9/22 ちこっと修正
今ナザリックは、いつになく騒がしくなっています。
守護者の何人かが任務の為に外出の準備に取り掛かり、他のシモベはその穴を埋めるために大忙しです。
そんな中で私も今は、外に出る準備の為に地霊殿の自室にいました。
まず《上位道具作製》でゆったり着れるタイプの紺色の貫頭衣を作ります。これなら目立つ髪の色も目玉もローブの中に隠せますから。
…少し胸が大きく見えますが、別に意図した訳ではありませんよ?そんなシャルティアさんみたいな事は考えませんから。
後は適当に戦闘用の短杖を。護身の心得もなく旅しているのも変だと思われるでしょう。飾りにしかなりませんが、特に使うことにもならないはずですし。
そうそう、どうやら私達の魔力はこの世界では異常に大きく感じられるみたいですね。その辺を誤認識させる指輪も用意しました。こちらはアインズさんにも渡しておきます。
そして、私は自分が外の世界でロールする予定の職について考えました。
占い師。
私が占い師を選んだ理由は二つ。
一つ目は、占いに読心スキルが使えそうな所。
二つ目は、この職種ならあんまり外を出歩かなくて済みそうだから、です。
一つ目のは何となく思っただけなんですが。占うような悩み事なんて、大抵当人の中に答えが眠っているものなんです。そこを読んで、さも占いの結果の様に言えばそれらしくなるでしょう。悩み事を解決しつつ、ついでに有益な情報でも得られれば万万歳ですね。じゃなくても苦悩する感情とかを適当に頂ければ十分ですし。
二つ目は簡単です。私は素が引きこもりなので、なるべく出歩きたくないんです。なら出るな、と言われそうですが。ナザリックだと監視付きですからねえ…
まぁ、正直この職業でそんなに儲けられるとも思ってませんし、アインズさんには申し訳ありませんが資金繰り関連についてはお任せしましょう。
…私のみる限り冒険者もそれほど夢のある職業ではなさそうなんですがね、言わずが花です。
さて、最後に足りないものを宝物殿から頂いてきましょうか。
…ちゃんとアインズさんの許可は貰っていますよ?
指輪の力で宝物殿に来た私をパンドラズ・アクターさんが迎えてくれました。
「オオ、さとり様!お待ちしておりました。お探しの品物を見付けておきましたが、本当にこれでよろしいので?」
彼は幾つかのアイテムを用意した携帯袋に入れて渡してくれました。
中を確認すると… ありました、蒼く透き通った水晶玉。これにはなんの効果も付加されていません。
「只のガラス玉の様なものですが構いませんか? ここでは逆に珍しい物ですが。《物体発見》が使える宝石類などもございますが」
アイテム知識を生かせず少々不満げな様子。
「えぇ、ありがとうございます。 雰囲気作りの為の物ですからいいんですよ。…下手にマジックアイテムを使って後からインチキ呼ばわりされても面白くありませんから」
「成る程!ご慧眼ですな」
称賛を軽く流し、私は携帯袋を仕舞うと彼に言います。
「それと、もう一つお願いが有るのですが、いいですか?」
「勿論ですとも!」
「では、このユグドラシル金貨を錬金スキルで砂金等に換えてください。 錬金術が得意な方──タブラさん辺りに変身すればすぐ出来る筈です」
そう言って私は金貨の詰まった袋を彼の前に出しました。
ユグドラシルの金貨は、この世界で使うのは色々と問題が出そうですが、形を変えて少しずつ売っていけば問題ないと思っています。当面の生活費は必要ですからね。
…勿論私のポケットマネーから、ですよ? この宝物殿程では有りませんが私の倉庫にも備蓄はありますので。
「畏まりました。では少々お待ち下さいませ」
「助かります」
こうして、私はこの世界で暫く遊べるくらいの資金を手に入れました。
…狡いですかね。
別に私は前の金貨に思い入れもありませんし、足りなくなれば適当なマジックアイテムでも換金しようとも思っています。
砂金袋を先程の荷物に入れていると、彼は躊躇いがちに、紫の布に包まれた物を渡してくれました。
「これは…。すみません、我が儘を言ってしまいましたね」
「─── 父上から話は聞いております。私も少々不安なのですが、さとり様のお願いと、結果的に父上の為になると判断した上です。良いですか?使用の際はくれぐれもご注意下さい」
