っていきました。

 

 

「ふぃー。ありがとうございます、さとり様。ユリ姉の説教はいつも長いから助かったっすよ」

「こちらこそ。お陰で今日からお仕事始められそうです。…もう少しゆっくりしたかったんですけどね」

 

私が少しトーンを落として言うと、ルプーさんは楽しそうに言います。

 

「フヒヒ!残念でしたっすね。それでお嬢、お仕事と言っても何から手をつけるっすかね?」

「そうですね… では、ルプーさんは呼び込みをお願いします。適当に暇そうな人を連れてきて下さい。後は私がなんとかします。人数は、そうですね。5、6人といった所ですか」

「本当に適当で良いっすか?何か悩んでるとかでもなく」

「適当でいいですよ。今回は色仕掛でもいいくらいです」

 

流石に驚いたのか、目を丸くして問い直すルプーさん。

 

「マジっすか!?さとり様までそんな事するのはちょっと…」

「勘違いしないで下さい!お店の中に誘い込むだけです!貴方も周りの目には注意して下さいね」

「了解っすー」

 

(うわー。男胸同盟の人が怒ったっすー)とか考えながら外に出ていきやがりました、あの駄犬。いつかシャルティアさんとお仕置きしましょう。

 

 

 

 

 

暫く待つと「お一人様御案内っすー」と声がかかり、誰かお店に入ってくる気配がしました。

 

「おいおい… 相手してくれるのはお嬢ちゃんかよ。まぁ構わねぇか、料金はタダなんだろ?」

 

なんという人を連れてきますかね。

入ってきたのはムサい髭面に傷のある、いかにもな職種の中年男性客でした。下品な笑いを下品な顔に浮かべて下品な事を考えています。

 

「…最低ですね、その顔でロリコンですか。鏡を見てから出直して下さい」

 

思わず声に出してしまいました。

 

「… 何だと!てめえ!」

「あぁ、煩い。《支配》」

「───」

 

あっさり魔法にかかり立ち竦む男。

…まぁこんなのでも一応客ですし、さっさと処理してしまいましょう。

 

私は次の魔法を詠唱します。

 

「…《記憶操作》」

 

この魔法で記憶の書換をします。書き換える内容は、秘密の悩み事をここの占いで解決、悩みも無くなり気分スッキリ、ですかね。悩みの内容は秘密、当人も思い出したくない、としておきましょう。

 

終わったら店の外まで歩かせて、暫くしたら《支配》を解除、と。

 

これで完了です。後は気分の良くなった彼が適当に宣伝するでしょう。そして放っておいてもお客がくると言う寸法です。

 

…しかし、《記憶操作》の魔法ですか。 随分大量にMPを消費しました。こんな燃費の悪い魔法でしたっけ…?

私ですら連続使用は辛いかもしれません。

 

「次のお客様っすー!」

「はい、どうぞ」

 

とはいえ、始めた以上はもう少し続けないと外で頑張ってるルプーさんに悪いです。

 

私は再び《記憶操作》を詠唱しました。

 

 

 

 

─── 次で、8人目。

不味いです。次唱えたら流石の私のMPも尽きます。

 

「次ラストっすー」

 

うーん、あたまいたい…

でも最後ですし、MP0にするつもりで唱えてしまいましょう。

 

「《記憶操…》」

 

 

あっ。

 

MPがゼロになるのと同時に。

 

私の意識は、暗転していきました。

 

薄れゆく意識のなか、私は。

 

(MPが無くなると気絶するんですねぇ。侮れないなぁ異世界…)

 

と、考えていました…

 

 

 

 




今回の独自魔法、設定
《誤認識》… パーティーで使うと人間関係すら崩壊しそうな魔法。覚える価値無しとか言われそう。

《茨の束縛》…拘束中の相手に割合ダメージ。こいしちゃんの得意魔法。実は第7階位魔法。マイナー魔法なので適当に使ったさとりさんですが、バレたらどっかのお爺ちゃんがペロペロしにくるぞ。

MP0で気絶…精神と直結しているので大きくマイナスされると気絶、という設定でお願いします。


真夜蒼様、ペリ様、誤字報告ありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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