覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside


第12話

壮観でした。

 

ナザリックの各守護者がシモベを引き連れ一堂に会し、この玉座の間に集結しているのです。

 

…この人数分の心を一々読んでいたら頭がパンクしますので読心スキルは止めておきましょう。まぁ読まなくても分かりますが。ナザリック万歳です。

 

「諸君、よく集まってくれた」

 

アインズさんの言葉に一斉に頭を垂れる一同。アルベドさんが代表して答えます。

 

「勿体無き御言葉。我ら守護者は至高の御方の為なれば」

 

その言葉に一斉に頷く守護者一同。

確か…

 

第一から第三階層の守護者、シャルティアさん。

第五階層守護者、コキュートスさん。

第六階層守護者、アウラさんとマーレさん。 …マーレくんでしたっけ。

第七階層守護者、デミウルゴスさん。

そして守護者統括、アルベドさん。

セバスさんはプレアデス達を連れて脇に控えています。

 

彼等の背後には各々が率いる異形のシモベ達がギッシリ控えています。

喧嘩したら絶対勝てない面子ですね。

…早くも胃が痛くなってきました。

 

「面を上げよ」

 

全員の顔を眺めたあと、満足そうに頷きアインズさんは続ける。

 

「まずは、先の出撃の件を謝っておこう。私の独断だ、許せ」

 

この言葉に慌てて口を開こうとする部下を手で制し黙らせるアインズさん。この骸骨、なかなか様になってきてますね… 侮れません。

 

「良い。 …まだ、お前達に伝えるべき事がある。 私はここに至り、名を変えようと思っている。理由は色々あるのだが…」

「それは…?」

「─── 我が名は、アインズ・ウール・ゴウン。これからは私をアインズと呼ぶが良い」

「御尊名、確かに伺いました」

 

アインズさんじゃないんですね。彼には皆に親しみある上司役を目指して欲しいのですが。

 

「そして、次こそがナザリック全シモベに伝えたい事だが」

 

アインズさんは一度と言葉を切り、後ろに控えていた私を前に促すと、

 

「ここに至り、私は懐かしき絆を取り戻すことが出来た。一時はここを離れていた彼女だが、運命は再び我らを巡り合わせてくれた。私は彼女、古明地さとりを再びナザリックに迎え入れるつもりだ。栄えある42人目の再臨だ!」

 

ウオオオオオォォォ!

 

ちょ、なんですかこの盛り上がり!

彼等のテンションは一気に最高潮、私の胃痛も一気にヒートアップです。

しかも守護者間では、

 

「ああっ…、あのお方は、嘗てペロロンチーノ様が仰られていた方… 素敵な方でありんすね…!」

「…マサカ、コノ様ナ素晴ラシキ日ガ来ルトハ。ドウダ、デミウルゴス。貴殿ニハ読メテイタカ」

「いいえ。まだまだでした…!私としたことが感動のあまり思考を止めてしまいましたからね…」

「す、凄いよ、お姉ちゃん…!あの人って…」

「えぇそうよマーレ!前にぶくぶく茶釜様とよくお茶していた方よ!」

「………グスッ」

 

感動の嵐が吹き荒れています。

ア、アルベドさん泣いてるんですか。

 

「しかし彼女はまだ戻って日が浅い。暫くは皆で彼女の助けになってやってくれ」

 

そしてアインズさんは立ち上がると。

 

「本日は以上だ。この後は今後の方針についての会議となる。デミウルゴスとアルベドは残ってくれ。他の各員は持ち場に戻り伝令を待て」

 

「「「ハッ!アインズ様万歳!!さとり様万歳!!」」」

 

お開きになりました。

 

あの…私…。挨拶すら、してないんですが?

 

───────────────

『ご、ごめんなさい、さとりさん。つい皆のテンションあがっちゃって。すっかり進行忘れてました』

 

このうっかり骸骨め…!

 

『…まぁあの集団にスピーチしろとか難易度高すぎですし、かえって助かりました』

『では次の機会に』

『嫌です』

『そんなぁ』

 

さて気持ちを入れ替えましょう。

実はアインズさんは方針会議としながら、先に私の問題を解決するようです。

 

その為にナザリックの知恵者であるデミウルゴスさんとアルベドさんに残って頂き、力を借りようとしています。

 

今、アインズさんが先程起こった襲撃事件を二人に説明しています。襲撃と聞いてアルベドさんが目に見えて怒っていますが、とりあえず見ないことにしますね。怖いですから。

 

「…ふむ、そうですね。さとり様にすら感知すら出来ない襲撃者ですか。しかも事件は普段は誰も立ち入れない場所…」

 

デミウルゴスさんが顎に手を当てて考え込んでいます。当初の方針会議でもない、本来は他人事なのに真剣そのものですね。この人本当は天使なんじゃないですか?

