覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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せくしーオバロー外伝
すごいよ!さとりさん


※サブタイトルは、語呂が良い以上の意味は全くありません。シリアスもほぼありません。ご注意下さい。





幕間・1

それは、丁度パンドラズ・アクターさんを迎えに行った頃の話になります。

 

 

私はある思い付きを実行に移そうと、アインズさんの執務室と化している個室に向かっていました。

 

「まだ仕事中でしょうか…」

 

それなら強引に休ませてしまいましょう。

そう思いながら私はアイテムボックスに入れてある、あの仮面について考えました。

 

こいしと再会する前に旧地霊殿で回収した、飲食可になるあの仮面です。

 

「色々あって渡すのが遅れてしまいましたね…」

 

でもやっと私も落着きましたし、アインズさんもこれからは外に出る事が多くなるでしょうから、この仮面は役に立つでしょう。

 

そう考えながら歩いているとアインズさんの部屋の前に着きました。

扉の前にはコキュートスさん配下の蟲兵が警護についていますので、声をかけて通してもらいます。

 

「アインズ様はいらっしゃいます?」

 

蟲人さんは中の護衛の誰かとゴソゴソ話した後、「ドウゾ」と通してくれました。

もう気軽に出入りできないようですね… 少し寂しいです。

 

さて、部屋に入りメイドさんに挨拶をしつつ無駄に広い部屋を見渡します。

そこには。

 

 

鏡の前で、剣を片手にカッコいいポーズを決めているアインズさんがいました。

 

…あぁ、なんということでしょう、今更彼の中二病が再発してしまうなんて…

どうしてこんなになるまで放っておいたんですか?

 

私が生暖かい目で見守っていると。

 

「おい!何か勘違いしてないか!?私は少し検証を…」

「いいんです。お父様は少し疲れているんですよ。諦めなければきっと良くなります」

「分かって言ってるでしょうそれ!?」

 

ばれましたか。

 

「素が出てますよアインズ様。…なるほど、本来装備出来ない武器を素振りしていたのですか。結果はどんな感じです?」

 

アインズさんは試しに剣を構えますが少しすると、カランと手から落としてしまいました。

 

「おっと。やはり駄目だな。装備制限のかかる物は、持つ分には問題ないが武器として扱おうとするといつの間にか落としてしまう」

「はぁ。私達にもよく分からない制限がついてるんですね」

「次は鎧を試すつもりだが」

「私が退室したらやって下さい。ここで脱ぎだしたら流石に怒りますよ?」

「………はい」

 

やろうとしてましたね、骨め。

 

「ところで、何か用でもあったか? さっき自宅に戻っていたようだが」

 

あぁ、忘れるところでした。

いけませんね。

 

「少し大切なお話を、と思いまして。ご迷惑でしたか?」

「いや、構わんよ。 …そう言うことだ。お前達、すまんが少し外してくれ」

 

護衛の方々も慣れたもので一礼してサッと部屋を出て行きます。

それを確認してから私はアインズさんに近付きます。

 

「これをお渡ししようと取りに行ってたんですよ」

 

私はアイテムボックスから例の透明な仮面を取り出してアインズさんに見せました。アインズさんはマジマジと眺めて驚いたように言います。

 

「そ、それは《リア充マスク》!さとりさん、そんなの持ってたんですね」

「…なんですかその名前は」

「いえ、これを貰える男は大抵リア充なんで陰でそう呼ばれてたんです。一時期はこれを持ってる奴を探して皆で襲い掛かってましたからね」

 

み、醜い争いですね…

 

「…最後は全員たっちさんに返り討ちにされた揚げ句、お説教されて終わったんですがね」

「…嫌な事件です」

 

本当になにやってたんですか。

 

「…この仮面の効果は知ってますか?身に着ければ飲食不可の種族でも食事が出来るようになるものです」

「…? そうか! 俺が着ければこっちでも食事が出来るようになるのか!」

「ご明察です」

 

そこで嬉しそうだったアインズさんは何故か申し訳無さそうに言います。

 

「でも、それ俺が貰ってもいいんですか? イベント物だからひとつしか無いでしょうそれ」

 

魔王の外見でモジモジしないで下さい。

でも確かにこのアイテム、イベント用なので一人一つしか所持できないんですよね。結果的にそれが更なる修羅場を生んだのですが… まあ、あの運営ですから仕方ありませんね。

