覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside

ほぼ会話と導入になっております。


第18話

守護者を交えた会議は予想通りと言いますか、荒れました。

やはり至高の御方が二人とも外に出るという提案はかなり問題あったらしく、各位から再考を求められました。

 

しかし私の外出は、事前に根回ししたデミウルゴスさんが。アインズさんの外出は、彼に懇願されたアルベドさんが折れて、結果何とか全員からの承認を得る事ができました。

 

 

今日はその通達日です。

玉座の間に集められた守護者以下プレアデス等も含めた総勢50名近くを前に、アインズさんが人事を告げます。

 

「皆、よく集まってくれた。早速だが今日はナザリックがこの世界で活動する為の基盤作り、その任務を各自に通達する。 …その前に、知らぬ者もいるだろうから紹介しておこう。我が第一のシモベであり、宝物殿の領域守護者、パンドラズ・アクターだ。…おい」

 

頼むから余計な事は言うなよ? というアインズさんのアイコンタクトに、了解ですとも!と頷くパンドラズ・アクターさん。

 

あ、ダメですねこれ。ある意味少しも意思疎通出来てません。

パンドラズ・アクターさんはススッとアインズさんの横から前に出ると、手を高く挙げて言いました。

 

「ンご紹介与りましたッ!パンドラズ・アクターと申しますッ!粉骨ッ砕身の覚悟を持って任務に臨む所存ですので、皆様方もどうかお見知りおきを!」

 

そして完璧な姿勢でアインズさんにビシッと敬礼を決めました。

 

ポワンと感情抑制されたアインズさんは敬礼したままの彼を引っ張り小声で話始めます。

 

「だから!敬礼は止めろと言ったよな、なんでやった!挨拶なんて「チョリース!」とかで十分だと言っただろうが!」

「お言葉ですがっ!それはお父上の威厳に傷が付きかねません!」

 

仲の良いことで何よりです。

 

事前に部屋に押し込んで一晩中語り合わせた成果ですね。逃げない様に見張ってた甲斐もあるというものです。

 

しかしこのままでは話が進みません。

 

「…お父様、パンドラさん。進行をお願いします」

 

「分かった」

「分かりました」

 

よろしい。

あれ以来、何故か二人して私を怖がる時があるんですよね。変な話です。

 

 

「あー… パンドラズ・アクターには宝物殿管理の他に、各部署の補佐を頼みたい。基本はアルベドの補佐だな。 …宜しく頼むぞ、アルベド。お前には私が不在の時はナザリックの指揮を任せる事になる。その際は上手く使ってくれ」

「ハッ。御心のままに」

 

アインズさんはその答えに頷くと、改めて一同を見渡し、告げました。

 

「では、此れよりナザリックの異世界進出への第一歩となる命令を授ける」

 

「「「ハッ!」」」

 

 

「作戦を始めるにあたり、次のことを厳命する。まず、外で活動する際は必ず二人一組以上で行うこと。単独行動は厳禁だ。これは私達も例外ではない」

 

神妙な顔で頷く守護者ら。

 

「次に、任務外の交戦は極力避けろ。私達は未だこの世界の戦力を見極めていないからな。万一戦闘になるなら相手の情報をなるべく集めろ。死体は残すな。こちらの情報を渡すことになりかねん」

 

「最後に、報告、連絡、相談の厳守だ。これは配下各位にも徹底させろ。もし判断に困る場合は私かさとりに相談するんだ。…いいな?」

 

「「「ハッ!必ずや!」」」

 

 

「では、デミウルゴスからだ」

「此方に」

 

スッと進み出るデミウルゴスさん。

先日はお世話になりました。

 

「お前には既に情報収集の任にあたってもらっているが、並行してナザリックの資材確保を任せたい。兼任となるが、お前の力を当てにさせてもらうぞ」

「ハッ!必ずやご期待に答えましょう!」

 

「うむ。必要資材については後でアルベドにピックアップさせるので打ち合わせをしてくれ。お前自身が外に出る場合も誰かを供に連れて行くように。 同様に外を回っているシモベ達も最低二匹一組にしろ。もし何者かに襲われたら片方を囮に、もう片方を逃がせ。情報確保が優先だ」