 

「失礼ですがさとり様、何か思い当たる節はありませんか?襲撃者の声や動作、武器の特徴等は…」

「いえ…私からは何も見えませんでしたから。急に襲われてなんとかやり過ごし、声も女の子としか…」

 

そこでデミウルゴスさんは今度はアインズさんに向き直り。

 

「アインズ様。私の知識不足を何卒お許し下さい。そしてもしお許し頂けるならば、その偉大な智恵をお貸し下さい」

「良い。許すぞ。なんだ言ってみろ」

 

…俺に分かる範囲ならな! とか思ってますね、あの人。でもデミウルゴスさんの考えだとこれ以上なく適任かと思います。…なるほど。

 

「ありがとうございます。お聞きしたいのは、マジックアイテムについてです。 気配遮断や不可知化等が付与されて、尚且つ記憶や記録にまで影響を及ぼす、と言った物が思い当たりますでしょうか…?」

 

そんな出鱈目な効果のアイテムなんて有るわけ無いじゃないですか。

ねぇアインズさん?

 

「あるな…」

「やはり」

 

えっ

 

「さとりもよく知ってるはずだろう。あれだ、ギルド立ち上げの記念に渡した世界級アイテムだ。確か名前は…」

 

アインズさんは虚空に手を突っこみ、中から小さな手帳を取り出してめくり始めました。

私は…というと、全く覚えが無くて混乱中です。なんですか、今の言い方だと私借りパクしたみたいじゃないですか。

 

「おぉ、あった。《歌姫の透刃》

か。持つ物に永続的な《完全不可知化》を付与して魔法感知すら無効化するとか。更に装備するとフレンドリストからも消え、パーティーすら組めなくなるデメリット有り、と、威力も良くて中級クラスか。相変わらずあの運営はなに考えてんだか分からんな!」

 

私は、聞いている。その先も。

 

「ふむ。このアイテムのフレーバーテキストは『歌姫の透刃。嘗て表の顔は歌姫、裏の顔は姿なき暗殺者の女が振るった青く透明な短剣。彼女の名は誰の記憶にも残らなかった。残されたこの刃を振るう者は、その呪いにより存在そのものを薄め、誰の記憶からも消え失せた後、自らも消え去る』だな。」

 

「素晴らしき智恵。このデミウルゴス、心から感服致しました」

「…この武器、性能自体は微妙だし、さとりが欲しがって皆の了解を得てから彼女に贈ったんだが。本当に覚えてないのか?」

 

力無く頭を振る私。

…もしかして。

 

「アインズ様、これは私の予想でしかないのですが」

 

デミウルゴスさんがそう切り出す。

 

「もしかするとこちらの世界に移ってからアイテムの効果が変化してるのではありませんか?聞けば遠隔視の鏡も仕様が変わったとか。であれば、世界級アイテムとなると我々の常識では計れない変化があるやも知れません」

「──!」

「この場合、恐らくは説明の通り呪いとやらが形を持ち、関係者一同から彼女に関する情報が消え去ったのでしょう。そしてアインズ様は元々世界級アイテムをお持ちの為、記憶障害を免れた次第ですな。装備している期間から考えますと彼女自身の記憶も危うい状況かと」

 

な、なるほど… さすがデミウルゴスさんです。あの情報でここまで予想しますか。

 

「うむ、流石だなデミウルゴス。ということは…」

 

「はい。対策としては、世界級には世界級を、でございます」

 

「良し。悪いがアルベド、《真なる無》をさとりに貸してやってくれ。私は遠隔視の鏡で地霊殿跡地を見てみよう」

 

そういって鏡を用意し始めるアインズさんと手伝うデミウルゴスさん。

アルベドさんは私に近寄り、彼女の持つ世界級アイテムを差し出してきました。

 

…これを受け取ったら、私は引き返せなくなる。そんな予感がしました。

 

「私にとっても大切な物です。無下には扱わないで下さいますよう。…どう致しました?」

「勿論です、アルベドさん。…ごめんなさい。少し怖くて」

 

謝る私を、優しく抱き締めてくれるアルベドさん。…ありがとう。

そして、私は受け取った《真なる無》を強く握り締めた。

 

「お、映ったな。ふむ… 殆ど廃墟同然だが、入口に一人女の子が座っているな」

「…私からは何も見えませんね。世界級をお持ちのアインズ様にしか見えないようです」

「さとり、彼女に見覚えは… さとり?どうした!」

 

私は。

なんということを。

 

思い出しました。

私がした事も、映像に映る彼女、黒い帽子を被り、長めのウェーブがかかった薄緑の髪に黄色い服に緑のスカート、特徴的な青い大きな目玉の飾りは、今はきつく瞼を閉じている… 古明地こいしと言う名の、私の妹と設定された拠点NPCの事も!

