覚り妖怪と骸骨さん   作:でりゃ

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さとりside


第11話

《転移門》で地霊殿に戻ってきた私は、お燐に夕食は3人で食べましょうと伝え自室に向かいました。

本来ならペット達を心ゆくまでモフるのですが、今日は我慢。

部屋で目的の物を探します。

 

「どこの箱にしまいましたっけ… あぁありました。 …一番奥、ですか」

 

じゃーん。

取り出したのは、薄透明のマネキンの様な仮面(マスク)です。 この仮面(マスク)を着けると一時的に飲食が可能になる、という効果があります。

 

これはユグドラシル時代に、あるバレンタインイベントの際運営が女性プレイヤーに配布したイベントアイテムです。自分で作ったチョコをどれだけ多くの人に食べて貰えるか、という狂ったイベントでした。その際、意中の彼が異形種だった場合はこの仮面をつけて貰って食べさせろ、という事でした。この仮面(マスク)では食事のブースト効果までは発生しないので、当時は只のジョークアイテムでしたが、こちらでも使えますかね。

 

とにかくこれをアインズさんに着けて貰えば彼も食事が出来る、かもしれません。

これで第一問題クリアです。

次は…

 

「さとりさまー。ご飯できましたよー」

「はーい。今行きますね」

 

続きはご飯食べてからにしましょ。

 

 

「…え。さとり様向こうのギルドに入るって、地霊殿出ていっちゃうんですか!?」

「大丈夫よ、お燐。私だけじゃなく貴方達も加入させて貰いますから。ギルドマスターはアインズさんですから後で挨拶に行きましょうね」

「なんだ、そうですか。…さとり様が決めたことなら私達は従いますよ」

 

夕飯をお燐、お空、私で囲みながら今日あった事を簡単に話しました。

今日の夕飯は焼き魚とサラダとお味噌汁。素晴らしいですね。

 

「お燐のご飯は美味しいですね」

「あ、ありがとうございます!」

「ねぇさとりさま、アインズさんて誰ですかー?」

「あぁ、アインズさんはモモンガさんのことですよ。名前を変えたそうです」

「?」

「…お空は難しく考えないでいいです。偉い骸骨のアインズさん、で覚えておきなさい」

「はーい」

 

── 少女食事中 ───

 

「…ごちそうさまでした。そう言う訳ですから急な話ですけどお引っ越しの準備をお願いしますね。最低限必要なものだけでいいですから」

「分かりました。お空、重いもの運ぶの手伝ってね」

「うん、任せて!」

 

お燐の持つ猫車はかなり大量の物が運べますので任せて大丈夫でしょう。

 

自分で言っておいてアレですが意外と軽い反応ですね。お燐達は拠点NPCではなく傭兵NPCだから拠点より私優先なのでしょうか。

でも、この子達も問題なさそうです。ペットを課金アイテムの収納にハウス移して一気に運べばいいでしょう。

 

「では、私は地下に行ってきます。用意ができたら呼んで下さいね」

 

 

 

 

自分の荷物を纏めた後、私は地霊殿地下に向かいました。

ここは2層構造になっていて地下一階は生産用施設や換金設備が置いてあります。これまで金策に使ってきましたが、ここら辺はナザリックにも常備されてましたし特に持っていく必要も無いでしょう。貴重品だけ鞄に入れて行きましょうか。

 

生産施設を通りすぎ、私は地下二階を目指します。かなり深い階段を下りると、照明も最低限の薄暗い石造りの簡素な部屋に着きました。

 

実はここは拠点でも最重要地点、破壊されたらギルドが崩壊するという我がギルド武器が納められている部屋です。

あのギルド:アインズ・ウール・ゴウンでは超性能のスタッフをギルド武器にしていましたね。

うちのは単純な水晶型でして、効果もゴースト系モンスターを次々と呼び続けるというもの、強度もお察しです。地霊殿には怨霊が似合うと思って作ったのですが思いの外地味でした。

 

私はナザリックに移るのですし、いつまでも地霊殿を森の中に置いておくわけにもいきません。アインズさんが移籍処理してくれたらこれは破壊してしまおう、と回収に来たのです。正直言うと壊してしまうのは名残惜しいですしまだ迷っていますが、アインズさんが既に覚悟を決めて頑張っている以上私も心を決めなきゃいけませんよね。

 

そんなことを考えながら安置所の扉の前に着きましたが。

 

 

「…扉が開いてますね」

 

お空が見回ったとき開けっぱなしにしたのでしょうか? あの子ったら。

…入るな、と言い含めていた訳でもありませんから怒っても仕方ないですね。

 

それにしても、静かすぎて耳が痛くなってきました。さっさと取って戻りましょうか。それとも。

 

「…いっそ、ここで壊してしまっても良いかしらね…」

 

静寂を消す様に独り言を言いながら暗い安置所に入り、水晶を手にした瞬間…

 

シャッ!