「…はい。その点は十分気を付けます。危険さは私が一番知っていますから…
それでは、私はそろそろ行きますね」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
パンドラズ・アクターさんに見送られ、私は宝物殿を後にしました。
───────────────
さて、私の準備は出来ました。
うちの子達はどうでしょうか…
私が地霊殿の前で待っていると、こいしとお空が帰ってきました。
この子達… またアウラさんとこに遊びに行ってましたね。あの子も忙しいでしょうに。
私に気付くと二人とも子犬のように走り寄って来ました。
「あ。お姉ちゃん!もう出掛けるの?」
「こいし、お空。貴方達は準備出来たの?シャルティアさんやアウラさんに迷惑をかけてはいけませんよ」
私が咎めるような口調で言うと、こいしとお空は笑顔で返してきました。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!わたし達は特に持っていくものなんて無いから」
「はい!必要なのがあったら帰ってきます!」
「どうせ二日たったら戻ってくるんだしねー?」
「ねー?」
…そうでした。幼年組(?)にはアルベドさんが課した制限があるのです。
それは『外泊できるのは二日間』です。
シャルティア組とアウラ、マーレ組、そして私が対象です…
私達は外で活動していても特例が無い限りは三日目には一旦帰らないといけない事になりました。
子供ですか。
正直、私は精神的には大人なので勘弁して欲しかったのですが、アルベドさんからここだけは譲れないと言われた挙げ句、最終的にアインズさんを通して可決されました。
「そうでしたね。全く、面倒な。…では、私から役立ちそうな物を幾つか渡しておきましょう。まずは、お空。これを持っておきなさい」
「はーい!」
私はアイテムボックスから指輪を2つほど取り出してお空に渡しました。
「片方が治癒の指輪、もう片方が《伝言》の指輪です。お空、もし貴方が攻撃する事態になった際は、必ず誰かに相談しなさい。小攻撃ならアウラさんに、大攻撃以降は私かアインズさんから許可をとること。いいですね?」
「はーい!ありがとうございます、さとり様!」
ちなみに治癒の指輪は彼女自身のスキルでバックファイアを受けた時のフォロー用です。
嬉しそうに跳び跳ねているお空。この子光り物好きですからね。
そして、今度はこいしに向き直りました。アイテムボックスから取り出したのは先程パンドラズ・アクターさんさら受け取った紫の布にくるまれた物。
布を取ってみてると中には…何もありません。いえ、見えない、と言えば良いでしょうか。
「…こいし、貴方にはこれです。使い方は貴方はよく知っているでしょう?」
「───! いいの?お姉ちゃん」
私は取り出した物をこいしに渡しました。こいしは慣れた手つきで受け取った物を振り回して、鋭く風を斬る音を響かせます。それと同時にこいしの姿が徐々に薄れていき、最後は気配も殆ど消えてしまいました。
そう、私が渡したものは、あの
こいしのスキル構成は元々このアイテムありきで成り立っている為、これ無しで外に出すのは少し不安でした。
なので、宝物殿に回収されたこの武器をパンドラズ・アクターさんに無理を言って持ってきて貰ったのでした。
…アインズさんの許可を得るのは中々大変でしたけどね。
「…普段は装備せずに収納袋に仕舞っておくこと。必要な時だけ装備して、使い終わったらまた仕舞いなさい。いいですね?」
私が言うと、こいしはどこかに武器を納めたらしくスッと姿を現しました。
「ありがとう、お姉ちゃん。大事に使うね!」
できれば使わないでいて欲しいのですが。
二人にあれこれ注意を促していると、お燐が二人の女性を連れて帰ってきました。
「ただいま帰りましたー。さとり様、あたい達も準備できましたよ」
お燐の後ろにいたのは、プレアデスの内ふたり、ユリさんとルプスレギナさんでした。
ルプスレギナさんは私と同行するので荷物は多目ですね。私と目が会うと一歩前に出て、会釈しました。