 

私は苦笑しながら答えました。

 

「大丈夫ですよ。今まで倉庫の奥で眠ってたものですから。はい、どうぞ」

 

満更でもなく受けとるアインズさん。

 

()()()渡すことができました。

 

そうそう、忘れてはいけません。

目的はもうひとつありました。

 

「それでですね。折角ですからそれの試用試験に、明日うちで食事とか如何ですか?」

 

 

寂しい骸骨さんの返事は、聞くまでもありませんでした。

 

 

 

────────────────

 

「…と、言うことで今晩、うちで食事会をやるんですよ、シャルティアさん」

「アインズ様がいらっしゃる!素晴らしいでありんすね! でも、ここに沢山の人が入りんすか?」

「…なにか勘違いしてるようですが、別にパーティー形式じゃないですよ? アインズ様ご本人の希望で、ささやかな会の予定ですから」

 

今、私は地霊殿のテラスでお茶をしながら昨日の事を話しています。正面にはシャルティアさんが座ってお茶していますが…

 

こいしとお空はアウラさんの所へ遊びに行ってしまい、お燐はお茶を入れた後、今夜用の食材を取りに行きました。

なので二人きりのお茶会です。

 

「…ところで何かご用件があって此方にいらしたんじゃないんですか?」

「─── 暇だったのでありんすよ。何か面白いことがあるかと思って」

 

嘘ですね。でも何故か必死に理由を思い浮かべないようにしてます。

 

「貴方守護者でしょうに、遊び呆けてていいんですか。お父様も怒りますよ?」

 

そこでシャルティアさんの動きが止まりました。

 

「─── 実は、黒棺(ブラック・カプセル)で恐怖公が眷族を呼びすぎてしまったと報告があったでありんす…」

 

シャルティアさんが震えながら話しだし、私の動きは止まりました。

恐怖公ってGですよね?その眷族を呼びすぎた?溢れたんですか?

あああ、もういいです。詳細を思い浮かべないで下さい!

 

「─── 時間がくれば消えると言われたでありんすが、それまで助けると思ってここに置いてくりゃんせ…!」

「…ゆっくりしていっていいですよ。でもなんでそんなことに…」

「昨日、実験でスキルの全力稼働を担当区域のシモベ全員に命じたでありんす。その後うっかり止めるのを忘れていたでありんすよ」

 

自業自得ですこれ!

やっぱりお父様に言い付けた方がいいですかね。

 

「まぁ、それはともかく、そのお食事会、わたしも参加してもいいでありんすかね…?」

「えぇ、大丈夫ですよ。大歓迎です。お父様にも

伝えておきますね」

 

それを聞くとシャルティアさんは外見相応の無邪気な笑顔を浮かべました。

 

「ありがとうございんす! ところで料理は誰が用意するでありんすか? 地霊殿ならお燐が何か作るでありんすかねぇ」

「そうですね。でも今回は私も少し作ろうかと思っていますよ」

 

ドヤァと顔に出てしまいましたか。

それでもシャルティアさんは、目を輝かせて聞いてきました。

 

「さとり様は料理も出来るでありんすか?流石は至高の御方に並ぶお人でありんすね!」

「そんな自慢できる腕では… あぁ、でも、食べさせたい方がいるなら、少しは料理ができた方がいいかもしれませんね。昔から、男性の心は胃袋で掴め、と言いますし」

 

それを聞くとシャルティアさんは目を丸くして聞き返してきました。

 

「胃袋を掴む! それは《心臓掌握(グラスプ・ハート)》的な意味でありんすか?」

 

違います。

即死させてどうしますか。

 

「…食べ物で釣れって事ですよ。誰だって美味しいものには弱いですからね。自分の彼女の料理が美味しければ離れられないってものです」

「はぁ。なるほど。我ら守護者は殆ど飲食不要でありんすから、いまいちピンと来ないでありんすねぇ…」

 

あぁ、そうかもしれません。大体アインズさん自身も必要無いのですから、そんなもので釣れるとは思わないでしょうね。

 

「でも面白そうでありんすね!私も何か作ってきたらアインズ様は食べていただけるでありんすかね!?」

「えぇ、きっとアインズ様もお喜びになられますよ」

 

そしてシャルティアさんはおもむろに席をたつと会釈して言いました。

 

「では、善は急げと言いますし、早速準備してきんす」

「あっ、はい。時間は夕方18時ですのでそれまでに… もう行きましたか」

 

なんて早さでしょう。

でも、彼女忘れてるようでしたが、恐怖公の件は大丈夫なんですかね…?

