覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside
※中盤、糖分多めです。ご注意下さい。


第14話

あの後、私は緊急搬送され、ペストーニャさんの看護を受けました。

ペストーニャさんとは犬頭のメイド長で高位の神官職でもあり… 言葉で説明しても解りづらいですか? では心で感じて下さい、ナザリック最萌ですよ?

 

「かなり危険な状態でしたが、峠は越しました。傷は魔法で塞ぎましたが、出血が激しかったのと精神を磨り減らしていたせいでかなり体力を失っています。無理はなさらない様に…わん」

 

絶対安静とか初めて言われました。

それからは、お燐やお空が泣きながら駆け込んできたり、こいしが傍を離れなかったり、隙あらば骸骨が説教にきたり、と色々騒がしくて全員ペストーニャさんに追い出されたりしていました。

 

 

そして数日が過ぎて。

私は再びアインズさんの部屋に訪れていました。

 

「お待たせしました、アインズさん」

「あぁ、さとりさん。もう体調は大丈夫そうですね」

 

待っていたアインズさんは一人きりでした。最近はどこに行くにも誰かが付いてくるとぼやいていましたが、珍しいですね。隠れて護衛している八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)すら居ないようですね。

 

「あら、今日はメイドさん達はいないのですか」

「この後の準備を任せているので。メイドや護衛も理由をつけて追い出しました。お陰でやっと自由になれたとこです。あいつらの前じゃ冗談のひとつも言えないからなぁ…全く」

 

あらら。見たところ随分参っているようですね。だからさっき泣きそうなメイドさんと擦れ違ったんですか、可哀想に。でも仕方ありませんか、私が休んでる間お仕事任せてしまいましたから、ずっと支配者ロールで気も休まらなかったでしょうね… 彼は元々一般人ですし。

 

「お疲れ様です。これからは私もお手伝いしますから。気軽に頼って下さいね」

「ありがとう、さとりさん。…先立っては貴方とNPC達の担当地区ですね。その辺りを、この後玉座の間で守護者達に通達します」

 

そう。以前の地霊殿よりも簡易型ですが、洋館タイプのセーフハウスがあったようで、私達はそこに住むことになりました。あのタイプのセーフハウスは課金アイテムで結構貴重なんですよ。アインズさん随分と太っ腹ですねぇ、骨なのに。建てる場所は第6階層と第7階層の中間辺りでしょうか。

 

「すいません、色々気を使って貰って。大丈夫なんですか?」

「いえ、いいんです。むしろ他に必要な物があれば言って下さい。あの時、俺は何も出来なかったんだから…」

 

…あぁ、まだこいしの一件を気にしていますかこの人は。

あれは私が勝手にやった事で、私の方こそお礼を言いたいのに。

彼の事だからずっと気にしていたのでしょう。それこそ寝ないで考え込んでいそうです。

 

……。そうだ。

 

「…アインズさん。玉座での会合は、まだ時間ありますか?」

「えぇ、まだ1時間以上ありますが、それがなにか」

 

「では、お昼寝でもしましょう」

「…はい?」

 

察しの悪い骸骨ですねぇ。

私はアインズさんの手を引き、フカフカの絨毯に座り込むと、自分の膝を手で叩いてこう言います。

 

「さ、どうぞ」

 

あ、感情抑制されてますね。

そんなにショックですか。

 

「な、なにがどうぞなんですか!」

「何って膝枕でお昼寝ですよ。知らないんですか? 骸骨のくせに」

「骸骨は関係ないでしょう骸骨は!? …いや、あのまだ会議の打ち合わせしてませんし、そもそも、俺、眠れませんし…」

 

…ふぅん?、でも心の中では満更でもなさそうなんですがね。まぁ時間も勿体無いですし、ここは強引にいきましょう。

 

私はそっとアインズの頭蓋骨を引寄せると優しく語りかける。

 

「いいじゃないですか、少しくらい休んでも。アインズさん頑張ってるんだし、これは私からのご褒美です」

 

そして何か言おうとするアインズさんを無視して、魔法を解き放ちます。

 

「…《抵抗貫通》《睡眠(スリープ)》」

「……!? ……ぁ…」

「抵抗しないで下さいね」

 