「改めまして、さとり様。プレアデスが一人、ルプスレギナと申します。この度はご同行の名誉を頂き、身に余る光栄。何卒宜しく申し上げます」
誰ですか貴方。
…ユリさんの前だから猫被ってるんですか。貴方狼の獣人でしょうに。
いつものフリーなルプーさんに慣れてるので少しやりにくいですね。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ルプスレギナさん。外に出たら旅の仲間になります。今から対等の関係としてやっていきましょう」
私が軽く提案すると。
「あ。じゃいつもので行くっす。さとり様は話が分かるお人っすね」
「ルプスレギナ!貴方はもう少し礼儀について考えろとあれほど… 申し訳ありません、さとり様」
良く言って聞かせますので、とユリさんは続けます。でも、私としてもこちらの方がやり易いので何とも言えませんね。
あれこれ話していましたが、時間もあまり無いので、さっさと出発しましょう。
残念ながらアインズさんは仕事が残っているそうで暫く出られないようです。その為、私が先行して街に入る事にしました。
行き先はエ・ランテル。
三重の城壁に守られた城塞都市だそうです。
《転移門》で近くまで跳んでも良いのですが、万一転移を見られたり、衛兵に移動手段を問われたりすると困りますので、面倒ですがカルネ村から馬車で移動する事にしました。
今日は丁度、商人の馬車が来るらしいのでそれに乗せて貰うことになっています。時間が無い、というのはそういう事なのです。
元々カルネ村にはお燐達の紹介も兼ねて挨拶に行くことになっていたので丁度良いでしょう。
「それでは、行ってきますね。こいし、皆さんの言うことを聞くのですよ? シャルティアさんは… よく見張っておきなさい」
「はーい!お姉ちゃん、お土産よろしくね!」
「いってらっしゃーい!」
そうして私達は《転移門》をくぐり抜けました。
────────────────
私にとっては久しぶりのカルネ村ですが… あんな防壁、ありましたっけ?
牧歌的な風景に合わない殺風景な木製防壁が、カルネ村辺りを囲んでいました。
私が頭を傾げていると、お燐が助け船を出してくれました。
「さとり様、あの防壁はエンリさんが呼び出したゴブリン軍団が村防衛の為村人達と協力して作った物ですよ」
ゴブ軍団…? あぁ、アインズさんがあの娘にあげたあの微妙アイテム… あれ、使ったんですね。只のジョークアイテムでしたのに、意外と役に立つものですね、侮れません。
お燐は何度か村にお使いに来ていたので、見張りのゴブリンと簡単なやり取りだけで中に通してもらえました。
…村の中は特に変わらないんですね。何故か安心しました。
ユリさんやルプスレギナさんはその間静かに私の後ろに控えています。
…ルプーさんは真面目な顔をしてますが(ここで突然村に火をかけたら楽しいっすねー)とか考えてますので要注意です。
ユリさんは子供達が遊んでいるのを見て少し嬉しそうにしています。顔には出してないのが流石ですね。
今更ながらユリさんはナザリックにおいてはかなり珍しい存在です。この友好的態度を見て私がカルネ村担当に推薦したのですが正解だったみたいです。
ナザリックでは普通、人間など良くて無視、悪ければ食料もしくはゴミ扱いです。でもセバスさんを筆頭に数人は人間に対して比較的優しいスタンスの方がいます。
ここら辺は当人のカルマ値が関係してるのでしょうか? 暇なときに他の人のカルマ値も気にして見ましょうか。
ちなみに私のカルマ値は、凶悪(-200)です。うちのボス骸骨の極悪(-500)よりはマシですね。
村長さんを呼んでくるよう頼んだのですが中々来ませんね…
代わりと言っては何ですが、エンリさんが畑の向こうからこちらにやって来ました。
後ろにゴブ軍団とネムさんを引き連れて…
「お久しぶりです、エンリさん。お元気そうで安心しました」
「さとり様…!あの時はありがとうございました。アインズさんにも何度か援助を頂いて、正直本当に助かりました」
ネムさんも私を見つけて駆け寄ってきました。
「さとりお姉ちゃんだ! …あ」