 

この時私はそちらに気を取られ、彼女が呟いていた事を見逃してしまいました。

 

 

「─── ところで、料理って、何をどうすればいいのでありんしょうかえ…?」

 

 

 

────────────────

 

さて、シャルティアさんも帰りましたし私もそろそろ準備を始めましょう。

お燐もそろそろ帰って来る頃です。

 

「───ただいま帰りましたー…」

 

おや、噂をすれば。

ん? 気配が二人分…

 

「おかえりなさ───あら、アルベドさん」

「お邪魔しますわ、さとり様。…どうしました? 眠そうな目がさらに半目になっておりますよ」

 

お燐は、アルベドさんに首を吊り下げられて帰ってきました。

…食材調達中に捕まりましたね、お燐。

 

「すみません、さとり様~。途中で守護者統括様に食材の使い途を聞かれたので、あたい全部お話ししちゃいました…」

 

待ち伏せされましたか。

相変わらず変なところで鋭い人ですね、アルベドさんは。

 

「聞けば楽しい事をなさるようで。でも、アインズ様を招いての晩餐会をこのような所で行うのは、守護者統括として少々見過ごせませんわ」

 

微笑のままですが、オーラは黒いですよ?

私はため息を隠しつつ、前言った事をもう一度言いました。

 

「…これはアインズ様ご本人のご希望です。元々はアイテム実験のつもりでしたから、そんなに大事にしたくないのでしょう。身内だけの気軽な食事を楽しみたいそうです」

「あら、そうでしたか。なら、当然私も参加しても構いませんわよね?」

 

まぁ、そうきますよね…

んー、なんかもう、どうでも良くなってきました。

 

「構いませんよ。アインズ様も喜ぶことでしょう。…今晩18時の予定ですので、その頃また来て下さい。私はこれから食事の用意をしますので」

 

あ、しまった。

私の言葉を聞き、アルベドさんの黒い羽がピクンと跳ね上がりました。

 

「さとり様も料理をお作りになられるので? ふぅん… なら、私もアインズ様が召し上がるお食事をお作りしても構いませんよね?」

 

こ、この人、満漢全席クラスの料理を持ってくる気ですね… そうはさせません。

 

「アインズ様はあくまで簡単な物を、と言ってましたよ。お作りいただけるなら今回は一品だけにしておいて下さいね」

「畏まりました。御方の希望であれば致し方ありません。それでは至高の御方に相応しい料理を、私自らがお作りしてお持ち致しますわ」

 

笑顔で言う私に、舌打ちしそうな笑顔で答えるアルベドさん。

 

あー、はいはい。お任せします。

 

意気揚々と帰っていくアルベドをあとに、私は疲れてきた心に鞭打ってお燐に声をかけます。

 

「ご苦労様でした、お燐。お疲れのところすみませんが、このまま食事の支度をしましょうか」

「はい、さとり様! …えぇと、すみません、あたいアルベド様にバレちゃって…」

 

少し落ち込んでいますね、お燐。そこまで思い込まなくても大丈夫なのですが… 私は彼女の頭を撫でながら慰めます。

 

「平気よ、お燐。予定外でしたけど、むしろアインズさんは喜んでくれるはずです。…さあ、時間も無くなってきましたし、急いで準備しましょう」

 

…どうせシャルティアさんも乱入するのですし? きっと勝手に盛り上がってくれるでしょう。

 

私は私で頑張りましょうかね。

 

 

 

──────────────

 

元の世界では私も一人暮らしをしていたのでそこそこ料理はしていたつもりです。まぁ、あの世界の食材なんて味は二の次の合成物ばかりでしたが。

 

それでも私の家は姉が稼いでいたので食材にはあまり困りませんでしたね。

お陰で貴重な卵料理も覚えられましたし、今回はそれを作ってみましょう。

 

「お燐、そっちは任せますね。私はこっちでオムレツでも作りますから」

「はーい」

 

…さて、まずは卵を割ってかき混ぜて、フライパンを火に───

 

私が覚えている記憶は、そこまででした。

 

 

 

「───り様! さとり様!火が!止めて下さい!台所がー!新居がー!」

 

ハッ!?

