覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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※さとりside
さとり主体の場合、一人称で進みます。


第1話

違和感を感じました。

 

モモンガさん一世一代の悪の演説を室内の片隅で聞き終えた私は、内心首を傾げます。

 

予定ではこの視界はすぐシャットダウン、私はあの、ツマラナイ現実に戻されるはずでした。

 

心の中のカウントは0、1、2、3と今も続いています。

 

はて… もしや、運営トラブル?

それともまさかのサプライズイベント?

 

いつものコンソールを呼び出そうとするが反応は何もなし。

 

頭をいくつもの疑問符が過り、何かしら言葉を口に出そうと、玉座に佇む豪華な骸骨に《目》を向けると。

 

(なっ…!?ログアウトしない?コンソールは…駄目だ。ではGMコールは…)

 

突如頭の中に視界に映る友人の声が朧気に響きました。いつもの《伝言》とはまた違い、それでいて喋る声とも違う言葉のようなナニか。

 

驚いて《目》を閉じる私。

 

かなり焦っている友人の骸骨、モモンガさんは私など忘れてブツブツ考え事を始めました。…もう頭の声は聴こえない。

 

…あれは彼の悪い癖です。

なんとなくイラッとした私が、彼に声をかけようと近づこうとした時、思わぬ方向から別の声が。

 

「何か…問題でもございましたか?モモンガ樣」

 

澄んだ女性の声。

見ると先程まで離れて頭を下げていたアルベドが立ち上りこちらを向いて話しかけてきました。

 

「私達に何か至らぬ点でも御座いましたでしょうか…? それともお体に異変が」

 

心配そうに眉をしかめながら。

NPCが口を動かし、自分から歩み寄ってくる!

 

「止まれ」

 

響いたモモンガさんの声にアルベドは立ち止まり、完全に呆けていた私も意識を取り戻せました。

 

「そこで暫く待て」

「ハッ」

 

一応彼の命令には従う様ですが…

そこに聞き慣れた声が頭に響きます。

 

『さとりさん。さとりさん!聞こえますか!』

『!? あ、はい。大丈夫です。…ちょっと混乱してますが』

 

あぁ、こっちは《伝言》ですか。

何だかややこしいですね。

 

『なんだかコンソール画面が開かずログアウト出来ません。時間になっても終了しないし、NPCは勝手に話し出すし』

『…そうですね、私も試しました。気付いてますかモモンガさん。アルベドがさっき喋ったとき表情を変えてました。まるで、生きているかのようでした』

『えぇ!?そんなプログラムはしてないですし無理ですよ!…でもそういえばアルベドが側に来たとき、甘い匂いが』

 

この骸骨匂い分かるんですか、鼻無いのに。

 

しかしそれは異常事態です。本来この手のダイブ系で幾つかの感覚に影響させる物は法律で厳重に禁止されている行為。匂いはその最たるものです。

 

で、あれば…

 

『…この姿が現実になった、のでしょうか。例えば違う世界に飛ばされたとか』

 

有り得ない現象を遥か昔からあるライトノベルの内容に照らし合わせる私。

 

(そんなっ! バカなことがあるか! …スゥ …いや、でももし! …ふぅ)

 

見るとモモンガさんは先程から何度か興奮した後、急に落ち着いたりしています。その際緑色にうっすら発光してて…その度に賢者モードになっているのは正直少し面白いです。飽きません。

 

『あぁすみません、さとりさん。取り敢えずは現状の把握を図ってみますね。仮にNPC達が本当に自分の意思を持っているならば反応が気になりますし。フム、あとはナザリックの中と外の状態も確認しますか』

 

そう伝えるとモモンガさんはてきぱきと各NPCに指示を出していきます。

 

その姿は正に支配者のそれでした。

 

『はい、了解です。…それにしてもやけに冷静ですね。すごいです』

『いえ、俺も一杯一杯ですよ… ただその、感情が一定以上昂ると強制的に戻されて冷静になれるんです。もしかしたらこれ、種族特性の精神異常無効とかが働いてるんでしょうか』

 

…そう、彼のゲーム内での種族はアンデッド。生者を憎むという設定の彼らには特性として精神異常に強い耐性があるのでした。仮に彼がアンデッドその物になったとすれば、それが今は有利に働いている、という所でしょうか。

 

…アンデッド特性、という言葉に一抹の不安を覚えますが。

 

まさか。この優しい友人が、いつか生者を憎む化け物になるなんてことは。

全く違う彼に変わってしまうなんてことは。

 

それは… 言うなれば彼の「死」

 

「……それで、さとりさんは安全が確認できるまでここで待機していて下さい。大丈夫です!どうやらゲーム内で覚えていた魔法や装備はこちらでも有効みたいですし、身を守る程度なら俺がなんとか。尤も色々と検証してみない事には …あの、さとりさん?」

 

大丈夫。きっと。

もしそんな事になったら今度こそ私の心は耐えられないでしょう。

 

「さとりさん… さとりさん!」

 

ひあっ!?