「こら!ネム! ───申し訳ありません、さとり様。ちゃんと言い聞かせたんですが…」
あぁ、あの時「お姉ちゃん」呼ばわりするな、と言ったのを覚えていましたか。でも今は不思議と気になりません。
私はかがみこんでネムさんと目の高さを合わせると優しく言いました。
「構いませんよ。…ネムさん、私は少しエンリさんとお話があります。あちらでお燐達と遊んでいて下さいね」
「はーい!」
いい子ですね。
頭を撫でたネムさんが走り去るのを見ていると、エンリさんも意外そうに私を見ています。
「…何か?」
「い、いえ。何も」
最初の時と印象が違いますか。そんなものですかね、自分では分かりませんが。
…少し気を入れ替えましょう。
私は意識していつもの無表情を作ると、再びエンリさんに質問しました。
「…村の外側も色々変わっていましたが、他に何か問題でもありましたか?」
「それは…」
ありまくり、みたいですね。
楽しいからご自分の口で現状を話して貰いましょう。
「アインズさんから頂いた角笛を吹いたらゴブリンさん達が出てきて… 村の防衛や力仕事までやって貰えて助かるんですけど、何故か私を主人扱いして命を預けてくるんです…!」
まあ召喚モンスターですからね。ある意味当然の事です。
「しかも、その反応を村の皆が見て、私がゴブリンさん達を統率してる様に感じてるみたいで。最近じゃ村長さんが私を次期村長にしようとしてくるんです」
あらあら。楽しくなってきましたね。
「仕方無くまず村の状況を調べたら、どうやっても人手が足りない事に気付きました。このままでは収穫が出来ず来年以降は持ちそうにありません…」
どうやらカルネ村の未来は暗いようです。アインズさんの予想通りですか。
しかし、その程度で滅んで貰っても面白 …ではなく、困りますから、ここは一つ手を貸してあげましょうか。丁度実験したかった事がありますし。
「そうですね。良ければ、人手だけでも私が何とかしましょうか?」
「ほ、本当ですか?誰か当てがあるとか」
「えぇ。力仕事は何でもこなし、疲れ知らずで昼夜構わず働ける方達です。今回は試用期間と言うことで賃金も無料にしておきますよ。見た目さえ気にしないなら使ってみて下さい」
エンリさんは一二も無く飛び付きました。それがナニかも聞かずに。
「ぜ、是非お願いします!このままじゃ折角助かったのに飢え死にする可能性もありますから!」
「分かりました。お燐達に届けさせましょう。後程、彼等の働きぶりの感想を聞かせてくださいね」
「ありがとうございます!」
エンリさんに涙ぐまれる程感謝されてしまいました。
…後で、お燐を通してアインズさんにお願いしておきましょう。
あぁ、良いことをすると気分がいいですねぇ…
村に立ち寄った商人さんに村長さんがお願いして私達を乗せてもらいました。
行き先はエ・ランテル近郊。
意外と近いらしいのでお金とかは気にしなくて良いそうです。
私がエ・ランテルまで仕事を探しに行く、と聞くとエンリさんも不思議そうにしていましたね。
気持ちは分かりますが。
とりあえず他の人には他言無用としておきました。
見送りのお燐達やエンリさんに手を振り、私とルプーさんは馬車に乗り込みました。
狭いです…
到着まで馬車の中で本でも読んでることにしましょう。
………
……
…
酔いました。
最悪です。
馬車の中がこんなに揺れるなんて思いませんでした… 考えてみれば道も舗装されてませんし当然ですか。
おまけに馬の臭いはキツいし、幌の中は息苦しいし…
こういうのにLvは関係無いんですね。
今はルプーさんの膝枕で寝ていますが、この駄犬笑いを堪えてやがります。
治癒魔法のひとつでも使って下さい。
口を開けませんので何も言えませんが、後でしつけが必要ですね…
早く着いて…
────────────────
着きました…
言う気にもなりませんでしたが、一応商人さんにお礼を言うと、彼も申し訳なく思ったのか入り口の門まで連れて来てくれました。
去っていく憎き馬車を木陰で休みながら見送っていると、ルプーさんが話しかけてきました。
「大丈夫っすか?《病気治癒》でもかけときます?」
「…大丈夫です。地面で休んでたら少し楽になりました。…すみません、始めから情けない所をお見せしてしまって」