「畏まりました。徹底致します」

 

 

「シャルティアよ」

「此処におります、アインズ様」

 

そっとスカートの端を持ち会釈するシャルティアさん。…胸パッド、少しズレてますよ。

 

「お前に頼むことは、この世界の未知のスキル、── 武技やタレントと言うらしいが── それらを持つ人物を捕獲してこい。必然的にナザリックの外に出ることになる。…こいし、お前にシャルティアの補佐を命じる。力になってやれ」

「えっ?わたし? …はぁい!分かったよ、お父さん。シャルちーのお仕事、手伝えばいいのね」

「えぇ妹様。宜しくお願いしますえ」

 

急に呼ばれたこいしは戸惑ってましたがすぐ内容を理解したようです。

何故かホッとしました。

授業参観で自分の子供が急に指された時とかこんな気分なのでしょうか?

 

むしろ突然のお父さん呼びに悶えているあの骸骨の方が問題ですね。

…軽い咳払いでアインズさんを我に返しました。

 

「…失礼。尚、捕獲する人間はなるべく居なくなっても問題ない奴等を選ぶように。夜盗やら山賊といった連中だな。ニグレド辺りに探査させてアジトを見つけ次第襲撃するといい」

 

「もし外れだった場合は鏖にしても宜しいので?」

「任せる。派手にはするな」

「了解でありんす」

「はーい」

 

 

「次にコキュートスだが、ナザリック内の警備を再編成してもらいたい。守護者が何人か不在になるからな」

「ハッ」

「幾つかのギミックはコストカットで止めているが、人員配置を替えて手薄になるようなら再起動しても構わん。もし兵が足りないなら私に相談しろ。召喚モンスターで補うつもりだ」

「ハッ!オ任セクダサイ」

 

「編成はすぐ済むだろう。その後は引き続きナザリックの警護にあたれ。…もしかしたらシャルティアが捕獲した武技持ち相手の実験に付き合ってもらうかもしれんな。その時は頼むぞ」

「ソレハ、楽シミデゴサイマスナ。全力デ当タラセテイタダキマス」

 

 

「次はマーレ。これが周囲の簡単な地図だ。お前にはこの地図の確認と、ナザリックの隠蔽を頼む」

「隠蔽、ですか…?」

「うむ。地図を見ると分かるが、現在ナザリックは草原のど真ん中に剥き出し状態だ。無駄に人を招く気は無いのでな、マーレ、お前は地図を見ながら不自然では無い様にナザリックを隠せ」

「は、はい… では、この辺に丘を作って…?」

「そうだな。方法は後で私らが相談に乗ろう。手が足りないならプレアデスの誰かに手伝ってもらうといい。そしてアウラよ、お前はマーレの補佐をしつつこの森の中に砦を作れ。出来れば籠城できるサイズの、だ」

「分かりました!森の獣やモンスターはどうします?」

「近寄らなければ放っておけ。騒ぐようなら洗脳して人足にするといい。そうそう、護衛役に空を就けよう。できるな?空」

「はいっ。おまかせをー」

 

お空はアウラさんの護衛ですね。アウラさん自身の戦闘力はそれほど高くないので、お空なら十分役に立つでしょう。やり過ぎなければ、ですが。

 

…心配ですねぇ。森ごと焼き払わないよう後で言い含めておきましょう。

 

 

「セバス、お前も外に出てもらう」

「ハッ」

 

「お前はソリュシャンと共に各国を回り、その国の兵器や魔法技術の練度を調査してこい。簡単には手に入らない情報だろう、長期間の調査を想定してかかれ。必要な資材はこのあと申請するがいい」

「畏まりました。すぐにでも準備に取り掛かります」

「うむ」

 

セバスさん、結局忙しくて満足にご挨拶出来ませんでした。まぁ彼に限って背信や謀反なんて有り得ないでしょうけど。今度落ち着いたら改めて声をかけましょう。

 

 

「次は、先日援助した人間種の村、カルネ村だが、かの村に支援要員を送ろうと思う。知らぬ間に滅びてました、では寝覚めが悪い。あの村は私の名の下に助けた村だからな」

 

この人、滅多に寝ないから悪いと思う機会も無さそうですが、そういう問題でもないですね。

 