 

「あ… ごめんなさい。まだ頭が着いてこれなくて。何でしたっけ」

 

いつの間にか周囲にNPCは誰もおらず、モモンガさんは普通に話し掛けてきていました。

おぉ、顎骨が動いて声が出てます…

声帯とかどうなってるんですかねこれ。

 

「気にしないで下さい。今、NPC達を調査に向かわせてるので暫くここで休んでいて下さい。とりあえずは何かしらの情報が欲しいところです」

 

…そこまで状況が進んでましたか。

考え事で周りが見えなくなる悪癖は私も人の事言えませんね。

 

そう反省すると、私は改めてゆっくりと《目》を開きました。

 

今、目の前の友人(骨)からは少々の苛立ちと強い心配を感じます。

 

(全く、こんな状況下で呆けるなんて。でもまあ無理もない、彼女をここに連れてきたのは俺なんだし、俺が責任持たなきゃな…)

 

彼は変わってない。大丈夫。

変わったのは私の方でした。

 

ゲーム内の私の種族は「悪魔の目玉」

実の所、少女の体は擬体で本体は目玉、サードアイなのです。

 

さとりロールプレイの為に、相手の行動を読めるという触れ込みのこの種族を選んだ私を待っていたのは、触手の生えたでかい目玉。この衝撃、その時の絶望は今でも忘れません。

…まぁそのあと異形種狩りに追い回されている私を皆に助けて頂いたのがギルド加入の切っ掛けで、なんやかんやでこの擬体に寄生する進化を選べた私ですが。

 

…そこら辺は追々語ることもあるでしょう。

 

 

話がずれました。

そんな私が持つ種族スキル《第三の瞳》はゲーム内で相手の操作しているコンソール画面を盗み見れるというもの。有効活用できなければただのゴミ、しかも覚えるのは最後の方という特大地雷スキルでした。

当然ゲームオンチの私ではあまり上手く活用できず雰囲気作りの物と納得していましたが、モモンガさんも雰囲気作りのビルドもしていると聞いて少し嬉しかったのです。

そんな役立たずスキルでしたが。

 

チラリ、と彼を見ると、

 

(取り敢えずは魔法やスキルの確認かな。出来れば宝物庫でアイテムの確認もしたいけど、あそこにはアイツが居るんだよなぁ…)

 

このスキルは、《目》は、劇的な変化を遂げていました。

 

(何よりまずはさとりさんの安全確保だな!ここはアルベドも来るし、やっぱり安置はメンバー用個室か?…って流石に自室に女の子を連れ込むのはまずいよなぁ色々と。まずは同意と雰囲気を)

 

何考えてんですかこの童貞骸骨。

 

そう、心が、読めるのです。

具体的にはサードアイの目を開くとスイッチが入り、視界内にいる人の心が声になって頭に響く感じです。

 

つまり、私は名実共に覚妖怪「古明地さとり」になってしまった模様。

嬉しいやら悲しいやら…

 

「さとりさん」

「ひゃい!?」

 

噛みました。恥ずかしい。

 

「…? ちょっと色々確認したい事があるので移動します。さとりさんは出来れば誰かの個室に隠れていて貰っていいですか?大丈夫だとは思うんですけど、一応アルベドや他のNPCが襲ってこないとも限らないので」

「こ、怖いこと言わないで下さい!私弱いんですから。ご存知でしょう?」

 

嘘でも謙遜でもなく、私は弱いのです。

一応LvはMAXの100ですが、私、というより「悪魔の目玉」という種族は同Lvのプレイヤーどころか格下の相手にも圧倒されかねないのです。

 

勿論、その為の防御手段や奥の手禁じ手は用意していますが、生憎それらを生かす装備は全部自分の拠点の宝箱の中。今着てきた服はお気に入りの勝負服なのですが、実は戦闘効果は皆無な代物。

 

 

そして絶望的な事に。

モモンガさんはまだ気付いていませんが、あのNPCは。

 

「…失礼致しますモモンガ様、少し、宜しいでしょうか」

「あぁ、アルベドか。構わないぞ、何か問題でも見つかったか」

 

(何故、あのような裏切者が!この神聖な場所に…!しかも愛しき御方の側に…!)

 

私、なんかすっごく、嫌われているようなのですが。




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2/4 修正

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