「………スゥ…」Zzz

 

…上手く効いたようですね。

しかし寝息って。貴方息して…、まぁいいです。

力の抜けたアインズさんの体をそっと横にして、頭を膝に乗せます。

 

…予想外に無抵抗でした。

寝られてしまうと心も読めませんが、恐らく彼の精神は疲れきっていたのでしょう。だからこんな下級魔法に抵抗すらしなかったのです。

 

彼には睡眠の大切さも知ってもらいたいですね。寝るのは体を休めるだけでなく、心のリセットにも有効なのです。積み重なった気疲れは早めに消化させないといけません。

 

今回は私がサービスしましたけど、次回からはアルベドさん辺りにお願いしてくださいね?

 

私はアインズさんの頭蓋骨を撫でながら、そんなことを思っていました。

 

お仕事まで後1時間。

私も少し、ゆっくりさせて貰いましょう…

 

 

 

────────────────

アインズside

 

 

私が目を覚ましたのは、きっちり1時間後だった。

 

柔らかい膝の感触を思い出すとかなり気恥ずかしいが、今彼は数日ぶりに清々しい気分なのだ、些細なことは気にならない。短い睡眠だったが効果は抜群のようだ。

 

突然魔法をかけられた時は、正直どうしようかと思ったが。しかし、ああでもしなければ自分は眠れなかっただろう。

 

睡眠の偉大さに暫し感動した後、立ち上がったアインズは隣の少女に礼を言った。

 

「ありがとうございます、さとりさん。いやー、なんかスッキリしましたよ!やっぱり人間、ちゃんと寝ないと良い仕事はできないもんですね!」

「…私は突っこみませんからね? でも良かったです。よく寝れたみたいで、効果もあったようですね」

 

さとりは自分が寝ている間、様子を見ていてくれたらしい。

…全く、この人には本当に敵わない。

もう不甲斐ない所は見せられない、と思い直し、アインズは少女に向き直る。

 

「もう約束の時間になりますね。そろそろ守護者達も、玉座の間に揃っているはずです」

「なら私もこいしを呼んできましょう。では、またのちほど。アインズさん」

 

少女が部屋を出ていった後、アインズは今日の会合の内容を彼女に殆ど伝えていなかった事に気が付く。

 

「あー…。ま、いいか」

 

どうせ前々から考えていた事の再確認みたいな物だ。いざとなれば彼女の方で心を読んでアドリブしてくれるだろう。

 

そう考え直すと、アインズは外に控えていた護衛達を引き連れ、部屋を後にした。

 

 

玉座の間では既に守護者一同が左右に別れ跪き頭を垂れていた。アインズはその間を通り、玉座に腰掛けると顎を右手に乗せて配下に声をかけた。

 

「面をあげよ」

 

支配者の声に一糸乱れぬ動きで顔を上げる彼ら。アインズは少し怯むが顔には出さず言葉を続ける。

 

「よく集まってくれた。感謝しよう。……あぁ、敬礼はいい。先日の騒動についての詳細とその当事者についての説明だな。知っている者も居るだろうが、改めて紹介しよう」

 

アインズが左手を振ると玉座の後ろから古明地姉妹が歩み出てくる。そして、姉のさとりがゆっくりと話始める。

 

「皆さん、この度は大変ご迷惑をお掛けしました。アインズ様のお力で世界級アイテムに狂わされていたこの子も無事正気を取り戻せました。このご恩に私達姉妹は一層の忠義を誓います。…さ、こいしもご挨拶して?」

 

黒い帽子を被った、こいしと呼ばれた少女が手を挙げて元気よく答える。

 

「はーい。こいしといいます。姉がお世話になりました!これからもよろしくね」

 

微妙にずれた挨拶をする妹に苦笑するさとりだったが、その顔は妹が可愛くて仕方ない、といった様子に見えた。

更にその様子を見て密かに涙を流すアルベドもいた。

 