アインズさんの提案にアルベドさんが感動したように手を合わせました。

 

「アインズ様… 下等生物如きになんとお優しい。しかしそのような雑務、シモベ以下の者にやらせてもよいのでは?」

「いや。そうもいかんのだ、アルベドよ。…私の見立てではあの村、放っておけば1年も待たずに滅びるからな」

「それは───」

 

「情報を見るにあの村、3か国の陰謀に関わったからな。近い将来、どこぞの国が痕跡を消しに来るだろう。なんとも運の悪い事だ。…正直、人間同士の争いで焼かれるのならそれでも良いとも思うのだが。自立できるまで最低限の支援を私の名で約束した以上放っておくわけにもいくまい。 …ユリ!そして燐!」

 

「はい、此方に」

「はいな」

 

アインズさんの声にプレアデスの中から夜会巻きに眼鏡をかけた知的な美人が進み出ました。

 

彼女はユリ・アルファ。プレアデスの一員で立場的にはセバスさんの直下、副リーダーな筈です。ああ見えても彼女の種族は首無し騎士です。あの首もチョーカーで止めてあるだけで取り外し可能すよ。

 

そしてもう一人はうちのお燐です。今は地霊殿の家政婦をこなしている彼女ですが、元々の役割は運搬役が主でしたから支援要員には最適ですね。

 

「お前達にカルネ村との外交員を務めてもらう。だが二人ともナザリックでの仕事もあるだろう。様子を見に行くのは3日に一回か呼ばれた時、程度でいいぞ。常駐する必要は無い。後で連絡用のアイテムを渡すから村長にでも渡してやれ」

「了解致しました」

「はい、了解です!」

 

エンリさんたち元気でしょうか。

気になる…程でもありませんが、お燐の挨拶ついでに会ってきてもいいかもしれませんね。

 

 

「そして、私とさとりについてだが…」

 

アインズさんは私の方を見て此方に来るよう促しました。

 

「私とさとりは、これから少し人間達の中で生活してみようと考えている」

 

「「───!?」」

 

結構な動揺が走っています。納得済みな筈の守護者にも若干の揺らぎがありますからね。やはり受け入れ難い事なのでしょうか。

 

しかし、アインズさんは彼等に静まるよう呼び掛けると続きを話します。

 

「お前達の言いたい事も分かる。だが、これはこれからナザリックがこの世界に出ていく上で必要な事なのだ」

 

「─── 今一度ご説明を頂いてもよろしいですか? さすれば皆も理解致しますでしょう」

 

デミウルゴスさんが代表してアインズさんに説明を促します。そして鷹揚に頷くとアインズさんは話を続けます。

 

「勿論だとも、心して聞け。我々がこの異世界に来てまだ日は浅い。にも拘らず、早くも先のカルネ村の争いに遭遇している。愚かにも人間共はこの世界でも国同士で争っているらしい。まったく、本当に嘆かわしい」

 

溜め息をつき頭を振るアインズさんに一同も顔を曇らせます。至高の御方を悩ませるとは! でしょうか?

 

「全てを滅ぼすのは簡単だ。しかし、中には争いを避け、我々に庇護を求める者達も居るかもしれん。我がアインズ・ウール・ゴウンの大元はそんな者たちを助ける為に作られたのだしな」

 

「───つまり人間共を救済すると?」

 

「否。断じて否だ。私は進んで奴等を助けるつもりは無い。戦争がしたいなら好きにさせておけ。…だが助けを求めるなら別だ。我らの傘下に入り我らと共に歩むなら受け入れよう。その資格があるかは私達自身が見極めようじゃないか」

 

そしてアインズさんは衣装を大きく翻すと高らかに宣言しました。

 

「その為に私はこの世界を知らなければならない!本当に我らと歩める資格者がいるのか? その者たちはどこにいるか? この判断を、私達は他の者には任せられん。何故なら、この判断にナザリックの未来がかかっているからだ!」

 

あと「俺が羽を伸ばす為だ!」ですよね。その為にパンドラさんの演技指導を嫌々受けてましたから。お蔭で見事な演説になってましたよ。

 