 

我に帰った私の目の前には、それはそれは見事な火柱が。

 

「え?えぇ!?何が、どうなりました?事故ですか!?」

「事件です!離れて下さい!」

 

 

…お燐の冷気魔法でなんとか事なきを得ました。初級魔法でも役に立つ時があるんですね、勉強になりました。

幸い、台所に耐火加工がしてあった様で、壁が黒ずんだ程度で済みました。

 

「大丈夫ですか、さとり様!?火傷とかはありませんか!」

「えぇ… そこは大丈夫ですけど、何がどうなったのでしょうか。料理の途中から意識が途絶えました…」

「…もしや、何かご病気ですか!?すぐにペストーニャ様を───」

 

う。その言い方は不安になるじゃないですか。

 

「だ、大丈夫ですよ。ほら、ちゃんと包丁も握れますし、キャベツの千切りだって、このように───」

 

ヒュン! …カッ!

 

─── すっぽ抜けた包丁が勢い良く壁に突き刺さりました。…どうやら流石の台所も耐刃加工はされていないようですね。

頭スレスレを刃物が通り過ぎたお燐の顔は真っ青ですし、どうしたものでしょうか…

 

呆然と立ち尽くしている私に、タイミング良くアインズさんから《伝言(メッセージ)》が届きました。

 

『さとりさん、今いいですか?』

『…はい、大丈夫ではありませんが、いいですよ』

『…? ちょっとした追加情報なんですが、昨日、俺が剣を振って落っことしてたじゃないですか。あんな感じで「装備制限」だけじゃなく「スキル無し」も俺たちに影響してくるみたいです』

『…えっ』

『さっき実験で簡単な錬金薬を混ぜてみたのですが、実験途中で薬の識別が全く出来なくなりましてね。しっかりラベルを貼っていたのに失敗しましたよ。俺たちは対応するスキルが無いと、出来て当然の行為も失敗する可能性があるみたいですから気を付けて下さい』

『─── そうみたいですね』

『…? まぁ、他にも何が制限になるかは検証しないと分かりません、何か分かればまた連絡します。…そうそう、今夜の食事会楽しみにしてますね。では後程』

 

 

…なるほど。こちらの私(さとり)は料理スキルなんて修得していません。だから料理のやり方は分かっていても、いざ実行しようとすれば自動的に失敗になるという事でしょうか?

 

ふふふ。そうですか。流石は異世界。一筋縄ではいきませんね…

 

それにしても。うーん…

 

「お料理、どうしましょうか…」

 

砕け散った卵。煤けた台所。突き立った包丁。怯えるお燐。

 

私は少し泣きたくなりました。

 

────────────────

 

 

「お邪魔するぞ、さとり。招待感謝する」

 

支配者口調ですが嬉しさを隠しきれないアインズさんが到着しました。

 

時間は17時40分。ちょっと早いですが待ちきれなかったようですね。透明なので分かり辛いですが、既にあの仮面も装備済みの様です。

 

「いらっしゃい!お父さんの席はこっちだよ!早く早く」

「そう急かさないの、こいし。…いらっしゃいませ、アインズ様。今日もお疲れ様でした。もう少しで準備が整いますから席にかけてお待ち下さいね」

「あ、あぁ… そうさせてもらおう」

 

若干、緊張気味ですね。微笑ましいのですが、今の私にはそんなのを楽しむ余裕なんてありません。

 

本当にアレを出して良いものでしょうか… こいしは「イケるイケる!」と保障してくれましたが…

 

私が迷っていると、玄関で言い争う姦しい声が聞こえました。

…これはシャルティアさんとアルベドさんですか、まぁ見事に鉢合わせたものです。でも人の家の前で痴話喧嘩は止めて下さいね?さっさと入ってもらいましょう。

 

「これはアインズ様、ご機嫌麗しゅう」

「御前に失礼致します、我が主様」

 

傅く二人に鷹揚に頷くアインズさん。

事前に二人が追加参加することは伝えてありましたから問題無いでしょう。

 

「良い、面を上げよ。私はここに骨休めに来たようなものだ。お前達もこの場ではそのような固い挨拶は抜きにしろ」

 

骨休め… 突っ込みは入れませんよ。

 

アインズさんの言葉に二人は感動した後、堂々と彼の左右に座りました。

抜け目無い方達ですね。

 