「良かったです… 姉妹の仲が元通りになって本当に良かったです… 私は…! うぅぅ」

「…まぁアルベドの気持ちも分かりますが… 前にも十分泣いたでしょうに」

「オ前モ目ヲ拭ケ、デミウルゴス。シカシ、妹様ノアノ身ノコナシ、アレハ只者デハナイゾ。一度手合ワセ願イタイモノダ」

「さとり様も嬉しそうだね!お姉ちゃん」

「そりゃそうよ、マーレ。愛情深いお方だもの。本当に良かった…」

「…それにしても、さとり様は当然至高の御方というお立場でありんすが、こいし──さんはどういったお立場になるのでありんすかねぇ…?」

 

様子を見守っていたアインズはひとつ頷いた後、場を纏める。

 

「…色々な経緯もあったが、さとりと妹のこいし、そして彼女らの配下。この度、彼等の正式なナザリックへの加入を、この私の名の下に認めようと思う。そして、」

 

一度言葉を止め、咳払いをした後続ける。

 

「此度の騒動で、私は今後のナザリックに必要な物のひとつは絆である、と判断した。その為に、私は、この古明地姉妹と親子の縁を結ぼうと思う!」

 

「「「…。ウ、ウオオオオォォ!!」」」

 

一瞬の静寂の後、割れるような歓声が玉座の間を揺らす。それを片手で制し、ナザリックの支配者は高々と告げる。

 

「皆の者、聞け!これより我らナザリックはこの異世界に進出する。その際に頼りになるものは、そう、お前達のすぐ隣に居るものだ。たとえ困難があろうとも仲間と、家族と協力すればきっと乗り越えられる、私はそう信じている。そして、ナザリックの子らよ!私にとって、お前達も私の家族であり、宝だ!!」

 

 

「「「ウオオオオォォォ!!!」」」

 

もはや感動の坩堝と化した玉座の間で、デミウルゴスも一人感動の波に震えながら言葉を絞り出した。

 

「…な、なるほど。流石は至高の智慧をお持ちの御方。そして何という慈悲深さ…!」

「…ドウイウコトダ、デミウルゴス」

「あの御方は我らに足りない物、我らの不安、その全てを見抜いておられた。そして我らが一丸となれる様、御自らが実践なさってくれたのです…!」

「オオ…!スバラシイ…!」

 

守護者達に更なる感情が走る。

有るものはあわよくば自分も至高の御方の更にお近くに。

有るものはナザリックの未来に思いを馳せて。

有るものは、

 

「く、くふっ!ア、アインズ!私も家族、でございますか!?家族なんですね!?それでは早速、か、家族計画をたてましょう!子供は何人作りますか!?騎士団が結成できる位ですか!?お任せ下さい!!」

「し、守護者統括殿が御乱心!止めろ!アインズ様を守れ!」

 

アインズ護衛隊の八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が飛び掛かったアルベドを押さえつけているが、それも騒乱の一部である。

 

やがて喧騒はひとつの賛歌に変わっていった。

 

「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!古明地様万歳!ナザリック万歳!!」」」

 

その斉唱をアインズは満足げに、しかしどこか寂しげに眺め続けている。

そして、さとりもまた何かに気付いた様にアインズを見つめていた…

 

 

 

─────────────────

会合も終わり、アインズは部屋で報告書に目を通していた。時間は、もう夜になっているだろうか。ナザリックに居ると睡眠の必要無いアインズには時間感覚が酷く曖昧だった。

 

部屋の片隅にメイドが控えているが、今はもうあまり気にならない。これは慣れか、それとも一種の成長なのだろうか。Lv100の自分はこれ以上成長出来ないと思っていたが、もしかしたらこの世界では成長の余地があるのかもしれない。現にあの時さとりは、正面から前衛職のこいしを出し抜いてみせた。彼女のあの行動力と瞬発力は、アインズの知るユグドラシル時代のそれを超えていた。尤も、あれが彼女本来の実力なのかも知れないが。

 

アインズは知らぬ間に書類を置き、また思考に耽っていた。

 

それに比べて自分はどうだ?確かに支配者ロールは上手くこなせる様になった。きっと今日の言葉も守護者達には心地よく響いているに違いない。

しかし。

 

(…仲間を信じて、か)

 

どの口が言うか。

信じて裏切られた自分が口にできる言葉ではない。だがそれ故に、あの創造者に捨てられたNPC達をこれ以上裏切りたくない。

それは自分が裏切られたくない気持ちの裏返しだから。

 