「───!」

 

風を斬る軽い音が聞こえるや否や、私の魔法障壁に斬撃が入りました!

 

不意討ち!?

誰が!? 何もいなかったはずなのに!

心を読めば…!全く読めない!?

 

混乱する私に、再度見えない刃が迫りますが、

 

「っ!来ないで!」

 

立ち直った私は魔弾を最低出力で大量にばらまいて弾幕を張り、見えないナニかを追い返しました。距離をとれた…のでしょうか。相変わらず姿も気配も分かりません。

 

危ない所でした…

昨日《魔力転換》を使っていたので反射的にスキル発動を間に合わせる事ができました…!お陰で攻撃はすべてMPが吸ってくれたようです。そんなに削られてませんが、もし生身で受けたら私はどうなっていたことやら…

考えていると空気が動く音だけが聞こえました。

 

「───また!」

 

スッ!シャッ!

思った瞬間、今度は左から斬られました。痛みはありませんが恐怖感と不快感はあります。

 

お返しに弾幕を撒き散らしますが、外れた魔弾が虚しく石壁を削るだけ。手応えは無し。

 

…これはまずいです。

攻撃自体は軽いのですがいつになっても姿どころか気配すら分かりません。《完全不可知化》の魔法? いいえ、それでも攻撃の意志がある以上心くらい読めるでしょう。一体なにが!

 

…恐怖する思考を押さえ付け、私はなんとか脱出する手を考えます。目標が見えない以上私の得意な精神系魔法は仕様上使えません。覚えている攻撃魔法は中級程度ですし、無駄撃ちすればするほど、私は自分の命を削ることになります。つまり、勝てません。

とはいえ防戦ではいずれMPを削られて終わり。何か他に使えるものは… 手の中には辛うじて掴めたギルド水晶が。

 

「かえして」

 

見えない存在が囁くように言う。…女性、子供の声?。

 

「…お断りします。これは私のですし、乱暴に奪う様な人には渡せません」

 

シャッ!

…背中を斬られました。MPはもう半分残っていません。困りました。

仕方ありません、ぶつけ本番ですが使ってみましょう。

 

「やめて」

「…こちらの台詞です」

 

私は水晶に意識を向けると、その機能を 全力で起動しました。

 

水晶から凄まじい勢いで低級ゴースト等が溢れ出て玄室を埋め尽くします。

 

今!

 

「《抵抗貫通》《魔法抵抗難度強化》《集団恐慌》!」

 

ひしめき合ったゴースト達がブーストされた私の魔法で恐慌状態になり暴れ出します!同士討ちを始める一団を気にせずに迷わず玄室を飛び出す私。

そのまま階段に走ります。

 

私の種族スキル《抵抗貫通》は次の魔法に異常無効を一時的に無視出来る効果を付与します。一日3回限定のスキルを使い、低級ゴーストを暴れさせて盾にしたつもりなのですが思いの外上手くいきました。

どうやらあの敵は《集団恐慌》に巻き込まれたのか追って来ないようです。

早くお燐達と合流しましょう!

 

 

───────────────

「あっさとり様、準備出来ましたよ。今呼びに行こうと、 … 下の方で何かあったんですか?」

 

階段を上がりきりエントランスに付くとお燐とお空が猫車を押して待っていました。

 

「…話は後にしましょう。地下に侵入者がいて襲われました。一度ナザリックに避難しますよ」

「ええぇ!地下って重要地点ですよ?なんでそんな事態になってるんですか!?」

 

この子達も初耳みたいですね。

そんなの知らない!と心が叫んでいます。

 

「…私が聞きたいです。お空!舘ごと消し飛ばす気ですか。止めなさい。とにかく一旦退避です」

 

兵装を展開し始めたお空を静止し、

私は《転移門》を開くと、二人を押し込んで自分も飛び込みました。

 

背後から遠くで

 