 

目の前がまっくらです。

 

 

「…すみません。落着きました」

「話して、くれるか」

 

私はアルベドさんに支えられて何とか立っている。でもアインズさんの問いには答えないと。

 

「彼女は、『古明地こいし』 私のたったひとりの妹で、同時にただ一人の拠点守護者でした」

 

私はアインズ・ウール・ゴウンを離れたあと自分のギルドを立ち上げ、そこで念願の彼女を制作しました。『古明地さとり』を演じる以上、『古明地こいし』は欠かせませんでしたから。

 

いいえ、それは建前。私は、家族が欲しかったんだ。

 

丁度その頃、現実世界で家族を一人亡くした私は、その喪失感をユグドラシルで補おうとしてしまったのです。

馬鹿な話だと今は思いますが、あの頃の私はそれ以外考えられなくなっていました。

 

彼女にはギルド武器を守って貰う為に最高品質の装備を与え、元ギルドの方に最高の職ビルドを考えて貰いました。その頃から世界級アイテムを持たせていましたね。

 

私は毎日彼女の元に通っていました。

お人形遊びみたいな家族ごっこ。

一方的な会話。

ずっと続くかと思われた無益な遊び。

 

 

それはあるものを見つけた時、突如終わりを迎えます。

 

私が彼女の元に通っていたのはその時まで。以来、私は彼女、こいしの前には姿を見せていません。

 

「何故ですか!?」

 

アルベドさん…

 

「ごめんなさい…私は、あの子を愛してあげる資格なんてなかったんです。誰かの代わりにするなんて」

 

例えゲームの中の人物だとしても、それはしてはいけない行為、赦されざる罪。結果、罪の上塗りでしたが。

 

「だからと言って!置き去りにするなんて、哀れすぎます!どうして!」

 

食って掛かるアルベドさんに、私は何も答えられません。

肩を掴み揺さぶる彼女を止めたのはデミウルゴスさんでした。その彼が呟くように語りかけます。

 

「アルベドを責めないで下さい。置き去りにされる者の気持ちは、私には、私達には分かってしまうのですよ… ご理解して頂けますでしょうか」

「デミウルゴスさん…」

「貴方様には他に誰かが居てくれたのかも知れません。でも、こいし様にはきっと貴方しか居なかったのですよ?」

「はい… 」

 

分かっています。分かっているのですが…

 

 

「もう良いだろう。さとりも少し疲れている。一度休んでからこれからの対応を考えようじゃないか」

 

項垂れる私に耐えかねたのか、アインズさんが提案してきました。

…助かります。

 

「畏まりました。では私とアルベド殿で対応策を幾つか検討致しましょう。 …さとり様、初日でありながら無礼な発言の数々、申し訳御座いませんでした」

 

では、と言い終えて退出していくデミウルゴスさん。

 

「…さとり様。こいし様の事、お嫌いになった、からお捨てになったのですか…?」

 

まるで自分が捨てられた様な言い方をするアルベドさんに、私は《真なる無》を返しながらハッキリと答えます。

 

「いいえ。そんな事は無いです、絶対に。ただ、ちょっと私の心の整理が付かなかっただけ、なんです」

 

その言葉に安心したのか、彼女は頭を下げそっと退出していきました。

 

「では、俺達も少し休みましょう。よく見たらさとりさん全然回復してないじゃないですか。今は休んで二人が良い案を考えて来るのを待ちましょう」

「そうですね。では私も自室で待機しています。何かあったらすぐ呼んで下さい」

 

そう言うと扉に向かう私。

後ろから心配そうな声がかかりました。

 

「…本当に休んでくださいよ。無理したら本当に怒りますからね」

 

その言葉に、心外そうに答える。

 

「勿論です。私、弱いんですから。無茶なんてしませんよ?」

 

 

と、嘘をついた。

 

多分、こいしは私を待っている。

そう、思える。

 

だから、行かないと。

また記憶が薄らぐ前に急がないといけない。

 

私は気付くと駆け出していた。




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