(クソッ…!自分が惨めに思えて仕方ない。俺がやっていた事は結局、只の自己満足に過ぎなかったんだな)

 

感謝抑制スレスレの苛立ちに悩むアインズの耳に、扉の外からセバスの声が聞こえた。

 

「…アインズ様、さとり様が御目見えです。御通ししても宜しいですか?」

「…構わん。通せ」

「ハッ。此方に」

 

こんな時間に…?と思ったが、気分転換したかった所だ。鬱々とした思いを隠し、アインズはさとりを招き入れた。

 

「こんばんわ、アインズお父様」

「あぁ、さとりか。何か用でも出来たか?」

「…まだお仕事中でしたか。今夜は雲も無く夜空が綺麗だと聞いたので、ご一緒に見たいと思いまして」

「…そうか。悪いがまだ仕事が──」

 

()()()()()()。大切なお話があります。私と来て下さい』

 

《伝言》で直接頼まれてしまった。

大事な事なのだろう。

 

「──分かった。娘の頼みだ、行こうじゃないか」

 

そう言って、アインズは重い腰を上げた。

 

 

ナザリック地表部から外に出ると、そこはもう夜の帳が下りていた。

供は要らないと断ったが、しつこく食い下がるので、離れた場所にアルベドとデミウルゴスを待機させた。この二人ならどんな事態が起きても対応できるからだろう。

 

スモッグも無い満天の夜空。

二人は暫し、元の世界では見られなくなっていた星々の美しさに言葉を失っていた。

 

「…本当に宝石箱の様ですね。ブルー・プラネットさんが言っていた通りです。あの人にも見せてあげたいですね。きっと喜びますよ」

「そう、ですね… 来られればの話ですが」

 

本来なら会話が弾むはずの仲間の思い出話なのに、今はそれが無い。

 

「…アインズさん」

 

咎めるような口調の彼女が3つの目でこちらを見ている。

 

「すみません。今のさとりさんなら心を読んでもう分かっているでしょう? ───俺は、仲間に見捨てられていたんだ。本当はこの名を名乗れる資格も価値も無い」

「それは──」

 

一度口に出したらもう止まらなかった。痛々しげな目で見るさとりに、アインズ ─── モモンガは吐き出すように一気に捲し立てた。

 

「そうだ、俺には、仲間とか家族を語る資格なんて無い。そんなもの!俺にはもう無かったんだ!最終日、誰も俺の元に来なかったあの時、俺は思い知った。俺には最初から絆も何も無かったんだ!!」

 

慟哭する。

感情抑制が間に合わない。怒りとは違う胸の圧迫感に苦しさを覚える。

息を切らし肩を震わせるモモンガに、さとりは一言。

 

 

「馬鹿ですか。貴方」

 

あまりに冷たい声にモモンガは思考が止まった。

 

「何だと…?」

 

哀しみと怒りがモモンガの中で爆発する前に、彼女は言葉を続けた。それは彼にとって予想外過ぎる内容だった。

 

「…馬鹿って言ったんです。自分に向けられた想いを無視して泣きじゃくるなんて子供にも程がありますよ?」

「泣いてなど───」

「いいですか。貴方は、皆に愛されています。この私が嫉妬するほどに」

「な、何を言ってるんだ。現にあの時、誰も」

「…誰一人として来なかった?…ではモモンガさん、もし彼等が全員、別の場所で集まっていたとしたらどうですか?それも貴方を待ちながら」

「───!?」

 

混乱。意味が理解できない。何を言ってるんだこの女は。

 

「私はずっと不思議だったんです。何故ギルドリーダーの貴方が、最終日のあの日に開催されていたギルドのオフ会に参加してないのか、と」

「えっ」

 

何を言ってるんだ、いや、本当に。

 

「…私のとこにも来ましたよ、さよならユグドラシルお別れ会のお誘いメール。ペロロンチーノさん主導で、ありがとうモモンガさん!リーダーを労う会も同時進行するとか書いてありましたし、貴方のところにも送ってあるはずです」

「…マジですか」

「…マジです。当日ちゃんとメール確認しましたか? …今のアドレスは毎日、ですか。では旧アドレスは?ペロロンチーノさんの事ですから、うっかり現役時代のアドレスに送ったんじゃないですか?」

 

今度こそ、彼の目の前が真っ暗になった。あの、鳥人間… 最後の最後でやらかしたというのか!