「そ、そんな深いお考えがあったのでありんすか…!」

「素晴らしい… このナザリックへの思い… 私もまだまだですね…」

「ソシテ、ナント慈悲深キ事カ」

「す、凄いねお姉ちゃん」

「うん!本当にお優しい方ね!」

「…アインズ様…素敵です…くふっ」

「このセバス、感動を言葉にできません…!」

 

そして守護者一同には大絶賛です。

 

…貴方達、大まかな事は事前に私が簡単に説明しておいたじゃないですか。何、雰囲気に呑まれて初めて知ったような空気になってますかね?特にシャルティアさん。

もしやあの骸骨、なんか変な魔法でも使って全体魅了してません? 不公平です。

 

「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」

 

なんて乗せられ易い人達でしょう。私心配になってしまいますよ。

 

 

肝心のアインズさんは、ウムウムと頷き場を収めると。

 

「それでは、この場はここまでとする。各自、行動を開始せよ。行け!ナザリックの子らよ!」

 

と、締めました。

 

「「「ハッ!」」」

 

整然かつ足早に立ち去る一同。

 

 

あぁ、疲れました…

戻ってこいし達とお茶にしましょ。

2時間くらいお昼寝したいです。

 

『あ。さとりさん、30分後、俺の部屋で打ち合わせで』

 

…疲労無効の指輪、着けとくべきでしたね。

 

 

 

 

────────────────

 

40分後、私はアインズさんの部屋を訪れました。10分遅れ?女は準備に時間がかかるんです。寝足りないとかはありません。

 

扉前のメイドさんに到着したことを伝えると、暫くして中に通されました。

 

「先程はお疲れ様です、アインズ様… おや」

 

奥を見ると、アインズさんはいつもの骸骨ローブ姿ではなく、漆黒の全身鎧に紅いマントで身を包み、私より大きな剣を2本も背負った姿で立っていました。

 

「さとりか。どうだ?この装備は。《上位道具創造》で作ってみたんだがな」

 

…骸骨姿も良いですけど、こっちも格好良いじゃないですか。ちょっと不覚でした。

 

「んー …悪く無いんじゃないですか? その格好だと、やっぱり冒険者になるんですね」

「あぁ。この世界の個人戦闘力を見れて、各国の様子も分かる。出世すればより深い情報も得れるだろうし、行くゆくはアインズ・ウール・ゴウンの名を売る役にも立つかもしれん。何より資金調達にもなるぞ、良いことづくめだ」

 

…そこまで上手く事が運びますかねぇ。

 

「随分と自信ありますね? まぁいいです、いざとなれば私がフォローしますから」

「…助かるぞ。娘にフォローされっぱなしと言うのも情けないがな。まあ冒険者歴なら私の方が上だ、任せておけ」

 

腕を組みながら自信たっぷりに話す彼はなんとなく無双の戦士っぽく見えますね。あくまで、それっぽいだけですが。

 

そして、思い出した様に私に聞いてきます。

 

「そうだ、私は同行者にナーベラルを選ぼうと思うがお前はどうする? それに現地でのカバージョブも決まっているのか?」

 

ナーベラルさんですか。あまり話したことはありませんが、確か魔法職に特化したドッペルゲンガーでしたっけ…

戦士に成りきるアインズさんには丁度いいのかも知れません。

 

…と、私の事でしたか。

 

「私のお供はルプスレギナさんにお願いしました。彼女も快く引き受けてくれましたよ。そして私が外で成りきる職業ですが…」

 

姿勢を正し、目の前の黒い鎧に告げました。

 

「私は、占い師をやろうと思います」

 

…上手く行くかは、神のみぞ知る、です。




まとめ

デミ → 情報収集、資材調達
シャル+こいし → スキル持ち確保
コキュ → 防衛隊編成
アウラ+お空 → 別荘建築、索敵
マーレ+暇な人 → 地図作り、隠蔽工作
セバス+ソリュ → 各国漫遊
パンドラ → 会計士、皆のお目付け役
ユリ+お燐 → カルネ村保護

アルベド → 総務、他全部


骸骨「ヤッホウ。羽伸ばすぞー」
覚 「ゆっくりできますね」
アルベド「………」

ひどいと思う。



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