「かえしてよ」

 

という声が聞こえた気がしましたが、私は潜ると同時に門を消去しました…

 

 

─────────────────

アインズside

 

 

 

「…そんなことが。一体何なんですか、その透明な侵入者と言うのは」

「…私が知りたいです。しかも場所がギルド武器安置所ですよ?生きた気がしなかったです」

 

俺は今、逃げてきたさとりさんの元を訪れ、挨拶もそこそこに彼女が襲撃されたという話を聞いてる。

 

「ギルド武器の安置所って一番警備が厳重な所ですよね?守護者役のNPCが襲ってきたとかじゃないんですか?」

「…そんなNPCいません。うちの子達には引っ越し準備をお願いしていました。私が外に逃げてきたときに一緒にこちらに来ていますよ」

 

今度は見えない襲撃者か。

チッ。また怒りが内から湧いてくる。

一体誰だ、俺の友人を危険な目に会わせるのは。

クソッ、…どうにもこの手の話題は冷静に処理できないから困るな。

 

「この世界特有のモンスターとかですかね? こちらには武技っていう未知のスキルの様なものもあるみたいですし…」

「分かりません… 法国辺りの追っ手でしょうか? あのLvの低さじゃあり得ないですけどね…」

 

いくらなんでも昨日の今日で喧嘩を売っては来ないだろう。

 

「まぁここで考えても仕方ないです。後程シモベを使って調査させてみましょう。場合によっては超魔法等で焼き払いますか」

「………」

 

やはり元気が無いな。

少し話題でも変えるか。

 

「そう言えば、このあと守護者やシモベ一同を集めてさとりさんの紹介と報告会をやる予定だと伝えましたけど、準備は出来ましたか?」

「…出来てません、けど当事者不在って訳にもいきませんよね。…私、立ってるくらいしか出来ませんよ?」

「挨拶くらいはして下さい」

 

 

 

暫し時間が過ぎた。

そろそろ玉座の間に移動しようか。そうだ、あれをやっておかないと。

 

「さとりさん、ちょっと先に玉座の間に行って加入処理済ませてきますね。ゲスト扱いのままで皆の前にでたらそれはそれで不自然でしょう」

「……え? あ、はい、お願いします。私はもう少し休んでから行きますね…」

 

限界っぽいなぁ。色々と。

 

 

…さて、玉座の間はナザリックの全てを管理する場所だ。ここでは拠点内全NPCの状態が一目で分かるようになっている。確か、加入脱退もここで出来たはずだ。

 

…よし、急いで処理しよう。さとりさんをギルド:アインズ・ウール・ゴウンに加入。同時に彼女の所持NPC3()()も加入っと。

これで問題なく彼女達を守護者に紹介できる。

 

処理が終わり一息つくと、玉座の間に少女が入ってきた。

 

「…アインズさん」

「さとりさん、休んでたんじゃないんですか?」

「セバスさんに案内して貰いました。

…メイドさんがずっとこっちを見てくるので、休みにくいんです」

「あぁ…それ、ここじゃデフォルトですよ。早く慣れて下さい」

 

疲れた顔で俯くさとりさんは、手に不思議な色の水晶を持っているのに気付いた。見たことないアイテムだが。

 

「さとりさんそれは…」

「これがうちのギルド武器です。いつまでも残していて地霊殿を誰かに好きに使われるのも嫌ですから、ここで破壊しておこうと思います」

「…いいんですか?」

 

自らギルド武器を破壊… 自分がそんなことをする事は絶対無いと誓えるが、考えただけで震えが走る。 …躊躇無く実行できる彼女は正直凄い、というか少し、怖い。と思ってしまった。

 

だが少女を見ると顔は蒼白で見るからに追い詰められた者の表情だ。

 

俺は止めろと声をかけようとしたが、彼女の表情に気を取られた。

その間に彼女は力を込め始め。

 

ピキピキピキ カシャーン…

 

あっさりと水晶は崩れて宙に溶けた。

割れた音がまるで小さな悲鳴の様に聞こえた。

 

「…これで私は正式にナザリック所属ですか。よろしくお願いしますね、アインズさん」

「───あぁ、こちらこそ、よろしく。さとりさん」

 

 

 

何故あそこで踏み留まってしまったのか。俺は止めるべきだった。

 

俺はきっと近い将来、この時の事を後悔することになるだろう。




1章はあと2~3で終ります。

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