アインズさんにしなだれかかったシャルティアさんが、自慢げに話しかけています。

 

「アインズ様、この度の晩餐会、私も一つ料理を作ってみたでありんすよ。我が愛しき君、是非に召し上がってくんなまし」

 

その言葉に反応して口を挟むアルベドさん。

 

「あぁら、ヤツメウナギが料理とか本当に大丈夫かしら? 血しか入ってないのは料理とは言わないのですよ? アインズ様、私も一品お作り致しました。至高の御方のお口に合うか分かりませんが、是非御試し下さいませ」

 

愛情しか籠っていません!と言い切るアルベドさん。皮肉に顔を歪ませ威嚇するシャルティアさん。

 

 

あー。心を覗かせてもらいましたが、二人とも料理は壊滅的だったのにどうしてここまで自信たっぷりなのでしょうか?少し羨ましいです。

 

「そうか。アイテムの実験のつもりだったが、お前達が頑張った物なら私も嬉しいぞ。ありがたく頂くとしよう」

 

「あぁ、嬉しいでありんす… では、一番は私の料理からご覧くんなまし」

 

シャルティアさんが持ってきていた大皿の蓋を開けるとそこには。

 

 

古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)が鎮座していました。

 

 

あぁ、ヘロヘロさん、お久しぶりですね。こんな所で奇遇です。今日はちょっと無口ですね?

 

 

…おっと、私としたことがまた現実逃避してしまいました。

一瞬後、そこにいた全員がテーブルから飛び退ります。

 

「な、なな何これは!?シャルティア!貴方一体何を生み出したの!?」

 

流石のアルベドさんも混乱してシャルティアさんを掴み上げてます。

 

「シャルティア。怒らないから正直に答えろ。これは、なんだ」

 

アインズさんが冷静に問い質します。

落ち着いて見えますがさっきから感情抑制されまくりです。

 

「勿論、料理でありんす。 …と言っても実はやり方が分からなかったので、ペロロンチーノ様ご秘蔵の書物を少し参考に作ってみたでありんすよ」

「…その書物、見せてもらえるか?」

「はい、こちらでありんす」

 

アインズさんはシャルティアさんから薄い本を受けとると表紙を見て絶句しました。

 

気になったので《伝言》で聞いてみます。

 

『なんです?その本』

『これは、昔あったアニメの同人誌ですね。俺も知ってますが、確かこのヒロイン、超メシマズ女だったはず…』

『…そのメシマズ料理を、料理も知らない子が、良く分からない材料で作った結果がコレですか』

『ある意味、奇跡ですよ』

『…ですが、これ』

 

「で、これ食べるの?」

 

こいしの言葉が虚しく響きます。

 

全員が黙り込み、シャルティアさんだけが嬉々としてアインズさんに食べさせようと古き漆黒の粘体(仮)を押し付けていましたが、こぼれ落ちた粘体がテーブルを紫の煙をあげて溶かし始めたのを見て流石に諦めました。

 

あぁ、結構お気に入りのテーブルでしたのに…

 

 

 

 

「次は私ですわね。私はあの危険物とは違いますからご安心下さい」

 

自信たっぷりなアルベドさん。

…私にはその理由がもう見えてるのですが、わざわざ指摘するのも野暮ですよね。私としても、要はアインズさんが喜べばいいだけですから。

 

「さぁこちらをどうぞ。特製ローストビーフでございます!」

 

大皿の蓋を開けると、そこには見事な肉料理が。飾り付けも完璧です。

 

「おお!凄いな、アルベドよ。これは… 美味そうだ!」

 

アインズさんもご満悦です。こんなの元の世界では見ることすら出来ない代物ですからね。

 

「どうぞお召し上がり下さい!くふっ! 腕によりを掛けましたので!」

 

ついでに私もお召し上がり下さい!と続きそうですね。

でも、自分で作った…ですか。アインズさんも流石に首を傾げてますよ?