 

「…私も途中まで連絡受けてましたから状況は知っていますが… 恐らく主だった人達は皆さん参加してたようですよ?メインイベントはたっちさんとウルベルトさんの数年越しの仲直りだそうです」

「…う、うわあああああそれ見たかったああ!!」

 

断末魔に等しい叫びを上げて崩れ落ちるアインズを、今度は優しく諭すさとり。

 

「…私はてっきり、律儀なモモンガさんはユグドラシルの最後を看取った後で途中参加するのだとばかり思ってました」

「お、教えて下さいよ…それ…」

「あのままログアウトしてたら私がすぐメールしてましたよ、翌朝までやってるって聞きましたから」

 

全て自分の早とちりだった。

仲間は、絆は変わらず存在し、勝手に諦めていた自分は彼女の言う通り馬鹿だったのだろう。

 

がっくり肩を落としながらも、アインズは心が晴れていくのを感じていた。

 

「そうか… 俺の勘違いか。ははっ。やっぱり泣きたい気分だ… 皆にも謝りたいな。皆に、会いたい、な… 」

 

顔を骨の手で覆い肩を震わせている様子は、本当に泣いている様に見えた。

それを見てさとりは少し不安げに問い掛けた。

 

「…モモンガさん。今だから聞いておきます。貴方は、元の世界に、帰りたいですか? 貴方を待つ仲間が居る、あの世界に」

「───!」

 

言葉に、詰まる。数分前の自分なら帰らないと即答しただろう。だが真実を聞いた今では、決して即答出来ない。

 

「ちなみに、私は帰りたくありません。そもそもあちらの私は外出も儘ならない程弱っていましたし。それに、此方には捨てられないものが多すぎます」

 

ショックな初耳もあったが、その言葉にアインズとしての自分を思い出した。

 

「そうですね。俺も、いや、私にも守りたい物がここには多く存在する。ナザリック。アインズ・ウール・ゴウンの名。友の残した子ら。さとり、さん」

 

振り向き、アインズは誇らしく語る。

 

「私もここに生きよう。そしてナザリックをこの世界に楔の様に打ち込んでやろう!そうだ、世界のひとつやふたつ征服してやろうじゃないか!」

「その意気です。アインズさん。それにもうひとつ、貴方の目的になりうる事をお話しましょう」

 

彼女は少し微笑んだ後、悪戯を思い付いた子供の目で話し出す。

 

「最終日のあの日、なかなか顔を出さないモモンガさんを呼びに行こうと、時間ギリギリにも拘らず何人かがユグドラシルにログインしようとしてたんです」

「───まさか!?」

「本当に間に合ったかまでは、さすがに私も分かりませんが… もしかしたら彼等の内、誰かはこっちに来れるかもしれませんね」

 

絶望から希望へ。本日のアインズの感情抑制は超過労働勤務だ。

 

「確かこっちで得た情報だと100年おきにプレイヤーとおぼしき存在が転移してきているらしいが…」

「はい。ですから、100年後、200年後にギルドの誰かがひょっこり現れる可能性があります。勿論、今この時、どこかで私達と同じ星空を見ている可能性もあるんです」

 

そうか…

ならばもう、悩む必要は無いんだな。

 

「そうです、必要なのは目印。───その為に、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に響かせましょう。いつどこに仲間が現れてもすぐ分かるように。この世界の伝説があるならばこの名で塗り潰してしまいましょう。英雄がいるなら叩き潰してしまえばいいじゃないですか。この世界の誰もがアインズ・ウール・ゴウンの名を忘れられないようにしてあげるんです」

 

少女は骸骨の手を取ると、いとおしげに撫でて囁いた。

 

「貴方にはそれが出来るのですから」

 

 

きらびやかな星空の下、大柄な体躯が少女の言葉に大きく頷いていた…

 




これにて1章は閉幕となります。
お付き合い頂き、本当にありがとうございます。
2章は構想が出来次第進めますが、次章は1章と少し雰囲気が変わるかも知れません。ほのぼの寄りにしたいのですが… どうなることやら。


ご意見、ご感想お待ちしております。

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