「いやいや、気にしてないっすよ。むしろ親近感が湧いたと言うか… 一般メイド達が言う事も分かるかなーって思ったっす」
「…?」
一般メイドが…? あまり接点は無いのですが。
「知らないっすか? さとり様とこいし様、結構メイド達の間でも人気っすよ。アインズ様は噂するのも畏れ多い方っすけどね。さとり様はクールで知的、こいし様は無邪気で親しみ易い、何よりお二人とも可愛いと騒いでますよ?」
…なんとも。
そんなことになっているとは。
…お世辞じゃ無いみたいですね。
前にアインズさんが「あいつらの高過ぎる評価が怖い」とか言ってましたが、今ならよく分かります。
…でも、そうですね。
期待には少し応えないと。
「…お待たせしました。そろそろ行きましょう、ルプーさん」
「無理しなくていいっすよ?なんなら先に私が受付しとくっすよ」
「そうもいかないでしょう。大丈夫です。この身体、回復自体は早いみたいですから」
私は立ち上がると貫頭衣で頭を覆って、街の入り口へと歩いていきました。
入り口では衛兵の方が門をくぐる人達をチェックしていました。
街の人間では無いのはこちらに並べと指示されて、向かった先では40代くらいの衛兵が受付を担当していました。
頭をすっぽり隠している私に訝しげな顔をして、外すよう指示してきます。
「まずは顔を見せてくれ」
言われた通りフードを取り軽く会釈しました。
「随分若いな。お嬢さん、何処から来て、此方には何の用事で?」
特に深い意味もなく事務的な質問のようです。私は前から考えておいた回答を言います。
「南の方から魔法の修行で立ち寄りました。占いも出来ますので、暫く滞在させて貰おうと思っています」
「成る程。変わった髪の色だが…」
「…生まれつきの魔力が強かった影響です。あまり注目されたくないので隠していました」
割りと適当な理由でしたが納得してくれたようです。
「そうか。修行、と言ったが君のような歳でか? 連れも女性一人のようだが、ご両親はどうした?」
「両親は元々いません。生来の魔力を見込まれて、とある魔法使いの師匠の元で暮らしていました。そろそろいい年齢なので修行がてら稼いでこい、と外に出されました」
驚いたようにこちらを見る衛兵さん。
「えらく厳しい師匠だな… 後ろの女性はその師匠の?」
「はい。お目付け役兼護衛です。彼女に何か聞いても無駄ですよ。契約で師匠の事は他言しないよう言われていますから」
注目されてニコッと笑うルプーさん。
…他の男の人も注目してますよ。
「そ、そうか。苦労してるみたいだな。よし、行っていいぞ」
「はい、どうも」
「あぁ、そうだ。すまんが待ってくれ」
…軽く舌打ちしそうでした。
「なんでしょう?」
「いや。名前を聞いておくのを忘れていた。すまんが規則だ。君の名前を言ってくれ」
「────」
固まる私。
そういえば、ナザリックを出る前にアインズさんに、
『外で活動する際は、念のため偽名を使いましょう。分かりやすいのでお願いします』
と、言われていたんでした!
後で考えようと、馬車に乗るまで覚えていたのですが… すっかり忘れていました。
ああぁぁ、急に言われても。
突然黙りこんだ私を、衛兵さんは訝しげに見ています。
…不味いです。こんな入り口で躓くとは思いませんでした。
えぇと…
「…どうした? 名前に何か問題でもあったか?」
えぇい!
適当に言ってしまいましょう!
「サトリーヌ…」
「えっ?」
「私は、サトリーヌと言います」
…ルプーさんが今にも吹き出しそうにお腹を抱えています。偽名になってないっすー!とか思ってますね。
おのれ。
「あぁ、サトリーヌ…と。下の名とかはあるのか?」
「…メイジです」
「
かつて、モモンガさんのネーミングセンスは壊滅的だと皆で笑いましたが、もう私も笑えません…
「連れの方は護衛で、ルプー、と。よし、通っていいぞ。エ・ランテルへようこそ!」
「ありがとうございます…」
こうして、私は異世界への第一歩を踏み出したのでした。
顔を羞恥に赤く染めながら。
少し忙しく投稿が遅れて申し訳ありません。
九尾様、すたた様、誤字報告ありがとうございます。
ご意見、ご感想お待ちしております。