 

と、そこへ。

 

「コンコン。お邪魔するっすー。アルベド様、料理長からお届け物っすよ。「その至高のローストビーフは、この究極のソースをかけて仕上げだ」、そうっすよ。ちゃんと上にかけてから召し上がって下さいませ。では、失礼するっす!」

 

凄い勢いでやって来たルプスレギナさんが、言うことを言って究極のソースを置くと、ササッと帰って行きました…

 

また沈黙が全員を支配しました。

 

辛うじてシャルティアさんが信じられない物をみる目で見ながらアルベドさんに言いました。

 

「アルベド… おんし、まさか…」

「し、仕方なかったのよ!私があれ以上作ろうとすると料理長が泣きながら止めてくるんですもの!」

 

そしていやいやと泣きながらアインズさんに謝ります。

 

「申し訳ありません!不出来な物を至高の御方にお出しするわけにもいかず、ついあんな嘘を… この失態、この命で──」

「あぁ、良い良い。お前の全てを許すと私は言ったぞ。それに実は、私はお前達が料理を出来ないことを知っていたのだ」

 

そしてアインズさんは、最近の実験で分かった事を話しました。

 

「まぁ、この先も色々と出来ないことは見つかるだろう。そこらをどうするかが今後の課題だな」

 

上手く乗り越えられればLv100の私達でも成長できる、ですか。夢のある話ですね。…でも私は本当にそれを望んでいるのでしょうか? 変わらないことを望む事は、即ち成長すらも拒むことなのでは…

 

 

「…しかし、スキルが無いと料理も出来ないとなると、やっぱりさとり様も失敗だったでありんすか?」

 

シャルティアさんの言葉に我に帰りました。…つまらない事を考えるより、今はこちらに集中しましょう。

 

「…えぇ。残念ですが、私のレパートリーも殆ど役に立ちませんでした」

「あぁ、やっぱりそうか…」

 

残念そうなアインズさん。

うーん… この様子の彼に出していいものやら…

 

悩んでも仕方ないですね。

 

「…一つだけ、作れたものがあります。本当に簡単なものですが、それでもいいですか…?」

 

自信無く言う私に、アインズさんは頷きながら答えます。

 

「大丈夫だ。元々、簡単な料理を私は希望していたんだ。…頼むぞ」

 

あぁ、そう頼まれると弱いんです。

思いきって出してしまいましょう。

 

 

 

「これは…」

 

アインズさん達の前には、白米と薬味と出汁を入れたお茶が。

 

そうです、()()()()です。

 

各々を分けて用意し、材料を混ぜる直前にする所まではぎりぎり作れたのです。

 

「こんな雑な物を料理とは…」

「いや。構わん。私はこれがいい」

 

何か言おうとしたアルベドさんを、アインズさんは止めました。

 

そして皆が見守るなかご飯に薬味とお茶をかけ、食べ始めました…

 

あ。仮面を通してご飯が口に入るとそのまま消えていきますね。あれはどこに消えていくのでしょう…

 

私が現実逃避していると、アインズさんはひと息入れてから言いました。

 

「美味い」

 

お燐達から歓声が上がります。

私も少しホッとしたのか、椅子に寄りかかりました。

 

「シンプルだが出汁が効いていて美味い。何より久しぶりの食事だ、これくらい軽いのが一番嬉しいぞ」

 

そのまま一気に食べてしまいました。

こいしも知らぬ間に食べきっていました。

 

「…箸では食べにくいでありんすね。スプーンを用意してくりゃんせ」

「これがアインズ様のお好みの味…!覚えました…!」

 

マイペースですね、お二人は。

でもちゃんと食べてくれるのですね。

 

 

「…気に入っていただいたようで何よりです。では、他にも幾つかお燐が用意しましたので、アルベドさんの料理と合わせて皆で戴きましょうか。ゆっくり召し上がっていってくださいね」

 

そこからは色々な料理がテーブルに並びました。アインズさんも嬉しそうに召し上がっていましたし、アルベドさんもその様子を見て泣いて喜んでいました。

 

こいしに肉を盗られて怒るシャルティアさんに、お空が自分のを分けているのを見ている私に、お燐が囁きました。

 

「良かったですね、さとり様。今、さとり様も嬉しそうでしたよ」

「…そうでしたか? それは…」

 

私はそんなに食べていません。

この場に居るだけで何か満たされる物があったので。

それが何故かは分かりませんが。

 

「きっと、そうなのでしょうね」

 

私は、自分が微笑んだ気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか季節が巡り、年が流れ、何もかもが変わっても。

アインズはあの時の味を忘れていない、と語るそうです。

 

それはいつかのお話。




試験的な物でしたが如何でしたでしょうか。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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